自治体DXとは?業務効率化を実現する最新事例と導入ポイントを解説



はじめに

自治体DXは、国が示す推進計画に沿ってデジタル技術を取り入れ、行政の業務効率化と住民サービスの向上を進める取り組みです。人手不足や労働人口の減少という課題に対して、AIエージェントやRPA、標準化やクラウド移行を組み合わせて解決を図る動きが広がっています。本記事では基礎知識から最新事例、導入ポイントまでを一つの流れで整理します。

  • 自治体DXは総務省の推進計画に基づき、業務と住民サービスの両面を変える取り組みです。
  •  AIエージェントやRPA、AI-OCRの活用により、定型業務の時間短縮が進んでいます。
  • 導入ポイントは、推進体制の構築、課題の優先度判断、人材育成の三つです。
  • コストや小規模自治体の負担には、共同利用や国の伴走支援の活用が有効です。


自治体DXと業務効率化の基礎知識

自治体DXは、総務省の推進計画を軸に、人手不足への対応と住民サービスの向上を目的として進められています。


自治体DXの定義と推進計画の位置づけ

自治体DXは、行政の仕組みをデジタルで作り変え、業務効率化と住民サービスの向上を同時に実現する取り組みを指します。

総務省を中心に令和2年に自治体DX推進計画が策定され、業務の効率化と行政サービスの向上が図られてきました。ただし、システム関連は予算規模が大きく、精通する人材が官民ともに不足しているため、思うように進められない自治体があるという指摘もあります(参照*1)。デジタル庁が公開する自治体DXダッシュボードでは、推進計画に基づき、推進体制の構築に必要な取組や重点取組事項がまとめられ、自治体別の取組状況を見える化することで課題の把握と加速化を目指しています(参照*2)。

こうした計画は、単なるシステム導入ではなく、体制づくりや人材確保まで含めて設計されている点が特徴です。自治体DXは「情報化投資」ではなく、「業務のやり方そのものを見直す取り組み」といえます。


業務効率化が求められる背景と課題

業務効率化が急務とされる背景には、労働人口の減少と行政現場の人手不足があります。

労働人口の減少に伴い、自治体でも人手不足が喫緊の課題となり、効率化や省力化につなげる業務の変革が求められています。加えて、生成AIをはじめとするAIの活用が急速に進む中で、人の代わりにタスクを実行するAIエージェントが注目され、定型的な事務手続きの多い自治体業務への導入に期待が高まっています(参照*3)。一方で、DXを進めても予算規模の大きさと人材不足によりうまく進められないという声もあり、財源と人材の両面での手当てが並行して求められています(参照*1)。

この背景を踏まえると、業務効率化は「機械で人を置き換える」話ではなく、限られた職員が住民対応や政策企画に時間を割けるようにする取り組みです。自組織の人員構成と業務量のバランスを見直す出発点にもなります。


自治体DXの全体像と重点取組領域

自治体DXの領域は、推進体制・業務・住民サービスの三つに整理でき、情報システムの標準化とガバメントクラウド移行がその基盤になります。


推進体制・業務・住民サービスの3領域

自治体DXは、推進体制の構築と業務の見直し、住民サービスの改善という複数の領域を並行して進める取り組みです。

デジタル庁のダッシュボードでは、推進計画に基づき、推進体制の構築に必要な取組と重点取組事項が整理され、自治体別の状況が見える化されています(参照*2)。地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査では、AIとRPAのそれぞれについて「導入済」と回答した団体の割合が、2022年12月31日と2023年12月31日の時点で計測されています(参照*4)。

これらの指標は、体制と技術導入が両輪で進むことを前提にしています。自治体内でどの領域が先行し、どの領域が遅れているかは、公表指標に照らして確認できます。


標準化・ガバメントクラウド移行の現在地

自治体情報システムの標準化とガバメントクラウドへの移行は、DX全体を下支えする基盤づくりです。

国会答弁では、自治体情報システムの標準化について基金を設置し、国費10分の10の補助金で標準準拠システムへの移行経費を支援すると説明されました。ガバメントクラウド以外のクラウドへ移行する場合も支援に含まれます。令和6年度補正予算後の時点で、総額7,182億円が確保されています(参照*5)。デジタル庁は、標準準拠システムの最適化と合理的なシステム運用の実現に向けて、ガバメントクラウド上に公共情報システムを模した検証環境を構築し、技術検証や運用効率、システム間のデータ連携などの検証を実施するとしています(参照*6)。

基盤の共通化は、個別開発の重複を避ける効果が期待される一方で、移行後の運用設計に踏み込まないと恩恵が限定的になります。標準化の進捗と自組織の移行計画の突き合わせが欠かせない領域です。


業務効率化を実現するDXの最新事例

AIエージェントやRPA、衛星データの活用により、業務時間の短縮効果を数値で示す事例が各地で生まれています。


AIエージェント・生成AIによる業務改革

AIエージェントと生成AIは、定型的な事務作業の削減と職員の判断業務への集中を後押ししています。

大阪市の実証では、総務局の年間約10,000件におよぶ通勤届の処理業務に、株式会社日立製作所が試行的に開発したAIエージェントを実証環境で適用し、4つのユースケースで有効性を検証しました。全ての工程を人手で行う場合と比較して、試算では業務時間が最大約40%短縮する可能性があることを確認しました(参照*3)。GovTech東京が推進する生成AIプラットフォームには、2024年度に20自治体が参加して100個のアプリが生まれ、2025年度は倍近くの37団体が参加しました。デモでは、事前アンケートに書かれた自治体職員の悩みをもとに日本オラクル株式会社が開発した、復命書自動作成システムと文書整合性チェックシステムの二つが紹介されました(参照*7)。

これらの事例は、特定業務に絞って時間削減の見込みを数値で押さえる進め方が成果につながることを示しています。


RPA・AI-OCR活用による定型業務の自動化

RPAとAI-OCRは、繰り返し発生する入力・確認作業を自動化し、職員の時間を対人業務へ振り向ける手段になります。

京都府宇治市では、市長公室・会計室・上下水道部などの6業務で合計13のソフトウェアロボットが稼働しており、BizRobo!で創出した人的リソースは合計で年間2,000時間相当に上ります。定型作業からの解放が進んだことで、職員が対面でのきめ細やかな相談対応や組織のマネジメントに充てられる時間が着実に増加しています(参照*8)。

定型業務の自動化は、削減時間を可視化しやすい点が特徴です。どの業務でどれだけの時間が生まれるかを試算し、生まれた時間の使い道までセットで設計することが求められます。


衛星データ・共同利用による広域効率化

共同利用や広域データの活用は、単独導入では負担が大きい仕組みを複数団体で分担する方法です。

埼玉県は、令和8年4月から県内地方公共団体等における生成AIの共同利用を開始すると発表しました。県と県内全市町村で構成する埼玉県市町村DX推進ネットワークに専門部会を設置し、AI等新技術の共同での活用に取り組んでおり、これまでに導入した音声テキスト化サービス、AI-OCRサービス、チャットツールの共同利用に続く4つ目のサービスとして生成AIの共同利用を行います。共同利用を行うことで単独での導入よりも安価にサービスを利用でき、導入・運用コストの削減と一層のデジタル化・業務効率化が推進されると説明しています(参照*10)。衛星データの活用では、福岡県飯塚市の農地現地調査で、従来4,500分かかっていた総作業時間が導入後は820分となり、81%削減されました。対象者へのアンケートから算出された主観的作業負荷の平均スコアも70から33へと52%低減しています(参照*9)。

共同利用や広域データは、財政規模の小さい自治体でも先端技術に触れやすい仕組みです。都道府県や近隣自治体との連携枠組みの有無が、参加可能な事業を洗い出す出発点になります。


自治体DXの導入ポイントと進め方

導入は、推進体制の構築、課題の優先度判断、人材育成の三つを柱に進めます。


推進体制の構築と外部支援の活用

導入ポイントの第一は、推進体制を整え、外部の支援を組み合わせて進めることです。

総務省の地域社会DX推進パッケージ事業(推進体制構築支援)は、基礎自治体におけるDXの進み具合に応じた伴走型支援を提供します。すでに推進体制がある基礎自治体には、進めたい具体的な取り組みに関する知見を持つ支援事業者が対応し、まだ推進体制がない場合は、地域課題の抽出・整理から推進計画や基本方針の策定、デジタル人材の確保・育成まで幅広いテーマで支援事業者が助言します(参照*11)。地方公共団体における行政情報化の推進状況調査では、外部デジタル人材を「活用している」と回答した団体の割合が、外部人材活用の実施率としてまとめられています(参照*4)。

体制づくりは、内製と外部支援のどちらか一方に偏らない設計が要点になります。どの伴走支援を選ぶかは、自組織の到達度と事業の対象要件を照らして判断します。


課題の洗い出しと優先度の判断基準

導入ポイントの第二は、課題を洗い出し、優先度を判断して着手対象を絞ることです。

人口約1万6,000人の福岡県築上町では、一人の係長が担当となりアナログ規制見直しの取り組みを推進し、規制の洗い出しや見直しの方向性検討など様々な課題に直面しました。職員数200人規模という小規模団体のため、規制所管部門への負担軽減も考慮しながら進める必要があり、担当係長は個別型支援などの外部リソースを活用しつつ、一つずつ課題を解決し最適な進め方を模索しました(参照*12)。

洗い出しの段階では、規模や体制に見合った範囲に絞ることが現実的な進め方になります。着手対象を選ぶ基準は、「業務量の多さ」「定型度の高さ」「住民接点への波及」など複数の軸で整理できます。


人材育成と職員の意識改革

導入ポイントの第三は、人材育成と意識改革を継続して進めることです。

袋井市の事例では、行政に関する電子申請の推進や便利で快適な市民向けアプリの普及拡大、中小企業のデジタル化支援、生成AIによる行政事務の生産性向上、デジタル人材の育成と外部人材の活用といった施策が挙げられています。2020年度から4年間にわたり、市にゆかりの専門家を招いてワークショップ型の研修を実施し、計95人のDXマインドを持つ職員を育成したとされています(参照*13)。同じく行政情報化の推進状況調査では、職員育成の取り組みを「実施している」と回答した団体の割合が、実施率としてまとめられています(参照*4)。

人材面は、単発の研修ではなく複数年度にわたる継続で成果が積み上がります。研修対象の広さと期間は、既存事例と自組織の職員数に照らして設計します。


導入時の注意点と失敗を避ける工夫

導入時は、運用経費の膨張と小規模自治体の負担という二つのリスクへの備えが欠かせません。


コスト・運用経費の見通し

注意点の一つは、移行後の運用経費が想定より膨らむ可能性を織り込むことです。

国会での質疑では、大阪府が府内市町村の状況を確認したところ、運用経費が現行の2倍、3倍は当たり前であり、多いところでは5倍に膨れ上がる事例もあると紹介されました。要因は物価高騰と人件費高騰に加え、ガバメントクラウドの利用料が高額であること、標準準拠システムを提供するためにベンダーがシステム開発費をソフトウェア利用料に上乗せしていることなど、多岐にわたるとされています(参照*5)。情報通信研究機構は、ガバメントクラウドや各種クラウドサービスの導入、テレワークの拡大などにより、自治体が庁内外で取り扱うデータ量が増加していると指摘しています。災害発生時には、通信インフラの断絶や輻輳(回線の混雑)により、住民情報や避難情報といった重要情報の安定的な共有・活用が困難になる課題もあります(参照*14)。

運用経費と災害時の可用性は、初期導入の議論に埋もれがちな論点です。複数年度の運用費と非常時の情報共有手段まで含めた計画の確認が求められます。


小規模自治体の負担軽減策

もう一つの注意点は、小規模自治体の負担をどう軽減するかという設計です。

築上町の担当者は、小さな自治体でも見直しを進められると語っており、他団体の事例が蓄積されれば、これから着手する団体はさらに取り組みやすくなるとしています。デジタル庁はアナログ規制の見直しを通じてデジタル化を加速する地方公共団体を支援しており、2024年度からは一般型支援に加え、地方公共団体ごとの課題に寄り添った個別型支援も提供しています(参照*12)。埼玉県は、共同利用を行うことで単独での導入よりも安価にサービスを利用でき、導入・運用コストの削減と一層のデジタル化・業務効率化が推進されると説明しています(参照*10)。

小規模団体では、外部支援と共同利用を組み合わせることが現実的な選択肢になります。単独導入と共同利用は、費用と運用体制の両面で比較して判断します。


おわりに


自治体DXは、推進計画に基づく体制づくり、標準化とクラウド移行、AIエージェントやRPAといった技術の活用が組み合わさって前進します。大阪市の通勤届処理での最大約40%の業務時間短縮見込みや、宇治市の年間2,000時間相当の人的リソース創出、埼玉県の共同利用など、業務効率化を数値と枠組みで捉える事例が増えています。

導入ポイントとしては、推進体制と外部支援の組み合わせ、課題の優先度判断、人材育成の継続が柱になります。運用経費の膨張や小規模自治体の負担にも目を向け、共同利用や個別型支援を組み合わせながら、自組織に合った進め方を選ぶことが求められます。

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参照


(*1) Vol.328 官民連携による自治体の業務効率化について

(*2) デジタル庁 – 自治体DXの取組に関するダッシュボード|デジタル庁

(*3) 大阪市 – 報道発表資料 大阪市と株式会社日立製作所は連携協定に基づき、AIエージェントを活用した自治体業務効率化の共同検証を行いました

(*4) デジタル庁 – データの定義:自治体DXの取組に関するダッシュボード|デジタル庁

(*5) 第219回国会 内閣委員会 第4号(令和7年11月26日(水曜日))

(*6) デジタル庁 – ガバメントクラウドにおけるベンダー向け検証事業の取組|デジタル庁

(*7) デジタル庁ニュース – 自治体業務へのAI活用、まずは“困りごと”を掴むところから。(共創PFキャンプ自治体業務のAI活用編レポート)|デジタル庁ニュース

(*8) 時事ドットコム – 宇治市が現場主体のBizRobo!開発で年間2,000時間を創出:時事ドットコム

(*9) 一般財団法人リモート・センシング技術センター – 農地現地調査にかかる作業時間が8割減-DXによる行政の事務効率化

(*10) 埼玉県 – 県内地方公共団体等における生成AI共同利用 ~生成AI導入・運用コスト削減を図ります~

(*11) 地域社会DXナビ – DX支援、4市町それぞれの進行度にぴたりと 栃木県 後編

(*12) デジタル庁ニュース – 「小さな自治体でも進められる」築上町の実践が示すアナログ規制見直し推進と意識改革のヒント|デジタル庁ニュース

(*13) 地域社会DXナビ – スマート農業発、DXを市役所や市民生活へ 袋井市の挑戦 下編

(*14) NICT-情報通信研究機構 – NICT、ナシュア・ソリューションズ、ZenmuTech、公共自治体向けメッシュネットワーク「ナーブネット(NerveNet)」への秘密分散技術実装に向けた共同開発を開始|2026年|NICT-情報通信研究機構



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