成功する企業誘致とは?自治体の事例や補助金などについて解説します。
人口や経済の首都圏一極集中、そしてそれに伴う地方の人口減少を是正する目的で、地方都市の活力向上や地域活性化を目指す取り組み、地域創生。
そして「企業誘致」とは、地方創生のひとつの軸として各自治体が注力する施策です。
2020年以降のトピックとして、新型コロナウイルス感染拡大に関連した企業誘致の在り方も模索されています。東京以外でリモートワークできるワーカーが増えたことで、移住者誘致の施策に注力される自治体も多いでしょう。
東京の密を回避するための潮流のなかで、「テレワーク」「地方移住」「ワーケーション」といったニューノーマルな働き方がコロナ禍で実に早いスピードで浸透しました。
この記事では、そんな最近の事例も踏まえながら企業誘致のメリットや企業誘致(立地)事例、補助金について解説します。
企業誘致とは?メリットや方法をご紹介
「企業誘致」とは地域経済の活性化を目指す取り組みのひとつ。本社(一部機能)や事業所、工場などを地方に誘致して、都心に一極集中している経済を地方へ分散させることです。
雇用の拡大、税収の確保など、自治体にとって企業誘致にはさまざまなメリットがあり、人口動態にも好影響を与えます。例えば、兵庫県淡路市の社会増減は2020年に初めて増加に転じました。(神戸新聞参照)
2020年は転出者が1,252人だったのに対し転入者は1,321人で、69人増に。企業誘致の取り組みによって、転入者が安定的に増加していることがわかります。
※転入者数と転出者数を差し引いた数値
企業の取り組みでは、2021年4月、サザンオールスターズや福山雅治さんが所属する芸能事務所「アミューズ」が山梨県南都留郡の富士山麓に本社を移すと発表して話題になりました。富士河口湖町はこの移転を歓迎し、町の活性化に期待を寄せています。アミューズは新拠点で環境保護にも関わると発表しています。
また、2020年1月、自動車メーカー大手の「トヨタ」が、静岡県裾野市に実験都市「Woven City(ウーブン・シティ)」を建設すると発表。これは閉鎖されたトヨタ東富士工場跡地に構想されている未来都市で、あらゆるものがネットワークでつながる都市としてインフラ整備から進められる大計画。将来的にはおよそ2,000人の住民が暮らす街になることが計画されています。
このように、企業が地方に進出することで地域の活性化が期待されます。
そこで改めて企業誘致のメリットをまとめました。
地元で新しい雇用が生まれる
企業や事業所が地方都市に進出することで、地元の雇用機会が拡大します。
近隣に大学や高専などの教育機関があれば新卒人材の雇用にもつながり、U・Iターン就職で市外の人材を呼び込みやすくなります。また、パートやアルバイトといった形態の雇用創出にも繋がります。若い人材だけでなく、中高年や高齢者の雇用促進にも有効です。
潜在的な移住希望者のロールモデルになる
企業誘致によって事業所の既存従業員が移住してくれば、その移住体験は移住希望者のロールモデルになります。
新型コロナの影響も後押しして、各都道府県ではオンライン移住セミナーが頻繁に開催されています。移転企業の取り組みや従業員の移住体験をロールモデルとして紹介し、さらなる移住者を呼び込みやすいというメリットが考えられます。
企業のCSR活動により、地方創生の事例づくりになる
企業は地域社会と密接に関係します。
積極的なCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)活動には例えば、ゴミ拾いなどの環境保全活動、地域行事への参加、雇用や就業支援などが含まれます。これらの活動は企業の経営環境の向上にも繋がり、地域との好循環が生まれやすくなるという好循環が生まれます。
新たな需要が生まれる
地域に企業や事業所が進出することによって、新たな需要が生まれます。例えば、地元の運送業者、原材料業者、広告業者などへの発注需要や、近隣飲食店でのランチタイム、ディナータイムの利用需要などです。
また、オフィスや工場の建設によって建設業者や機械製造業者への新規受注が発生し、関連業者の売上増加に貢献するなどが考えられます。
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企業誘致に成功している自治体の事例
ここでは企業誘致に成功している、また話題となっている自治体の事例を紹介します。
三重県亀山市
三重県亀山市では産業クラスターを形成するための企業誘致が進められ、2002年に液晶関連大手の「シャープ」の誘致に成功しました。シャープ亀山工場は、三重県と亀山市が交付した補助金で企業誘致された工場です。
この大型誘致によって、県内にはディスプレイ製造関連企業が約80社操業(当時)。市内にも関連企業が次々と立地しました。これをきっかけに「亀山ブランド」として海外にまでその地域の名が広がったのは記憶に新しいですね。
現在、亀山工場ではスマホ向けディスプレイやカメラモジュールの製造が主力。第1工場はApple社のオフィスともつながっており、今後も盛り返しが期待されています。
兵庫県淡路市(淡路島)
2008年から企業誘致を積極的に実施する淡路市。条件を満たした企業は助成金や税制優遇などが受けられます。
関西の流通拠点でもある神戸市に好アクセスの立地や利便性が魅力で、テーマパークや劇場といったエンタテインメント施設が次々オープンしており、観光スポットとしても人気に火がつきました。取り組みの一部としては、2014年4月に明石海峡大橋(垂水IC〜淡路IC間)の高速料金が1610円から910円に値下げされ、これを機に観光客も急増しました。
最近では、総合人材サービス大手の「パソナグループ」が本社機能の一部を淡路に移転することで話題となりました。
2021年4月から働く新入社員は淡路島での勤務となるほか、人事や経営企画などを担う約1,800人のうち、1,200人が2024年5月までに淡路島に異動となる予定なのだとか。
南部靖之代表は、「“淡路島で働きたい”というモデルケースを作る」と意気込みを語り、地域の活性化の一翼を担います。
沖縄県うるま市
沖縄ならではのリゾート環境を活かし、沖縄県うるま市を国内外の情報通信関連産業の一大拠点とするためのプロジェクト「沖縄IT津梁パーク」。
IT産業の拠点として、また日本とアジアを結ぶ架け橋となることで、IT人材の創出集積や優れた就業環境の提供を行うことをコンセプトとした取り組みです。
沖縄は「特別自由貿易地域」「情報通信産業特別地区」など、県が国の政策と連携しています。この利点を活かし、うるま市ではこれまでコールセンターの集積などで多くの雇用を創出し、企業誘致施策で成功を収めてきました。今後の取り組みにも注目が集まりますね。
広島県
最近の特徴的な取り組みとして、広島県の企業誘致策についてご紹介します。
「広島へ来てくださる企業に、最大で2億円のサポート!!」と銘打たれた特設サイト「広島ではたらく、という選択。」が公開され、他の自治体の間でも話題を呼びました。
会社の本社機能の全てまたは一部を移転する「ずっと広島県」、広島に短期滞在してプロジェクトを進める「ちょっと広島県」の2種類の働き方スタイルをサポートするため、移転に伴う初期費用やオフィス賃料、滞在費などを助成するという取り組みです。
申込期限は2021年2月末でした。この企業誘致制度がどんな結果を生み出すのか、参考になるモデルケースがこれから生まれてくると期待されています。
企業誘致に関する補助金について
最後に地方創生事業に対する国の補助、「地方創生関係交付金」について紹介します。
地域創生関係交付金とは、地方公共団体が行う自主的・主体的で先導的な取り組みを継続して支援するためのものです。地方創生の深化・高度化が促進されることを目的としていて、2021年4月時点では地方創生先行型交付金、地方創生加速化交付金、地方創生推進交付金、地方創生拠点整備交付金の4種類があります。
ガイドラインには、事業の必要性の明確化や地域創生の基盤づくりに必要な6つの先導性要素(自立性、官民協働、地域間連携、政策間連携、事業推進主体の形成、地方創生人材の確保・育成)などが示されています。
KPIを設定してPDCAサイクルが組み込まれることが特徴で、自治体が用意した事業策定プランを国が精査し、対象事業や交付金額を決定します。またガイドラインでは、下記のように各省庁による横断的な補助金の活用も推奨され、事例が紹介されています。
【内閣府】 地域⼥性活躍推進交付⾦
【⽂化庁】 ⽂化芸術振興費補助⾦
【厚⽣労働省】 地域活性化雇⽤創造プロジェクト、次世代育成⽀援対策施設整備交付⾦
【農林⽔産省】 農⼭漁村振興交付⾦、農業次世代⼈材投資事業
【経済産業省】 地域中核企業創出・⽀援事業(事業者向け)
【国⼟交通省】 社会資本整備総合交付⾦
【観光庁】 訪⽇外国⼈旅⾏者周遊促進事業費補助⾦
【環境省】 ⾃然環境整備交付⾦
まとめ
都市部への一極集中是正の動きは以前から活発でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって人々の生活様式が変化を遂げつつあり、企業移転のニーズも高まりを見せています。
ウィズコロナ、アフターコロナの時代に向け、人や企業を地方へ分散させてビジネス創出や地域活性化に繋げる動きは、これからも増えていくことが予想されます。
今後も国や各自治体が行うコロナ禍ならではの取り組みに注目したいですね。