自治体クラウドとは何か?事例をもとに、導入のメリットや課題などもお伝えします

地方公共団体では、さまざまなコンピュータ機器を利用して、住民基本台帳などの情報をまとめて管理していますよね。しかし、各自治体で個別に情報システムを用意していくことには多くの課題や手間が掛かってしまいます。

 

そこで、総務省が地方公共団体に対して導入を呼び掛けているのが、情報システムを複数の自治体で共同利用する「自治体クラウド」と呼ばれる取り組みです。

 

この記事では、そんな自治体クラウドに関する導入事例やメリット、課題などについてお伝えしていきます。

 



自治体クラウドとは

自治体クラウドとは、住民基本台帳など、行政に関連するデータや情報システムを、外部のデータセンターで管理するシステムです。また、そこで管理している情報を、複数の地方公共団体で共有して管理・運用していく取り組みを、総務省は「自治体クラウド」と呼んでいます。

 

従来の情報管理・運用方法と違うのが、行政で利用されるデータや情報システムを共有できるというところです。今までもネットワークを通じてデータを共有していたかもしれませんが、住民基本台帳の管理や決済などの税務処理は、個別に用意された情報システムを使用して行っていました。

 

自治体クラウドの場合は、それらの情報システムを外部のデータセンター内に置いておくので、各自治体で行っていた業務処理をクラウド上で行うことになります。

 

総務省が自治体クラウドを推奨する理由はさまざまですが、情報システムの運用コストが削減できるのが理由の一つです。業務処理に利用する情報システムを構築する際、ソフトウェアをはじめ、情報システムを管理するためのサーバー維持やそれらを導入するためにコストが掛かります。自治体クラウドを用いることによって、それらのサーバーや導入する情報機器をデータセンターで代替することができ、コストを大幅に削減することが可能になります。

 

運用コストだけではなく、セキュリティ性の向上が期待できるのも自治体クラウドの特長だといえます。自治体クラウドに限らずクラウドサービスを利用するメリットでもありますが、情報を管理する場所を一箇所にまとめることで、外部の攻撃対象を一箇所に絞ることができます。

 

別々のサーバーで情報を管理すると、情報システムのメンテナンスやセキュリティチェックも別々にしなければならないため、セキュリティの脆弱性を見逃す原因になることも少なくありません。つまり、データセンターだけのセキュリティ性を重点的に上げられる自治体クラウドは、情報の保守に適した仕組みであると言えます。
 



自治体クラウドの導入事例

自治体クラウドといっても、その形態は地方公共団体によって異なります。

 

総務省は自治体クラウドを推奨していますが、総務省が直接提供しているクラウドサービスというものは存在しません。そのため、各企業が提供するプライベートクラウドサービスを利用するのが主な自治体クラウド化の手順になります。

 

プライベートクラウドサービスを利用した自治体クラウド導入の事例として挙げられるのが、栃木県小山市の住民情報管理システムのクラウド運用です。この自治体では富士通が提供する自治体クラウドサービスを利用し、導入以前の課題であった手動データバックアップなどによる職員の負担軽減や、電力使用料金などの情報システム運用コスト削減に成功しました。

 

その他にも、数多くの導入事例が存在します。

 

Amazonが提供するAWSを利用して地理情報システムのクラウド化に成功したのが、豊中市役所です。地理情報システムを運用するためには可視化された地図情報などを管理する必要がありますが、情報を更新するために各地域にサーバーを置いて情報共有をするのは、大きな負担がかかってしまいます。そこで、豊中市役所では低価格で利用することができるAWSクラウドを利用し、地図のデータをクラウド運用することによって、大幅な運用コスト削減だけでなく、素早い情報共有の実現にも成功しました。

 

富士通の自治体クラウドサービスやAWSクラウドだけでなく、NECが提供しているNEC公共IaaSや、NTTデータが提供するマルチクラウドソリューションなどのクラウドサービスを利用し、行政の活性化に繋げている地方公共団体もあります。
 


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自治体クラウド導入前後の課題

自治体クラウドには数多くのメリットが存在し、導入によって成果を上げる地方公共団体も少なくありませんが、いくつかの課題があります。
まず導入前の課題で挙げられる一つが、ITリテラシーの問題です。非常に便利なシステムではありますが、クラウド化することのメリットについて完全に理解できている職員さんは多くはありません。

 

特に若い世代が不足しがちな地方公共団体では、クラウド化にそこまで積極的ではなく、考えられるメリットよりも環境の変化に対する不安を抱く職員が多いでしょう。導入する自治体は増えつつあるものの、まだ全ての地方公共団体でクラウド化が進んでいるわけではないというのは、そういった理由が考えられます。

また、自治体クラウド化を推奨している総務省ですが、総務省自体がプライベートクラウドの提供をしているわけではないので、「導入に際してクラウドサービスの比較をする必要が生まれてしまう」というのも自治体クラウドの課題です。総務省が推奨しているクラウドサービスは数多く存在している一方、どこを選ぶべきかという導入マニュアルがあるわけではありません。

 

そのため、いざ導入しようにも各社のクラウドサービスにはそれぞれどういった特徴があるのか、どこを選べばセキュリティ性を向上させられるかなどの比較を、地方公共団体の方でする必要があります。上記で記載したリテラシーの問題にも関係しますが、このようなリサーチにはかなりの時間や手間が掛かるので、通常業務をこなしながら導入検討を進めるのは大変かもしれません。

 

自治体クラウド導入後、各自治体で立てた目標(業務効率化や工数削減)などは、概ね結果に繋がっているようです。そして、その後の課題として出てくるのが、自分たちが運用している自治体クラウドに参加してくれる「参画自治体」の拡大と言われています。自治体クラウドは、参画する自治体の数が増えれば増えるほど、運用効率が上がり、一自治体が負担する運用コストは下がります。

 

最初は、小さめな規模感(2〜3の自治体グループなど)でスタートさせることが多い取り組みですので、必然と出てくる課題ではあります。この課題を解決するためには、自治体や地域を超えた縦横斜めの繋がりや、自分たちの取り組みや成果を他の自治体に向けて発信するということが必要ではないかと感じます。
 



自治体クラウドの導入までの手順

自治体クラウドの導入において、初めに行うべきことは計画の立案です。計画段階ではどういった目的で導入するのか、解決できる課題は何かなど導入に関する概要をまとめるだけでなく、導入にするにあたって参加する団体間の調整を行うのも大切になります。

 

計画に要する期間は予算編成の時期などによって異なるものですが、関係者の負担も考え、できれば1年以内に決めるようにするのが良いでしょう。
また、クラウド化した後の情報システムの管理・運用に支障が出ないよう、適応できる人材のアサインや育成も、この段階で始めておくのがおすすめです。

 

導入計画を策定したら、次に行うのがクラウド化の具体的な仕様の決定になります。この段階ではクラウド化に関する詳しい仕様内容を決めるのと同時に、実際に契約するプライベートクラウドサービスの選定・契約も行います。計画書や要件定義書などをまとめた仕様書の作成も必要なので、忘れないように注意しましょう。運用に適した人材のアサインや育成、全体的な仕様の決定が完了したら、クラウドの導入段階に入っていきます。

 

契約したクラウドサービスで情報システムが実際に動くかどうかをテストし、問題があれば都度修正していきます。また、個別のサーバーで管理していたデータをクラウドに移行するのも重要です。これはクラウドサービスを提供している企業との連携が大切になるので、事前にどのデータを移行するのかといった意思疎通を行っておくのを忘れないようにしましょう。

 

予算については、どういった仕様でクラウド化するのかによっても変わってきます。定額のサービスもあれば従量制料金のサービスも存在するので、詳しく知りたい場合はクラウドサービスを提供している企業に対して問い合わせてみましょう。

 

大規模な設備なども特に必要とはしないので、膨大な導入コストは発生しないと考えておいて良いでしょう。




自治体クラウドには多くのメリットがある

自治体クラウドを導入する地方公共団体は多く、導入している自治体のほとんどが良い成果を挙げています。

 

クラウド化することによって、情報システムやデータの運用・管理コストの大幅な削減や、バックアップやデータ共有に際して発生する職員の負担を軽減できるなど多くのメリットを得ることが可能です。行政をより良くするためにも、自治体クラウドは重要な要素の一つだといえます。



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