自治体の野生動物被害対策まとめ:
熊・猿・イノシシ・鹿の対応策と全国の自治体事例
はじめに
野生動物による被害は、農作物への被害や、ダニ・ノミなどの害虫被害、身体への危害など、暮らしの安全性に直結する課題です。
この記事では、
・野生動物被害の全体像
・クマ、サル、イノシシ・シカそれぞれの対策
について紹介します。
野生動物被害の全体像
被害の種類
野生動物の被害は、大きく
・農作物などの経済的な被害
・生活環境の被害
・人身被害
に分かれます(参照*1)。
農作物などへの経済的被害は、野生動物が田畑や果樹園に侵入し、作物を食べる、踏み荒らすなどして、収量低下や品質劣化(傷・汚れ)を招きます。また、被害後の植え直し、獣害柵の設置・補修費も膨らみ、耕作放棄や営農意欲の低下につながります(参照*2)。
生活環境の被害とは、ごみの荒らしやペットフードの持ち去り、庭木・家庭菜園の食害、物置や柵の破損、糞尿による悪臭と衛生悪化など、暮らしの質を直接下げる被害です。公園や通学路の一時封鎖、イベント中止など、地域活動が制限されることもあります。さらに電車・車との衝突による交通障害や物損、感染症の危険もあります(参照*3)。
人身被害においては、野生動物との遭遇によって、突進や踏みつけなどが発生し、ときに死亡事故にもつながります。近年は人里への大量出没に伴う被害増が指摘され、自治体には通報対応・現場安全確保・周知の仕組み化が求められます(参照*4)。
被害を起こす動物とその特徴
自治体で特に被害が大きく、重点的に対応することが多い大型野生動物は、クマ・サル・イノシシ・シカです(参照*5)。
クマ(ツキノワグマ/ヒグマ)は、果樹、残飯、ごみ、飼料、養蜂の巣箱などの誘引源があると人里へ出没しやすくなります。また、遭遇した際に生命へ危険を及ぼす重大な事故につながる可能性が高いです(参照*6)。
サルは、運動能力と学習能力が高いので、畑への襲来や家屋侵入といった被害が反復・エスカレートしがちです。人馴れが進むと威嚇や物損も増え、追い払いが効きにくくなります。群れごとに個体数や加害度が異なるため、群れ単位の対策が必要となります(参照*7)。
イノシシは、根や塊茎などを、土を掘りおこして食べるため、田畑や畦の崩壊を起こしやすい特徴があります。農地と樹林が混在する里山や河川敷を利用して市街地周辺にも出没します。また、条件がそろうと個体数が増えやすく被害が長期化します(参照*8)。
シカは、植物を食い荒らし、下層植生の衰退、幼木・樹皮の食害などの被害を及ぼします。出生数が落ちにくく、増えやすい特性があり、被害が長期化しやすいです。個体数増加に伴い農地侵入や交通事故リスクも向上しています。
自治体が担う役割と対策の基本
環境省は鳥獣保護管理法の目的を、鳥獣の保護と管理、狩猟の適正化を通じて、生物の多様性の確保、生活環境の保全、農林水産業の健全な発展に寄与し、国民生活と地域社会の健全な発展につなげることだと説明しています(参照*9)。
重要なのは、被害を減らすだけでなく、動物を「守ること」と「管理すること」を両立させる前提がある点です。自治体は、住民の安全確保、農林業の被害軽減、地域の合意形成を同時に進める必要があります。
・出没情報の集約と迅速な周知
・誘因源の除去と侵入防止(環境整備・柵の維持管理)
・追い払い・捕獲の実施体制
・関係機関との連携と振り返り
など、包括的な対策が求められます。
クマへの対応策と自治体の対策事例
■市街地出没時の初動対応
岐阜県、北海道の事例
初動で優先するのは
・人を近づけないこと
・熊の位置を見失わないこと
です。
通学路や公園、商店街など人が集まる場所を中心に、立入規制や交通規制をかけます。学校には登下校の見合わせや集団下校の判断を早く伝えます。住民には、屋外作業や外出を控える、戸締まりなど、すぐできる行動を示します(参照*11)。
岐阜県は「岐阜県クママップ」を公表し、目撃場所・日付などの情報を公開しています(参照*12)。適切な情報を早く伝えることで、住民の混乱や被害を防ぐことができます。
また、警報や注意報など「強い注意喚起」を出す仕組みを持つ自治体もあります。
北海道は、北海道ヒグマ管理計画に基づき、市街地出没や人身被害などが起きた際に警報や注意報等を発出しています(参照*13)。
■出没誘因の低減と生息地管理
岩手県北上市の事例
クマの出没を減らすには、出た後の対応だけでなく、出る理由を減らす取り組みが欠かせません。
自治体の現場での「出没要因の低減」は、餌と隠れ場所を減らすことに集約できます。たとえば、果樹の落果を放置しない、生ごみを屋外に置かない、家畜飼料を適切に管理する、といった行動です(参照*11)。
河川敷や藪が連続している場所は、熊が移動しやすい通り道になります。草刈りや見通しの確保、緩衝帯づくりなど、地域の環境整備も効果的です(参照*11)。
岩手県北上市では、大学と連携してセンサーカメラ調査を行い、クマが河畔林に沿って移動し、河川敷が出没拠点になっていることを発見しました。結果を踏まえ、地域住民が河川敷の草刈り等で見通しを確保し、市は河畔林の伐採も実施しています。取組後、出没が抑制される傾向や、伐採地で春先の出没抑制の効果が表れています(参照*14)。
サルへの対応策と自治体の対策事例
■追い払い体制の構築と住民参加型の対策
長野県上松町西小川地区、滋賀県甲賀市大澤集落の事例
サルは「追い払われる経験」を積むと集落に入りにくくなりますが、逆に人が何もしない状態が続くと、集落が安全だと学びます。そのため、追い払いは単発ではなく、体制を構築して続けることがポイントです(参照*15)。
長野県の上松町・西小川地区では、山地と農地の境界で緩衝帯整備を行い、現地調査のうえ住民と関係機関が協働で防護柵を設置しています。さらに、サルに発信機を装着して行動圏を把握し、接近警報システムで住民・農家へ周知することで、継続的な追い払い活動につなげています(参照*16)。
また、滋賀県甲賀市の大澤集落では、サル被害に対して集落住民が主体となり、対策を継続できる仕組みを構築しています。住民が防護柵を自主施工し、集落組織で維持管理まで担う体制を構築しました。あわせて、テレメトリー等によるサル接近情報を活用して、出没時に集落内で連携して徹底した追い払いを行い、侵入抑止につなげています(参照*17)。
■集落環境整備の整備による出没誘因の除去
福井県高浜町の事例
イノシシ・シカへの対応策と自治体事例
■ICTの活用による担い手不足対策
長崎県対馬市、滋賀県米原市の事例
捕獲は、被害を減らすための重要な手段ですが、担い手の高齢化や人手不足の中では、効率と安全を上げる工夫が欠かせません。
長崎県対馬市では、ICTを活用して被害状況と対策の効果を可視化し、地域住民と専門家が情報を共有しています。防護柵の設置、捕獲の推進、GIS・GPSカメラを活用した状況可視化などを通じ、住民主導の対策を強化しています(参照*22)。
また、ICTは罠の運用にも活用されています。
滋賀県は、米原市上野の伊吹山に”ICT囲い罠”を設置しています。ICT囲い罠は、監視・操作を遠隔で行うことが可能で、シカなど多頭数が罠の中に入ったタイミングをライブカメラで確認し、罠を作動することができます(参照*23)。
■捕獲後の利活用と担い手確保
奈良県五條市、栃木県益子町の事例
捕獲後の利活用は、地域の状況に合わせて検討する必要があります。たとえば、食肉として使う場合は衛生管理や処理施設が必要になります(参照*21)。
奈良県五條市では、市直営の食肉処理加工施設「ジビエール五條」を整備し、シカとイノシシの精肉加工を行っています。市が管理する捕獲檻で捕獲し、捕獲後1時間以内に処理できる個体のみを受け入れるなど衛生管理を徹底し、市内レストランや生協、道の駅で販売し、学校給食にも提供しています(参照*24)。
担い手確保は、自発性だけに頼るのでなく、制度と支援で支えることがポイントです。
栃木県益子町は、町独自の補助制度(益子町イノシシ被害防止対策事業費補助金)や、栃木県の補助制度(とちぎの元気な森づくり事業)を通して、担い手の支援を行っています(参照*25)。
おわりに
自治体の野生動物被害対策で重要なことは、
・動物ごとの特徴を押さえること
・捕獲、防護、生息地管理を包括的に行うこと
・地域全体で継続できるように設計すること
の3点です。
クマは、情報収集と初動の安全確保が最優先になります。サルは、群れ管理と追い払いの継続が重要です。イノシシ・シカは、侵入の防止と捕獲後の利活用を考える必要があります。
各地の事例を見ると、一つの団体や個人だけで対策するのではなく、情報収集・環境整備・体制の構築を共同しながらおこなっています。地域全体で継続する仕組みに落とし込むことが、被害を減らす近道です。
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参照
(*2) 農作物被害状況:農林水産省
(*3) 環境省 甚大な被害を及ぼしている鳥獣の生息状況等緊急調査事業
(*4) 環境省 クマ類の出没対応マニュアル
(*5) 環境省 鳥獣被害の現状と対策について
(*6) 環境省 クマの生態
(*7) 環境省 ニホンザルの計画的な管理の必要性
(*8) 環境省 イノシシの生態と特定鳥獣保護管理計画について
(*9) 鳥獣保護法の概要 || 野生鳥獣の保護及び管理[環境省]
(*10) 環境省 – クマ類の出没対応マニュアルの改定について | 報道発表資料 | 環境省
(*11) 環境省 クマ類の出没対応マニュアル
(*12) 岐阜県に生息するクマ(ツキノワグマ)について – 岐阜県公式ホームページ(環境生活政策課)
(*13) ヒグマ警報及び注意報等について – 環境生活部自然環境局
(*14) 農林水産省 地域ぐるみで取り組むクマ出没抑制対策(岩手県北上市)
(*15) 環境省 特定鳥獣保護・管理計画作成のための ガイドライン (ニホンザル編)改定版
(*16) 長野県 獣の出没しにくい環境と追払いによる集落ぐるみの総合対策
(*17) 農林水産省 集落ぐるみでの総合的な獣害対策(滋賀県甲賀市大澤集落)
(*18) 環境省 ニホンザルの管理の基本
(*19) 農林水産省 サルの複合的被害対策(福井県高浜町)
(*20) 農林水産省 効果的な対策
(*21) 農林水産省 野生イノシシの捕獲強化とジビエ利用に向けた取組
(*22) 第6節 鳥獣被害対策とジビエ利活用の推進:農林水産省
(*23) シカ被害の多い米原市「伊吹山」でICT囲い罠を設置しました。:近畿中国森林管理局
(*24) 農林水産省 ジビエ利活用の取組事例集
(*25) 益子町 イノシシによる農作物への被害対策
