自治体におけるGIS・空間データ活用とは?行政DXの進め方と導入事例を解説



はじめに

人口減少が進む日本の多くの地域では、限られた行政資源で住民サービスを維持することが大きな課題です。こうした状況で、地図上にさまざまなデータを重ね合わせて分析できるGIS(地理情報システム)と空間データの活用は、行政DXの基盤として欠かせない存在になっています。
自治体がGISや空間データを導入する際は、どのような手順を踏み、どのようなデータ基盤を選べばよいのでしょうか。対応を誤ると、データの重複管理や個人情報の取り扱い不備といったリスクが生じます。本記事では、GISの定義から導入の段階設計、具体的な自治体の事例、そして失敗を防ぐための注意点まで、実務に役立つポイントを順を追って解説します。



GIS・空間データの定義と基本


GISの法的定義と仕組み

GISとは「Geographic Information System」の略称で、日本語では「地理情報システム」と呼ばれます。地図をデジタル化し、その上に位置情報を重ねることで、さまざまな情報を視覚的にわかりやすく確認できる仕組みです(参照*1)。

GISには法律上の定義があり、位置に関するデータを電子地図上で一体的に処理する情報システムとされています。GISは位置に関する複数のデータを地図上で重ね合わせ、視覚的に判読しやすい状態で表示できるため、高度な分析や、分析結果の共有・管理にも適した技術です(参照*2)。

法律上の定義があることで、国や地方公共団体がGISを整備・運用する共通の基準が明確に存在します。自治体がGISを導入する際には、この法的な枠組みを前提にデータ整備や運用設計を進めることになります。


空間データの種類とレイヤ構造

GISで扱う空間データ、すなわち位置とそれに関連する情報のデータには、多様な種類があります。国土交通省は、地形図や都市計画図、土地利用図などの基盤となる地図データのほか、地形を写しとった空中写真データ、植生や気象などの人工衛星等による観測データ、道路や河川の台帳データ、人口や農業の統計データ、固定資産や顧客リストなどの各種データベース、さらにGPS(全地球測位システム)で観測された車両や携帯電話の位置情報などを挙げています(参照*2)。

GISの大きな特徴は、これらの異なるデータを「レイヤ」と呼ばれる層として地図上に重ねて表示できる点にあります。たとえば、地形図の上に人口統計のレイヤを載せ、さらに道路の台帳データを追加するといった使い方です。レイヤを組み合わせることで、単独のデータだけでは見えにくい地域の傾向や課題を可視化でき、行政DXの土台となる分析が可能になります。


自治体がGISを必要とする背景


人口減少と行政資源の制約

人口減少局面で住民サービスを維持するには、限られたリソースで「個人に最適化されたサービス」を実現する視点が求められます。デジタル庁は、日本の多くの地域が人口減少局面を迎え、住民サービスの維持等が課題になっていると指摘し、限られたリソースで住民の満足度向上と地域活性化を図るためには、「地域の生活を守る」「より良い生活をつくる」「地域で稼ぐ力をつける」の3つの軸でまちづくりを検討していく必要があるとしました(参照*3)。

人口が減れば税収は縮小し、職員数の維持も難しくなります。そのため、少ない人手で広い地域をカバーしなければならない自治体にとって、GISで地域の実態をデータで捉え、優先すべき施策を判断する仕組みは、行政DXの実現に直結する手段といえます。


地理空間情報活用推進基本法の経緯

日本で政府がGISに本格的に取り組む契機となったのは、平成7年1月の阪神・淡路大震災です。国土交通省は、この震災で関係機関が保有していた情報を効果的に活かすシステムがなかったことへの反省をきっかけに、政府におけるGISの取り組みが始まったと説明しています(参照*2)。

その後、平成19年に地理空間情報活用推進基本法が成立し、平成20年には地理空間情報活用推進基本計画が閣議決定されました。国土地理院は、この法律と計画において基盤地図情報を電子地図上の位置の基準として整備していくことが定められ、国や地方公共団体が基盤地図情報を相互に活用し、地理空間情報高度活用社会の実現に取り組む必要があるとしています(参照*4)。


統合型GISと公開型GISの分類


庁内統合型GISの役割

統合型GISとは、庁内の複数の部署が共通の地図データを使い、各業務の情報をひとつの基盤で管理・閲覧できるシステムです。宇都宮市は平成12年にGISを初めて導入し、全庁的に利用が可能な統合型GISの「ウェブマップシステム」と、都市計画課が運用する個別型GISの「都市計画GIS」を同時に稼働させました(参照*5)。

統合型GISを導入することで、部署ごとにバラバラだった地図データを一元化でき、同じ地域の情報を横断的に参照できるようになります。行政DXを進めるうえで、庁内のデータ連携を効率化する第一歩となる仕組みです。


住民公開型GISとオープンデータ

庁内で整備したGISデータを住民に公開する取り組みも広がっています。国土地理院によると、奈良県橿原市が統合型GISから一般公開用システムへの展開を行い、新潟県見附市がコストを抑えた地域情報マップによる情報提供を実施し、沖縄県北谷町が庁内の主題情報をスムーズに一般公開するなど、各地で多様な事例が紹介されています(参照*4)。

室蘭市は、行政内部で作成されたGISデータをShapeファイル(Shapefile)としてオープンデータで公開しており、全国でも先駆的な取り組みとされています(参照*1)。

住民公開型GISやオープンデータとしての提供は、住民が自ら地域の情報を確認できるだけでなく、民間事業者やNPOが二次利用することで新たなサービスが生まれる可能性も広がります。


行政DXを支える主要データ基盤


基盤地図情報と国土数値情報

自治体がGISを活用する際、共通の土台となるのが基盤地図情報と国土数値情報です。国土交通省は、電子地図上の位置の基準として共通に使用される基盤地図情報、およびこれに国土管理等に必要な情報を付加した電子国土基本図について、関係行政機関等と連携して迅速な整備・更新を進めていると説明しています。あわせて、空中写真、地名に関する情報、標高データ、都市計画基礎調査により得られたデータや、国土に関する基礎的な情報をGISデータ化した国土数値情報の整備にも取り組んでいます(参照*6)。

基盤地図情報は位置の基準として機能するため、自治体が独自に作成したデータとも正確に重ね合わせることができます。国土数値情報は交通・土地利用・行政区域など幅広い分野のデータを提供しており、行政DXの出発点として活用しやすい公的データ基盤です。


エリアデータ連携基盤の仕組み

行政DXをさらに推進するうえで、地域のデータを横断的に活用する仕組みが求められます。デジタル庁は、エリアデータ連携基盤を「地域のデータを集約し、行政手続や交通などのさまざまなサービスにデータを仲介するシステム」と位置づけています。データ仲介機能の核として、オープンデータなどのデータアセットを活用し、各サービスが保有するデータをサービス間で連携させることで、効率的なデータの利活用を進めます。多くのサービスやデータアセットがつながることにより、エリアデータ連携基盤の真価を発揮するとしています(参照*3)。

この仕組みでは、特定のサービスや事業者に縛られないオープンな仕様の担保が求められています。デジタル庁は、重複投資を避けるとともに、オープンな仕様を確保することでサービス設計の自由度と個人に最適化されたサービスの実現が図られると述べています(参照*3)。

GISで整備した空間データをエリアデータ連携基盤に接続すれば、地図情報と各種サービスのデータを横断的に組み合わせた分析や施策立案が可能になります。


jSTAT MAP・PLATEAUの活用

国が提供する具体的なツールとして、jSTAT MAPとPLATEAUがあります。jSTAT MAPは、誰でも使える地理情報システムとして総務省統計局が提供しており、統計地図の作成に加え、利用者のニーズに沿った地域分析が可能です。防災、施設整備、市場分析等、各種の詳細な計画立案に資する基本的な分析ができます(参照*7)。

一方、PLATEAUは3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を推進する取り組みです。国土交通省は、地理空間情報も活用しながら個々の建築物の情報の3次元デジタル化を図る建築BIMやPLATEAU、不動産IDに係る取り組みを一体的に推進し、高精細なデジタルツインの環境構築を進めています(参照*6)。

jSTAT MAPは統計データと地図を組み合わせた2次元の分析に適しており、PLATEAUは3次元の都市モデルを使ったシミュレーションに強みがあります。自治体が目的に応じてこれらのツールを使い分けることが、行政DXの具体的な実践につながります。


GIS導入の進め方と手順


導入期・普及期・転換期の段階設計

GISの導入は一度に完了するものではなく、段階を踏んで発展させていく設計が求められます。宇都宮市のGIS支援実績に基づく研究では、3つの時期区分が設定されています。まず、支援実績が少なく基盤データの整備やそれを用いた単純な地図の作成が中心であった平成16年度から24年度までを「導入期」としました。次に、ArcGISを導入したことで高度な分析が可能となり支援実績が急成長した平成25年度から30年度までを「普及期」としています。最後に、支援する案件を精選しEBPM(証拠に基づく政策立案)に資する地図や資料の作成に重点を置くようになった令和元年度から5年度までを「転換期」と位置づけました(参照*5)。

この3段階のモデルは、GIS活用がデータ整備から分析、そして政策立案への貢献へと深化する過程を示しています。自治体が自らの導入段階を客観的に把握し、次に何をすべきかを判断する際のひとつの指標になります。


庁内人材育成と支援体制の構築

GISの導入効果を持続させるには、ツールだけでなく人材の育成と支援体制が不可欠です。宇都宮市では平成28年に、情報政策課(現・デジタル政策課)とまちづくりセンターの間でGIS活用支援の役割分担を取り決めました。「業務のツールとしてGISを選択できる知識の向上」と「作りたいデータを作成できる基本的な操作技術の向上」を情報政策課が担い、「GISデータを活用・分析し、課題解決や政策形成ができる能力の育成」をまちづくりセンターが担う体制です(参照*5)。

共同利用を含めて運用を継続するには、域内の基礎自治体との協議もポイントになります。デジタル庁もエリアデータ連携基盤の共同利用について、基盤の構築や利用そのものにとらわれず、データをどう利活用し、コスト面も含めて継続的な運用を実現するかについて、域内の基礎自治体と十分に協議して進めることが重要としています(参照*3)。

操作技術の習得と分析能力の育成を組織内で分担し、あわせて近隣自治体との協議を通じて運用体制を固めることが、GIS活用を定着させる鍵になります。


自治体の導入事例


宇都宮市のGIS支援とEBPM推進

宇都宮市は、GISに精通した専門研究員が各部局の政策形成を支援する「GIS支援」を長期間にわたって実施しています。令和5年度までの過去20年間で支援件数は1,280件、支援時間は1,594.2時間に達しました。GIS支援は例年、庁内業務支援件数の6割を占める主要な支援メニューとなっています(参照*5)。

20年間を通して最も活用された政策分野は、支援件数・支援時間ともに人口統計であり303件、544.7時間でした。次いで交通分野が211件、490.4時間となっています(参照*5)。

人口統計や交通といった分野でGISが集中的に活用されてきた実績は、空間データが政策の根拠を示すEBPMの実践と密接に結びついていることを表しています。


室蘭市の統合型GISとオープンデータ

室蘭市は平成25年度に全庁へ統合型GISを導入し、都市計画や固定資産税業務で活用しています。同時期から行政内部で作成されたGISデータをShapeファイルとしてオープンデータで公開しており、全国でも先駆的な取り組みと位置づけられています(参照*1)。

室蘭市は、熊の出没情報マップ、公共施設マップ、地番図マップ、都市化計画情報マップなど、住民の生活に関わるマップを多数作成しています。行政情報を活用してさまざまなマップを提供することで、住民が地域の情報に直接アクセスできる環境を整えています(参照*1)。

庁内利用とオープンデータ公開を同時に進めた室蘭市の事例は、統合型GISの導入がそのまま住民への情報提供基盤になりうることを示しています。


防災・観光・福祉での空間データ活用

GISと空間データの活用は、防災・観光・福祉といった幅広い分野に広がっています。防災分野では、新潟県柏崎市が基盤地図情報を活用した土砂災害ハザードマップを住民公開用地図として作成しました。また、鹿児島建設専門学校が姶良市消防本部と連携したAED設置情報提供システムを構築し、新潟大学工学部情報工学科が大規模発災時のトリアージ情報収集システムへの利用を進めるなど、教育・研究機関でも活用されています(参照*4)。

観光分野では、京都府・京都市が「KYOTO Trip+」として、個々の利用者のニーズに合った京都の観光・防災情報を多言語で提供しています。福祉分野では、狛江市が「ココシルこまえ バリアフリーナビ」として、高齢者、障がい者、ベビーカー利用者のニーズに応じた最適なバリアフリールートのナビゲーションを実現しました(参照*8)。

これらの事例からわかるのは、空間データが特定の業務だけでなく、住民の安全や利便性、訪問者の満足度にまで影響を及ぼす基盤であるということです。自治体の課題や地域の特性に応じて、活用する分野を選定することが効果的な導入への第一歩となります。


失敗しないための注意点


データ管理と命名規則の整備

GISの導入後に見落とされがちなのが、データの管理ルールです。宇都宮市の事例では、GISデータを分野別に6つのフォルダに分けて収録しているものの、分類規則がないため同じデータを複数のフォルダに重複して収録していることがあると報告されています。命名規則や管理規則もないため、修正が完了したファイルと未修正のファイル、データの出所や作成時期が不明になったファイルが混在し、使用するたびに内容を確認しなければならない状態に陥っています(参照*5)。

データの重複や出所不明は、分析結果の信頼性を損なうだけでなく、確認作業に時間を取られて業務効率も下がります。GIS導入と同時に、ファイルの命名規則、フォルダ構成、更新履歴の記録方法を明文化しておくことが、長期運用では欠かせない取り組みです。


個人情報・著作権ガイドラインの遵守

空間データには位置情報が含まれるため、個人の特定につながるリスクがあります。国土交通省は、内閣官房に設置された地理空間情報活用推進会議の個人情報保護・知的財産に関する検討チームにおいて、関係府省の連携のもと、地理空間情報の円滑な提供・流通を図るうえで課題となっている個人情報や二次利用に伴う著作権等の取り扱いについて検討を進めました。その結果、「地理空間情報の活用における個人情報の取扱いに関するガイドライン」と「地理空間情報の二次利用促進に関するガイドライン」が同会議にて決定されています(参照*9)。

自治体がGISデータを庁内で活用する場合も、オープンデータとして公開する場合も、これらのガイドラインに沿って個人情報の匿名化処理や著作権の確認を行う必要があります。ルールを事前に確認せずデータを公開すれば、住民の信頼を損なう事態にもつながりかねません。


おわりに


GISと空間データは、自治体が限られた資源のなかで根拠ある政策を立案し、住民サービスを維持・向上させるための基盤技術です。導入にあたっては、法的な定義や国が提供するデータ基盤を理解したうえで、段階的な活用設計と庁内の人材育成を並行して進めることが求められます。

あわせて、データの管理ルールの整備や個人情報・著作権ガイドラインの遵守を怠らないことが、行政DXの持続的な運用を支える条件となります。宇都宮市や室蘭市、各分野の事例を参考に、自らの自治体に合ったGIS活用の進め方を検討してみてください。

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参照



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