デジタルガバメント実行計画とは?日本の行政システムの状況と事例

近年はメタバースやAIなどIT技術の進化が著しく、人々の暮らしや事業展開などにも大きく影響し利便性が非常に期待されています。それに合わせて、市民の暮らしや事業をサポートする行政システムでもさらなるデジタル化を見据えて対処していく必要がある課題がたくさんあります。その一貫として行政システムのデジタル推進である「デジタルガバメント実行計画」は、本格的な法整備を経て行政システムのデジタル化を加速させています。

 

この記事では、デジタルガバメント実行計画の意味と定義のほか、現在日本の行政システム状況や先行されている事例などを含めて詳しく解説していきます。


▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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デジタルガバメント実行計画とは? その意味や定義

デジタルガバメントとは、デジタルの技術を活用しながら国の行政側と企業などの民間側がともに協力しながら行政サービスの事務的負担を減らし利便性を高めるため、現在の行政そのもののあり方を変革していくことを指します。

 

そのデジタルガバメントを実現するために、法整備が進められており、日本全体において高度なITネットワーク社会実現の取組を推進するため、2017年に「デジタルガバメント推進方針」が策定され、本格的に国民と事業者の利便性向上に重点を置き、行政の在り方そのものをデジタル前提で見直すデジタル・ガバメントの実現を目指す動きが始まりました。

 

また、方向性の具体化と実行のため、2018年1月に、「デジタルガバメント実行計画」の初版が策定されました。最近では、取組の進展や新型コロナウイルス感染症への対応の課題を踏まえつつ、改定の動きも活発になっています。

 


デジタルガバメント実行計画の推進背景

デジタルガバメント実行計画の推進背景には、「社会環境の変化とデジタル技術の進展」および「これまでの電子行政の取組と残された課題」にあります。

 

前者では、人口減少による生産性維持の取組やライフスタイルの多様化による価値の最大化がきっかけとなり、また年々進化を遂げているデジタル技術やサービスの豊富さが挙げられます。

 

後者では、ITガバナンスの強化や政府情報システム改革、IT投資の可視化等に取り組み、マイナンバー制度の導入や官民データ活用推進基本法の成立等、行政データの流通・活用を加速するための制度が整備されつつであるものの、今後の急速に変化する社会に対応するうえで、電子行政の投資対効果を一層高めていくために、国民や事業者に提供するサービスの価値の拡大に焦点を当てた取組を行っていく必要があります。

 

国民という利用者価値の最大化という観点から行政サービスを再設計することを基軸としつつ、サービス提供の基盤となるプラットフォーム、下支えとなるガバナンスまで、電子行政に関する全てのレイヤーを変革していくデジタルガバメントへの移行がさらに注目を浴びています。

 


デジタルガバメント実行計画におけるデジタル庁の役割

デジタルガバメント実行計画におけるデジタル庁の役割は、デジタル庁を中心として、各府省のデジタル統括責任者および副デジタル統括責任者のそれぞれがリーダーシップを発揮し、「共通ルール」の下で、各府省および政府全体のITガバナンスを強化、価値を生み出すことが重要です。

 

また、サービス業務の状況や政府情報システムに関する詳細な情報を逐次把握するとともに、サービスの向上、業務の効率化および高度化、情報システムに係る規格の整備および互換性の確保、情報セキュリティを含む情報システムの運用リスクへの適切な対応等、具体的な取組を政府横断的に進める役割を担っています。



デジタルガバメント実行計画から社会はどう変わるのか

「持続的で豊かな暮らし」を実感できるように、子育て環境の充実や働き方改革、生産性の向上、高齢者の安心・安全などにつながる仕組みを整備し、活力ある社会を作っていくことは近年益々求められています。また、コロナ禍で経済が数年低迷してしまったこともあり、今後の経済成長を実現していく必要があります。デジタル化の推進はそうした課題を解決していくために必要不可欠であり、この先の社会全体の活性化に重要なポイントとなります。
 


日本の行政システム状況


現在日本のオンライン行政システムの利用率は緩やかに上昇しているとはいえ、浸透しているとはいえません。全体の約56,000種類の行政手続きの中で、平成30年度はオンラインで実施できる手続きは12%に留まっているのです。

 

また、地方公共団体における電子申請システムの整備状況は、多くが都道府県と域内市区町村との共同利用の形式をとっている中で、行政システムのデジタル化の整備がいまだ進んでいない市町村は約200団体もあり、今日のデジタル行政システムの浸透には多くの課題があります。

 

近年はマイナンバーカードの普及活動も盛んでマイナンバーカードから行政システムの簡易化およびデジタル化のきっかけとして市民サービスの向上を図っている中、政府としては「2022年度末までにほぼ全国民に行き渡ること」を目標に取り組んできましたが、まだその目標への到達には至らず、市民に対して様々なアプローチから促進を図る必要が見られました。

 


現代日本の行政システムの問題点

日本の行政システムは、効率化や制度インフラ面の整備では最近一定の成果を挙げ、コロナ禍においてマイナンバー制度を利用した特別定額給付金申請の実現などがその成果の1つとして挙げられる一方で、国民や事業者に提供する行政サービスにはまだ十分にデジタル活用が浸透されているとはいえない状況が続いています。

 

各地方自治体や各府庁の独自のデータ管理方法やシステムおよびサービス連携の改善は、依然として課題のままで、改善マネジメントの仕組み化などが問題点として挙げられます。

 

また、コロナ禍などによってデジタルガバメントの重要性と緊急性は一層高まる一方で、早急に推進を加速しなければならない状況にいます。

 


デジタルガバメント実行計画によるメリット

たとえば、キャッシュレス決済の浸透による利便性向上が挙げられます。すでに年々その浸透と進化の度合いは増してきていて、経済産業省ではキャッシュレスビジョンとして2025年まで40%を目標と掲げています。将来的には納税や各種給付金の支払いもキャッシュレス化を検討しています。

 

加えて、公教育の多様化や効率化が挙げられます。現在の課題として、教師の業務負荷の高さなどが挙げられています。これらをデジタルツールを活用しながら様々な条件や制約をなくすことによって、学びのチャンスを多様化し、また教育の提供側の負担軽減と業務の効率化が図れ、コロナ禍で加速している分野でもあります。

 

その他、市民の健康や医療、介護のデータベースによる健康寿命の延伸や産業インフラの進化を後押しすることも検討されており、デジタルガバメント実行計画によるメリットは多いでしょう。どれも現在日本が社会の課題として抱えている少子高齢化や生産性の低下などに解決につながる手段の1つとして考えられているのです。
 



各府省の具体的なデジタルガバメント実行計画の取組

現在各省庁がデジタルガバメント実行計画に沿って取り組んでいる具体的な動きなどについて紹介していきます。

 


財務省

財務省では、「デジタル社会の実現に向けた重点計画に基づく財務省中長期計画」に基づき、個別情報デジタルシステムの業務改革および、行政手続きコスト削減のための基本計画を実施しています。また、財務省セキュリティ対策のIT人材育成も独自で計画しています。

 


総務省

総務省では、デジタル庁との関係も深く各府省で共通的に利用するシステム全般の整備や管理をしていて、各府省における業務の高度化と効率化をサポートしています。具体的には、地方行政のデジタル化として自治体のDX化の支援、各府庁のデータ横展開に必要なAPI整備の推進などを行っています。

 


厚生労働省

厚生労働省では、市民の暮らしに直接関わりの深い「健康・医療」や「子ども・子育て」、「福祉・介護」、「年金、雇用・労働」の暮らしの施策を所管していることから、全体管理組織であるPMOを設けしっかりとした全体管理体制に力を入れています。

 

適切な情報システムの整備や管理の推進はもちろん、オンライン診療の活用促進やデジタルヘルスの活性化に向けた関連サービスの立ち上げなどにも取り組んでいます。
 



デジタルガバメントの事例

デジタルガバメント実行計画のもと、様々な取組がなされている中で、実際に事例として地方自治体の取組や、海外の事例を紹介していきます。

 


横須賀市のデジタル施策

横須賀市では人口減少を解決するため、デジタル施策を用いたまちづくり戦略に取り組んでいます。2018年には41年ぶりに40万人を下回り、65歳以上の高齢者の人口も3割を超え、非常に深刻な少子高齢化が進んでいるのです。

このような状況から、官民一体として横須賀市と横須賀リサーチパーク(YRP)に進出している機関とともにデジタル研究開発拠点の形成を掲げ、業種や分野を超えた人材、ニーズ、地域社会資源が連鎖する拠点化を目指し、IoTや5Gといった技術を用いたまちづくりの社会実装モデルを他の市域に先駆けて創出と検証を実施し、その成功事例を日本の各地方に展開することを目指しています。

具体的な取組の「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」では、YRPや自動車製造のような産業的強みや地域の特性と、5GやCASE(コネクテッド化、自動運転化、電動化)、またMaaS(モビリティのサービス化)のような技術的トレンドと実装のインパクトを掛け合わせることによって、モビリティビジネスの様々なアイデアを形にできる最先端の環境を構築し、地域の課題そのもののソリューションモデルを創出、ロールモデル化することになります。

結果的には、スマートモビリティに係るテクノロジーが人と人とのコミュニケーションを活性化させ、協調と連帯を生ませること、またグリーンエネルギーを駆使したクリーンで安心安全な社会の実現を官民一体でデジタル施策に取り組むことによって実現しようとしています。

 

2019年の「横須賀スマートモビリティ宣言」から正式に横須賀市とNTTドコモ、京浜急行電鉄の三者によるスマートモビリティを活用したまちづくり連携協定が締結していて、「ハマちゃんバス」や「お買い物無料送迎車」が利用されています。また、交通AI運航バスの実現に向けて実証を試みているなど、先進的な取組を行っています。

 


デンマークのデジタルガバメント  

デンマークは、2000年代初めから取組を開始し、今では世界のデジタルガバメントの中でもトップの評価を受けているデジタルガバメントの先進国です。

 

デンマークのデジタルガバメントの特徴としては、単に行政のみならず病院や教育機関なども含めて市民の暮らしに直結する部分も対象としていて、行政間の基盤整備はもちろん、行政と企業間、行政と市民間の基盤整備に励んでいるところが挙げられます。

 

デンマークのデジタルガバメントが、日本よりも著しく進展した背景と成功要因としては、以下のことが挙げられます。
 

●  デジタル化庁による一元的な推進体制の整備強化

●  地方自治体の共通戦略として、システムやサービスの整備実現

●  行政機関が保有するデータベースを横展開できる基盤整備

●  利用者へのデジタル対応の義務づけ

● 民間との共創を通じた公的セクターのイノベーション促進
 

デンマークのデジタルガバメントの推進では、取組の一貫性とサービスを利用する者を中心に考えて進めていることになっています。また、日本の課題でもある目的や目標の共有体制、また共同データベースの構築などが成果につながっているのです。

 



デジタルガバメント実行計画を進める上でのリスクはないか?

デジタルガバメント実行計画のみならず、どのプロジェクトを進めるにもリスクマネジメントは徹底して行っていかなければならないものです。予めリスクを予測しておくことで、万が一に備えることができるのです。

 

デジタルガバメント実行計画を進める上で予測されるリスクとしては、以下のものがあります。


リスク分類:ハードウェア側面

詳細

各府省の行政システムの要件を満たす共同行政システム構築の遅延
情報セキュリティ対策のシステム基準未達


リスク分類:ソフトウェア側面

詳細

利用者や企業への浸透低下による品質向上施策の遅延
官民一体型のリスク管理体制の構築や運用連携不足(人材育成含む)



※上記の内容以外でも考えられるリスクとしては、広範囲にわたる取組でもあるため、利用者のデータを保護し安心安全で利用できるシステムを築く必要があります。

 

IT開発や管理方法は年々その変化が激しい状況からデジタルガバメント実行計画において、しっかりリスクの識別し、分析と評価フロー、また常にモニタリングができる体制を予め設けていかなければならないでしょう。

 


市民の理解度向上や利活用促進の課題

行政システムのデジタル化は単純に、行政サービスのオンライン化が目的となってしまってはいけません。高齢化社会に伴う市民のリテラシーに対する対策、またサービスそのものの認知活動など、浸透に向けて必要な取組は多くあります。デジタル化を成し遂げたとしても利用者を中心に考えられないことが、利用率の低迷につながってしまいます。

 

また、行政システムが年々進んでいるとはいえ、市民が使用する際には地方自治体ごとのデジタル化にはいまだに大きな格差があります。たとえば、マイナンバーカードを利用してコンビニでの証明書関連の書類取得は、全国で約30%しか対応できていません。



まとめ

デジタルガバメントは、国で進めているだけでなく、横須賀市をはじめとした地方自治体でも徐々に取り組みが進められています。

 

この記事では、デジタルガバメント実行計画の内容がどのようなもので、実際にご自身の所属する自治体で行う際にどのようなアクションを取り、市民や自治体全体に浸透させていけばよいのかについて説明をしてきました。

 

今後さらに注目される領域であると思いますので、これからの動きに注意しましょう。


▶監修・解説:北川哲也氏

補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。

2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。




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