スマートシティとは?国内外の成功事例を紹介

スマートシティとは、デジタル技術を活用し、都市のインフラや施設運営業務の効率化を図り、企業や生活者のQOL(Quality of life:クオリティ オブ ライフ)やウェルビーイング向上を目指す都市のことです。

 

昨今、日本国内では地域課題解決を目指し、地域のデジタルシフトやビッグデータの導入を希望・検討している自治体関係者が増えています。しかし十分なナレッジやノウハウを持っていないことで、具体的な取り組みが進まないと悩む関係者も少なくありません。

 

そこで本記事では、スマートシティの定義や実現に必要な技術、国内外の事例をお伝えします。


▶監修・解説:並木将央氏
日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長 並木将央氏。
2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。
●監修者の詳細な経歴はこちら



スマートシティとは

スマートシティとは、デジタル技術を活用し、生活者のQOLやウェルビーイング向上、経済活動の促進、社会課題の解決を図る都市のことです。

 

新型コロナウィルス感染症の拡大を機に、日常生活や企業活動の端々でニューノーマルが求められています。そのため、スマートシティ実現は地方自治体の急務ともいえるでしょう。

 

そこで本記事では、スマートシティの定義や必要技術、スマートシティ実現により得られる効果や国内外の取り組み事例を解説します。この記事を参考に、情報収集から行動立案につなげていただければ幸いです。

 


スマートシティの定義

国土交通省と野村総合研究所では、スマートシティを以下のように定義しています。

 

●  都市の抱える諸問題に対して、ICT(Information and Communication Technology)などの新技術を活用しつつ、都市計画や管理・運営が行い、最適化が図られる持続可能な都市または地区(国土交通省より)

●  デジタル技術を活用して、都市インフラ・施設や運営業務等を最適化し、企業や生活者の利便性・快適性の向上を目指す都市(スマートシティ | 用語解説 | 野村総合研究所<NRI>より)

 

上記からスマートシティを端的に表すと、IoT(Internet of Things=モノがインターネット経由で通信すること)やAI(Artificial Intelligence=人工知能)といったデジタル技術を駆使して、人々の生活をより快適・豊かにする都市であるといえます。

 


スーパーシティとの違い

スマートシティと似たような言葉に「スーパーシティ」があります。
スーパーシティとは、2020年の国家戦略特別区域法改正により創設された「スーパーシティ型国家戦略特区」のことを指します。
両者はどちらも最新の先端技術を用いる点は共通していますが、目指す方向性が以下のように異なります。

 

●  スーパーシティ:最新の先端技術で「住民の困りごと」を解決する都市

●  スマートシティ:最新の先端技術で「都市機能の効率化・最適化」を目指す都市
 



スマートシティが推進される背景

それではなぜ、スマートシティが注目・推進されるようになったのでしょうか。従来の都市計画は、建築物の建立、道路の整備、区画整理などいわゆるハード面が主でした。

 

一方、スマートシティは昨今の新型コロナウィルス感染症拡大により、ニューノーマルな生活形成をはじめ、新たなニーズにあわせた構想が求められています。

 

こうした日々変化する生活者の需要にいち早く応える手段として、スマートシティの軸になるIoTやAIは高い親和性があります。こうした背景からICTを活用したスマートシティは、社会変化に迅速かつ柔軟に対応できる都市構想として推進されるようになりました。
 



スマートシティが実現する社会

既存の都市計画にデジタル技術が加わることで、どのような社会が実現されるのでしょうか。ここでは生活者と都市管理者の2つの視点からお伝えしていきます。

 


生活者の視点

スマートシティではハイテクな最新デジタル技術が注目されがちですが、主たる目的は、地域に暮らす人々のQOLとウェルビーイング(well-being=健康、幸福、福祉)の向上です。

 

それでは具体的に、スマートシティが生活者にもたらす効果を見ていきましょう。
 

□QOLの向上

まずは、生活者のQOL向上が挙げられます。

 

静岡県浜松市ではスマートシティ推進の取り組みとして、高齢者が抱える移動の問題を解決するために、ボランティアの住民が同じ地域の高齢者らを自家用車で病院やスーパーなどに送迎する「共助型交通」のシステム導入を検討し始めました。

 

高齢者の免許返納が推奨される中、一方で移動手段を失った世代は買い物だけでなく、病院に行くこともままならず、自宅に閉じこもってしまいます。そうなると、健康を害するだけでなく、人と人とのつながりが希薄となり、地域そのものが衰退していく恐れもあります。

 

このようにスマートシティの実現は、生活者の身体的・精神的サポートだけでなく、生活の質を維持することも期待できます。

□経験的な活動の充実

続いては、生活者の経験的な活動の充実です。
「経験的な活動」とは人々が自己実現や承認欲求を満たす目的をもった、次のような活動を指します。

 

●  人に出会い、交流の中でさまざまな影響を受けること

●  五感を伴った刺激を受け、感動や快感を得ること

●  共通の目的や趣味をもつコミュニティの活動に参加し、モチベーションを共有すること

 

デジタル技術を用い「ヒト・モノ・コト」を集約させることで、生活者の経験的な活動が容易に行える都市環境を実現します。

 


都市の管理者の視点

スマートシティの実現は、行政に関わる都市の管理者・運営者にも大きな変化を与えます。ここでは4つの効果をお伝えしていきます。
 

□リアルタイム情報による確度の高い予測実施

スマートシティで集約されたデータは、紙媒体に示されるような過去を中心とした静的データから、Wi-FiやGPSなどでリアルタイムに集約できるビッグデータに代わります。

 

その結果、行政は良質かつ鮮度の高い情報を得やすくなり、今後のプランを立てる際の判断材料とすることができます。特に、災害時といったスピードを要する有事の際には、非常に役に立つでしょう。
 

□ミクロ視点での分析や判断

スマートシティの実現により、都市や地域全体のマクロな視点から、生活者、店舗などのミクロ視点で分析や判断が可能になります。

 

たとえば無医村に対して医師を派遣する取り組みや、診療所に通うことさえ困難な方に対して定期的な遠隔治療を行うなど、適切な人の配置、設備導入を行うことができるのです。
 

□エビデンスベースの施策立案

スマートシティの実現は、見聞きしたことのある事象や経験といった「エピソードベース」から、現状の状態から測定されたデータという「エビデンスベース」での施策立案を可能にします。測定された定量・定性データを用いることで適切な目標が設定しやすくなり、改善が図りやすくなるでしょう。

 

また、デジタル技術で取得したデータを施策導入前後で一元管理することで、効果的にPDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)を回すことができ、その結果を蓄積することで学習効果も高まります。

 

このように行政によるエビデンスベースでの具体的なアクションは、効率的な施策推進だけでなく、生活者との円滑な合意形成にもつながります。
 

□分野を超えた課題解決

スマートシティが実現し、デジタル技術で集約したビッグデータは多種多様な内容を保持します。

 

IoTで取得した生活者の実態やニーズ、GPSで集約した人々の移動など、多様なデータをかけ合わせることで、一つの分野のみならず、横断的な課題解決にも役に立ちます。

 

個別分野でのデータで一義的に結論を出すのではなく、他分野から集められたビックデータをより多角横断的に分析することで「ヒト・モノ・コト」が見やすくなります。その結果、分野を超えた問題提起と解決を繰り返しながら、持続可能な都市サービスの実現につながるでしょう。
 



スマートシティに必要不可欠な技術

スマートシティ実現に向けて、必要となる代表的な3つの技術について紹介していきます。

 


AIの活用

スマートシティ実現に向けて、「ヒト・モノ・コト」の情報伝達の基盤となる通信ネットワーク技術が重要です。生活圏に張り巡らされたWi-Fi環境だけでなく、高速移動中の通信や多数接続・低遅延といった強みを持つ5Gなど、利用シーンに合わせた通信方法の拡張が求められます。

 


センシング技術

温度センサーや加速度センサーなどのセンシング技術も、スマートシティに必要不可欠です。
センサーにより温度や湿度、光線(紫外線など)、気体成分といった目に見えないものを数値化することで、人体に与える影響を調べ、役立てることができます。

 

併せて、センシング技術で集約したデータのデータアナリティクスやデータマイニングも必要となるでしょう。

 


AIの活用

スマートシティを実現させるためにはAIの有効活用が大切です。

 

機械学習やディープラーニングなどのAIの発展により、AIが人間に代わって瞬時に分析や判断できるようになります。このため取得したデータに対する即時フィードバックが可能となり、市民などの利用者への情報提供の先回りをすることが可能となります。

 

その結果、気候による都市リスクや人々の病気予測など、これまで人の力では及ばなかった観点から現状分析が行えるようになり、新たな課題発見や解決策を見出すことが期待されます。
 


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【国内外】スマートシティの取り組み事例5選

スマートシティは世界にある多くの都市で、実現に向けての取り組みが始まっています。日本も例外ではなく、行政と地域住民が手を取り合い、持続可能な都市実現に向けて動き出しています。

 

ここでは、スマートシティの取り組み事例として、国内3事例、海外2事例の合計5事例を紹介します。どのような組織や人が関わり、どのような動き方でスマートシティを推進していったのか、スマートシティを活用した都市構想の参考にしてください。

 


1.加古川市|加古川スマートシティプロジェクト

兵庫県の加古川市では、まちぐるみで市民の安全・安心を実現するため、情報インフラ基盤等の整備・運用に着手しました。具体的には次の通りです。

 

●  見守りカメラおよび次世代見守りサービス(官民協働事業)の導入

●  複数事業者の見守りタグ(BLE タグ)が検知できる共通検知器の開発

●  共通検知器は固定式に加えて、かこがわアプリや郵便車両等の移動式 IoT 機器の展開

●  次世代まちづくりを見据え、AI・IoT、5G 等を活用した都市のスマート化の推進

●  プロジェクト推進前の加古川市は、兵庫県下の平均と比べて高い犯罪発生件数と認知症の恐れのある方の徘徊問題が顕在化していました。

 

そこでスマートシティ化に着手。上記の取り組みによって、刑法犯認知件数は人口千人あたり1.1335(2017年5月)→ 0.5683(2019年11月)と、大きく件数を低減できました。成功の秘けつは以下の3点が挙げられます。

 

市民に向けたきめ細やかな事前説明(市民の賛成回答 99.2%)

 

1.運用ルールの明確化と透明化の工夫(市民理解のための工夫)

2.既存インフラ活用による効果の最大化

 

このように常に市民に向き合い、既存の設備を無駄にしない姿勢がスマートシティプロジェクトの成功要因と考えられます。今後はかこがわアプリを利用し、見守りサービスに加入している市民が他市を訪れても、市外での検知が可能なまちづくりの実現に着手する予定です。

 


2.札幌市|DATA-SMART CITY SAPPORO

北海道札幌市では、運動の習慣化や健康寿命を延ばすための取り組みとして、スマートシティを開始しました。この取り組みは、公共交通機関よりも環境負荷の高い自動車分担率の増加による環境問題にも関連しています。

 

具体的には次のような取り組みを実施しました。

 

●  行政が保有する多種多様なデータを蓄積・加工・活用するデータプラットフォームの構築

●  ICTを活用して参加者の歩行や健康状態の改善などの成果に応じて、インセンティブ付与

●  健康インフルエンサーの育成

 

上記の取り組みにより、1,000 人超の市民参加による「健幸ポイント」実証結果から、冬でも3,350 歩/日の増加がみられ、その費用対効果は約74,500 円/人・年の想定医療費抑制効果があるといわわれています。

 

成功のポイントは、主に以下2つが挙げられます。

 

1.ICTインフラの拡充により、特定エリアへの来訪に対するポイント付与や、詳細な行動分析が可能になったこと

2.冬季でも安全・快適に歩行できる地下などの環境構築や大型商業施設との協力体制が結べたこと

 

今後は「健幸ポイント」を活用し、市民の健康状態や日常歩数などを可視化・分析できるダッシュボードを整備し、健康活動を促進するまちづくりを目指していくようです。

 


3.高松市|スマートシティたかまつ

香川県高松市では、人口減少の抑制や地域の活性化、災害リスクの高まりへの対応を背景とし、平成29年度よりスマートシティへの取り組みを開始しました。

 

具体的な取り組みは次の通りです。

 

●  近隣自治体間で広域防災協力を行うための多種データを格納・共有するIoT プラットフォームの構築

●  道路通行情報や気象情報、河川水位や潮位等、関連する防災情報を同一画面上に一元化

●  近隣自治体との IoT プラットフォーム共同利用モデルの開発

 

強靭なまちづくり」をビジョンに掲げた取り組みは、IoTを活用した近隣自治体間での迅速な情報共有により、自然災害時被害を軽減させることに成功しました。成功のポイントは以下の3つが挙げられます。

 

1.広域連携と自治体部局連携

2.近隣自治体および関連事業者との理解深耕

3.市民への事前説明により、自治体や住民へサービス向上に関わる将来的な価値の共有

 

今後の展望としては、さらなる未曽有の災害に対応する広域防災システムの高度化など、スマートシティサービスの拡充や新たな資金の地域流入を目指しています。

 


4.シンガポール

シンガポールは面積が東京23区と同じ程度で人口は約545万人の国です。シンガポールはスマートシティ先進国としてその名を馳せており、世界初の「スマート国家」を目指し、国家全体で取り組みを推し進めています。

 

キャッシュレスの浸透をはじめ、コロナワクチンの接種予約もSMSで通知が届き、オンラインサイト上で予約可能と、市民の暮らしにデジタル技術が駆使されています。

 

ほかにも、環境省の無料アプリから降水情報のアラートが届いたり、交通省のデータを活用した無料アプリでバスの到着時間を1分単位で確認できたりと、生活の所々にIoTから取得したデータによる情報提供が浸透しています。

 

こうしたシンガポールの国家主導で行われている一連の取り組みは海外でも評価が高く、スイスのビジネススクール・IMDによるスマートシティランキング「IMD Smart City Index」で、2021年に3年連続で1位を獲得しました。

 

実際、技術系多国籍企業の約6割がシンガポールに支店を設置しているほか、世界トップ100のテック企業のうち8割以上がシンガポールに事業所を構えているともいわれています。

 

このように、シンガポールはイノベーション創出や人材育成のための環境が整っているため、今後もスマートシティ拡大の先陣を切っていくでしょう。

 


5.イギリス・マンチェスター

イギリスのマンチェスター市は、市を中心としたコンソーシアム(=共同事業体)を形成し、ICTにより街の活性化を目指すプロジェクト「CityVerve」を進めています。

 

2014年に当時の首相から「Smart Nation」の発表があり、スマートシティの推進は国民の関心度が高い施策の1つです。プロジェクトは医療・健康、輸送・交通、エネルギー・環境、文化・コミュニティの4つです。

 

イギリスのマンチェスターでは、官民含めたステークホルダーがビックデータを管理し、ハッカソンなどとの共同開発を通して市民や民間企業を巻き込んだスマートシティ実現を推進しています。



まとめ

今回の記事では、スマートシティの定義や実現した際の効果、スマートシティ実現に必要な技術、国内外の事例をお伝えしました。

 

スマートシティとは、IoTやAIなどの最先端技術で得たビッグデータを活用して「都市機能の効率化・最適化」を目指す都市のことです。スマートシティが実現することで、生活者のQOLやウェルビーイング向上だけでなく、行政による地域の課題発見や施策立案のスピードが向上し、さまざまな社会問題の解決が期待されます。

 

さらに、スマートシティに関連した新たな産業やビジネスの創出も展望され、今後ますます注目が高まるでしょう。

 

この記事を参考に街中に点在する情報技術にアンテナをはり、まちづくりのプラン形成から始めてみてはいかがでしょうか。


▶監修・解説:並木将央氏

日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長。

1975年生まれ。東京理科大学大学院工学研究科電気工学専攻博士前期課程修了、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社、つくば研究開発センター研究員勤務。法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科修士課程修了。株式会社ロードフロンティアを設立し、成熟社会経営コンサルティング、企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。人口減少に伴う「成長社会」から「成熟社会」という社会の大きな変化に対応した経営変支援。人材獲得、人材育成、業務効率化、資金繰り、売上UPなどの課題を同時解決するコンサルティングサービスを提供。




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