デジタル行財政改革とは? 自治体への影響と対応策
はじめに
人口減少が加速するなか、公共サービスの担い手不足は深刻さを増しています。国はデジタル行財政改革を通じて、行財政の在り方そのものを見直し、自治体の業務やサービス提供体制に大きな変化をもたらそうとしています。
この記事では、デジタル行財政改革の定義と背景から、自治体への具体的な影響、そして現場が取るべき対応策までを順を追って紹介します。システム標準化やガバメントクラウドに伴う財政負担の実態、先行自治体の事例など、確認してみてください。
デジタル行財政改革とは何か――定義と背景
デジタル行財政改革の定義と基本理念
デジタル行財政改革とは、デジタルを最大限に活用して公共サービスの維持・強化と地域経済の活性化を図り、社会変革を実現する取り組みです。内閣官房は、急激な人口減少社会への対応として、利用者起点で行財政の在り方を見直すためにデジタル行財政改革会議を開催しています(参照*1)。
総務省は、自治体が持続可能な形で行政サービスを提供していくために、デジタル技術やデータを活用して住民の利便性を向上させること、あわせてAI等の活用により業務効率化を図り、職員の負担軽減と人的資源の再配分を進めることを求めています(参照*2)。従来の紙やアナログに頼った行政運営から脱却し、住民と職員の双方にとってより良い仕組みをつくることが基本理念の中心にあります。
人口減少・担い手不足という社会的背景
この改革が求められる最大の理由は、少子高齢化と生産年齢人口の急減です。内閣官房の資料によると、高齢化率は2022年の約29%から2050年には約37%に上昇し、生産年齢人口は同じ期間に約7,421万人から約5,540万人へと約25%、およそ1,881万人減少する見通しです。地域の人口密度が低下することで公共サービスの生産性が下がり、必要なサービスの提供が困難になることが想定されています(参照*3)。
厚生労働省も、2040年頃に向けて団塊ジュニア世代が65歳以上となり高齢者人口がピークを迎えること、とりわけ85歳以上の人口が増加し医療・介護の複合的なニーズが高まることを示しました。同時に、生産年齢人口は急減に転じ、介護を含む各分野での人材不足がさらに大きな課題となる見通しです(参照*4)。自治体の担当者は、こうした数値を前提に、今後の人員計画やサービス設計を検討する必要があります。
デジタル行財政改革の全体像――2つの柱と重点分野
公共サービス等の強靱化(医療・介護・交通・インフラDX)
デジタル行財政改革は大きく2つの柱で構成されています。1つ目は「公共サービス等の強靱化」です。内閣官房の資料は、直面する課題として公共サービスや経済活動の担い手不足を挙げ、限られた担い手で効果的かつ効率的なサービス提供を実現するため、国民の命と健康、暮らしを守る分野のDXに重点的に取り組む方針を示しています(参照*3)。
具体的な進捗として、医療面では自治体と医療機関をつなぐ情報連携基盤「Public Medical Hub(PMH)」の拡大が進み、2025年度までに累計約600自治体が導入予定とされています。防災分野では「災害派遣デジタル支援チーム(D-CERT)」の創設、教育分野では「教育DXロードマップ」の改定と実装が盛り込まれました(参照*5)。自治体の現場では、自らの地域でどの分野のDXが先行し、どこに連携の余地があるかを棚卸しする作業が求められます。
現役世代の活躍を支える働く環境整備と行政手続DX
2つ目の柱は「現役世代の活躍を支える働く環境整備」です。内閣官房の資料では、限られた担い手の力を最大限に発揮できる環境整備を実現し、子育て等に取り組む現役世代を支えるDXに重点的に取り組むと定めています(参照*3)。
デジタル大臣は「デジタル行財政改革取りまとめ2025」について、地方創生2.0の後押し、AIの活用やデータの利活用、行政を新たに創り替える行政改革への転換という3つの視点を取り入れたと述べました。個別分野のDX推進に加え、国・地方デジタル共通基盤の整備・運用やデータ利活用の推進という構成で改革の取り組みと成果をまとめています(参照*6)。自治体の実務担当者としては、これら2つの柱のうち、自らの地域でどちらの影響がより大きいかを見定めることが出発点となります。
自治体への影響①――システム標準化・ガバメントクラウド移行と財政負担
標準化・ガバメントクラウド移行の意義と進捗状況
デジタル行財政改革が自治体に与える影響のなかでも、とりわけ大きいのがシステム標準化とガバメントクラウドへの移行です。デジタル庁は、この取り組みの目的を「自治体の人的・財政的負担を軽減し、地域の実情に即した住民サービスの向上に注力できるようにすること」と位置づけました。事業者にとっても、自治体ごとのカスタマイズや保守・管理の負担が軽減され、AIなど成長分野への経営資源の投入が可能になるとしています(参照*7)。
進捗状況を見ると、標準化の対象となる全34,592システムのうち、2025年12月末時点で8,956システム(25.9%)が特定移行支援システムに該当する見込みです。1つでも特定移行支援システムを有する団体は、1,788団体のうち935団体で52.3%にのぼります(参照*8)。移行対象を抱える自治体は、自庁のシステム状況を精査し、移行スケジュールを具体的に確認する段階に入っています。
運用経費の増加要因と自治体からの懸念の声
システム標準化の恩恵が期待される一方、移行後の運用経費の増加は自治体にとって切実な問題です。中核市市長会が2025年1月に公表した調査によると、移行後の運用経費は平均で移行前の2.3倍に増加する見通しで、半数の自治体で2倍以上、最大で5.7倍にもなるケースがあることが明らかになりました(参照*14)。デジタル大臣もこうした自治体からの懸念を受け止め、見積精査支援の強化や財政措置の検討を進める姿勢を示しています(参照*6)。
こうした事態を受け、全国町村会は、標準準拠システムへの移行が国主導であることを踏まえ、移行に関するすべての費用と、移行前を上回る運用費用の全額を国費で措置するよう求めています(参照*9)。自治体の財政担当者は、移行前後のコスト差を数字で把握し、国への要望や庁内での予算調整に活用できるよう準備を進めることが欠かせません。
自治体への影響②――国・地方デジタル共通基盤と業務・サービスの変化
共通SaaS・共通基盤による業務効率化の仕組み
デジタル行財政改革が自治体に与えるもう1つの大きな影響は、国・地方デジタル共通基盤の整備による業務のあり方の変化です。これまで自治体ごとに業務の流れがバラバラだったことが、現場で混乱を引き起こしてきました。たとえば小学校の欠席連絡ひとつとっても電話の自治体もあれば携帯端末で入力する自治体もあり、児童の転校や教員の異動のたびに手順が変わる状態でした。また福祉相談の現場では、利用者の家庭状況が複数の窓口に分散し、必要な情報を共有できないという課題も指摘されています(参照*10)。
共通基盤はこうした断片化を解消するための土台として設計されています。自治体の実務担当者は、現行の業務フローのどこに分断があるかを洗い出し、共通基盤導入後の業務像を描く作業を始めることが求められます。
窓口DXや住民サービスの高度化への波及
共通基盤の整備と並行して、住民と直接接する窓口にも影響が及んでいます。デジタル庁が推進する「書かないワンストップ窓口」は、「デジタルファースト」「ワンスオンリー」「ワンストップ」の3原則に基づき、住民が同じ情報を何度も書かなくて済む仕組みを目指すものです。住民側の手間の削減と、行政サービスを提供する自治体職員側の課題の両方を解決する狙いがあります(参照*11)。
窓口の変化は単なるシステム導入にとどまらず、対面でどこまで対応し、オンラインでどこまで完結させるかという業務設計そのものの見直しを伴います。自治体は、住民の年齢構成や来庁頻度といった地域の実態に照らして、窓口のあるべき姿を具体的に描くことが第一歩となります。
自治体が取るべき対応策――コスト最適化・人材確保・BPR
見積精査とFinOpsによるコスト最適化の実践
運用経費の増加に対して、自治体が具体的にできることはあるのでしょうか。デジタル庁は、ガバメントクラウド利用料だけでなく運用経費全体について、自治体からの相談に対応できるよう庁内に見積精査支援を中心としたコスト最適化の専門チームを新たに立ち上げました。現状把握のため試行的に自治体へ運用経費全般にかかる資料の提供依頼を行い、費用構成の詳細を把握するとともに具体的な支援内容を検討しています。加えて、クラウドコストを管理・最適化する手法(FinOps)の実践支援も進めています(参照*7)。
クラウドの使い方次第でコストを大幅に下げられる余地があることも指摘されています。たとえばサーバーの処理能力を決めるサイジングでは、CPU利用率の目標を7割から9割に設定し、ぎりぎりまで効率よく使い切ることでコスト効果が高まるとの見方があります(参照*12)。自治体の情報部門は、デジタル庁の支援窓口を活用しつつ、自庁のクラウド利用状況を定量的に把握する作業から着手できます。
デジタル人材の確保と組織体制の整備
コストの最適化と並んで欠かせないのが、デジタル人材の確保と組織体制づくりです。内閣官房の資料は、令和7年度中にすべての都道府県で、都道府県を中心に市町村と連携した地域DX推進体制を構築し、人材プール機能を確保する方針を掲げました。総務省がデジタル庁と連携して都道府県間の連携も促進しながら支援を強化する計画です(参照*3)。
単独の市町村だけで専門人材を確保するのは容易ではありません。都道府県単位の人材プールを活用する選択肢を把握し、自庁でどの分野の人材が不足しているかを棚卸しすることが、体制整備の出発点となります。
窓口BPRと業務改革の進め方
システム導入だけを先行させると、かえって手続が複雑になる落とし穴があります。デジタル庁は、窓口BPR(業務プロセスの再設計、Business Process Re-engineering)を行わないままシステム導入のみ進めると、バックヤードの職員側の業務が増加するリスクがあると明示しました。「自分たちが目指す窓口の姿」というゴールを明確にし、窓口業務とバックヤード業務の双方が効率化につながるように進めることが必要だとしています(参照*11)。
実務としては、まず現行の窓口業務を工程ごとに分解し、どの作業に時間がかかっているかを可視化します。そのうえで、システム化する部分と対面で残す部分を切り分け、住民にも職員にも負担が偏らない業務フローを設計する手順を踏むことが、BPRの基本的な進め方です。
先行自治体に学ぶ成功事例と注意点
山口県・一宮市・美郷町の取り組み事例
デジタル行財政改革への対応で先行する自治体の事例は、他の自治体にとって貴重な手がかりになります。山口県は「Y-BASE(ワイベース)」という県のデジタル推進拠点を設置し、中小企業などへ課題解決策を提案して実装までをサポートしています。これまでに約300件の課題を解決し、利用者の満足度は非常に高い結果を得ました。生成AIについても、この拠点でセキュリティの高い利用環境を整備し、県内での活用促進を図っています(参照*10)。
共通基盤の効果に期待する声もあります。秋田県美郷町の町長は「共通のものがあることで、自治体職員が不要なエネルギーを費やさなくて済む効率化が生まれ、それによって時間の活用の幅が広がる」と語りました。一方で「自治体独自の施策の展開とシステムのカスタマイズの問題は発生するだろう」という懸念も示されています(参照*10)。
失敗を防ぐための判断基準と留意事項
先行事例に学びつつも、やみくもに導入を急ぐと思わぬ問題を招きます。国はアナログ規制の大幅な点検・見直しを進めており、8,162条項のうち7,983条項の見直しが完了し、見直し率は97.8%に達しています。地方自治体においても、アナログ規制の見直しが「実施済」「実施中」「実施予定」の団体の割合は2024年4月末の22%から2025年3月末には43%へ倍増しました(参照*5)。
デジタル庁は、地方公共団体におけるアナログ規制の見直しの取り組みを支援するため、国の取り組みや関連情報を集約して掲載し、各地方公共団体の取り組み促進に向けた支援にかかる情報も提供しています(参照*13)。自治体がデジタル化を進める際は、まず自庁の条例や規則にアナログ前提の規定が残っていないかを点検し、規制の見直しとシステム導入を同時に進める段取りを組むことが、手戻りを防ぐうえで欠かせません。
おわりに
デジタル行財政改革は、システム移行やコスト負担といった目の前の課題にとどまらず、自治体の業務設計や人材配置、住民サービスのあり方そのものに影響を及ぼす取り組みです。運用経費の増加リスクやアナログ規制の残存といった現実を直視しつつ、国の支援策や先行事例を手がかりにできるかどうかが、今後の対応を左右します。
まずは自庁のシステム状況、費用構造、業務フロー、人材体制の4つを定量的に把握することから始めてみてください。そのうえで、ガバメントクラウドのコスト最適化、窓口BPR、地域DX推進体制への参画といった具体策を、優先順位をつけて進めていくことが実務上のポイントです。
【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する日本最大の展示会
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参照
(*2) 総務省 – 総務省|自治体DXの推進
(*3) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/kaigi12/kaigi12_siryou2.pdf
(*4) 介護DXの推進
(*5) デジタル庁 – 2025年デジタル庁活動報告|デジタル庁
(*6) デジタル庁 – 平大臣記者会見(令和7年6月17日)|デジタル庁
(*8) デジタル庁 – 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化|デジタル庁
(*9) 吉田会長が「国と地方の協議の場」に出席
(*10) デジタル庁ニュース – 3自治体のトップと事務局が語った、DXの現状と「国・地方デジタル共通基盤基本方針」の意義とは? |デジタル庁ニュース
(*11) デジタル庁 – 自治体窓口DX「書かないワンストップ窓口」|デジタル庁
(*12) デジタル庁ニュース – 【代替テキスト】【ガバメントクラウド】コスト最適化の方法は?自治体職員と探る解決の糸口【共創PFキャンプ】 |デジタル庁ニュース
