【担当者インタビュー】
現場に学ぶ! 自治体DXの取り組み事例5選
「他自治体のDX化に向けた取り組み事例を参考にしたい」
「地域課題解決に役立ちそうな事例を探している」
「自治体でDX化を成功させる秘けつを知りたい」
自治体でDX推進を行おうと思っても、今一歩踏み込めないでいる自治体も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、自治体DXに必要な6つの重点取り組み事項と自治体DXの取り組み5事例を解説します。
最後まで読めば、地域課題解決に向けての事業立案ができるほか、積極的にDXに取り組めるきっかけが掴めるでしょう。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
●監修者の詳細な経歴はこちら
自治体DXするために必要な6つの重点取組事項
総務省は自治体業務をDX推進に、自治体は以下6つの事項に取り組む必要があると提示しています。
1.自治体の情報システムの標準化・共通化
2.マイナンバーカードの普及促進
3.自治体の行政手続のオンライン化
4.自治体のAI・RPAの利用推進
5.テレワークの推進
6.セキュリティ対策の徹底
自治体の情報システムの標準化・共通化
政府は自治体における情報システムの標準化・共通化を図るべく、2025年までに自治体の基幹業務システムを標準準拠したシステムに移行すると目標を定めています。
システム移行により業務標準化する基幹系20業務は以下のとおりです。
基幹系20業務
住民基本台帳/印鑑登録/固定資産税/個人住民税/法人住民税/軽自動車税/就学/介護保険/障害者福祉/児童手当/子ども・子育て支援/戸籍の附票/選挙人名簿管理健康管理/児童扶養手当/生活保護/後期高齢者医療/国民年金/健康管理/国民健康保険/戸籍
自治体の情報システム運用経費はシステム移行完了予定後の2026年までに、2018年度対比3割削減を目標とします。また、国のコスト削減目標は2025年度までに2020年度比3割削減です。
マイナンバーカードの普及促進
政府は、2022年度末までにほぼ全国民へマイナンバーカードが行き渡ることを目指し、マイナポイントの配布や新型コロナワクチンの接種会場での申請受付に注力してきました。
しかし、2023年1月9日時点で普及率は約66.3%に留まっています。
マイナンバーカードの利用場面は拡大しており、2022年6月7日の閣議決定で具体的に以下のような利用場面が明らかにされました。
● マイナンバーカードの保険証利用
● 運転免許証や在留カードとの一体化
● 図書館カードや市町村の施設利用証としての活用
参考:総務省 マイナンバーカードの申請状況【2023年1月9日時点】
参考:経済財政運営と改革の基本方針2022【2022年6月7日閣議決定】
参考:デジタル田園都市国家構想基本方針【2022年6月7日閣議決定】
自治体の行政手続のオンライン化
品質・コスト・スピードを兼ね備えたオンライン行政サービスは、2025年度をめどに実現が予定されており、2023年1月現在、デジタル庁が中心となり必要な制度やシステムを検討中です。
行政手続のオンライン化では「データの分散管理やセキュリティ」「個人情報保護」「災害に対する強じん性」を確保しつつ、官民が持つ情報と住民接点を最大限活かし、住民に寄り添った支援の仕組み(デジタル・セーフティーネット)構築を目指しています。
行政手続のオンライン化により行政事務職員の負担軽減が期待されるほか、以下の31の行政サービスをオンライン化すると手続きコストが1.3兆円削減できるとの調査結果が出ています。
自治体のAI・RPAの利用推進
2021年12月31日時点における、自治体のAI・RPA利用率は以下のとおりでした。
AI
導入済み:672団体/1,788団体
都道府県:100%
指定都市:100%
その他市町村:35%
RPA
導入済み:557団体/1,788団体
都道府県:91%
指定都市:95%
その他市町村:29%
上記のとおり自治体規模の大小にかかわらず、業務効率化に必要なツールを前向きに利用している自治体が多数を占めていることがわかります。
導入件数の多い業務ツールは「音声認識・文字認識」であり、2021年度の音声認識導入件数は前年度対比1.8倍の431件。文字認識導入件数は1.56倍の429件となり、前年度対比プラスとなりました。主に音声テキスト化による会議録作成やAI-OCR(申請書読み取り・調査票読み込み・アンケート読み込み)に使用されています。
また、チャットボットによる応答やAIを使った数値予測などの機能は、未だ導入件数は少ないものの、2018年以降年々増え続けています。
このように自治体ではAl・RPAが普及しつつありますが、自治体からは「取り組むための人材がいない、または不足している」「取り組むためのコストが高額であり予算を獲得するのが難しい」といった課題が挙がりました。
こうした課題に対し、国は取り組み方針として以下のとおり、複数団体による共同利用の検討や、区町村のニーズを踏まえ、共同利用の支援等を示しています。
【国の主な支援策】
・ AI導入ガイドブック改訂版を自治体に共有
・ RPA導入ガイドブックを自治体に共有
・「自治体 DX 推進手順書 参考事例集」を充実化する
・AI・RPA導入経費は特別交付税(措置率 0.3)を講じる
● ※情報システムの標準化・共通化を行う20業務は除く
※なお、都道府県、市町村が協定の締結等をした上で共同調達を行う場合には特別交付税(措置率 0.5)を講ずる
テレワークの推進
2022年10月1日時点における、自治体のテレワーク導入状況は以下のとおりです。
都道府県:100%
政令都市:100%
市区町村:62.9%
2021年度の市区町村テレワーク導入状況は49.3%であり、導入率は前年に比べて上がっています。未だ導入を進めていない市区町村で多く寄せられたのが「情報セキュリティの確保に不安がある」との声です。
情報セキュリティは、行政専用のネットワーク(LGWAN)を利用することで解消可能です。LGWANは「地方公共団体情報システム機構」および「独立行政法人 情報処理推進機構」が共同で提供するネットワークで、セキュリティ対策が施されているためです。
総務省と厚生労働省は、システムや情報セキュリティなどのアドバイスが受けられる、専門家の無料相談支援(テレワークマネージャー)を提供しています。
セキュリティ対策の徹底
デジタル庁および総務省は、地方公共団体のガバメントクラウド活用に関するセキュリティ対策の方針を決定しました。
以下参考リンクには、国・地方公共団体・クラウド事業者・アプリケーション提供事業者等の責任分界等の詳細が記されています。
【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する日本最大の展示会
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現場に学ぶ!自治体DXの取り組み事例集【単独インタビュー】
上記で紹介した自治体DX推進における6つの重点取り組み事項のうち、以下5事項の事例を紹介します。
● マイナンバーカードの普及促進
● 行政手続のオンライン化
● AI利用推進
● テレワークの推進
● セキュリティ対策の徹底
高知県南国市が行う「マイナンバーカード普及促進」の取り組みについては、インタビューを実施しました。取り組みの苦労や住民の反応なども紹介していますので参考にしてみてください。
山形県の行政手続のオンライン化導入事例
山形県は市町村と2022年12月末時点で11回、情報共有・意見交換の場を設け、行政手続きのオンライン化を進めていきました。
□行政手続をオンライン化した経緯・きっかけ
山形県が行政手続きをオンライン化した理由には、以下3つが挙げられます。
● 新型コロナウイルス感染症対策の一環として対面手続きを減らすため
● 働き方改革により職員が自席に不在でも対応できる環境づくりが必要なため
● 書面、押印、対面規制の見直しといった政府の動向を受けて
□市町村は電子申請サービスをどのように使っているか
山形県内の各市町村でオンライン化されたサービスは以下のとおりです。
市町村と具体的な業務
山形市
・児童手当関係届出(新規認定請求など)※1
・危険物取扱者選任届出書
・消防訓練通知書
舟形町
・舟形町学生応援特産品給付事業申込フォーム
・令和2年度舟形町職員採用試験受験申込
・令和2年度舟形町成人式の出欠確認
南陽市
・粗大ごみの収集申込
・犬の登録申請、死亡届
・水道開栓・閉栓受付票 ※1
酒田市
・オンライン申請促進キャンペーン(酒田市電子申請促進奨励金)応募申請 ※1
・認可保育所・認定子ども園の入所申込書の事前送信 ※1
・「みんなでつくろう!世界一あたたかいバリアフリーマップ」
・ 参加者アンケート
※1 マイナンバーカード利用手続
□行政手続オンライン化の課題はどのように解決したか
オンライン化にあたって各市町村が気になるのは導入費用。その課題に対して山形県は以下のように説明し、申請サービスの共同利用によって負担が大きくないことを提示しています。
「山形県で契約している電子申請サービスを用いる場合は導入費用ゼロ、ただしマイナンバーカード利用手続に関しては特別機器導入に費用がかかる」
また、行政手続オンライン化にメリットを感じられていない職員や住民に関しては、新型コロナウイルス感染症の防止を理由に協力を得ることができました。まずはオンライン化の抵抗感をなくし、簡単にオンライン化できそうな業務からはじめる、と順を追って取り組むことが重要です。
福島県会津若松市のAR導入事例
会津若松市は、市内3つのエリアに音声ARを活用した「まちなか周遊事業」を実施しました。
音声ARとは、専用アプリとGPSを使い、利用者が特定のスポットに接近した際、自動で音声解説やBGMが再生されるものです。日中はデジタル音声観光ガイドとして利用する一方、夜には怪談話や黒電話の音を演出した肝試し体験のツールとして使い分けされています。
利用者は音声を自動で受け取れることで、人との接触を減らしつつ観光を楽しめます。
参考:https://www.soumu.go.jp/main_content/000835268.pdf
□取り組みの経緯・きっかけ
新型コロナの影響で夜間交流人口が激減したため、若松市はコロナ禍でもパーソナルスペースを確保しながら楽しめる「新しい観光コンテンツ」の開発を考えました。
□導入・実証時の支援制度活用
若松市はシステム導入にあたり、内閣府の地方創生推進交付金を活用しました。なお、令和3年度事業費は1,040万かかっています。
□事業の近況
事業を開始してから2か月間の体験者は約3,000名。体験後に飲食店を利用する方が多くみられたことから、夜間のにぎわい創出に貢献できたようです。
広島県府中市のテレワーク環境の整備事例
広島県府中市は、仕事と余暇を組み合わせたワーケーション環境「びんご府中発 自然活用型ワーケーション」をオープンしました。ワーケーション施設はキャンプ場を活用していますが、テレワーク環境が整備されています。
府中市は今後、以下の取り組みを行う予定です。
● ワーケーションメニューの開発
● プロモーション計画の作成
● 施設予約状況確認システム
また、ワーケーションに取り組む4市町(福山市、府中市、神石高原町、岡山県井原市)が連携して情報発信や誘客を図り、利用者の周遊性を高める取り組みも行われています。
□取組の経緯・きっかけ
新たな客層の誘客を目的に、新しい観光スタイルとしてキャンプ場の土地を活用したワーケーション施設を整備しました。
□導入・実証時の支援制度活用
府中市はテレワーク環境の整備に、内閣府の地方創生推進交付金を活用しました。交付金は以下の用途に利用されました。
● トレーラーハウスや府中市主要産業である府中家具の購入
● 高速Wi-Fiの整備
● キャンプ場とワーケーション施設専用の予約システムの設置
なお、令和3年度事業費は2,200万円でした。
□他自治体への問い合わせや視察などを行ったか
府中市は本プロジェクトの参考にするべく、香川県三豊市のトレーラーハウスを視察。視察先と同様の木製のトレーラーハウス(スノーピークと建築家・隈研吾氏が共同開発)を導入しました。
名古屋市のセキュリティ対策事例
名古屋市はセキュリティでスムーズな業務を実現するVDI環境を整備しました。
NVIDIA vGPU(仮想GPU)/ NVIDIA 仮想PC(vPC)のソフトウェアを採用し、オンライン会議・動画視聴・各種クラウドアプリケーションでの快適、効率的な市役所業務を実現しました。
2022年3月に導入された第2世代の全庁VDIシステムでは、市役所職員2,300ユーザーの同時利用が可能です。
□取り組みの経緯・きっかけ
名古屋市が最初にVDI環境を導入したのは2017年です。当時、総務省が示した自治体情報セキュリティ対策の見直しに対応し、LGWAN接続系とインターネット接続系のネットワークを分離するためにVDIを採用しました。
しかし三層分離のセキュリティ強化に主眼を置いていたため、職員の利便性を損なっていました。そんな中、新型コロナウイルス感染症を契機にオンライン会議や動画視聴などが求められるようになったことから、2022年3月に第2世代VDI環境である「NVIDIA vGPU(仮想GPU)/ NVIDIA 仮想PC(vPC)」を導入しました。
□導入効果
従来の環境はオンライン会議が行えず、動画再生やWebブラウジングなどでも動作不良が発生していました。しかし第2世代VDI環境では快適にオンライン会議、動画再生、Webブラウジングが行えるようになり、職員の生産性も向上しています。
また、数分要していたVDIへのログインが20〜30秒に短縮され、VDI環境からネットワークプリンターでの出力が可能に。ハイパーコンバージドインフラ(HCI)製品の採用により、システムの保守・運用面で柔軟に対応できるようになりました。
高知県南国市のマイナンバー普及事例
高知県は健康寿命が全国的にみて短く、また医療費が高いといった問題を抱えていました。そのため、自分の健康は自分で守るための情報基盤として、市民が自らの健康情報を生涯にわたって管理できるマイナンバーカードを利用した「南国市健康ポータル」を平成28年度に開発。
先進的な取り組みとして全国的に注目され、現在も積極的に自治体DX に取り組んでいます。当時南国市情報政策課長としてこの事業にかかわった高知県南国市の崎山さんにお話を伺いました。
□市民の健康意識を改善するため、各種医療・健康管理情報を一元化
⸺「南国市健康ポータル」事業に取り組むことになった背景を教えてください。
崎山: 2015(平成27)年に総務省 地域情報化大賞を受賞した「ポケットカルテ」の横展開事業の提案が通信事業者の方からありました。
南国市が抱えていた課題の解決には自分の健康情報にいつでもアクセスできる環境が必要だという思いがありましたが、当時は、妊娠、出産から亡くなるまでの健康情報が細切れの状態。妊娠期間や乳幼児期は市に情報があり、進学すると教育委員会、社会人になると事業所に情報があるといったように、トータルで個人の健康状態を見られるところがありませんでした。
情報を一元化し個々人が管理することで、健康状態や予防接種の情報を生涯にわたって管理できるものがつくれないか、ということで始まったのがきっかけです。
住民の健康情報管理に加えて、30年以内に高い確率で発生するとされている南海トラフ地震の避難者管理も大きな課題でした。マイナンバーカードを利用して避難者の管理が行え、慢性疾患を抱える避難者の支援につなげるといった展開も行うことで、この課題の解決にも寄与できます。システムにつながったテレビがあれば避難所でも閲覧可能です。
南国市健康ポータルは、市議会の中継や地元のスポーツ関連のNPO 法人と提携した健康関連動画等の提供も行なっており、ケーブルテレビの代替の役割も果たしています。
□マイナンバーカードの普及が今後、自治体DXの鍵となる
⸺システム構築・運用にあたって、苦労したことはありましたか?
崎山: 大きく2つあり、一つ目はマイナンバーカードの普及率が非常に低かったことです。「南国市健康ポータル」は、利用者登録にマイナンバーカードが必須のため、マイナンバーカードの普及無しにシステムを普及させることは不可能です。
今後、自治体がDX やICT に取り組むにあたり、マイナンバーカードが基盤になることは間違いありません。使えるシーンを増やすことも本事業の当初の目的としてあったわけですが、なかなか思うように普及しませんでした。
二つ目は利用者のインターネット環境です。このサービスの主なターゲットは高齢者ですが、高齢者のみの世帯は、インターネット使用率が低く、マイナンバーカードをお持ちでかつインターネットの知識がある方ということになると、かなり限定されます。
同居であれば、お子さん世代の理解も必要になりますので、ニーズがあるであろう高齢者層に届けるのが非常に難しいと感じています。
⸺高齢者層に普及させるための工夫は?
崎山: デジタルデバイド層(スマホを持っていない高齢者)の方に使っていただくために、より身近なテレビを用いています。自宅のテレビに専用機器を取り付け、マイナンバーカードを読み込むことで、健康ポータル上で「電子お薬手帳機能」などの情報を閲覧することが可能です。
普及活動としては、地道に地域で説明会を開いたり、健康イベントなどに出展したりして、ユーザーの確保につなげています。そうした取り組みは、現在も続けています。
インタビューの続きは、こちらから無料でダウンロード可能です。
南国市以外の成功事例についても掲載しております。
まとめ | 先進事例は参考程度に、データに基づいた取り組みを
ここまで自治体DXにおける先進事例を5事例紹介しました。DXは「デジタルを導入して終わり」ではなく、デジタルをいかに活用するかを模索し、考え続けていくことが大事です。現状の仕事をデジタル化しただけではDXとは言えません。
本記事で紹介した先進事例はアイデアの元として参考にしつつ、自治体が有するデータや各々の地域課題を正しく分析し、各自治体の状況に応じたDXを推進することが大切です。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。