人口減少時代の自治体経営|財政難の原因と解決策を解説



はじめに

日本の人口は長期的な減少局面に入り、それに伴い地方自治体の財政運営は大きな転換を迫られています。人口が減少する最中での自治体経営は、税収の縮小と社会保障費の増大が同時に進むため、従来通りの行政サービスを維持できなくなる恐れがあります。

財政難の構造を正しく把握し、限られた財源で住民生活を守るためには、どのような施策を実行すればよいのでしょうか。本記事では、人口減少が自治体財政に与える影響を整理したうえで、コンパクトシティ、広域連携、デジタルトランスフォーメーション(DX)・官民連携といった具体的な解決策を、事例と数値を交えて解説します。



人口減少が自治体財政に与える影響


税収減と社会保障費増の構造

人口減少時代の自治体経営において最も深刻な問題は、歳入の縮小と歳出の膨張が同時に起きる点です。高齢化と人口減少は、労働投入の減少や貯蓄率の低下を通じて経済成長に影響を与えます。それと同時に、租税や社会保障負担の主な担い手である現役世代一人が負担する高齢者の比率が高まります。内閣府によると、現在の行政サービスや社会保障の給付水準を維持しようとすれば、租税・社会保険料からなる国民負担を大幅に引き上げざるを得なくなるとともに、受益と負担をめぐる世代間格差が拡大する危険性があります(参照*1)。

歳出面でも圧力は強まります。内閣府の分析では、人口要因だけを考えた場合でも、高齢化により医療・介護サービスの需要は2030年頃まで急増し、社会保険料には大幅な引き上げ圧力がかかる見込みです。一方、保育サービスについては、少子化が進む2030年においても都市部では不足が続く可能性がある反面、地方では一層過剰になる見込みです(参照*2)。


行政コストの地域間格差

人口減少時代の自治体経営では、人口規模や人口密度の違いが行政コストに直結します。内閣府の資料によると、人口規模が大きい、もしくは人口密度が高い都道府県ほど1人あたりの非民生費を低く抑えられている傾向があります(参照*3)。

この格差の背景には行政サービスの労働集約的な性質があります。非民生費(土木費を除く)の約4割を人件費が占めており、行政サービスは労働に集約されています(参照*3)。人口が少ない自治体ほど1人あたりコストが割高になるため、自団体の人口推計と近隣自治体の状況を照らし合わせ、広域での協力や業務の共同化を検討する必要があります。


財政難を招く主な原因


インフラ老朽化と維持更新費の膨張

人口減少時代の自治体経営を圧迫する要因として、インフラの老朽化と維持更新費の増大があります。国土交通省の資料では、2020年の全体人口1億2,615万人に対し、2050年には1億469万人と約17%(2,146万人)の減少が見込まれ、生産年齢人口に限ると7,470万人から5,540万人へ約26%(1,930万人)減るとされています(参照*4)。人口が減っても道路や橋、上下水道といったインフラは残り続けるため、少ない住民でその維持費を負担しなければなりません。

とりわけ上下水道事業は深刻です。上下水道事業は独立採算制を原則とし、料金収入で運営されてきました。これまでは、人口が増えるという前提で大規模な設備投資が行われていました。人口が減少に転じた現在、家庭での使用水量は減り、料金による収益も右肩下がりとなっています。維持管理費用をどのように賄うのかが課題です(参照*5)。各自治体は、インフラごとの利用者数と更新時期を一覧化し、優先順位をつけて投資計画を見直す段階にあります。


公共施設の過剰保有と非効率運営

財政難のもう1つの大きな原因は、人口が多かった時代に整備された公共施設をそのまま保有し続けていることです。内閣府は、人口減少下では公共施設やインフラなどのストックの有効活用と管理の効率化が課題であると指摘しました。1人あたりストック額は全国で上昇しますが、特に少子化の進展により学校というストックの過剰感が強まり、維持更新費の負担が増えています。そのうえで、公共施設の集約・複合化には一定のコスト削減効果があります(参照*2)。

施設の保有量が多いほど光熱費・修繕費・人件費が固定的にかかるため、利用率が低い施設を洗い出し、統廃合や用途転換の対象を具体的にリストアップすることが自治体経営の改善に直結します。


コンパクトシティによる都市再編


立地適正化計画の仕組みと現状

人口減少時代の自治体経営において、都市構造そのものを見直す手法がコンパクトシティです。国土交通省は、医療・福祉施設、商業施設や住居などがまとまって立地し、高齢者をはじめとする住民が公共交通によりこれらの生活利便施設にアクセスできる「コンパクト・プラス・ネットワーク」という考え方で、都市全体の構造を見直していくことが重要だと述べています。このため都市再生特別措置法が改正され、行政と住民や民間事業者が一体となったコンパクトなまちづくりを促進する立地適正化計画制度が創設されました(参照*6)。

しかし、運用には課題もあります。国土交通省によると、44%の自治体が市街化区域の50%超を居住誘導区域に設定しており、区域の絞り込みが十分とはいえません。さらに、居住誘導区域内の人口割合を計画作成前と現在で比較したところ、25%の自治体で区域内の割合が減少しています(参照*7)。立地適正化計画を策定済みの自治体は、誘導区域の設定範囲と実際の人口動態を定期的に照合し、計画の実効性を検証する作業が欠かせません。


公共施設の集約・複合化の事例

コンパクトシティを実現する具体策として、公共施設の集約・複合化が各地で進んでいます。福井県敦賀市では、敦賀北小学校・咸新小学校・赤崎小学校および角鹿中学校を統合し、既存の角鹿中グラウンドに小中一貫校の校舎を新築しました。郊外の2小学校を含む4つの学校をまちなかに統合した結果、管理運営費が年間約2,300万円低減しています(参照*7)。

国土交通省は、全国的な人口減少に対応した都市構造の実現を目指すため、立地適正化計画などの計画策定や、医療・福祉施設、居住機能の移転促進など、コンパクトなまちづくりを推進する地方公共団体に対して各種事業支援を実施しています(参照*4)。施設の統合を検討する際は、敦賀市のように削減できるコストを定量的に試算し、住民にとってのアクセス性とのバランスを見極めることが判断材料になります。


広域連携による行政効率化


共同処理・広域連合の類型と効果

人口減少時代の自治体経営では、単独の自治体で全ての業務を担うのではなく、複数の自治体が協力して行政サービスを提供する広域連携が有効な手段となります。職員数が今後も減少していく見通しがあるなか、有限な地域資源を活用し、必要な行政機能を維持するためには、現在の自治体の枠組みを越えて、より広域的な視点で行政サービスの提供や地域づくりを考えていく必要があります(参照*8)。

広域連携の具体的な成果を示す事例として、神奈川県の取り組みがあります。県内の町村会に参加する14の団体が一部事務組合を設置し、システム改修経費の軽減に取り組みました。個別町村の仕様の標準化、外部サービスの共同利用など、工夫をしています。こうした取り組みによってシステム費用を約15億円、32%削減することに成功しました(参照*3)。連携を検討する自治体は、業務の標準化と外部サービスの共同利用をセットで計画することが、費用削減効果を大きくする鍵となります。


市町村合併の再評価と課題

広域連携の究極の形態ともいえる市町村合併については、約20年が経過したいま、その効果と課題を振り返る動きがあります。約20年前に市町村合併を経験した自治体では、旧市町村間の垣根を越えた一体化が着実に進んできました(参照*9)。

一方で、広域化には住民の懸念も伴います。奈良県では市町村の水道業務をまとめる「水道統合」を進め、県内26市町村でつくる「県広域水道企業団」を設立して2025年4月から事業を開始しました。ただ、自治体によっては広域的な枠組みに参加することで水道料金の値上げや自己水源がなくなることへの懸念から、参加を見合わせるところもあります(参照*5)。合併や広域統合を評価する際は、財政面のメリットだけでなく、料金水準やサービスの質に関する住民の不安にどう対処するかも含めて、判断材料を整理する必要があります。


DX・官民連携による経営改革


自治体DXと業務標準化の推進

人口減少時代の自治体経営を立て直すうえで、デジタル技術を活用した業務改革は避けて通れません。佐賀県内の6市町村が行った実証事業では、業務プロセスの再設計(BPR)を伴う業務効率化によって業務フローの見直しや電子化を進めた結果、住民の待ち時間と職員の業務処理時間をそれぞれ3割削減できたと報告されています(参照*3)。

DXを進めるうえでは、自治体ごとに異なる書式や手続きを統一する業務標準化も欠かせません。自治体ごとに様式・判断基準が異なるローカルルールは着実に撤廃すべきとされ、地方自治体に残る書面・押印・対面などの行政手続上のアナログ規制については、規制見直しのスケジュールを明確化して着実に実現することが求められています(参照*8)。さらに、書式や保管方法が多岐にわたる自治体業務の書類をマルチモーダルAI(複数種類のデータを扱える人工知能)でデータ化し、生成AIで迅速に検索・活用する取り組みも始まっています(参照*10)。


PPP/PFIと外部委託の活用

自治体経営の効率化には、民間の資金や経営ノウハウを取り入れる官民連携(PPP)や民間資金を活用した社会基盤整備(PFI)も有力な選択肢です。大阪市の下水道事業では、運営管理担当部門に所属していた約1,000人の職員を転籍させる形で、大阪市が100%出資する民間会社「クリアウォーターOSAKA」を設立しました。運営責任は市が保持しつつ、施設の運転・維持管理業務は民間委託するという経営に改めています。同社は2022年度より20年間にわたる包括的業務委託契約を大阪市と締結しました(参照*5)。

このように、運営責任を自治体が握りながら実務を民間に委ねる形態は、インフラの維持管理分野で広がりつつあります。外部委託を導入する際は、契約期間・業務範囲・品質管理基準の3点を明確にし、委託後も自治体側がモニタリングできる体制を設計しておくことが、住民サービスの質を保つうえで欠かせない作業です。


改革推進の判断基準と注意点


施策選択の優先順位と評価指標

人口減少時代の自治体経営では、限られた財源と人員をどの施策に振り向けるかの優先順位づけが不可欠です。具体的には、地域の将来像を踏まえた施設の集約・複合化や、広域・複数・多分野の連携、新技術の活用および老朽化対策の見える化による戦略的なインフラマネジメントの推進が求められています(参照*11)。

一方で、国土交通省の調査によると、公共施設維持管理費の削減を目標設定している自治体は32団体(6%)にとどまっています。公共施設の集約・再編や維持管理費の削減に向けた検討が十分に行われていない可能性があると指摘されています(参照*7)。施策の優先度を決めるにあたっては、まず施設ごとの維持管理費と利用状況を数値で把握し、削減目標を設定することが最初のステップとなります。


住民合意形成と失敗回避の要点

自治体経営の改革を進めるうえで、住民の合意をどう形成するかは成否を左右する要素です。奈良県の水道統合の例では、26市町村が県広域水道企業団を設立して事業を開始した一方で、水道料金の値上げや自己水源の喪失への懸念から参加を見合わせる自治体もありました(参照*5)。広域化や施設統廃合は財政効率の観点では合理的でも、住民にとっては身近なサービスの変化を意味するため、丁寧な情報開示が求められます。

合意形成の失敗を避けるには、改革によって削減できるコストと、住民が受けるサービス水準の変化を具体的な数字で示すことが必要です。


おわりに


人口減少時代の自治体経営では、税収減と社会保障費増の「はさみ撃ち」構造を理解したうえで、インフラや公共施設の適正量を見極めることが出発点です。そのうえで、コンパクトシティによる都市再編、広域連携による規模の経済の確保、DXと官民連携による業務効率化を組み合わせ、自団体の規模や地域特性に合った施策を選ぶことが求められます。

改革の実行にあたっては、削減目標を数値で設定し、住民に対して効果と影響をデータで示す姿勢が合意形成の基盤となります。本記事で取り上げた各施策の枠組みと事例を、自団体の現状と照らし合わせるところから取り組んでみてください。

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