まちづくりとは何か?5つの観点から事例や仕事内容などをご紹介
「まちづくり」という言葉を、これまで一度も耳にしたことがないという人は案外少ないかもしれません。しかし、さまざまな場面で使われている言葉の割には、いざ意味を問われるとうまく説明できない人が多いのではないでしょうか。
この記事では、まちづくりという言葉の定義や、5つの観点から見た「まちづくり」の事例や仕事内容などについて解説します。
まちづくりの定義とは?
「まちづくり」という言葉が登場したのは1952年、その年に発行された「都市問題」という雑誌で初めて使われた言葉です。その当時は、戦後の復興によって人口が大都市に集中したことにより、狭小住宅が増え、住環境は劣悪になっていました。
急激な高度成長によってもたらされた公害や生活環境の変化など、生活をするうえで解決しなければならない問題が増えていた時期でもあります。これらの問題の解決を自治体任せにせず、住民自らが声を上げようという動きが見られるようになっていたこともあり、住民の心に訴えかける言葉として、「まちづくり」という言葉が誕生したのです。
まちづくりとは、自治体などが市街地そのものを作る「都市計画」のことではありません。言葉が作られた当初は、ほぼ同じ意味で使われていたものの、その後時代の流れとともに別の意味を持つ言葉に変化しました。
「まちづくり」の定義は、様々な有識者が複数の視点で表現していますが、わかりやすくまとめると、「身近な居住環境を改善」し、「地域の魅力や活力を高める」ということ。生活の質を高めるために身近な居住環境に対して働きかける持続的な活動のことだということもできます。
まちづくりは、地域社会に存在している施設や建物などの資源をできるだけ活用する形で進められます。また、自治体だけでなく、さまざまな機関や団体、住民などが連携や協力をし合って進めるのも特徴です。国や自治体が行う都市計画とは意思決定の流れも異なります。
都市計画は国から自治体に対するトップダウン型で物事が進められますが、住民参加を前提としている「まちづくり」では、住民や企業などから自治体に向けたボトムアップ型が基本。
まちづくりは、長い年月をかけ、街そのものを作り出すことを表す言葉から徐々に意味を広げてきました。ハード面の整備だけでなく、空間や環境の整備、ルール作り、イベントや生業の整備、人と人とのコミュニケーションづくりなど、豊かな生活をするうえで必要な整備を全て網羅する言葉になっています。
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5つの観点で見るまちづくりの事例
この段落では、「まちづくり」という言葉の定義を理解した上で、実際に5つの観点から、どのようなまちづくりが行われているのか、具体的な事例を元にご紹介します。
地場産業観点でのまちづくり
地場産業を活かしたまちづくりは、全国各地で盛んに行われています。
※地場産業とは、古くから受け継がれた原料や技術などを用いて、一定地域内で発展、定着した産業のこと
古くから地域に根付いている地場産業がある場合、そこにスポットを当て、地域活性化の材料とするのは自然な流れだといえます。地場産業を保護し、携わる人が働きやすい環境を整備することで、まちの基幹産業と位置付けることが大事なポイント。岡山県倉敷市では、地場産業である繊維産業を軸に据えたうえで、商店街に「児島ジーンズストリート」と名付けて賑わいを取り戻しました。
また、地場産業観点でまちづくりを行う場合は、その産業が地場産業となった歴史的な背景やストーリーを紹介する必要もあります。例えば、「焼き物の町」「刃物の町」などという形でまちづくりをする場合、いつから始まり、なぜその地にその産業が根付いたのかをきちんと説明することが、多くの人に関心を持ってもらうためには欠かせません。
特に、似たような産業を地場産業としてまちづくりに利用しているところが他にもある場合は、違いを示すためにも地場産業となった経緯の説明はあった方が良いかと思います。
ガイドブックや博物館などで紹介しているところもありますが、ホームページ上で地場産業の魅力を国内外に発信している自治体などもが多いですよね。
「陶芸の町」として商店街や駅前広場などの再生を図っている岐阜県多治見市も地場産業によるまちづくりを進めているといってよいでしょう。
子育て観点でのまちづくり
「子育てのしやすさ」を前面に打ち出したまちづくりを行っている事例も目立ちます。子育て支援策を拡充するなど、子育て世帯にとっての住みやすさをアピールすることによって、子育て中の若い世代に定住を促すのが目的です。
子育て観点のまちづくりは、少子高齢化による人口減少に苦しんでいる多くの地域で行われています。過疎化が進む山間部の小さな街だけでなく、若年層の流出を止めたい都心部でも取られている施策です。
千葉県流山市では、駅に送迎保育ステーションを置き、そこに子供を預けると指定した保育園までバスで送ってくれるというサービスを行っています。
仕事を持つ子育て中の親にとって必要なサポートをまちづくりのポイントとした事例です。
実際に子育て観点のまちづくりで行われている子育て支援策には以下のようなものがあります。
● 子育ての悩みを相談できる場所やサービスを整備
● 子ども連れで買い物や外食などがしやすい環境を整備
● 保育施設やサービスを充実
● 地域ぐるみで子育てに協力
● 中学校卒業までなど、長期にわたる子どもの医療費助成
● 子育て世帯を対象とした割安な住宅供給
土地活用観点でのまちづくり
高齢化が進む中、増えてきているのが土地活用観点でのまちづくりです。例えば、古い商店街の場合、商店主の高齢化や後継者不足などによって閉店や廃業が相次ぐと、シャッター街となり、町全体の活気が失われます。商店街のいたるところにシャッターが閉まった店が点在すると、商店街全体の雰囲気が暗くなり人通りが減るため、さらに閉店する店が増えてしまいかねません。
新たな商店を誘致したり、店の配置を改めたりするなど、商店街全体の魅力を高める取り組みが必要です。屋台村を整備し、既存の店舗を集結させる形で集客に成功した例や、ターゲットを絞ることで人通りを取り戻した商店街の例もあります。
新潟県新潟市では、閉店が相次ぎシャッター通りと化した長屋を民間が主体となって改修し、テナントミックスの形で空き店舗を無くしました。
土地活用が必要なのは、商店街だけではありません。住民が高齢化したことにより、住宅街では空き家問題が頻繁に発生しています。たとえ引き継ぐ人がいる家や土地でも、その人の生活基盤が別の場所にある場合、住むことができないからです。
都心部の狭い土地を複数人で相続する場合などは、相続権が細分化してしまうため、売りたくても有効な形では売れないということも起こり得ます。
そのような空き家は放置すると、街の治安を悪化させる原因になりかねません。
空き家を住みやすいようにリノベーションし、若い世帯に安く貸し出すことで、定住を促すまちづくりを行っている事例があります。兵庫県篠山市では、城下町にある古民家をホテルなどに再生することで新規事業や雇用を生み出し、若者が戻って来やすい環境作りをしました。
新規事業観点でのまちづくり
働く場所がないために若者人口が流出しているような都市では、稼げる職場を誘致することがまちづくりの大事なポイントです。新規事業を立ち上げたい企業を誘致することによって、元々住んでいた若者の流出を防ぐだけでなく地域外からの流入も見込めたり、地域の特性を活かしたローカルベンチャー事業を支援すれば、地場の目玉となる産業を作り出すことも可能です。
工業団地を整備し、さまざまな工場を誘致することによって、幅広い年齢層の就職先を創生することに成功した例もあります。島根県江津市では、ビジネスプラン・コンテストを行ったり、や起業家支援体制を構築したりすることによって、創業とともに移住も促すことに成功しました。
観光観点でのまちづくり
地域特有の生活文化や産物、自然、歴史などを観光資源としてまちづくりを行うこともできます。観光によってまちづくりをする場合、定住者を増やすのではなく、地域外から人を呼び、お金を落としていってもらえる形で進めることが重要です。
観光観点でのまちづくりは、他の観点でまちづくりする場合以上に、住民やまちづくりの支援団体、金融機関、地元の商工課や不動産会社などの連携が欠かせません。地域の外から見て何が魅力なのかを理解した上で、独自の魅力を最大限に発揮できる形で観光の材料としてまちづくりに活かしているところが成功しています。
例えば、神奈川県小田原市の「千年蔵構想」は、地域の観光資源を掘り起こして市街地の魅力を高めている代表的な例です。
まちづくりのための仕事
まちづくりは、市町村などの地方自治体が主体となって進めることはありますが、国や都道府県が主体となることはあまりありません。基本的には住民やNPO、企業などが主体となり、ボトムアップ型で進められます。
そのため、行政側でまちづくりに関わるのは、市町村など自治体の職員さんがほとんど。NPO、企業などが行うのは、地域のプロモーションやブランディング、商品企画、コンサルティングなどが中心で、建物や道路などの整備が必要な場合には、ゼネコンなどの大手企業や不動産会社が関わることもありますが稀なケースです。
まちづくりに関わる仕事は、多岐に渡り、
● 地域の魅力や資源を掘り起こす、リサーチ業務
● それらを発信し、認知を高めるプロモーション活動
● まちの魅力を最大限高められるようにするブランディング
● 興味を持ってくれた人たちを呼び込むマーケティング
などなど。
まちづくりのためには行わなければならないことが多く、細かな業務で言うとホームページの作成や維持、管理、SNS、動画による発信、パンフレットやガイドブックなどのツールづくりなども必要ですね。
2011年からスタートしたゆるキャラグランプリの影響もあり、ご当地キャラクターやオリジナルブランドを活かした商品づくりに力を入れている自治体も増えました。
地域が持つ魅力を最大限に活用し上手に発信する
まちづくりには、地域特有の魅力を見つけ出し最大限に活かすことが大切。自分たちの地域の魅力は何なのか、それはどんな人に喜ばれるものなのか、他の地域とどのような点が違うのか、などを客観的に観察し、まちづくりに落とし込んでいきます。
ハード面を扱う都市計画とは違い、ソフト面の整備が中心のまちづくりは、情報発信の仕方によって反応が変わってきます。ソフト面が固まったら、ターゲットに合わせた効果的な発信方法を選ぶことも重要なポイントです。