デマンド交通とは?言葉の定義や取り組み事例を解説
「デマンド交通」という言葉をご存じでしょうか?
予約する利用者に応じて運行する時刻や経路が変わる交通方式のことで、予約がある場合のみ運行がなされます。縮小する公共交通機関の代替手段として全国各地で導入が進んでいる注目の輸送サービスです。
ただ、デマンド交通の用途や定義は多岐に渡り、混同されやすい概念でもあります。
そこで今回の記事では、路線バスやタクシーとの違いや長所・短所、実例、費用などについて解説します。
▶監修・解説:並木将央氏
日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長 並木将央氏。
2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。
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デマンド交通とは「事前予約制の交通サービス」
人口減少や少子高齢化などでバスの公共交通機関を利用する人が全国的に減少し、不採算部門の廃止や縮小などが進んでいます。買い物難民の防止や高齢者の福祉のため、コミュニティバスの導入も進んでいますが、利用者の運送コストは増大し、自治体の財政をひっ迫するようになりました。
そこで新たな輸送サービスとして注目を集めているのが、予約する利用者に応じて運行する時刻や経路が変わる「デマンド交通」です。路線バスのように決まった停留所に止まるものや指定エリア内をタクシーのように自由に使うことができるものなど様々なタイプが存在しています。
デマンドとは消費者の欲求のこと
少し古い資料にはなりますが、国土交通省の「デマンド型交通の手引き」(2013年)によると、下記のように定義づけられています。
デマンド型交通は、正式には DRT(Demand Responsive Transport:需要応答型交通システム)と呼ばれ、路線バスとタクシーの中間的な位置にある交通機関です。事前予約により運行するという特徴があり、運行方式や運行ダイヤ、さらには発着地(OD)の自由度の組み合わせにより、多様な運行形態が存在します。平成 18 年の道路運送法の改正により、デマンド型交通も道路運送法に基づく乗合事業に位置づけられ、一般的には地域公共交通会議で協議が調うことが運行許可の条件となっています。
参考:https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/content/000104104.pdf
つまり、デマンド=消費者の需要を指しており、需要に応じた運行を行う交通方式と定義づけられているのです。
路線バスやタクシーとの違いは「移動範囲と予約制・乗合」
デマンド交通は路線バスとタクシーを合わせたようなものですが、違う点も存在しています。違いについて下記の表にまとめました。
デマンド交通
利用範囲:指定なし
予約の有無:予約
利用形態:乗合
時間:決まりなし
タクシー
利用範囲:指定なし
予約の有無:予約してもしなくても利用可
利用形態:個人
時間:決まりなし
路線バス
利用範囲:指定されたエリア(バス停のある路線のみ)
予約の有無:不要
利用形態:乗合
時間:時刻表に基づく
デマンド交通の3つの種類と考え方
デマンド交通には様々な種類が存在していますが1.運行方式、2.運行ダイヤ、3.発着自由度の3点で違いがあります。それぞれの特徴を詳細に解説します。
1. 運行方式
デマンド型交通は、予約があった時のみ運行する方式 で、運行方式・時刻・発着地などを自由に組み合わせることができ、 多様な運行形態が存在します。いくつかのタイプを運行方式の観点からご紹介します。
<定期路線型>
まず1つ目が、路線バスやコミュニティバスなどで採用されている「定期路線型」です。予め定められたルートを運行し、所定のバス停で乗降をしますが、予約がある場合のみ運行します。無人でバスを走らせることがなく、コスト削減ができるといったメリットがあります。
<迂回ルート・エリアデマンド型>
2つ目が定期路線型をベースにしつつも、需要に応じて定められた迂回ルートを運行する方式の「迂回ルート・エリアデマンド型」です。所定のルートでは遠い場合などに活用される方式で、公共交通空白地域の解消を図ることが可能です。
<自由経路ミーティングポイント型>
3つ目が運行ルートは定めずに予約に応じたバス停や指定の場所を結ぶ「自由経路ミーティングポイント型」です。予約に応じて、指定されたバス停間を最短経路で結ぶ方式。多くのバス停を設置することにより、バス停までの歩行距離を短縮することができ、所要時間の短縮もできることがメリットです。
<自由経路ドアトゥドア型>
最後が、タクシーのように自由に乗降することができる方式です。指定エリア内で予約のあったところを巡回する運行方式で、目的施設または発施設を限定する場合もあります。
2. 運行ダイヤ
運行ダイヤで見てみると、こちらは3つに分かれます。
1) 固定ダイヤ式
路線バスのように運行ダイヤが定められており、予約があった場合のみ運行します。
2) 基本ダイヤ型
運行の頻度やおおむね発着時刻のみが設定されています。
3) 非固定ダイヤ型
運行する時間内であれば、需要に応じて随時運行するタイプです。
3. 発着地自由度
発着の自由度については、大きく固定型と非固定型に分かれます。
その中で、発着場所が限定されているタイプ、発着場所が全く限定されていないタイプなどの要素を組み合わせることで分類が可能です。
デマンド交通のメリット・デメリット【路線バスやタクシーとの比較】
次にデマンド交通が持つメリットとデメリットについてそれぞれ解説していきます。
<メリット>
● 公共交通機関の運営コストの削減ができ、各自治体の財政負担を軽減できる
● 利便性が高まり、利用者のニーズに合わせた運行が可能となる
● 公共交通空白地域の解消を図ることができ、過疎地でも生活の足を確保できる
まず大きなメリットとしては財政負担を軽減できる点です。これまで従来型の路線バスでは乗客がいなくとも運行を行わなければならず、赤字路線として問題視されてきました。しかしデマンド交通の場合は実状に合わせた形で運行できるので、コスト削減が可能となります。また、利用者としてもタクシーほど高価な費用を払わずとも生活の足を確保できるようになるため、ニーズに合った交通手段を確保できるようになります。運営と利用者どちらにもメリットがあることが特徴です。
<デメリット>
しかし、その一方で、デメリットも存在しています。
● 運賃が路線バスよりも高くなる
● ニーズは多様なので、全員が満足できる交通システムを提供できない可能性がある
● 予約が大変なため、敬遠される
一度に多数の乗客を乗せられる路線バスと比較すると、少人数の乗客を乗せて運行するため、どうしても運賃がバスよりも高くなってしまう傾向にあります。また、デマンド交通は予約制のため、予約手続きが煩雑な場合、別の交通手段を選んでしまう人もいます。こうしたデメリットも、デマンド交通には存在しているのです。
デマンド交通を導入するためのポイントは「地域の移動需要」
メリットやデメリットを考えるうえで必ず検討いただきたいのが「どんな需要があるのか」です。
デマンド交通には様々なタイプが存在していますが、やみくもに導入をしてもうまく行かない可能性が高いです。地域の特性や移動の需要、その背景などをきちんと分析したうえで妥当性がある判断を行うことが重要です。「その地域で生活する住民にとって本当に使い勝手の良い交通手段といえるのか」という観点から検証していく必要があるでしょう。それをおろそかにしたまま導入をすればせっかく導入しても、住民に使ってもらえません。
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デマンド交通の事例と費用
次にデマンド交通の実例や実際にかかっている費用などについてご紹介します。
広島県安芸太田町の「あなたく」
安芸太田町は人口約8000人ほどの中山間地域で、少子高齢化が進んでいる町です。バス路線の徹底から地元業者への委託を行っていましたが、収支の悪化によりデマンド交通の導入を決定しました。
予約は地元のタクシー会社に電話で予約、 運賃は一律区域内200円。時間固定・路線迂回型の運行で、特定のバス停や山間部の運行対象内では任意に乗降が可能となっています。
特に効果があったのは高齢者で、国土交通省の資料の中では下記のように着実な成果につながったことが報告されています。
「26%の利用者の外出回数が増加した。また、外出回数が増加したと回答した利用者は、免許証を所有しない高齢の女性が多かった。町の中心部の医療機関や商業施設への外出が多くなる結果となり、高齢者の移動手段の確保につながった」。
一方で2006年のデマンド運行経費は、タクシー借上げ料、事務管理費で、年間約 5,500 万円ほど。行政側の負担になっていることから利用状況の悪いエリアでは利用状況に応じた運航日とする改善が必要と報告されています。
滋賀県東近江市「ちょこっと号」/「ちょこっとバス」
東近江市は滋賀県の東南部に位置する自治体で、快適な街づくりのために路線バスの再編や充実が課題となっていました。そこでコミュニティバスと乗合タクシーを組み合わせた形でデマンド交通の導入を決定しました。(予約はタクシー会社への電話予約で、運賃は大人<中学生以上>は200円、子ども・障がい者・介護者は100円。)
国土交通省の資料の中では、「『コミュニティバスによる運行では財政負担上、維持が厳しい状況であったが、タクシーによるデマンド運行に切り替えて大幅に財政負担の削減ができた』『 コミュニティバスの廃止により公共交通空白地域を増やすことなく、予約の手間が必要であるが地域住民の足が確保されている』」などの効果が指摘されています。
ただ、こちらの場合も、財政負担が問題となっています。2007年度の運行費用は約200万円。地域活性化という観点では利用者数を増やしていきたい一方で、メーター料金での精算を行政側と行う契約形態をとっているため、財政削減の視点では利用者数が増えると財政負担が増えるというジレンマに陥っているとのことでした。
失敗するケース
デマンド交通には成功だけなく失敗するケースも存在しています。いくつかの類型を見ていきましょう。
①とにかく入れてみたケース
「デマンド交通」や「乗合」などの言葉が先行し、導入自体が目的となってしまった場合です。走らせること自体が目的となってしまい、ニーズの調査や収支計画などが甘く、自治体の財政を悪化させてしまう要因となってしまうこともあります。
どのような役割で、何のために導入するのか。また、それは本当に地域の交通需要と合っているのかなど検討しましょう。
②地元住民や交通事業者との調整不足
住民や交通事業者との調整不足があると、導入に失敗するケースが多いです。
例えば、交通事業者から「民業圧迫」という先入観を持たれてしまうことで、協議が進まない(平行線のまま実現に至らない)ことや、他地区の住民から反対が起きること、認知不足など様々な摩擦が考えられます。
事前にそうした不満を解決しておかなければ円滑な運行は難しいかもしれません。
【MaaSの社会実装】デマンド交通の新しいカタチ
MaaSとは「新しい交通サービスの概念」
MaaS(マース)とは「Mobility as a Service」の略です。バス、電車、飛行機などの交通手段をIT技術で連携させ、利便性向上を実現する手段のことです。予約や支払いなどを個別するのでなく、アプリで一括して連携できるようにすることを指します。
こうした連携を進めることで、ただ移動の利便性が向上するだけでなく、観光や医療等の目的地における交通以外のサービスとの連携により、地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。
先進事例|京都府相楽郡南山城村での過疎地型MaaS
少子高齢化や人口減などで、交通空白地帯の拡大という課題を抱えている京都府相楽郡南山城村では、2020年2月13日〜3月31日にかけて過疎地型MaaSの実証実験が行われました。
アプリを活用することで、ルート検索や交通サービス予約、デジタルチケットの発行などが可能となります。既存の鉄道やバスやデマンド交通などをアプリ内で一括で利用することができ、移動手段を持たない人が積極的に外出したり、商業施設への来客が増えたりすることで地域の経済活性化に期待を集めています。
まとめ
人口減少や少子高齢化などで縮小する公共交通機関の代替手段として用いられ始めているのが、「デマンド交通」です。今回の記事では概念や長所・短所、実例、費用などについて解説をしてきました。
買い物難民の防止や高齢者の福祉など地域活性化では使い方によっては多くのメリットが見込めます。ただ、デマンド交通は導入自体はそこまで難しくありませんが、費用面などで財政負担になることがあり、継続して運行することが難しいです。運用の最適化など今後も改善が必要となってくるでしょう。
これから導入を検討されている担当者様、運用を改善したい担当者様の参考になれば幸いです。
▶監修・解説:並木将央氏
日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長。
1975年生まれ。東京理科大学大学院工学研究科電気工学専攻博士前期課程修了、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社、つくば研究開発センター研究員勤務。法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科修士課程修了。株式会社ロードフロンティアを設立し、成熟社会経営コンサルティング、企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。人口減少に伴う「成長社会」から「成熟社会」という社会の大きな変化に対応した経営変支援。人材獲得、人材育成、業務効率化、資金繰り、売上UPなどの課題を同時解決するコンサルティングサービスを提供。