シビックテックとは?注目される背景や導入効果・取り組み事例
昨今注目されているのが、市民(Civic)がテクノロジー(Technology)を活用して地域課題解決を目指す取り組みである「シビックテック(CivicTech)」です。コロナ禍などで社会環境が大きく変化し、価値観も多様化する中で、ますます難しくなっている地域課題解決の手段として用いられています。
しかし、聞き慣れない方もいるかもしれません。本記事では、わかりやすく噛み砕いた形で、シビックテックの歴史から実際の国内事例、成功するためのポイントなどを解説していきます。
▶監修・解説:並木将央氏
日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長 並木将央氏。
2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。
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シビックテック=「市民がテクノロジーを活用して地域課題解決を目指す取り組み」
「シビックテック(CivicTech)」とは、「市民(Civic)」と「テクノロジー(Technology)」をかけ合わせた造語です。市民がテクノロジーを活用して、行政の問題や社会課題を解決する取り組みのことを指します。
簡単に言い換えれば、「地域に必要な仕組みを市民と行政が手を取り合って考え、データやIT技術を活用して具現化したり、既存の公共サービスをみんなで使いやすいものにしたりする活動のこと」です。
アメリカで始まったこの取り組みは、世界中に波及しており、ヨーロッパや日本でも浸透しつつあります。
シビックテックが注目されている背景
コロナ禍などで社会環境が大きく変化するだけでなく、価値観も多様化する中で、社会課題が複雑化してきました。そのような状況の中で、すべての課題解決を行政に任せるだけでは解消することも難しくなってきました。
そこで市民がテクノロジーを活用して、地域が抱える課題を解決しようとする取り組みが広まっています。近年のテクノロジー化は著しく、クラウドサービスの普及やアプリケーションの開発支援ツールの登場、メタバース発展を続けています。また、国や地方自治体による公共データの開放・利活用の推進(オープンデータ)なども進められていることから、行政×テクノロジーによる課題解決が進められているのです。
アメリカで生まれた背景
アメリカの行政学者ケトルが2008年に提唱した概念である「自動販売機型政府」。行政サービスを自動販売機から商品を購入するように、市民が安易で当たり前のものと考える習性を指したものです。
システム化された行政組織では対応できる社会課題に限界が生まれました。そこで行政が「プラットフォーム」のような形で自ら課題解決をしつつ、議論や解決のための手段を考えられる場を提供する存在になろうとしているのです。
アメリカでは2000年代から広がりを見せ、オバマ大統領が2009年に「透明性とオープンガバメントに関する覚書」を公表したことが大きな転換点となりました。自治体が保有する情報を市民が利用できるように公開される流れができ、市民参加型の行政・政府へと変わっていったのです。
アメリカでは様々な団体が活動していますが、その中でも有名なのが非営利組織「Code for America」です。この団体では、行政のIT導入支援や市民の啓発・教育、シビックテックの起業家の育成など幅広い取り組みを行なっています。例えば、1年間エンジニアを雇用し、行政機関にヒアリングを行いWebサイトやアプリなどの開発を行っています。
シビックテックの狙い
シビックテックとは具体的にどのような活動なのでしょうか?
シビックテックなどを支援しているアメリカの慈善団体「ナイト財団」が公開した資料によると、大まかに5つのカテゴリーに分けられるとしています。
<5分野>
● Government Data(オープンデータの利活用)
● Collaborative Consumption(共同消費、シェアリングエコノミー)
● Crowd Funding(クラウドファンディング)
● Social NetWorks(地域ネットワーク)
● Community Organizing(市民が参加するコミュニティづくり)
ナイト財団:「The Emergence of Civic Tech:Investments in a Growing Field」
こうしたシビックテックを進めることによって下記のようなメリットが生まれるかもしれないのです。
● 公共サービスの向上
● 市民参加型の地域社会の実現
● 行政の透明性の向上
● オープンデータの活用などによる新たなビジネスの誕生 など
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日本におけるシビックテックの取り組み
シビックテックは「スマートシティ」と非常に相性がよく、日本各地でも取り組みが進められています。スマートシティとは、ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメントの高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域のことを指します。
持続可能な都市や地域を作るためには、ユーザーである市民の声を欠かすことはできません。そこでスマートシティを作る一環として、シビックテックが広がりを見せています。
コロナで東京都が開設した「新型コロナウイルス感染症対策サイト」はシビックテックの代表例です。サイトの開発を請け負った東京の非営利団体「コード・フォー・ジャパン(Code for Japan)」が1週間ほどでサイト構築を行い、公開したことから話題を呼びました。
サイト構築にあたり、開発プラットフォーム「GitHub」にソースコードを公開し、多くの市民エンジニアからの意見が寄せられたことで、システムの改良や多言語対応などにつながったそうです。また、公開されたコードを他の自治体がオープンソースによって、各県版のコロナ対策サイトの構築にも役立ったそうです。
参考:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd123120.html
こうした例だけでなく、日本各地で進められている取り組みの具体例について紹介します。
シビックテックの取り組み事例5選
それでは日本各地のシビックテックの取り組み事例についてご紹介します。
1.ゴミの分別・収集アプリ「5374(ゴミナシ).jp」
市民にとって身近な「ゴミの捨て方」にフォーカスしたシンプルなスマホアプリです。「どのゴミがいつ収集されるのか?」をアプリケーションで表示します。アプリで地域を選択しておけば、その日に捨てることができるゴミが表示されるような仕組みになっています。
ソースコードは常時、管理サービス「GitHub」にて公開されており、地方公共団体が提供するゴミ収集に関するデータを活用しています。金沢市からスタートし、日本各地へ広がっています。
URL:http://5374.jp/
2.保育園検索アプリ「さっぽろ保育園マップ」
札幌市の市民団体が開発したのは、幼稚園や保育園の情報を地図上で表示して子どもをどこに預ければよいかがわかる「さっぽろ保育園マップ」です。マップに表示される保育園アイコンを選ぶと、運営時間や検索機能、認可状況などが一目でわかります。
元々、管轄が文科省や各自治体などに分かれており、一元化された情報がなかったそうです。分散した情報の中から子育てをしながら家庭の事情に合わせて保育園を探すことは簡単ではありませんでした。同様の悩みを抱える方たちが、子育ての負担を解決するために開発したのがこのアプリです。
一目で必要な情報がマップ上でわかるようになっているので、簡単に開園時間や空き状況などがわかり保育園が選びやすくなっています。
3.課題共有アプリ「千葉市民協働レポート(ちばレポ)」
「ちばレポ」は、地域で起こっている公共インフラなどの課題や問題点を市民が投稿し、それをオープンデータとして活用することで市民と政府で共有できるアプリケーションです。
● ガードレールの落書き
● 路面の陥没
● 雨の日になると道路冠水が起こる
などの報告を市民が自分の携帯電話で写真や動画を撮影し、専用アプリで投稿します。そうした投稿に対して市の担当者はもちろん、市民が自ら対応して解決を図る場合もあるようです。街の困り事を解決するだけでなく、報告した方に対して感謝を伝えられる機能、使用している方のモチベーションが高まるような配慮も凝らされています。
全国版のシステムも開発されるほどで、オープンガバメントの代表例として扱われることも多い取り組みです。
参考URL:https://www.city.chiba.jp/shimin/shimin/kohokocho/chibarepo.html
4.子育て情報提供アプリ「のとノットアローン」
このアプリは「子育て中の母親たちが孤立しないように」という目的で、子育て世代が中心になって作られたものです。石川県奥能登地方では、以前は子育て情報が手に入りにくいため、孤立化することもあったそうです。そこでそうした課題を解決するため、子育て世代のためにイベントや施設など子育てに役立つ情報を提供しています。
具体的には、公園やお店などの情報をマップ上で表示しているほか、イベントをカレンダー形式で表示し、厳選した子育て支援場所リストがわかるようになっています。また、おむつ交換所の場所、屋内で遊べる場所なども掲載されており、子育てに役立つ情報がまとめられています。
参考:のとノットアローン
5.消火栓検索アプリ「会津若松市消火栓マップ」
雪が積もる冬の消火活動で、どこに消火栓があるのかわからないという地元の消防団員の悩みを解決するために生まれたアプリです。
会津若松市の消防水利位置データを使用し、PCやスマートフォン上のGoogle Map上に周囲の消火栓や消化水槽を表示します。現地に到着するまでの間に消火栓や最短ルートが把握できるようになりました。火事現場が不慣れな場所であっても、瞬時に水場の位置情報を把握することでき、迅速な消火対応をすることが可能となったのです。
参考:https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/02_od100_cases_all.pdf
シビックテックを目指すには「オープンデータ」の活用が重要
これまで見てきたシビックテックは行政側のオープンデータを元にしていることが多いです。オープンデータを市民が中心となって上手に活用し、社会課題解決に向けた取り組みは今後ますます進んでいくと思われます。
日本では「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」というIT戦略をまとめた資料の中で、オープンデータを「データ流通の始点」として位置づけ、政府や地方自治体によるオープンデータ化の促進を後押ししています。
また、デジタル庁でシビックテックの非常勤のプロジェクトマネージャーを勤めている方が、活性化するための施策や今後の方針などをまとめています。特に今後注力していくことについては下記の3つを挙げていました。
● オープンソースの推進と共創環境づくり
● データ戦略の推進
● 官民の垣根を超えたコミュニティづくり
しかし、デジタル庁が全国の都道府県と市区町村を対象に行ったアンケート(2022年度)(https://www.digital.go.jp/resources/data_questionnaire/)からは、多くの課題がわかります。オープンデータに取り組むための「人的リソースがない」を選んだ自治体が約55%もあり、「メリット・ニーズが不明確」と約50%もの自治体が回答しています。
全国的に始まったシビックテックですが、まだまだオープンデータに対してはハードルがああります。こうした課題を解決するために、市民の主体的な働きかけやさらなる成功例の発信などが鍵を握っていくはずです。
まとめ
IT技術が格段に進化する中で、コロナ禍によってますますIT化が加速しました。人々の働き方や生き方、地域社会のあり方などを改めて見つめ直す機会になったともいえます。
そんな中で注目を集めている「シビックテック」。今回の記事では概要や歴史的な流れ、実際の取り組み事例などをご紹介してきました。今後の日本社会の課題を解決していくうえでシビックテックは今後ますます発展していくでしょう。
官と民、どちらの協力が欠けても実現することはできません。また、政府だけでなく自治体に関わる方々の行動も必要不可欠となってきます。
▶監修・解説:並木将央氏
日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長。
1975年生まれ。東京理科大学大学院工学研究科電気工学専攻博士前期課程修了、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社、つくば研究開発センター研究員勤務。法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科修士課程修了。株式会社ロードフロンティアを設立し、成熟社会経営コンサルティング、企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。人口減少に伴う「成長社会」から「成熟社会」という社会の大きな変化に対応した経営変支援。人材獲得、人材育成、業務効率化、資金繰り、売上UPなどの課題を同時解決するコンサルティングサービスを提供。