自治体のごみ処理の現状と課題|効率化の取り組み
はじめに
自治体が担うごみ処理は、住民の暮らしを支える基盤業務です。しかし施設の老朽化や人口減少、人手不足が重なり、従来の体制のまま運営を続けることが難しくなっています。こうした状況を放置すると、処理コストの膨張やサービス品質の低下を招きかねません。
業務効率化の鍵となるのは、DXによる受付や収集業務の見直し、広域連携による施設運営の最適化、そして組織文化と人材育成への対応です。本記事では、自治体のごみ処理・廃棄物処理が抱える構造的課題を整理したうえで、業務効率化に向けた具体的な取り組みと導入時の判断基準を解説します。
自治体ごみ処理の全体像
排出量と処理フローの推移
自治体が処理するごみの総量は、長期的に減少傾向をたどっています。
環境省が公表した「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和6年度)について」によると、令和6年度のごみ総排出量は3,811万トンで、前年度の3,897万トンから2.2%減少しました。また、1人1日当たりのごみ排出量は839グラムで、前年度の851グラムから1.5%減少しています。家庭系ごみ排出量は2,117万トン、1人1日当たりの家庭系ごみ排出量は466グラムで、いずれも前年度を下回りました。ごみ総排出量は平成27年度以降、減少傾向が続いています(参照*2)。
収集運搬の担い手は、自治体の直営だけでなく、委託事業者など外部主体との連携を前提とする形へ移りつつあります。環境省の令和6年度調査では、収集運搬に関する委託費は4,565億円で、収集運搬に関する人件費1,437億円を大きく上回っています。こうした状況を踏まえると、今後は委託先との情報共有や業務管理のあり方が、収集運搬の安定化・効率化において重要になります。(参照*2)。自治体が自前で行う業務範囲が縮小するなかで、委託先との連携や管理のあり方が問われています。
処理事業経費と人員体制
ごみ処理に要する経費は増加傾向にあります。環境省は令和6年度のごみ処理事業経費を24,489億円とし、国民1人当たりに換算すると19,700円になると公表しました。この経費は平成27年度以降おおむね増加傾向にあります(参照*2)。排出量が減っているにもかかわらず経費が伸びている背景には、施設の維持管理費や人件費の上昇といった構造的な要因が考えられます。
人員体制にも変化が見られます。前節で触れたとおり、収集運搬は外部委託する自治体が増えています。一方で、いくつかの町村では廃棄物専従の職員を置くことすら困難な状況にあり、高度化・多様化する廃棄物行政への対応に苦慮していると指摘されています(参照*4)。限られた職員で処理全体を管理する体制は、属人的な運用に陥りやすく、業務効率化を進めるうえでの土台そのものが揺らいでいます。
自治体が直面する構造的課題
施設老朽化と更新費用の増大
ごみ処理施設の多くは、同じ時期に一斉に建設された経緯があります。環境省の資料は、平成2年度以降にダイオキシン対策のため全国で緊急かつ集中的に整備された施設の多くが更新時期を迎えており、建替え等に約1,000億円超の費用が見込まれると指摘しています(参照*3)。
施設更新には複数年度にわたる多額の費用が必要で、財政負担が大きいとされています。同資料では、廃棄物処理施設の整備には複数年度にわたって多額の費用を要するため、財政事情の厳しい市町村にとって大きな負担になっていると述べ、循環型社会形成推進交付金の確保による国の支援が必要不可欠だとしています(参照*3)。老朽化した施設を計画的に更新できなければ、突発的な故障による処理停止や修繕費の膨張といったリスクが高まります。
人口減少・人手不足と属人化
人口減少の波は、ごみ処理の現場にも直接的な影響を及ぼしています。いくつかの町村では廃棄物専従の職員を置くことすら困難であり、高度化・多様化する廃棄物行政への対応に苦慮しているとの報告があります。その一方で、収集・中間処理・最終処分の民間委託や広域化が進んでいる状況です(参照*4)。
委託が拡大すること自体は人手不足への対応策になりえますが、収集・中間処理・最終処分が別々の主体で行われ、かつ町村の関与が低下していることで、処理責任が曖昧になり、減量化や循環利用にも支障をきたすことが懸念されています(参照*4)。少数の職員に知識やノウハウが偏る属人的な運用は、異動や退職によって業務が止まるリスクをはらんでおり、業務効率化を妨げるおそれがあります。
最終処分場の逼迫と広域化
最終処分場の残余容量は減少を続けています。環境省は令和6年度末現在の一般廃棄物最終処分場を1,550施設とし、残余容量は93,287千立方メートルで昨年度より減少したと報告しました。残余年数の全国平均は24.9年です(参照*2)。
地域ごとの偏りも深刻です。環境省の資料によると、305の自治体(17.5%)が一般廃棄物の最終処分場を保有しておらず、特に大都市圏での確保が困難になっています。関東や中部地区等では最終処分場の確保ができず、最終処分が広域化している実態があります(参照*3)。自区域内で処分を完結できない自治体にとって、広域連携は選択ではなく必然であり、連携先との費用分担や運搬体制の整備が喫緊の課題となっています。
DXによる業務効率化の手法
粗大ごみ受付のオンライン化
粗大ごみの受付業務は、電話対応に多くの職員時間を費やしてしまいます。ここにオンライン化を導入することで、住民の利便性向上と自治体側の業務効率化を同時に実現する取り組みが広がっています。
ある自治体向けの受付システムでは、CTI連動により電話番号や過去の申込履歴が自動表示され、平均通話時間は約3分程度に短縮されています。粗大ごみの予約受付にかかる入力負荷を軽減し、迅速な対応を可能にしています(参照*5)。
LINE経由の受付も成果を上げています。ある自治体では粗大ごみ受付サービス「KANAMETO ECO」の導入しています。導入初月に市民から受け付けた収集申込みの約32%がLINE経由であり、新しい収集申込方法に関する苦情もありませんでした(参照*6)。さらに別の自治体では、本格稼働した2026年4月の途中時点で、住民から受け付けた収集申込み509件のうち74件がLINE経由でした(参照*7)。電話以外の受付チャネルを設けることで、窓口の混雑が緩和され、職員が他の業務に時間を振り向けられるようになります。
ごみ分別アプリと問い合わせ削減
ごみの出し方や回収曜日に関する電話問い合わせは、住民対応業務のなかでも件数が多い領域です。ごみ分別アプリの導入により、こうした電話での問い合わせが減少した事例が報告されています。アプリのダウンロード数が自治体の人口の30%以上に達している例もあり、広く活用されていることがうかがえます(参照*8)。
多言語対応の分別案内も進んでいます。「調布ごみナビ」は深層学習による画像認識と大規模言語モデルを組み合わせ、カメラ画像によるごみの分別案内や40カ国語対応を実現しました。調布市・能代市・福生市・羽村市・加賀市・江東区・苫小牧市・東大和市の8自治体で運用中であり、2026年度からは全国32の自治体に拡大する予定です(参照*9)。アプリが住民の疑問を自己解決に導くことで、職員の電話対応時間を大幅に減らせる可能性があります。
AI活用と収集ルート最適化
ごみ収集の現場では、AIを使って業務全体を効率化するシステムが登場しています。「AI収集ナビ」は、収集現場の情報をリアルタイムで可視化・共有し、自治体の業務効率と市民サービスの質を高めることを目的としたごみ収集支援システムです。現場と管理部門の連携、データ活用、市民対応までを包括的に支援する3つの機能群を中心に構成されています(参照*10)。
収集ルートそのものを最適化する試みも実証されています。ごみの戸別回収を対象とした取り組みでは、高齢者や障害者向けの個別集荷サービスにおいて、利用者の住所に応じて最適な車両数とルート順を自動で振り分ける仕組みが構築されました。収集車用ナビアプリと連携することで、ドライバーは表示された順番どおりに走行するだけで効率的に集荷ができます(参照*11)。ルートの属人化を解消し、新任のドライバーでも同じ水準で収集を行える体制が整うことは、人手不足への有効な対策にもなります。
施設運営と広域連携の効率化
遠隔管理・データ可視化による保全
施設の維持管理においても、遠隔技術やデータ可視化を活用した業務効率化が進んでいます。ある廃棄物処理の現場では、以前は各地区から問い合わせがあるたびに自転車で十数分かけて対応に出向いていましたが、カメラ映像で廃棄物を確認できるようになったことで、現場に行かなくてもその場で回答できるようになりました(参照*12)。
データ可視化は災害時の廃棄物処理にも応用されています。GISツールを用いて、現場で撮影した写真とともに仮置場の管理状況や路上堆積ごみの排出状況をその場で投稿し、ダッシュボード上で可視化する環境が構築されたことで、リアルタイムでの情報共有が実現した事例があります(参照*13)。
施設の予防保全も業務効率化に直結します。新設・既存を問わず、まず設備診断を行い経年劣化や偶発的なトラブルを予測して問題点を抽出する手法が採られています。これにより設備の改善や適切な修繕を実施することで、トラブルを未然に防ぎ大幅なコストダウンを実現するとされています(参照*14)。
広域化・PFI・DBO方式の活用
施設整備の負担を軽減する手段として、広域化や民間活力の導入が進んでいます。環境省は、廃棄物処理施設の整備には複数年度にわたって多額の費用を要し、財政事情の厳しい市町村にとって大きな負担になっていると指摘しました。循環型社会形成推進交付金の確保による国の支援が必要不可欠だとしています(参照*3)。
民間の技術や運営ノウハウを取り込む方式も広がっています。公共が資金を調達し、設計・建設・運営を民間が一括で担う手法であるDBO方式を活用した事例では、ボイラーでの焼却と発電から施設全体の運転状況を監視・操作し、コンパクトで高効率な発電設備によって余熱も無駄なく活用する運営が行われています(参照*14)。自治体単独での整備が財政的に難しい場合、広域連携やDBO方式といった選択肢を比較検討することが、持続可能な施設運営の鍵となります。
導入時の判断基準と注意点
自治体規模別の選定ポイント
業務効率化の手法を選ぶ際は、自治体の規模によって前提条件が大きく異なります。小規模な自治体では予算も時間も人員も限られており、大規模なシステム投資が難しい場面が少なくありません。しかし、そうした環境でもAIの活用は可能であると、自治体関係者の議論のなかで確認されています(参照*15)。
委託や広域化が進む状況では、処理責任が曖昧になりうる懸念が指摘されています。収集・中間処理・最終処分が別々の主体で行われ、町村の関与が低下している構造のもとでは、処理責任が曖昧になり、減量化や循環利用にも支障をきたす懸念があります。また、廃棄物処理が高度化・複雑化する現在、一般廃棄物処理の責任や主体について再検討する時期にあるという見解もあります(参照*4)。ツールの導入だけで済む話ではなく、処理全体の責任の所在を明確にしたうえで、自らの規模や委託状況に合った手法を選定することが求められます。
組織文化と人材育成の壁
業務効率化の取り組みが技術的に可能であっても、組織内部の壁によって頓挫するケースは珍しくありません。自治体の現場から挙がった課題を整理すると、大きく「人材不足」「組織文化」「団体や組織の壁」に集約できたとの報告があります(参照*15)。
人材不足は単に人数の問題だけでなく、デジタル技術を理解し運用できる職員が少ないという質の面も含みます。また、従来の紙や電話を前提とした業務フローに慣れた組織では、新しいやり方への抵抗感が生じやすくなります。さらに部署間や関係団体との調整が多い廃棄物処理の分野では、組織の壁を越えた連携が不可欠です。こうした課題を踏まえると、ツール導入の前後で職員への研修と庁内の合意形成をどう進めるかが、業務効率化の成否を分ける局面になります。
おわりに
自治体のごみ処理・廃棄物処理は、排出量の減少という好材料がある一方で、施設老朽化、人手不足、最終処分場の逼迫という構造的な課題を抱えています。限られた財源と人員のなかで処理水準を維持するには、業務効率化の視点が欠かせません。
オンライン受付やごみ分別アプリ、AI収集ルート最適化といったDX手法から、広域連携やDBO方式による施設運営の見直しまで、選択肢は多岐にわたります。自治体の規模や組織体制に合った手法を見極め、人材育成と合意形成を並行して進めることが、持続可能なごみ処理体制を築くうえでの出発点になります。
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参照
(*1) 一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和4年度)について
(*2) 一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和6年度)について
(*3) 地方自治体における廃棄物処理の現状と取組
(*4) J-STAGE – 地方小規模自治体における一般廃棄物処理の現状と課題
(*5) 株式会社NTTデータ関西 – 粗大ごみ受付サービス「e-TUMO ECOLIFE」
(*6) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 山形県天童市に「LINE公式アカウントを活用した粗大ごみ受付システム」を提供開始
(*7) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 沖縄県北谷町に「LINE公式アカウントを活用した粗大ごみ受付システム」を提供開始
(*8) ごみ分別DXが実現する、自治体業務の効率化と持続可能性の融合(事業者インタビュー)|まちの掲示板|一般社団法人 自治体DX推進協議会
(*9) 国立大学法人 電気通信大学 – 【ニュースリリース】国内初、災害ごみ対応にAIナビ導入 ~産学官6者連携で排出・収集の防災モニター訓練を実施~
(*10) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – ごみ収集業務に革命を!東京都調布市と連携し「AI収集ナビ」の実証実験を開始
(*11) DX SQUARE – 【地域DX】DX推進事例 5選─あなたの地域から始めてみよう、地域DX
(*12) パナソニック コネクト – パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社
