外国人住民の増加にどう対応する?多文化共生の先進自治体事例
はじめに
日本に暮らす外国人住民は増え続けており、地域社会の中で多文化共生をどう進めるかは、すべての自治体に共通する課題となっています。対応が遅れると、言葉の壁による情報格差や地域住民との摩擦が深まり、外国人住民・日本人住民の双方に不利益が生じます。
こうした課題に対し、浜松市や川崎市などの先進自治体はすでに独自の施策を打ち出し、成果を積み重ねてきました。この記事では、外国人住民の増加の現状から先進自治体の具体的な取り組み、施策を選ぶ際の判断基準や推進時の課題まで、順を追って解説します。
目次
・外国人住民増加の現状
・多文化共生施策の全体像
・先進自治体の事例
・施策の比較と選び方
・推進時の課題と注意点
外国人住民増加の現状
在留外国人数の推移と最新統計
日本に在留する外国人の数は、長期的に見ると大幅な増加傾向にあります。約30年前と比べて在留外国人数はおよそ11倍に増えました(参照*1)。
出入国在留管理庁は、2024年末時点の在留外国人数を376万8,977人と公表しました。前年末に比べ35万7,985人増加し、過去最高を記録しています(参照*2)。さらに2025年6月末時点では、中長期在留者数368万6,327人と特別永住者数27万292人を合わせた在留外国人数が395万6,619人となり、前年末比で18万7,642人、率にして5.0%の増加となりました(参照*3)。
外国人労働者数も同様に伸びています。厚生労働省によると、2024年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人で、前年比26万8,450人の増加でした。届出が義務化された2007年以降の過去最多を更新し、対前年増加率は11.7%に達しています(参照*4)。こうした数字から、在留外国人の増加ペースが加速している状況が読み取れます。
国籍・在留資格別の特徴
外国人住民の構成は、国籍や在留資格によって地域ごとに大きく異なります。浜松市の場合、2012年4月時点で外国人住民は2万5,138人を数え、総人口81万6,848人の3.1%を占めていました。国籍別ではブラジルが最多の1万2,268人で、フィリピン3,013人、中国3,010人、ペルー2,035人と続き、南米地域からの外国人が全体の約6割を占めています。特にブラジル国籍者数は全国の都市の中で最多です(参照*5)。
在留資格の面では、愛媛県今治市のように技能実習生が中心となる地域もあります。今治市では在留外国人の45.1%を「技能実習」が占めています(参照*6)。このように、自治体が施策を検討する際には、地域の国籍構成や在留資格の内訳を正確に把握することが出発点となります。
多文化共生施策の全体像
総務省「多文化共生推進プラン」の枠組み
自治体が多文化共生施策を体系的に進めるうえで、総務省の「地域における多文化共生推進プラン」が基本的な指針となっています。経団連の提言では、同プランで示されている具体的な施策が参考となり、相談窓口における解決・伴走支援に至った割合、日本語教育の水準や文化・慣習への理解増進を含む生活オリエンテーションの受講率・修了率、不就学の把握率・解消率、社会保険料の納付、防災訓練の参加率などを質的に測る考え方が示されています(参照*7)。
こうした枠組みがあることで、各自治体は共通の物差しを持ちながら、自地域の実情に合わせた施策を設計できます。数値で測れる指標が示されている点は、施策の進捗を客観的に確認するうえで欠かせない要素です。
国の支援体制とFRESCの役割
国レベルでは、外国人の受入環境整備に向けた体制づくりが段階的に進められてきました。政府は2019年に出入国在留管理庁を設置し、外国人の受入環境整備に関する企画・立案と総合調整を担う組織としました。さらに2025年7月には、外国人施策の司令塔となる「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置し、同年11月には外国人政策に関する関係閣僚会議を改組して、出入国在留管理の適正化や社会保険料等の未納付防止などに省庁横断で取り組む体制を整えています(参照*7)。
出入国在留管理庁が運営する外国人在留支援センター、通称FRESCは、外国人の在留を支援する政府の窓口を集約した施設です。外国人からの相談対応のほか、外国人を雇用したい企業への支援や、外国人支援に取り組む地方公共団体への支援など、複数の機能を1か所に集めています(参照*8)。自治体にとっては、FRESCを通じて国の専門的な知見や情報を得られるため、独自施策を補完する手段の一つとなっています。
先進自治体の事例
浜松市の多文化共生都市ビジョン
浜松市は、多文化共生を都市の将来像として明確に位置づけてきた先進自治体です。2001年と2007年に世界都市化ビジョンを策定した後、2013年に多文化共生都市ビジョンを策定し、2018年と2023年に改訂を重ねています(参照*9)。
現在は「第3次浜松市多文化共生都市ビジョン」のもとで施策が進められています。計画期間は2023年度から2028年度までの6年間で、「相互の理解と尊重のもと、創造と成長を続ける、ともに築く多文化共生都市」を将来像として掲げています(参照*10)。
情報提供の面でも具体的な施策を打ち出しており、広報はままつ外国語版の発行や、外国人市民向けホームページ「カナル・ハママツ」の運営を通じて、市からの情報を多言語で発信しています(参照*5)。ビジョンの策定から情報発信の実務まで一貫して設計されている点が、浜松市の施策の特徴といえます。
浜松市とインターカルチュラル・シティ
川崎市の外国人市民施策と相談体制
川崎市は、外国人住民を「共にまちづくりを進めるかけがえのない一員」と位置づけ、制度面から多文化共生を推進してきた先進自治体です。外国人市民代表者会議条例の制定をはじめ、外国人市民を包摂した地域社会づくりを進めてきました。2005年には外国人市民施策の基本方針として「川崎市多文化共生社会推進指針」を策定し、国籍や民族、文化の違いを豊かさとして生かし、すべての人が互いに認め合い、人権が尊重される「多文化共生社会」の実現を目指しています。同指針は2008年と2015年に改定されています(参照*12)。
相談体制の面でも充実した仕組みが整っています。川崎市は外国人相談窓口「かわさき多文化共生プラザ」で多言語による生活相談と情報提供を行い、川崎市国際交流センター内の「多文化共生総合相談ワンストップセンター」と連携して生活上の困りごとへの対応にあたっています。対応言語は英語・中国語・フィリピノ語・スペイン語・ベトナム語・ネパール語の6言語です(参照*13)。条例に裏打ちされた理念と、具体的な窓口運営の両面を備えている点が、川崎市の先進自治体としての特徴です。
企業発の多文化共生:今治市の事例
行政主導の施策だけでなく、企業が地域の多文化共生を牽引する事例もあります。海事産業が盛んな愛媛県今治市では、総人口が減少する中で在留外国人数が増加傾向にあり、2015年から2024年までの10年間で約1.7倍になりました。在留資格別では「技能実習」が最も多く、45.1%を占めています(参照*6)。
今治市のある企業は、親子三世代で営む創業60年の会社です。2000年頃から外国人従業員の雇用を始め、現在では37人の日本人従業員と、技能実習生を中心とした33人のフィリピン国籍の外国人従業員が働いています(参照*6)。従業員の約半数が外国人という職場環境は、企業単位での多文化共生の実践例として注目できます。こうした企業レベルの取り組みと自治体の施策が結びつくことで、地域全体としての対応力が高まります。
施策の比較と選び方
施策分野ごとの判断基準
多文化共生の施策は幅広い分野にわたるため、自治体ごとに優先順位を見極める必要があります。経団連の提言では、総務省の「地域における多文化共生推進プラン」で示されている具体的な施策が参考となり、相談窓口で解決・伴走支援に至った割合、日本語教育の水準、生活オリエンテーションの受講率・修了率、不就学の把握率・解消率、社会保険料納付、防災訓練の参加率などが挙げられています(参照*7)。
これらの指標を自地域の現状と照らし合わせることで、どの分野に課題が集中しているかを特定しやすくなります。たとえば不就学の把握率が低い地域であれば教育分野を優先する、防災訓練への参加率が低ければ防災情報の多言語化を先に進めるといった判断が考えられます。
やさしい日本語と多言語対応の使い分け
外国人住民への情報提供手段としては、やさしい日本語と多言語対応の2つの方法があり、場面に応じた使い分けが求められます。出入国在留管理庁は、書き言葉に焦点を当てた「やさしい日本語」のガイドラインを公表しており、お知らせなど文書で情報発信をする際の活用を呼びかけています。別冊として、日本語をやさしい日本語に変換する際の書き換え例も掲載されています(参照*14)。
一方、在留外国人を対象にした調査では、公的機関が発信する情報を入手する際の困りごととして、「多言語での情報発信が少ない」が17.0%、「やさしい日本語での情報発信が少ない」が9.1%との回答が上位に挙がっています(参照*7)。災害時には、日本語の理解が壁となり外国人が迅速な避難行動を取れなかったり、避難所で十分な支援を受けられなかったりする事態を避ける必要があるため、関係省庁が連携して多言語による情報発信の取り組みを進めています(参照*15)。日常的な行政情報にはやさしい日本語を基本に据え、緊急時や専門性の高い手続きには多言語で補完するという整理が、実務上の一つの方針となります。
推進時の課題と注意点
国民感情と合意形成の壁
多文化共生施策を推進するうえで、地域住民の感情と合意形成は避けて通れない課題です。2025年7月の参議院選挙以来、外国人に対する国民感情は急速に悪化し、外国人支援や多文化共生に取り組む自治体に対する反発も起きています(参照*9)。
国の政策との整合性も課題として挙げられています。政府は2014年以降、移民政策を否定しつつ外国人材の受入れ拡大を進めてきました。多文化共生や社会統合は本来、国と自治体が連携して取り組むべきものですが、国の体制整備が遅れているとの指摘もあります(参照*9)。また、技能実習生は在留期間が限定的で家族帯同も認められないため、社会関係資本が乏しく地域社会で見えにくい存在になりやすいという問題も指摘されています(参照*6)。施策を進める前提として、住民への丁寧な説明と対話の場づくりが欠かせません。
おわりに
在留外国人数が395万人を超える中、多文化共生は一部の先進自治体だけの取り組みではなく、すべての地域に関わるテーマになっています。浜松市の都市ビジョン、川崎市の相談体制、今治市の企業主導型の実践など、先行事例にはそれぞれ異なる強みがあります。
自地域の外国人住民の国籍構成や在留資格、産業構造を踏まえたうえで、総務省の推進プランが示す指標を活用しながら優先分野を見定めることが、施策を前に進める第一歩となります。
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参照
(*1) 数字でわかる出入国在留管理
(*2) 令和6年における出入国在留管理関係統計について (ダイジェスト)
(*4) 厚生労働省 – 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)
(*5) 浜松市多文化共生都市ビジョン
(*6) 多文化共生ポータルサイト – 企業における多文化共生-愛媛県今治市の中小企業X社を事例に-|コラム|多文化共生ポータルサイト
(*7) 一般社団法人 日本経済団体連合会 / Keidanren – 経団連:「転換期における外国人政策のあり方」 (2025-12-16)
(*8) 外国人在留支援センター
(*9) 多文化共生ポータルサイト – 第61回 静岡から世界へ ―インターカルチュラルな未来を創る―
(*10) 浜松市公式ホームページ – 浜松市多文化共生都市ビジョン/浜松市
(*11) 多文化共生ポータルサイト – 全国の取組事例|多文化共生ポータルサイト
(*12) 川崎市 – 川崎市多文化共生社会推進指針
(*13) 川崎市 – 外国人相談窓口「かわさき多文化共生プラザ」
(*14) 在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン
