自治体×キャラクター活用の成功事例|地域PRの新しい形



はじめに

全国の自治体がキャラクターを活用した地域PRに取り組んでいますが、キャラクターを作っただけで地域活性化につながっていない事例も少なくありません。シティプロモーションにおいてキャラクター活用を成功させるには、どのような視点が必要なのでしょうか。

発信手法の選び方、権利保護の体制、そして「作っただけ」で終わらせない運用設計が、成果を分ける大きなポイントです。この記事では、館林市や和歌山市、西尾市などの具体的な事例とあわせて、自治体がキャラクターを地域PRに活かすための実践的な考え方を紹介します。



自治体キャラクター活用の背景


シティプロモーションとキャラクターの関係

シティプロモーションとは、自治体が地域の魅力を内外に発信し、定住促進や観光誘客、地域ブランドの向上をめざす活動の総称です。このシティプロモーションの手段として、キャラクターを活用する自治体が増えてきました。彦根市の「ひこにゃん」に代表されるゆるキャラから、沖縄県の「琉球マブヤー」のようなご当地ヒーローまで、商業振興や地域活性化を目的に様々なキャラクターが生み出されています。2010年には全国のゆるキャラが集まる「ゆるキャラグランプリ」が開催され、出場したキャラクターが全国的に有名になるなど、地域のPRにもつながりました(参照*1)。

キャラクターをSNSや映像といったデジタル媒体と組み合わせることは、従来型の広報だけでは地域の魅力を十分に伝えきれないという課題に対する手段の一つです。国土交通省は、紙媒体や対面型イベントを主体とした従来型広報が中心だった自治体の取り組みについて、若年層を中心に情報収集手段がデジタルへ移行する中、地域の魅力や回遊動線を十分に伝えきれない状況があると指摘しています(参照*2)。


全国自治体の保有状況と課題

149の自治体を対象にした調査では、マスコットの活用パターンは自治体間で比較的似通っている一方、その効果には大きなばらつきがあることが明らかになりました。調査では、キャラクター活用の水準に基づいて自治体を「効率的な活用」「成功した積極活用」「改善が必要」「受動的な運用」の4つに分類しています(参照*3)。

この分類からわかるのは、キャラクターを「持っているかどうか」よりも「どのように運用しているか」が成果を左右するという点です。同じようにキャラクターを保有していても、効率的に活用できている自治体と受動的な運用にとどまっている自治体では、地域PRへの貢献度に差が生まれます。キャラクターを地域PRの手段として機能させるためには、制作後の運用体制や発信戦略まで視野に入れて設計する必要があります。


キャラクター活用の種類と手法


公営キャラクターと民営キャラクター

ご当地キャラクターは、企画・作成の主体によって「公営」と「民営」に分けられます。キャラクターの企画・作成が自治体であれば「公営」、自治体以外であれば「民営」と定義されます。自治体がキャラクターの運営を民間事業者に委託する場合でも、企画・作成自体が自治体によるものであれば公営に含まれます(参照*1)。

この区分によって、権利の所在や運用方針が変わります。公営であれば自治体が著作権を持ち、利用ルールも行政主導で定めやすくなります。一方、民営の場合は企画者との契約内容によって利用範囲が制限される場合があり、シティプロモーションに活用する際に権利関係の整理が求められます。キャラクターの活用方針を決める前に、まずその成り立ちと権利構造を確認することが出発点となります。


SNS・映像・生成AIなど発信手法の多様化

キャラクターの発信手法は、着ぐるみによるイベント出演や紙媒体での告知にとどまらず、SNS・映像・生成AIへと広がっています。名所を並べるだけの観光PR動画は、単なる「情報」にとどまるおそれがありますが、ドラマ仕立てにすることで視聴者に感情移入をもたらすことが期待できます(参照*4)。映像の力でキャラクターに物語を持たせることが、地域PRの質を変える手法として活用されています。

生成AIも新たな手段として登場しました。いきなり予算を取るとなるとハードルが高いですが、生成AIを使えば職員個人から取り組みを始めることもできます(参照*5)。また、独自性の高いデザインをSNSで発信する手法も実践されています(参照*6)。発信手法の選択肢が増えたことで、予算規模や目的に応じた使い分けが可能になっています。


成功事例に学ぶ地域PRの新しい形


館林市:ショートドラマによるシティプロモーション

群馬県館林市は、認知度向上の切り札としてショートドラマの制作に踏み切りました。自治体の予算確保は一筋縄ではいかず、さらに税金を使うために、「失敗できない」という緊張感があったと担当者は述べています(参照*4)。

めざしたのは、強い起承転結やメッセージで引っ張るのではなく、「何も起こらないのに見終わると少し気持ちがあたたかくなる体験」でした。公開から約3週間で、SNSを中心とした関連投稿の総閲覧数は50万回に迫り、公式Instagramのフォロワー数も約4倍に増加するなど、静かな広がりを見せています。従来の観光PR動画とは異なり、ドラマによって感情を動かすアプローチが、シティプロモーションの新しい手法として機能した事例です。


和歌山市:生成AIキャラクターで予算ゼロからPR

和歌山市は、市のPRのために画像生成AIを用いたキャラクターで広告を作成し、話題となりました。市の担当者が使用したのは、商用利用が可能な「Adobe Firefly」です。和歌山城や市内の各地域を擬人化したキャラクターが制作され、大阪・関西万博開催中にJR新大阪駅構内に掲出されるなどして反響を呼びました(参照*5)。

この事例が注目されたのは、担当者が職員レベルで生成AIを活用し、予算を確保する前の段階でキャラクターを制作した点です。行政では前例のないことを始める際に予算の壁が立ちはだかりますが、まず生成AIで形にしてから周囲の理解を得るという進め方が可能であることを示しました。限られた予算の中でシティプロモーションを前に進めたい自治体にとって、参考となる取り組みです。


西尾市:筋肉系キャラクターとSNS戦略

愛知県西尾市は、ふるさと納税の公式Instagramアカウントでわずか3か月でフォロワー1万人を達成しました。返礼品の紹介だけでは印象が薄いため、キャラクターを登場させるという発想が起点になっています。かわいいゆるキャラでは他との差別化ができないことから、担当者が広告会社勤務時代に市に提案していた筋肉系キャラクターが採用されました(参照*6)。

独自性の高いコンテンツによって、若年層を中心に新たなファン層を開拓したことがこの事例の特徴です。全国に数多くのゆるキャラがある中で、あえて「ゆるさ」とは逆方向のキャラクター設計を選んだ判断が、SNS上での埋没を防ぎ、短期間でのフォロワー獲得につながっています。キャラクターの個性とSNSの相性を見極めたうえで発信内容を設計することが、地域PRの効果を引き出す鍵になります。


札幌市手稲区:地域密着型キャラクター「ていぬくん」

札幌市手稲区の「ていぬくん」は、全国的な知名度拡大よりも地元での価値最大化を優先するという方針で運営されています。ていぬくんの権利は市民団体「ていぬ活用委員会」が所有・管理しており、事務局は区役所内に置かれています。同委員会は地元商店街関係者や区内大学の学生などで構成され、「地域に愛されるキャラクター」を活動方針として掲げています(参照*7)。

多くの自治体キャラクターが全国区の知名度を目標にする中で、手稲区内での認知と愛着を優先するこの運営モデルは特徴的です。市民団体が権利を持ち、行政と地域住民が協働して運用する体制は、キャラクターが地域に根付くための一つの形を示しています。


ライセンス管理と権利保護の実務


くまモンの無償利用モデル

熊本県の「くまモン」は、ライセンス管理の仕組みとして無償利用モデルを採用しています。熊本県は利用規程において「イラスト等の利用料については、当分の間、無料とする」と定めました(参照*9)。利用料を無料にすることで、企業や団体が商品やイベントにくまモンを使いやすくなり、キャラクターの露出機会が拡大しています。

無償であるからこそ利用件数が増え、露出が増えることでキャラクターと地域の認知度が同時に高まるという循環が生まれます。ただし、無償利用を認める場合でも、デザインの改変や使用範囲に関するルールは別途設定されています。利用料の有無だけでなく、どこまで自由に使わせ、どこから管理するかという線引きが、キャラクターのブランド価値を維持するうえでの判断ポイントとなります。


ひこにゃん・むすび丸に見る使用許諾の仕組み

彦根市は、キャラクター「ひこにゃん」の商標であるイラスト・写真画像の利用にあたり、事前に市の代理人への使用申請を求めています。ルール・手順に基づいた正しい利用を呼びかけており、無断使用を防ぐ管理体制を敷いています(参照*10)。宮城県も「むすび丸」について、観光客誘致を目的とした各種媒体への活用を促しつつ、使用料は無料としたうえで事前の使用申請を必須としました(参照*11)。

一方、著作権をめぐる課題も残ります。著作権は約8割の自治体が自ら保有していますが、自治体以外が著作権を持っている場合に著作権使用許諾契約を結んでいる自治体は3割にとどまります(参照*1)。事前申請の仕組みを設けてキャラクターの品質を管理する一方で、権利関係の契約が不十分なまま運用されているケースがあるという実態は、今後の自治体キャラクター運営で対応すべき課題です。


運用の落とし穴と失敗を防ぐ視点


人員・予算不足と効果測定の未整備

自治体がキャラクターを運用するうえで最も多い課題は人員不足です。活動の課題に関する調査では、「担当職員等、人員が不足している、職員の負担が大きい」が57.1%と最も多く、次いで「十分な予算が確保できない」が25.4%となっています(参照*1)。着ぐるみの維持管理や運用にかかるコストも、自治体のキャラクター活用における課題として挙げられています(参照*3)。

人員と予算が限られる状態では、キャラクターを使った施策の効果を測定し、改善につなげる仕組みまで手が回りにくくなります。効果測定が整備されなければ、施策の良し悪しを判断する根拠がなくなり、予算要求の説得力も下がるという悪循環に陥ります。運用を始める段階で、どの指標で成果を測るかをあらかじめ定めておくことが必要です。


「作っただけ」で終わらせない運用設計

ご当地キャラクターについては、行政による活用が十分ではないと感じている住民も少なくありません。実際に、行政がご当地キャラクターをうまく活用できていないと考える住民が5割を超えるという調査結果もあり、本来の可能性を十分に生かし切れていない事例があることがうかがえます(参照*8)。キャラクターの制作をゴールにせず、目的に応じた活用方針と継続的な運用体制を設計することが、成果を左右します。

制作物の品質管理と発信計画をセットで設計することが、「作っただけ」の状態を抜け出すための具体策となります。キャラクターを誰に届け、どんな反応を得たいのかを明確にしたうえで運用に入ることが求められます。


おわりに


自治体のキャラクター活用は、制作段階の工夫だけでなく、発信手法の選択、権利保護の仕組み、そして運用体制の設計まで含めたトータルな取り組みとして捉える必要があります。館林市のショートドラマ、和歌山市の生成AI活用、西尾市のSNS戦略、手稲区の地域密着型運営と、成功のかたちは一つではありません。

共通しているのは、地域の特性や使える資源を踏まえて「誰に届けるか」を明確にしている点です。キャラクターを地域PRの手段として機能させるために、自分たちの自治体にはどのアプローチが合うのかを、ここで紹介した事例を手がかりに検討してみてください。

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参照



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