進むインフラ老朽化 自治体が今取り組むべき維持管理・予防保全とは
はじめに
インフラ老朽化が加速するなか、自治体は限られた人員と予算のなかで維持管理の方針を切り替える必要があります。壊れてから直す事後保全から、傷みが小さいうちに手を打つ予防保全へと移すことで、将来の費用を抑えつつ安全を守れます。要点は次のとおりです。
- 高度成長期に整備されたインフラが一斉に高齢化し、道路陥没など重大事故の危険が高まっています。
- 予防保全へ切り替えると、30年間の累計で維持管理・更新費を約3割減らせる見込みです。
- 点検・診断・措置・記録のメンテナンスサイクルと個別施設計画で優先順位を整理します。
- 広域連携の群マネや包括的民間委託、球体型カメラなどの新技術活用が突破口になります。
インフラ老朽化の現状と自治体が抱える課題
高度成長期インフラの一斉高齢化
高度経済成長期に集中整備された社会資本が、いま一斉に高齢化を迎えています。
国土交通省は、高度経済成長期以降に集中的に整備されたインフラの老朽化が今後加速度的に進行するとし、機能を確保し国民の安全・安心を守るため、トータルコストの縮減・平準化を図りつつ計画的な維持管理・更新を進める必要があると位置づけました(参照*1)。水道分野でも、全国の水道管の総延長約74万kmのうち、法定耐用年数の40年を超えた管路の割合を示す管路経年化率は2022年度時点で23.6%に達し、約17.6万kmが寿命を過ぎたまま使われています(参照*2)。
老朽化は一部の地域や施設ではなく、面として広がっています。自治体は自らが管理する道路・橋・上下水道の建設年度を洗い出し、更新の集中時期を見通す準備が欠かせません。
自治体の人員・予算・技術力不足
管理する側の体制も細っており、老朽化と担い手不足が同時進行しています。
国土交通省によると、市町村全体の職員数は2005年度から2021年度の間に約9%減少し、土木部門の職員数の減少割合はさらに大きく約14%に及びます。技術系職員が5人以下の市町村は全体の約5割を占めます(参照*3)。九州地方整備局によると、対象155市町村のうち約85%にあたる132市町村がインフラメンテナンスに課題があると答えました。課題のある施設では道路施設が約79%と突出し、具体的なニーズは点検・診断が285件で最多、次いで措置が247件、マネジメント全般が173件と続きました(参照*4)。
人員、予算、技術力の三つが同時に不足しているため、単独の自治体で全施設を丁寧に管理し続けることは難しくなっています。庁内の体制図と技術者の年齢構成をあわせて点検し、外部との連携余地を見極める段階に来ています。
八潮市道路陥没事故が示す危機
象徴的な出来事として、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故があります。
国土交通省は、埼玉県八潮市で発生した流域下水道管に起因すると考えられる道路陥没事故を挙げ、インフラの老朽化を喫緊の課題と位置づけています(参照*1)。
地下に埋まる下水道管は目に見えず、異変が地表に現れたときには被害が大きくなりがちです。自治体は目視できない施設ほど点検・調査の頻度と方法を見直し、危険な兆候を早期に捉える仕組みを整える必要があります。
予防保全と事後保全の違い
事後保全と予防保全の定義
維持管理の方針は、事後保全と予防保全の二つに大きく分かれます。
国土交通省は、施設に不具合が生じてから対策を行う考え方を事後保全、施設に不具合が生じる前に対策を行う考え方を予防保全と定義し、今後増加が見込まれる維持管理・更新費の縮減を図るうえで予防保全への転換が重要だとまとめました(参照*3)。
違いは、傷みが表に出てから直すか、小さな傷みのうちに手当てするかにあります。予防保全は初期段階の点検・診断が前提となるため、施設ごとの健全度を継続して把握する仕組みが土台になります。
予防保全によるコスト縮減効果
予防保全に切り替えることで、将来の費用がどれだけ変わるのかは推計で示されています。
国土交通省が所管インフラを対象に将来の維持管理・更新費を試算した結果、事後保全の場合は1年当たりの費用が2048年度に2018年度の約2.4倍に膨らむ見込みです。一方、予防保全の場合は2048年度時点で事後保全と比べて約5割、30年間の累計でも約3割の減少が見込まれます(参照*3)。橋梁分野でも、建設後50年以上経過した橋梁数は2018年度末の約13万橋から2024年度末には約23万橋へ増加しました。一方、早期または緊急に措置を講ずべき判定区分Ⅲ・Ⅳの橋梁数は約6.9万橋から約5.3万橋へ減少し、予防保全への移行に向けた修繕等措置が進んでいます(参照*5)。
早めの手当ては、結果として税負担の抑制につながることが示されています。自治体は総合計画や財政計画のなかで、事後保全と予防保全それぞれの費用曲線を比べることが有効です。
維持管理の基本となるメンテナンスサイクル
点検・診断・措置・記録の流れ
予防保全を回す土台になるのが、メンテナンスサイクルの考え方です。
政府のインフラ長寿命化基本計画は、点検・診断の結果に基づき、必要な対策を適切な時期に着実かつ効率的・効果的に実施する方針を示しました。あわせて、取組を通じて得られた施設の状態や対策履歴などの情報を記録し、次期点検・診断に活用するメンテナンスサイクルを構築し、継続的に発展させていくとしています(参照*6)。橋梁の現場では、豊橋市が橋梁長寿命化修繕計画のもとで損傷が軽微な段階から対策を実施し、費用の縮減や平準化を図るために5年に1回の頻度で予防保全型の点検・診断を行っています(参照*7)。
点検して終わりではなく、記録を残して次の点検に活かすところまでが一連の流れです。自治体は台帳の様式や更新ルールを整え、担当者が代わっても情報がつながる形にしておくことがポイントです。
個別施設計画と優先順位付け
すべての施設に同じ手をかけることはできないため、優先順位付けが欠かせません。
国土交通省によると、判定区分Ⅲ・Ⅳの橋梁は次回点検までの5年以内に措置を講ずるべきとされていますが、2019年度点検で判定区分Ⅲ・Ⅳと診断された橋梁のうち、地方公共団体による修繕等の措置の着手率は76%にとどまっています(参照*5)。
着手率が伸び悩む背景には、財源や技術者の制約がうかがえます。自治体は個別施設計画のなかで、健全度・利用状況・代替性を軸に順序を付け直し、限られた資源を危険度の高い施設から投入する運用が求められます。
広域連携で進める地域インフラ群再生戦略マネジメント
群マネの考え方と推進体制
個別自治体の力だけでは対応が難しくなるなか、複数自治体で束ねる発想が広がっています。
国土交通省は、各地方公共団体が個々のインフラを管理するのではなく、広域・複数・多分野のインフラを群としてとらえ、効率的・効果的にマネジメントを行う地域インフラ群再生戦略マネジメント、いわゆる群マネを推進していく必要があるとしました(参照*1)。人口規模の面でも小規模化が予測されています。全国の自治体のうち約半数の962団体が人口3万人未満、約3割の519団体は1万人未満で、2050年には1万人未満の団体が218増えて約1.4倍に、5千人未満の団体が211増えて約1.8倍になると見込まれます。小規模自治体ほど人口当たりの道路橋梁数や道路延長が大きい一方、技術系職員数や土木部門職員数、建設業事業所数や従業者数は少ない傾向にあります(参照*8)。
小さな自治体ほど、単独で技術者や事業者を確保しにくい状況が浮かびます。近隣自治体との連携範囲を早めに話し合い、共同発注や共同点検の受け皿を整えることが現実的な選択肢になります。
モデル地域の取組と全国展開
群マネはモデル地域での実証を経て、全国へ広げる段階に入りました。
国土交通省は、2023年度(令和5年度)に選定したモデル地域の11件40地方公共団体で取組を進めており、今後はモデル地域の検討から得られた知見などを手引きに取りまとめ、全国展開へつなげることで持続可能なインフラメンテナンスの実現を図るとしています(参照*1)。国会答弁でも、国土交通省は手引きを最大限活用し、自治体と事業者の双方がそれぞれの地域にふさわしい連携パターンを形成できるよう促す方針を示しました(参照*9)。大阪府貝塚市では、岸和田市や泉大津市などを連携団体として、まず2市1町の小規模な体制で道路・公園・下水道を対象に包括管理の先行実装などを進めています。あわせて、共同発注に向けた圏域全体のインフラ管理体制を検討し、データの標準化・クラウド化・共通基盤構築を段階的に進めるシステム構想をまとめました(参照*10)。
モデル地域の動きは、他地域が参考にできる型を作る作業でもあります。自治体は自らの規模や施設構成に近い事例を選び、連携パターンを研究する段階にあります。
包括的民間委託と官民連携の活用
包括的民間委託の仕組みとメリット
民間の力を活かす方法として、包括的民間委託の導入が広がりつつあります。
国土交通省は、包括的民間委託を、受託した民間事業者が創意工夫やノウハウの活用により効率的・効果的に業務を実施できるよう、複数の業務や施設を包括的に委託することと定義しました。また、インフラの維持管理における包括的民間委託を導入した自治体は374団体にのぼる一方、下水道分野を除くと129団体にとどまり、まだ十分に広がっているとは言えない状況です(参照*3)。
個別業務の発注を束ねて任せる形は、事業者の工夫や工程調整の余地を広げます。自治体には、対象施設の範囲や契約期間、性能規定の設計を通じて委託の実効性を高める余地があります。
利府町・うるま市などの導入事
具体的な導入事例からは、包括的民間委託の効果と広がりが見えてきます。
宮城県利府町では、公募の結果、2025年4月から日水コンなど4社で構成される特別目的会社「Rifレックス」と10年間の包括的民間委託を開始しました。ウォーターPPP(上下水道事業等における官民連携の仕組み)における管理・更新一体マネジメント方式のレベル3.5を上下水道一体で適用した、全国初の事例です。点検・調査は、従来は個々の見積依頼・発注後に道路占用許可を取得して実施まで3〜4か月かかっていたところ、個別発注が不要となり1か月程度に短縮できました(参照*11)。うるま市は、従来の事後保全型の維持管理では対応が必要な施設が増えるにつれて対策の先送りを招き、安全・安心な施設利用が困難となるおそれがあるとして、維持管理の合理化・効率化と官民連携による維持管理体制の再編成を進める必要があるとの認識を示しました。その実現に向けて包括的民間委託の導入を検討し、モデル事業を通じて段階的に市全域への展開を目指す方針です(参照*12)。
期間の短縮や体制の再編成といった成果は、単なる外注化ではなく仕組みそのものの見直しから生まれています。自治体は自らの分野と規模に合う事例を選び、契約設計と段階展開の道筋を描くことが出発点になります。
新技術・DX活用による効率化
点検支援技術と球体型カメラ等
現場の点検・調査では、新しい機器の導入が省力化を後押ししています。
日水コンの前田千夏氏は、球体型カメラ装置について、下水道管路の将来的な老朽化に対して点検・調査を効率化するため、誰でも手軽に実施できるという観点で7〜8年前から開発を進めてきたと説明しました(参照*11)。株式会社Liberawareの小型ドローンIBISは、サイズ20cm・重量243gと軽量で、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故では下水道管内に落下したトラックのキャビンの発見に貢献しました。1日に調査できる距離もカメラ車の500mに対して1〜1.5kmと長く、作業効率の向上が見込まれます(参照*13)。
小さく軽い機器で狭い管路の奥まで入り込める点は、従来の車両点検を補完する強みになります。自治体は自らの管路条件に合った機器を試験的に導入し、点検範囲と頻度の設計に活かすことが有効です。
専門家のハンズオン支援による新技術導入
機器の導入だけでなく、運用ノウハウを自治体側に蓄積する支援も進んでいます。
国土交通省は、インフラメンテナンスに関する新技術の活用促進を目的に、専門家が伴走して新技術の導入・維持管理業務に関するノウハウの蓄積や技術力向上を図るハンズオン支援事業を実施しており、13のモデル自治体を支援しています(参照*1)。
現場任せにせず専門家が伴走することで、技術と運用のノウハウが自治体側に残ります。導入の初期段階から情報の記録形式を統一しておくと、後の分析や広域連携にも活かしやすくなります。
おわりに
インフラ老朽化は、道路陥没のような目に見える危機として現れる一方で、水道管や橋梁のように静かに進む部分も少なくありません。自治体は、事後保全から予防保全へ舵を切り、点検・診断・措置・記録のメンテナンスサイクルを回すことで、限られた資源を安全確保に集中できます。
群マネによる広域連携や包括的民間委託、球体型カメラや小型ドローンといった新技術の活用は、現実的な道筋の一つです。自らの施設構成と体制を見直し、参考にできる事例や支援制度を組み合わせながら、持続可能な維持管理の形を組み立てることが求められます。
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参照
(*1) 第4節 社会資本の老朽化対策等
(*2) 一般社団法人 社会構想デザイン機構(ISVD) – 水道管の老朽化率20% – 見えないインフラ危機のデータ
(*3) インフラメンテナンスにおける包括的民間委託導入 の手引きについて
(*4) 市町村におけるインフラメンテナンスに関する課題(ニーズ)調査結果概要
(*5) 国土交通省 – 報道発表資料:橋梁等の2024年度(令和6年度)点検結果をとりまとめ<br>~道路メンテナンス年報(3巡目1年目)の公表~
(*6) インフラ長寿命化基本計画
(*7) /豊橋市 – 橋梁の老朽化対策/豊橋市
(*8) 全国自治体のインフラメンテナンス 見える化について
(*9) 第221回国会 国土交通委員会 第2号(令和8年3月10日(火曜日))
(*10) 総務省 – 広域連携による市町村事務の共同実施モデル構築事業 令和7年度委託事業 成果報告
(*11) デジタル庁ニュース – 下水道管を球体型カメラ装置で点検、利府町の官民連携に学ぶインフラ維持管理デジタル化のヒント|デジタル庁ニュース
(*12) うるま市 – うるま市包括的民間委託導入基本方針【道路・公園】
(*13) 新技術を活用した上下水道PPP の効果
