地域活性化に必要なものとは?成功するための事例やポイント

少子高齢化や人口減少などから生じる課題を解決する取り組みの1つとして、以前から多くの自治体では「地域活性化」に取り組んでいます。

 

コロナ禍で地域の重要性が改めて認識される一方、何をしたらいいかわからずに困っている自治体関係者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

本記事では、地域活性化という概念から、具体的な成功・失敗事例、そして成功するためのポイントまでをわかりやすく解説しています。ぜひ最後までご覧ください。


▶監修・解説:並木将央氏
日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長 並木将央氏。
2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。
●監修者の詳細な経歴はこちら



地域活性化とは?

地域活性化とは、各地域の経済や文化、コミュニティなどを盛り上げることにより、その地域を発展させていくことを指します。地域おこし、地域振興、地域づくりとも呼ばれることもあり、馴染みがある言葉ではないでしょうか。
 



地域活性化が必要となる理由

なぜ最近では、地域活性化が注目されているのでしょうか?

 

大きく注目されるようになった理由の一つが、2014年度に第二次安倍内閣が「地方創生」を掲げたことです。

 

同年には「まち・ひと・しごと創生法」を施行し、少子高齢化の進展に対応し歯止めをかけるとともに東京圏への人口集中の是正を目指しました。それぞれの地域で住みよい環境を確保して将来にわたって活気ある日本社会を維持していこうとしたのです。

 

このように、政府が本腰を入れて取り組んでいる背景には「少子高齢化による地域の人口減」、「東京圏への人口の集中」という大きく2つの課題があるからです。

参考:首相官邸 地方創生ページより

 


少子高齢化による人口減少

国内総人口は2008年の約1億2800万人がピークであり、2022年1月1日時点では約1億2544万人でした。国内総人口は年々減少しており、この傾向は今後も続くと考えられています。

参考:総務省「統計が語る平成のあゆみ 人口減少社会、少子高齢化」

 

さらに、15歳以上65歳未満の人口である「生産年齢人口」は、1995年の69.8%から減少し続け、2017年に60%を割っています。2065年には51.4%と予測されている状況で、働き世代が減り、少子高齢化社会が加速するとされています。

参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」
 


東京圏への人口集中

加えて東京圏への人口集中も課題の1つです。

 

統計局のデータによると、東京圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県の一都三県)への転入超過は8万1699人で、東京圏から出ていく人よりも入ってくる人の方が多い状況です。

参考:統計局 「住民基本台帳人口移動報告2021年結果」

 

人口減少が進み、ただでさえ少なくなっている働き盛りの人たちが東京圏に集まることは、地域経済の縮小や過疎化など様々な問題につながる恐れがあります。そこで、それぞれの地域の魅力や可能性に気づいてもらい、新たな価値を生み出していくため、いろいろな地域活性化の取り組みが進められているのです。
 



地域活性化3つの成功事例

地域活性化ではどのような取り組みが進められているのでしょうか。

 

ここでは特定の分野(産業、経済、教育、街づくりなど)において成功している事例を3つご紹介します。

 

全国での地域活性化地方おこしの事例集は、内閣府の資料の中で細かくまとめられています。詳しく知りたい方は下記URLからご覧ください。

参考:「地方創生 事例集」(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局内閣府地方創生推進事務局)

 


【青森県田舎館村】の観光資源を利用した観光名所づくり

青森県田舎館村では、田んぼをキャンバスに見立て、色の異なる稲を用いることで巨大な絵を描き、観光資源としています。今では全国から30万人以上が訪れる観光名所の一つとなっています。

 

1993年に村おこし事業としてスタート。県内でも有数の稲作が盛んな地域であることから田んぼを活用した施策を計画しました。現在では、全国各地に田んぼアートが広がりを見せており、全国田んぼアートサミットが開催されるようになりました。

 

単に観光してもらうだけでなく、「稲刈り体験ツアーを実施し、農業に触れる機会を提供していること」や「地元大学と連携して地域活性化に取り組んでいること」など、観光だけで終わらない点もポイントです。

 


【千葉県鋸南町】の学校リノベーションを活用した地域交流施設

千葉県鋸南町では、廃校になっていた小学校をリノベーションし、地域交流施設「鋸南町都市交流施設 道の駅 『保田小学校』」として運営しています。

 

農林水産物の販売や食堂・宿泊施設の運営など、6次産業化を通じた農林漁家の経営安定や交流の促進を目的として設立されました。「小学校」と名の付く全国初の道の駅だったことなどからメディアからも注目を集める施設となり、廃校活用のモデルケースとして取り上げられることも多い事例です。

 

移住受入や体験プログラムに関する情報発信、ワンストップ窓口など、町全体のコンシェルジュ機能を担っていくなど多くの役割を担っており、注目を集めている取り組みの一つです。


【徳島県神山町】のサテライトオフィスによる定住促進

徳島県神山町では、サテライトオフィスプロジェクトによる定住促進や人口増加に成功しています。

 

県が高速ブロードバンド環境の実現やオフィス開設・運営費用への補助(通信費、古民家改修費用等)などの支援を行い、過疎地域へのサテライトオフィスの誘致を推進しました。その結果、神山町では2011年に1970年以降、初めて「人口増」が「人口減」を超過するなど着実に成果を上げています。

 

地元のNPO法人が周辺自治体をうまく巻き込みながら進められたことや、明確なコンセプトの存在などが成功した要因と見られています。


【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する日本最大の展示会

【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する
日本最大の展示会



地域活性化2つの失敗事例

しかし、地域活性化はうまくいっているものだけではありません。
ここでは地域活性化の過去の失敗事例から学び取るため、簡単に2つの失敗事例についてご紹介します。

 


青森県青森市の場合

青森県青森市のJR青森駅前に、2001年に再開発ビル「アウガ」が建設されました。青森市が185億円ほどを投じており、コンパクトシティの象徴として、全国の自治体からも視察が押し寄せるほど注目されていました。

 

「コンパクトシティの成功例」として一時注目を浴びましたが、実際には開業当初から大幅な赤字続きでした。2008年になると運営していた第三セクターが巨額の債務を抱え、経営難になっていることが明らかになりました。結局、立て直しは断念され、市庁舎の1つとして活用されることとなりました。継続性の観点から残念ながら失敗事例の1つとなります。

 


福島県会津若松市の場合  

福島県会津若松市では、地域活性化の取り組みとして、経済へアプローチを行った「地域限定で使用できる電子マネー」の発行を開始しました。

 

この電子マネーは地域でしか使えない代わりに、地域の加盟店で使うたびに「ポイント」を貯めることができ、ボランティアへの参加などによってもポイントが付与されます。そして手に入れたポイントは、地域での買い物で使えるという地域密着型の電子マネーです。地域での消費を促すだけでなくボランティアへの参加も促そうとしている点で独自性が見られます。

 

しかし、結局この電子マネーはうまくいかず頓挫してしまいます。理由としては、肝心の地域の人たちの間で認知が広がらなかったことや、この電子マネーを使える店舗が、わずか11店舗に過ぎなかったことなどが挙げられています。電子マネーでの決済総額はたったの約18万円だったほどで、持続できなかったこともあります。ですが、その教訓を活かして2023年4月にはデジタル地域通貨「会津コイン」を開始しますので、失敗とは言えないかもしれません。

参照:https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2013101500018/
 



地域活性化を成功させるには

上記でご紹介したような成功・失敗事例から導き出される、地域活性化に成功するポイントとはどのようなことなのでしょうか?
ここでは3つに絞ってご紹介します。

 


安易に成功事例に飛びつかない  

まず1つ目のポイントは、その地域の課題をしっかり分析することです。

 

「これまでにない新しいことを取り組まなければいけない」
「他の地域の成功事例と似たようなことをしなければいけない」

 

そのように思われる方がいるかもしれませんが、そうではありません。

 

きちんと地域の課題についての分析を行い、次に地域にある文化や産業、特徴などに注目する。そして、それをどのようにしたら活かせるのかと考えていくことで地域活性化につながっていくはずです。地域の魅力や課題はそれぞれ異なるので、他の地域で成功した事例をそのままあてはめるのはおすすめできません。

 


専門人材に頼り多くの人材を囲い込む  

2つ目のポイントが、地域とさまざまな関わり方をする人々である「関係人口」を創出するため、熱意やスキルを持つ人材を囲い込むことです。

地域社会を変えていくためには自分達だけではどうしても限界があります。

 

そのため「地方創生人材支援制度」というものを政府では推進しているのです。地域の独自性や特徴はその地域の人にしかわからないかもしれません。しかし、その認知度を高めるためのマーケティングは外部の人材に入ってもらった方が成功する確率を高められる可能性があります。

 

「デジタル専門人材」や脱炭素分野に知見を有する「グリーン専門人材」などについて国からの紹介を受けられる制度も存在しています。興味のある方はこちらの制度に頼るのも1つの手段です。
 


中長期的な視点で考える  

ポイントは中長期的な視点で考えることです。地域社会の活性化は短期的なものでなく、中長期的な視点で行われるものです。長期的な計画を立て、調整を重ねながら地道に関係構築、活動を行うことが求められます。たとえ結果が出たとしても一過性のものでは意味がありません。

 

即効性がある解決策はほとんどありません。しっかりとした企画の設計を行い、魅力を誰にどのように伝えるのか、地域の課題と独自の強みなどを慎重に議論する必要があり、長期的な視点で事業モデルを作成し、地域が持続的な発展や成長を遂げることが重要です。

 



地域活性化の取り組み紹介!地方自治体の移住者支援

国が進めている移住者支援についてもご紹介します。
上手に活用することで、移住を考えている方の後押しにつながるはずです。

 

ここでは移住支援金と起業支援金について解説します。

 

①移住支援金

移住支援金とは、東京23区に在住または通勤する方が、東京圏外へ移住し、起業や就業等を行う方に、都道府県・市町村が共同で交付金を支給する事業です。世帯の場合は100万円以内で支給が行われるようで、受給資格などの詳細は下記にまとめられています。

参照:「地方創生移住支援事業の概要」(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局内閣府地方創生推進事務局)

 

②起業支援金

起業支援金という制度もあります。これは東京圏以外の地域での起業を後押しするための制度です。起業のための伴走支援と事業費への助成(最大200万円)を通して、効果的な起業を促進し、地域課題の解決を通して地域活性化を実現することを目的としています。なお、事業分野としては、子育て支援や地域産品を活用する飲食店、買い物弱者支援など地域の課題に応じた幅広いものが想定されます。

 

都道府県が選定する執行団体が、計画の審査や事業立ち上げに向けた伴走支援を行うとともに、起業に必要な経費の2分の1に相当する額を交付します。

参照:受給資格詳細
 



まとめ

政府や自治体では、人口減や少子高齢化を解消するため様々な活動を行なっています。しかし、地域活性化は簡単なことではなく試行錯誤が続けられています。

 

今回の記事では地域活性化の成功例や失敗例、成功するためのポイントや制度など幅広い観点から地域活性化について取り上げてきました。社会的な意義が大きい反面、地道で長期的、そして正解がわからないことも多い地域活性化。携わる方たちの参考になれば幸いです。


▶監修・解説:並木将央氏

日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長。

1975年生まれ。東京理科大学大学院工学研究科電気工学専攻博士前期課程修了、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社、つくば研究開発センター研究員勤務。法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科修士課程修了。株式会社ロードフロンティアを設立し、成熟社会経営コンサルティング、企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。人口減少に伴う「成長社会」から「成熟社会」という社会の大きな変化に対応した経営変支援。人材獲得、人材育成、業務効率化、資金繰り、売上UPなどの課題を同時解決するコンサルティングサービスを提供。




■関連する記事