高齢化が進む地域で求められる高齢者福祉とは 自治体の先進事例を紹介



はじめに

高齢化が進む地域では、独居や認知症の高齢者の増加に対応するため、自治体が地域包括ケアシステムを軸に高齢者福祉を組み立てています。本記事の要点は次のとおりです。

  • 2040年に向け85歳以上人口と独居の認知機能低下高齢者が急増し、地域差が拡大しています。
  • 市町村と都道府県が住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体で整える地域包括ケアが基盤となります。
  • 世田谷区、長岡市、津野町など自治体の先進事例が都市部と中山間地の両方で参考になります。
  • 見守り協定やAI活用、通いの場など多面的な取組が介護予防と孤立防止に効いています。


高齢化が進む地域が抱える課題


独居・認知症高齢者の増加

独居と認知症の高齢者が同時に増える点が、地域の高齢者福祉における大きな論点です。

2040年には65歳以上の高齢者数がピークを迎え、介護と医療の複合ニーズを抱える85歳以上人口が増えていきます。認知症高齢者の増加や独居高齢者の増加も見込まれ、2025年段階で独居の認知機能低下高齢者は約250万人、2040年には330万人と急速に増加すると推計されています(参照*1)。

独居と認知機能の低下が重なると、生活のちょっとした変化に周囲が気づきにくくなります。自治体としては、日常の接点を持つ事業者や住民組織との連携を、支援計画の初期段階から組み込む必要があります。


2040年に向けた人口構造の変化

人口構造の変化は、地域ごとに異なる速度で進んでいます。

東京都は世界に例を見ないスピードで高齢化が進み、2025年の推計値で都の高齢者人口は約322万人となり、今後も増加が見込まれています。大都市特有の特性として一人暮らし高齢者の割合が高く、世帯主が65歳以上の単身世帯は約94万世帯と推計され、さらに増える予測です(参照*2)。

単身世帯の増加は、住まいの確保、日常の見守り、緊急時の連絡先確保という3つの実務課題に直結します。数値の大きさは、地域の担い手を広げる根拠として読み取れます。


地域差と自治体に求められる対応

高齢化の進み方には地域差があり、自治体ごとの設計が求められます。

厚生労働省の資料によると、人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部など、高齢化の進展状況には大きな地域差が生じています。地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要とされています(参照*3)。

都市部と町村部では、必要となる資源や担い手の数、移動距離の条件が大きく変わります。全国一律の型ではなく、地域の実情から組み立てる姿勢が前提となります。


高齢者福祉を支える地域包括ケアシステム


5つの構成要素と基本理念

地域包括ケアシステムは、5つの要素を一体で提供する仕組みです。

厚生労働省の資料によると、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの実現により、重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができます。今後は認知症高齢者の増加が見込まれるため、認知症高齢者の地域での生活を支える観点からも、地域包括ケアシステムの構築が重要と位置づけられています(参照*3)。

5つの要素は独立して並ぶのではなく、相互に補い合う関係にあります。住まいが安定してはじめて、医療と介護、予防、生活支援が機能する構造です。


市町村・都道府県の役割

地域包括ケアの実装は、市町村と都道府県が中心を担います。

地域包括ケアシステムの実現に向けた中核機関として、地域包括支援センターが全ての市町村に設置され、2024年4月現在で全国に5,451か所となっており、地域のネットワーク構築、相談支援や介護予防ケアマネジメントなどを担っています(参照*1)。

センターは相談の入口であるとともに、地域内の関係機関をつなぐ結節点でもあります。設置数の多さは、住民に近い場所で相談機能が保たれる基盤の広さを示す情報として位置づけられます。


重層的支援体制整備事業との連動

高齢者福祉は、他の福祉分野と一体で運用する流れが強まっています。

2020年6月に地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律が公布されました。市区町村では既存の相談支援などの取組を活かしつつ、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する重層的支援体制を構築するため、世代や属性を問わない相談支援、参加支援、地域づくりに向けた支援を実施する事業を創設することが求められています(参照*4)。

八王子市では、保健所を起点に重層的支援体制整備事業と地域生活支援拠点事業を巻き込み、三事業の横連携を実現しています(参照*5)。高齢、障害、生活困窮といった分野の縦割りを越える運用が、現場で始まっています。


地域包括ケアの自治体先進事例


東京都世田谷区 都市部型の取組

世田谷区は、都市部の大規模自治体における地域包括ケアの先進事例です。

厚生労働省の資料によると、世田谷区は東京23区西部に位置し、人口規模は23区中最大で、人口866,063人、65歳以上の高齢化率は19.29%です。特徴的な取組として、医療では世田谷区医療連携推進協議会による在宅医療推進、介護では定期巡回・随時対応型訪問介護看護の利用・事業展開の推進、予防では社会参加を通じた介護予防による高齢者の居場所と出番の創出を挙げています(参照*3)。

医療・介護・予防を三本柱として整理している点が、都市部の規模を活かした設計の特徴です。人口規模が大きいほど、事業展開の選択肢を広く持てる関係が読み取れます。


新潟県長岡市 サポートセンター方式

中山間地を含む地方都市では、身近な拠点を核とする方式が参考になります。

厚生労働省の資料によると、長岡市では長岡駅を中心とするエリアに13カ所のサポートセンターを設置し、住まい・医療・介護・予防・生活支援などのサービスを組み合わせて一体的に提供しています。行政、医療機関、介護サービス事業者、民間事業者と連携し、一体的なサービス提供のための基盤整備を行ってきた取組です(参照*3)。

サポートセンター方式のように、日常生活圏域ごとに拠点を配置する発想は、通いやすさと相談のしやすさを両立させる考え方です。拠点の数と配置の密度が、住民の利用のしやすさを左右する要素として整理できます。


高知県津野町 医療介護行政の協働

高齢化率が高い中山間地では、医療と介護、行政の顔の見える連携が鍵になります。

高知県津野町は人口規模5,326人、65歳以上人口2,458人、高齢化率46.2%で、高齢独居者や高齢夫婦世帯が増加しています。町内の無床診療所および隣町の国保病院を利用する住民の在宅療養に関する情報共有や支援策検討を2か月ごとに実施し、参加機関は地域包括支援センター、医療機関職員(医師、看護師、理学療法士)、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所、薬局薬剤師です(参照*6)。

北海道滝上町では、2024年1月に国保診療所の所長が交代したことを契機に、毎月のサービス調整会議に診療所の医師や看護師が参加し、顔の見える関係性が構築されて医療と介護の連携が深まりました(参照*7)。定例会議の頻度と参加職種の広さが、連携の質を決める要素として整理できます。


見守りネットワークによる高齢者支援


東京都の見守りサポーター協定

見守りは、行政単独ではなく多様な主体との協定で広げる方式が広がっています。

東京都は、高齢者等が住み慣れた地域でいつまでも安心して暮らせるよう、様々な主体が連携して見守りを行い、高齢者等を支える地域づくりを推進する協定を、都内で広域的に事業活動を行う民間事業者・団体と締結・改定してきました。この協定はスーパー、コンビニエンスストア、配達・物流事業者、金融機関、不動産業など多様な業種・業界の事業者・団体と締結しており、新たに8つの団体を加え、62の事業者・団体と協定締結を行っています(参照*2)。

日常の買い物や配達、金融取引など、高齢者の生活動線に接する事業者が加わることで、異変への気づきが増えます。業種の幅の広さが、見守りの網の密度を高める条件として読み取れます。


消費者安全確保地域協議会の設置支援

見守りネットワークは、消費者被害の防止という側面からも整備が進みます。

消費者庁の資料によると、現在の見守りネットワークの課題は、カバー自治体数の更なる向上、および見守りネットワークが設置された自治体における地域内主体の連携体制の充実にあります。見守りネットワーク人口カバー率50%超の都道府県の創出と、設置が進んでいない都道府県の状況把握・設置に向けたサポートの2つの目的を設定し、都道府県・市区町村向けに支援を展開しました(参照*8)。

高齢者の周りの人々による見守りの強化の一環として、高齢者団体、障害者団体、行政機関等を構成員とする「高齢消費者・障がい消費者見守りネットワーク連絡協議会」を開催し、各団体の取組や消費者トラブルの現状などの情報提供を行い、全国どこからでも身近な消費生活相談窓口につながる共通の3桁の電話番号である消費者ホットライン188を運用しています(参照*9)。相談窓口と地域内の連携体制を両輪で整える構造として整理できます。


介護予防と多世代交流の先進事例


通いの場とフレイル対策

介護予防では、住民主体の通いの場と多世代交流が重要な柱となっています。

2019年の「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の取りまとめでは、シニアが地域の中で役割や生きがいを持ち、結果として介護予防につながることを重視し、年齢や性別、健康状態、興味・関心などに応じて参加できる多様で魅力的な通いの場の必要性が強調されました。地域活動への関心が高い住民、活動場所の確保、活動に必要な資金や知識に関する情報が相互に関連することで、多様な通いの場の立ち上げにつながる可能性が示されています(参照*10)。

フレイルとは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が高まり、生活機能障害や要介護状態などに陥りやすい状態です。それに対して、多世代交流は外出・歩行・活動量の増加、認知機能の維持向上、社会的孤立の予防に寄与し得る多面的アプローチと整理されています(参照*11)。


AI活用による個別介護予防

データ活用による個別の介護予防が、自治体の新しい取組として登場しています。

神戸大学大学院医学研究科と日立製作所の共同研究チームは、レセプトデータや健康診断データを活用して高齢者の介護リスクを個人ごとに予測するAIモデルの開発に成功しました。神戸市ヘルスケアデータ連携システムから提供された約38万人の65歳以上の神戸市民を対象に、医療レセプト、介護レセプト、健康診断データを統合して機械学習で解析し、2年以内に要介護2以上に認定されるリスクを高精度で予測できるAIモデルを構築しました(参照*12)。

約38万人という規模のデータを扱う点が、個別予測の精度に直結します。行政が保有するデータの連携が、介護予防の設計を集団単位から個別単位へ広げる基盤となっています。


多世代共生型の地域づくり

社会参加の拡大は、要介護リスクの低減という観点から取り上げられています。

住民主体の通いの場や高齢期における就労などの高齢者の社会参加の拡大が、要介護状態となるリスクや認知症発生リスクの低減に効果があるとの研究成果が繰り返し報告されています。大分県では、要支援者の認定割合が高い状況に危機感を持ち、介護予防・重度化防止、中でもサービス・活動C(短期集中予防サービス)に力を入れています(参照*1)。

通いの場や就労という切り口は、単なる余暇ではなく健康の維持に直結する行動として扱われています。多世代共生型の地域づくりは、高齢者を支える対象としてだけでなく、担い手として位置づけ直す発想と読み取れます。


先進事例に共通する成功要因

先進事例を横断すると、いくつかの共通点が浮かび上がります。

高知県では、中山間地において過疎化・人口減少が進む中、多機能な地域共生社会の支援拠点として「あったかふれあいセンター」を創設し、31市町村55拠点に設置しています。延べ利用者数は約18万人に達し、地域の関係機関と連携して地域における支え合いの力を再構築し、集い、相談、訪問、生活支援、つなぎといった機能を中心に必要なサービス提供を行う場として定着しています(参照*1)。

労働政策研究・研修機構の資料によると、自治体の特徴ある取組として、地域の団体や企業と密接な関わりを持ちニーズと高齢者を結びつけるコーディネーターの活躍、農業分野の取組、高齢者を体力等の低下した存在として捉えず高齢者ならではの強みについて企業の理解と高齢者の自覚を促し就労につなげる事例を挙げています(参照*13)。

先進的な取組は先進事例集としてまとめられており、地方公共団体が対応を迫られる諸課題に対する参考として活用されています(参照*14)。拠点の設置、人と人をつなぐコーディネーター、複数機能の一体運用という3点が、事例を貫く要素として整理できます。


おわりに


高齢化が進む地域では、独居や認知症の高齢者の増加、大都市部と町村部の地域差など、条件の異なる課題に自治体が同時に向き合っています。地域包括ケアシステムを土台に、住まいから予防、生活支援までを一体で整える姿勢が、先進事例に共通する起点となっています。

世田谷区、津野町、滝上町、東京都の見守り協定、神戸市のデータ活用、高知県のあったかふれあいセンターといった取組は、規模も地理条件も異なる自治体で工夫が積み重ねられていることを示しています。自分の地域の条件に近い事例を選び、拠点、担い手、連携の頻度という切り口で読み解くことがポイントです。

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参照


(*1) 「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ」の公表について ー 事務連絡 | 通知 | 3910|法令・Q&A検索システム 全老健介護保険制度情報サービス

(*2) My TOKYO - 高齢者の見守りサポーター協定の新規締結及び見守りサポーターアプリの開発

(*3) 地域包括ケアシステム構築に向けた取組について

(*4) 高齢者が活躍する持続可能なまちづくり─多世代共生アプローチから発進する重層的支援体制整備事業─

(*5) 実践事例

(*6) 医療と介護、行政が協働し住民の日常の療養支援を実施

(*7) 滝上町国民健康保険診療所と地域包括支援センターによる医療・介護連携の取組

(*8) 令和5年度 地方消費者行政における先進的モデル事業 (見守り活動の推進) 事業報告書

(*9) 内閣府ホームページ - 4 生活環境|令和7年版高齢社会白書(全体版)

(*10) 東京都健康長寿医療センター(研究所) - 多様な通いの場づくりの普及・展開に向けて|地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 研究所サイト

(*11) 多世代交流から考える地域のフレイル対策

(*12) 国立大学法人 神戸大学 (Kobe University) - 高齢者一人ひとりの「介護リスク」を可視化するAIモデルを開発

(*13) 資料シリーズNo.198「高齢者の多様な活躍に関する取組―地方自治体等の事例―」|労働政策研究・研修機構(JILPT)

(*14) RILG 一般財団法人 地方自治研究機構 - 先進事例調査研究(令和7年度)



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