オーバーツーリズム対策の先進自治体事例5選 住民と観光の両立をどう実現する?



はじめに

観光需要の急回復により、日本各地で混雑やマナー違反が住民生活を圧迫する事態が広がっています。本記事では、オーバーツーリズム対策に取り組む先進自治体の具体策と、住民と観光の両立を実現するための要点をまとめました。

  •  訪日外客数は過去最高を更新し、都市部や近郊観光地への集中が強まっている。
  • 国は受入環境整備・需要管理・分散・マナー啓発の4類型で対策を後押し。
  • 京都市、鎌倉市、小樽市、白川村、ニセコ町が地域特性に応じた施策を展開。
  • 住民参画とデータ活用が両立の鍵。


オーバーツーリズムの基礎知識


オーバーツーリズムの定義と背景

オーバーツーリズムは、観光地の住民生活の質や旅行者の体験の質に対して、観光が過度に悪影響を与える状態を指します。

環境省の資料では、国連世界観光機関が2018年に示した定義を引用し、観光が過度にネガティブな影響を与える状況として位置づけています。同資料は、国内外の観光需要が急回復し多くの観光地が賑わいを取り戻す一方、都市部を中心に一部地域への偏在傾向が見られ、過度の混雑やマナー違反による住民生活への影響、旅行者の満足度低下への懸念が生じている状況を指摘しました(参照*1)。

訪日外客数は2024年に3,686万9,900人、2025年には4,268万3,600人と2年連続で過去最高を更新し、外国人宿泊集中率も2019年の63%から2024年には69%へ押し上がっています(参照*2)。数値からは、観光客が全国に均等に分散しているのではなく、少数の都市と近郊観光地へ集中している傾向が読み取れます。


住民生活への具体的な影響

住民生活への影響は、混雑やマナー違反にとどまらず、公共サービスの水準にまで及びます。

財務省の広報資料では、オーバーツーリズムによる負の影響として、マナー違反のほか、交通網や観光地周辺の混雑、公共サービスの劣化を挙げました。同資料は、自然環境や住民の生活が毀損されると、地域の資源を活用する観光産業そのものも維持できなくなる恐れがあると指摘しています(参照*3)。

京都市が実施した市民意識調査では、約8割の市民が混雑やマナー違反に迷惑していると回答しました(参照*4)。生活道路の通行、通学、通勤、買い物といった日常の動線に観光需要が重なると、住民が受ける負荷は感覚的な不快感を超えて、地域の暮らしそのものを揺さぶる水準に達します。


観光と両立を阻む構造的課題

両立を難しくしているのは、需要の集中と地域資源の有限性という構造的なずれです。

観光庁は、観光需要が急速に回復する一方で、観光客が集中する一部の地域や時間帯によって過度の混雑やマナー違反が生じ、住民生活への影響や旅行者の満足度低下への懸念があるとしました。同庁は、観光客の受け入れと住民の生活の質の確保を両立しつつ、地域自身があるべき姿を描き、地域の実情に応じた具体策を講じる取組を総合的に支援しています(参照*5)。

需要の総量そのものよりも、集中する場所と時間、そして地域の受け止め方が課題の中心にあります。両立には、量を抑えるだけでなく、時間帯やエリアをずらす仕組みと、住民が意思決定に関与できる枠組みが同時に必要です。


対策の4類型と国の支援制度


受入環境整備・需要管理・分散・マナー啓発

国は、対策を複数の類型に分けて整理しています。

環境省が公表した「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」は、令和5年10月18日の観光立国推進閣僚会議で決定されました。同資料は、主な対策例として、受入環境の整備・増強、需要の適切な管理、需要の分散・平準化、マナー違反行為の防止・抑制、地方部への誘客の推進、地域住民と協働した観光振興を挙げています(参照*1)。

4類型は、それぞれ異なる時間軸と対象に働きかけます。受入環境整備は物理的なキャパシティを底上げし、需要管理は総量や時間帯を制御し、分散は空間的な偏りを緩め、マナー啓発は個々の行動を変える打ち手です。単独では効果が限られるため、地域の課題構造に合わせて組み合わせる必要があります。


観光庁の補助金と先駆モデル地域

国の支援は、モデル地域の選定と補助金の交付という形で具体化しています。

観光庁は、令和5年度補正予算で実施した「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」において、事業の内容・効果・意義などの面で先駆的で、他地域にも横展開可能な取組を目指す「先駆モデル地域型」として26地域を支援しました(参照*6)。

地域一体型の補助率は2/3で上限は2億円とされ、申請主体を中心とした地域の関係者による協議の場の設置、観光地の現状や将来像の分析、地域住民の意見に基づく対策計画の策定、複数タイプの取組の実施が要件に含まれます(参照*7)。要件からは、住民参画と複合的な打ち手を前提とした制度設計が読み取れます。


先進自治体事例5選 住民と観光の両立モデル


事例1:京都市 分散化とツーリストシップ

京都市は、市民生活と観光の調和・両立を掲げ、複数の分散化施策を並行して進めています。

京都市は、約8割の市民が混雑やマナー違反に迷惑している状況を踏まえ、分散化・周遊観光の推進、道路の混雑対策、市バスの混雑対策、手ぶら観光の推進、京都駅一極集中の緩和、観光マナー啓発・散乱ごみ対策、観光に対する共感の輪の拡大を進めるとしました(参照*4)。

分散化を支える情報発信として、スマートフォン位置情報や天気、曜日、時間などのビッグデータをもとに予測した観光快適度を公式サイトで発信し、市内10地点に設置したライブカメラとイベント時のポータブルライブカメラをYouTubeで配信しています。嵯峨嵐山エリアでは、比較的混雑していない嵯峨エリアへの分散を促すため、清凉寺、大覚寺、嵯峨鳥居本伝統的建造物群保存地区にライブカメラを設置しました(参照*8)。混雑の見える化と誘導の組み合わせが、需要をずらす仕組みとして機能します。


事例2:鎌倉市 AIカメラと沿線住民優先入場

鎌倉市は、観光地点ごとの課題に応じて、AIカメラと沿線住民優先入場という2種類の打ち手を組み合わせています。

鎌倉市と株式会社SKIDAYは、鎌倉高校前駅周辺でAIを搭載したカメラサービスを活用した社会実験を、令和7年12月19日から令和8年3月31日までの期間で実施しました。目的は、来訪者の撮影行為などによる地域住民の生活不便の解消に向けた来訪者数の把握であり、腰越ラッコ公園を映すカメラはHPやSNSで配信して混雑状況の可視化と来訪者の分散化を図り、映像の公開を周知することでマナー違反行為の抑制も狙いました(参照*9)。

江ノ電鎌倉駅では、例年4月と5月の大型連休時に駅構外へ乗車待ちの列が生じ、沿線住民や在勤・在学者の日常に影響が出ています。鎌倉市は江ノ島電鉄の協力のもと、乗車待ちの列に並ばずに駅構内へ優先入場できる社会実験を実施し、証明書の発行枚数は駅構内で1,028枚、鎌倉市役所で401枚、合計1,429枚となりました(参照*10)。


事例3:小樽市 官民連携協議会と人流分析

小樽市は、官民連携の協議体と人流データの分析を土台に、地域一体で対策を進めています。

小樽市では、国、北海道、小樽市のほか、交通事業者、市民団体などで構成する「小樽市オーバーツーリズム対策連絡協議会」が令和7年2月に発足しました。同協議会は、地域一体となった体制のもとで、市民の安心で快適な生活と観光の調和を図るための対策を協議しています(参照*11)。

人流の把握については、GPS人流データを活用したサンプルに基づき、国内・外国人来訪者の行動を網羅的かつ詳細に把握することを目的に、2024年と2025年に小樽市を訪れた外国人観光客と国内観光客を、日付、時間帯、滞在時間などから国別に比較・分析しました。調査対象は、船見坂周辺、三本木急坂周辺、JR朝里駅周辺、JR銭函駅周辺、祝津パノラマ展望台周辺、天狗山ロープウェイ山麓周辺の6エリアです(参照*12)。協議会と人流分析の組み合わせは、現場対応と根拠に基づく計画づくりを橋渡しする役割を果たします。


事例4:白川村 バス事前予約制の導入

白川村は、世界遺産の玄関口となる駐車場で、ツアーバスの事前予約制に踏み出します。

白川村は、世界遺産・白川郷の主要玄関口である村営せせらぎ公園小呂駐車場で、集落内の混雑緩和と住民生活の両立を目的として、ツアーバスなどの事前予約制を導入しました。対象車両はツアーバス(大型・中型・マイクロバス)で、運用開始日は令和8年12月1日利用分から、予約受付は令和8年6月1日から開始するとしています(参照*13)。

事前予約制は、需要の適切な管理に位置づく打ち手であり、集落へ流入する車両の総量と時間帯を、あらかじめ地域側が把握・調整できる点に特徴があります。ピーク時の集中を平準化する仕組みとして、狭い集落内での歩行者・車両の錯綜を減らす方向に働きます。


事例5:ニセコ町 就業者向けパーク&バスライド

ニセコ町は、観光客ではなく就業者側に着目した施策を展開しています。

ニセコ地域におけるオーバーツーリズム対策として、ひらふエリアの就業者向けに「パーク&バスライド」を実施しました。深刻化していた観光施設従業員の駐車場不足に対応するための取組と位置づけられています(参照*14)。

ニセコ町は、支笏洞爺国立公園1,374ha、ニセコ積丹小樽海岸国定公園1,280haの公園区域を有し、スキー場、ゴルフ場、温泉、ホテル、ペンションを備え、民間資本などによる大規模な観光開発が進み、近年はインバウンド需要の増加により海外投資による開発も進行しています。産業構造は農業中心から農業と観光の2本立てへと変化してきました(参照*15)。就業者の移動手段を整えることは、地域雇用の維持と、住宅地・商業地の駐車環境の確保を同時に支える施策として機能します。


両立を実現する成功要因と注意点


住民参画と協働ガバナンスの重要性

両立を進めるうえで、住民参画と協働ガバナンスの設計が中心的な役割を果たします。

国際的な先例を整理すると、観光地マネジメントには4つのレバーがあり、第一の価格メカニズム(京都モデル)、第二の量的規制(バルセロナモデル)、第三の時空間分散(鎌倉モデル)、第四の協働ガバナンス(アムステルダムが目指したモデル)が挙げられます。4つはどれも単独では不十分で、組み合わせて初めて機能するとされています(参照*2)。

財務省の広報資料は、観光から得られた利潤を地域の資源や住民に還元する好循環を生み出すことも重要であり、雇用創出や税収などの経済効果が生じても、観光に携わらない住民は恩恵を実感していない可能性があると指摘しました。観光地の魅力は、その土地固有の町並みや日常生活により形成されるため、地域への再投資は必要であり、DMOを中心とした「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりに期待するとしています(参照*3)。住民が意思決定と便益の双方に関与できる仕組みが、両立を持続させる土台になります。


データ活用と効果測定の落とし穴

データ活用は有効ですが、効果測定の方法を設計しないと施策の妥当性を検証できません。

京都市観光協会は、これまでチラシやポスターの掲示、SNS広告による観光マナー啓発を行ってきましたが、観光客への普及度合や啓発効果を定量的に計測することが難しいという課題を抱えていました。同協会は、京都における観光マナーをわかりやすく伝えるコンテンツを制作するとともに、観光マナーの遵守に賛同するサイトへの誘導を図り、賛同者を増やすことで観光マナーの普及と啓発の定量的な効果測定を目的にしています(参照*16)。

加えて京都市観光協会は、市民、観光客、観光事業者・従事者、そして未来の四方よしを掲げ、観光が京都にもたらす意義・効果、課題と対策を発信する市民向けポータルサイト「LINK! LINK! LINK!」を運営し、観光事業者による市民向け優待サービスの掲載や、「京の冬の旅」定期観光バス特別コースの市民向け優待を実施しています(参照*8)。データ収集の設計と、住民が効果を実感できる還元の仕組みを同時に持つことが、施策の継続性を左右します。


おわりに


観光需要の集中は、住民生活の質と地域資源の双方に負荷をかけ、放置すれば観光産業の基盤そのものを揺るがします。京都市、鎌倉市、小樽市、白川村、ニセコ町の取組は、地域特性に応じて受入環境整備、需要管理、分散、マナー啓発を組み合わせている点で共通しています。

両立の実現には、住民参画による意思決定と、データに基づく効果測定、そして経済的な便益の地域還元が欠かせません。国の補助制度と協働ガバナンスの枠組みを土台に、地域自身が将来像を描いて具体策を積み重ねる姿勢が求められます。

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参照


(*1) 観光立国推進閣僚会議の開催とオーバーツーリズム対策のとりまとめについて

(*2) 一般社団法人社会構想デザイン機構(ISVD) - 鎌倉オーバーツーリズム - 観光地マネジメントの公共財化

(*3) 財務省 - コラム 経済トレンド136 : 財務省

(*4) 京都市情報館 - 京都市:市民生活と観光の調和・両立の推進〜令和7年秋の取組結果及び令和8年春の取組〜

(*5) 観光庁 - オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組

(*6) 観光庁 - 「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」先駆モデル地域型26地域の事例集を作成いたしました

(*7) 令和8年度オーバーツーリズム受入環境整備促進事業特設ウェブサイト | 観光庁 - 令和8年度オーバーツーリズム受入環境整備促進事業特設ウェブサイト

(*8) 公益社団法人 京都市観光協会(DMO KYOTO) - 持続可能な観光地づくり

(*9) 鎌倉市 - 鎌倉市/AIカメラによるオーバーツーリズム対策のための実証実験

(*10) 江ノ電鎌倉駅西口改札における沿線住民等優先入場社会実験について

(*11) 持続可能な観光地域づくりへの取組み(オーバーツーリズムの未然防止・抑制)

(*12) デジタル技術活用オーバーツーリズム実態調査

(*13) 白川村役場 - 白川村報道発表資料 令和8年3月6日 世界遺産白川郷「せせらぎ公園小呂駐車場」の事前予約制導入について

(*14) 需要喚起方策等の調査検討

(*15) ニセコ町過疎地域持続的発展市町村計画 計画期間 令和8年度(2026年度)~令和12年度(2030年度)

(*16) 公益社団法人 京都市観光協会(DMO KYOTO) - 【提案依頼】「観光マナーの向上に向けたコンテンツ制作及び広報業務」委託先募集

(*17) 世界遺産白川郷「せせらぎ公園小呂駐車場」の事前予約制導入について/白川郷



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