国土強靱化計画のポイント|自治体が押さえるべき要点
はじめに
災害が各地で繰り返されるなか、自治体には平時から計画的に備える力が求められています。国土強靱化計画は、大規模災害が起きても地域が致命的なダメージを受けず、速やかに立ち直れるまちづくりを目指す取り組みです。
この記事では、国土強靱化計画の定義から、自治体が地域計画を策定・運用するうえで押さえるべき要点までを順を追って紹介します。脆弱性評価の進め方やKPIによる進捗管理、先行自治体の事例など、実務に直結するポイントを確認していきましょう。
国土強靱化計画とは何か|定義と自治体に求められる役割
国土強靱化の基本理念と法的根拠
国土強靱化とは、大規模な自然災害が発生しても人命を守り、経済社会への被害を最小限に抑え、迅速に回復する「強さとしなやかさ」を備えた国土・経済社会システムを平時から構築していくことです(参照*1)。単なる災害復旧ではなく、事前防災・減災と迅速な復旧復興に向けた施策を、まちづくりや産業政策も含めた総合的な取り組みとして計画的に進める点が特徴です(参照*2)。
法的な根拠となるのは、平成25年に施行された「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」です。国土交通省はこの法律をもとに閣議決定された「国土強靱化基本計画」のもと、3か年緊急対策や5か年加速化対策を推進してきました(参照*3)。自治体が地域計画を策定する際には、まずこの基本法の理念と基本計画の構造を把握することが出発点になります。
国の基本計画と自治体の地域計画の関係
国土強靱化の取り組みは、国が定める「国土強靱化基本計画」と、都道府県・市町村が策定する「国土強靱化地域計画」の2層構造で推進されています。国土交通省は年度ごとに「国土強靱化年次計画」を策定し、全体の進捗を管理しています(参照*3)。
自治体にとっての要点は、国の基本計画が示す方向性を地域の実情に合わせて具体化することにあります。たとえば、東京都大田区は、限りある行政資源を最も有効に投じるために、これまでの取り組みを振り返り改めて脆弱性を確認したうえで優先順位を考慮しながら進める必要があるとしました(参照*4)。国の計画を読み替えるだけではなく、地域固有のリスクと資源を踏まえて独自の優先順位を設定する作業が欠かせません。
自治体が国土強靱化地域計画を策定する背景と課題
災害の頻発化・激甚化と事前防災の重要性
災害の頻発化・激甚化により、事前防災の重要性が高まっています。近年、地震・台風・局所的豪雨などの災害が頻発化・激甚化する傾向にあり、多くの地域で被害が出ています。南海トラフ地震や首都直下型地震、中部圏・近畿圏直下地震、富士山の噴火など、広域に及ぶ桁違いの大災害がいつ起きてもおかしくない状況です。こうしたなか、国民の生活を維持し企業の事業を継続するため、災害への備えは喫緊の課題となっています(参照*5)。
自然災害に加えて社会環境の変化も見据え、リスクの全体像を把握する必要があります。たとえば、千葉県旭市は自身の自治体の課題として、大規模地震の切迫性の高まりや気候変動に伴う気象災害の激甚化に加え、エネルギー・食料の安定供給リスク、デジタル革命やSDGs、ポストコロナの生活様式など、国土強靱化を取り巻く情勢が目まぐるしく変化していると指摘しています(参照*6)。自治体が地域計画の策定に取り組む際は、自然災害だけでなく社会環境の変容も含めたリスクの全体像を把握する必要があります。
インフラ老朽化と人口減少がもたらすリスク
インフラ老朽化と人口減少は、自治体の防災力に直結するリスクです。災害リスクに加えて、インフラの老朽化と人口減少が自治体の防災力に影響を及ぼしています。国の5か年加速化対策の事例では、激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策として78対策、予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策として21対策が紹介されており、各自治体の課題に合わせて参照することができます(参照*7)。
予算の重点化も踏まえ、点検・更新の計画を地域計画に組み込むことが求められます。令和6年度の公共事業関係費のうち国土強靱化関係予算は、前年度比632億円増の4兆330億円です。財務省はこの予算を、令和5年7月に閣議決定された国土強靱化基本計画に関連した事業へ重点的に投入するとしました(参照*8)。老朽化したインフラを壊れてから直すのではなく、壊れる前に手を打つ「予防保全型」への転換を前提に、自治体の計画にも施設の点検・更新スケジュールを組み込むことが求められます。
地域計画の策定・改定手順と脆弱性評価の進め方
リスクシナリオと「起きてはならない最悪の事態」の設定
地域計画の策定で最初に行う要点は、地域にとっての「起きてはならない最悪の事態」を具体的に想定することです。大阪府高槻市は26項目の「リスクシナリオ」を設定し、それぞれに対して脆弱性の評価と取り組む施策・事業を相関表(マトリクス)で整理しています(参照*9)。
年次評価の結果を反映し、リスクシナリオを更新していくことが欠かせません。山梨県も、リスク(大規模自然災害)ごと、起きてはならない最悪の事態ごとに施策の進捗状況を評価し、年次計画の見直しにつなげる仕組みを採用しています(参照*10)。リスクシナリオは一度つくって終わりではなく、毎年の評価結果を反映させて更新していく作業が欠かせません。自治体の担当部署は、地域の地形・人口分布・過去の被災履歴を踏まえてシナリオの粒度を検討することになります。
脆弱性評価から推進方針の策定までの流れ
リスクシナリオを設定したあとは、既存の施策がどの程度リスクに対応できているかを洗い出す脆弱性評価に進みます。たとえば大田区は、これまでの取り組みを振り返り改めて脆弱性を確認したうえで、優先順位を考慮しながら施策を進める方針をとっています(参照*4)。
脆弱性評価の結果を、施策の優先順位と必要な予算に紐づけて推進方針としてまとめます。高槻市は、令和5年7月に閣議決定された国の新たな基本計画や過去の自然災害の教訓を踏まえるとともに、これまでの取り組みとその効果を検証したうえで、災害に強く強靱なまちづくりの更なる推進を目指すとしています(参照*9)。脆弱性評価で浮かんだ課題を、施策の優先順位と必要な予算に紐づけて推進方針としてまとめることが、この段階の作業です。
庁内推進体制と検討委員会の構築
計画策定を着実に進めるには、庁内の横断的な推進体制を整えることが要点の一つです。旭市は内閣官房から「国土強靱化地域計画策定モデル調査実施団体」に選定されました。このモデル調査は、計画の検討過程等について情報を収集・集約し、その結果をモデル事例として全国の地方公共団体に提示するものです(参照*6)。
庁内の複数部門を巻き込み、進捗管理の枠組みを明確にした体制づくりが実務上の手順となります。大田区は、高まる災害リスクへの対策をより迅速かつ計画的に推進するため、他の重点プログラムからは分離し独自に進捗管理を行う計画として策定しました(参照*4)。防災部門だけでなく、インフラ・福祉・産業などの各部門を巻き込んだ推進体制を庁内に構築し、外部有識者を含む検討委員会で計画の妥当性を検証する体制を確保することが実務上の手順となります。
自治体が取り組むべき施策の柱|ハード対策とソフト対策
耐震化・治水・インフラ整備などのハード対策
国土強靱化計画で自治体が実施する施策は、大きくハード対策とソフト対策に分かれます。
農林水産省は5か年加速化対策に基づき、令和3年度から令和7年度までの5か年を対象に、農業水利施設等の耐震化や排水機場の整備・改修等のハード対策を推進しています(参照*11)。自治体は国の対策メニューを確認したうえで、地域の地形や想定災害に合った耐震化・治水・インフラ更新の事業を地域計画に位置づけることになります。
ハザードマップ・避難計画・防災教育などのソフト対策
ハード対策だけでは防ぎきれない被害に備えるのがソフト対策の役割です。農林水産省は5か年加速化対策において、ハード対策とともにハザードマップ作成等のソフト対策を適切に組み合わせ、防災・減災対策を推進するとしました(参照*11)。
優先順位づけも含め、ソフト対策を地域計画に盛り込むことがポイントになります。大田区も、個々の分野においてハード・ソフトの両面から災害対策を進めてきたことを踏まえたうえで、限りある行政資源を有効に投じるための優先順位づけの必要性を述べています(参照*4)。ハザードマップの住民への周知、避難計画の策定、学校や地域での防災教育といったソフト対策は、住民一人ひとりの行動変容を促す施策として地域計画に盛り込む対象となります。
デジタル技術を活用した防災DXの推進
国土強靱化の施策を効率的に進めるうえで、デジタル技術の活用が一つの柱になっています。国の5か年加速化対策は、国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進として24対策を設定しました(参照*7)。
ロボット・ドローン・センサー・AI・三次元情報といったデジタル技術を活用することで、インフラのメンテナンスにおいて人の安全を確保しつつ、より広範に効率的な作業を進められます。将来的に専門技術者などの人材不足が生じても確実な対応ができるよう、国を挙げてこれらの先進技術の採用・普及を推進し、さらに技術開発を進める環境を整えるべきだとの提言もなされています(参照*5)。自治体は国の方針も踏まえ、防災分野でのデジタル技術導入の優先度を地域計画のなかで明確にする作業が求められます。
KPIとアクションプランによる進捗管理の要点
重要業績指標(KPI)の設定と年次評価の仕組み
計画を策定するだけでは、施策が着実に進んでいるかを確認できません。千葉県は国土強靱化地域計画を推進するため、毎年度、重要業績指標(KPI)により進捗状況を把握しており、令和6年度の進捗状況をとりまとめました(参照*12)。
年次評価と見直しを制度として回すことが、計画の実効性を支えます。山梨県も「山梨県強靱化年次計画」を定め、リスクごと、起きてはならない最悪の事態ごとの施策の進捗状況を毎年度評価し、年次計画の見直しにつなげる仕組みを運用しています(参照*10)。KPIは施策ごとに数値目標を設けて達成度を測る指標であり、進捗が遅れている分野を早期に特定して翌年度の予算や人員配置に反映させるための土台となります。
年次計画・アクションプランによるPDCAサイクル
KPIの評価結果を具体的な行動に落とし込む仕組みがアクションプランです。岐阜市は国土強靱化地域計画における推進方針に関し、進捗状況の確認に基づく具体的な取り組み内容を「第2期岐阜市国土強靱化地域計画アクションプラン」としてとりまとめ、地域強靱化の取り組みを推進するとしました(参照*13)。
計画名称の整理も含め、評価と見直しを一体的に運用することがポイントになります。山梨県は令和4年度まで「山梨県強靱化アクションプラン」として策定していた計画を、現在は「山梨県強靱化年次計画」に名称を改め、毎年度の評価と見直しを一体的に行う形へ移行しています(参照*10)。年次計画やアクションプランを毎年度更新し、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Act)のサイクルを回し続けることが、地域計画の実効性を保つための要点です。
先行自治体に学ぶ計画策定・運用の事例
県レベルの計画改定事例(山梨県・千葉県)
災害の知見や国の計画改定を踏まえ、前倒しで見直す動きもあります。山梨県は、能登半島地震や激甚化・頻発化する近年の災害から得られた知見を計画に反映しました。国が令和5年7月に「国土強靱化基本計画」を5年ぶりに改定した事項を踏まえるとともに、令和5年10月に策定した県の最上位計画である山梨県総合計画の「ふるさと強靱化」政策に基づき、1年前倒しで計画の見直しを行っています(参照*10)。
毎年度のKPI評価を蓄積し、改善サイクルを維持する運用も参考になります。千葉県は毎年度KPIにより進捗状況を把握し、令和6年度の進捗状況をとりまとめています(参照*12)。山梨県の事例では、国の計画改定や大規模災害の教訓を契機に前倒しで改定に踏み切った点が特徴的です。千葉県の事例は、毎年度のKPI評価を着実に蓄積することで計画の改善サイクルを維持するモデルとして参考になります。
市区町村レベルの計画策定事例(高槻市・旭市・大田区)
地域固有のリスクを起点に、対象期間や位置づけを明確にしている点が特徴です。高槻市は、有馬高槻断層帯地震や南海トラフ地震等の大規模自然災害に対し「致命的な被害を負わない強さ」と「速やかに回復するしなやかさ」を持った強靱な地域をつくるため、令和元年度から令和6年度を計画対象期間とした地域計画を令和2年2月に策定し取り組みを進めてきました(参照*9)。
計画の位置づけや進捗管理の方法を工夫することで、運用面の実効性を高められます。旭市は東日本大震災で甚大な被害を経験し、平時から備えのできたまちづくりを行うために策定した地域計画を市の最上位計画として位置づけました。さらに旭市総合戦略と合わせ、「地方創生」と「国土強靱化」を二本の柱とし、攻めと守りの両面を兼ね備えた総合的なまちづくりを展開しています(参照*6)。大田区は、高まる災害リスクへの対策をより迅速かつ計画的に推進するため、他の重点プログラムから分離して独自に進捗管理を行う計画として策定しました(参照*4)。3つの自治体に共通するのは、地域固有のリスクや過去の被災経験を出発点に計画の位置づけや管理方法を工夫している点です。
計画策定・運用で陥りやすい失敗と注意点
地域計画は策定後の運用で形骸化しやすく、事前に注意点を押さえる必要があります。自治体によって防災力にばらつきがあるほか、住民に対する情報公開が不十分な自治体もあると指摘されています。平時から民間を含め、災害応急対策や復旧・復興時の役割と権限を明確化させることで、自治体による事前の減災努力を促す必要があるとの提言もなされました(参照*5)。
上位計画との整合が取れていないと、交付金の配分にも影響し得ます。計画の策定だけでなく、関連する上位計画との連動も見落としやすい点です。財務省は、立地適正化計画を策定しておらず策定に向けた具体的な取り組み等も行っていない自治体については、令和7年度以降、社会資本整備総合交付金について道路事業や下水道事業、市街地整備事業など分野横断的に重点配分対象としない方針を示しました(参照*8)。国土強靱化地域計画と立地適正化計画の双方を整合させているかどうかを庁内で確認し、交付金の配分に影響が出ないよう準備を進める必要があります。
独自の進捗管理体制を設けることで、運用の停滞を防げます。大田区のように他の重点プログラムから計画を分離し独自の進捗管理体制を設けることで、形骸化を防いだ事例もあります(参照*4)。計画の策定後に「棚上げ」されないよう、担当部署と管理の枠組みを明確に分けておく対応が実務上有効です。
おわりに
国土強靱化計画は、自治体が地域の災害リスクを直視し、限られた資源のなかで優先度をつけて施策を実行していくための枠組みです。リスクシナリオの設定から脆弱性評価、KPIによる進捗管理まで、計画の各段階で押さえるべき要点を一つずつ確認しながら進めることが、地域の強靱化を着実に進める力になります。
先行自治体の事例が示すように、過去の被災経験や国の計画改定を契機にして柔軟に見直しを重ねる姿勢が、計画の実効性を高める鍵となります。自らの地域にあてはめながら、策定・運用の手順を点検してみてください。
【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する日本最大の展示会
【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する
日本最大の展示会
参照
(*3) 国土強靱化 – 国土強靱化とは
(*5) 一般社団法人 日本経済団体連合会 / Keidanren – 経団連:大規模災害に負けない持続可能な社会の構築 (2023-04-11)
(*6) 旭市国土強靱化地域計画
(*7) 個別事例ダウンロードページ
(*8) 財務省 – 特集 令和6年度 国土交通省・公共事業関係予算について : 財務省
(*9) 高槻市ホームページ – 高槻市ホームページはこちら
(*10) 山梨県 – 山梨県/「山梨県強靱化計画」の策定について
(*11) 第3節 防災・減災、国土強靱化と大規模自然災害への備え:農林水産省
(*12) 千葉県 – 千葉県国土強靱化地域計画の令和6年度の進捗状況について
(*13) 岐阜市公式ホームページ-Gifu city – 岐阜市の国土強靱化地域計画|岐阜市公式ホームページ-Gifu city
