ゼロカーボンシティ宣言の背景やメリット・ 自治体の取り組み事例


2021年3月に「2050年までのカーボンニュートラル実現」を明記した法律が閣議決定され、自治体でもカーボンニュートラルの達成に向けた取り組みが進められています。

 

しかしゼロカーボンシティ宣言の背景や実施するメリットがわからないと、計画立案につなげにくいのではないでしょうか。

 

そこでこの記事では、自治体が実施するゼロカーボンシティの取り組み事例を中心に、ゼロカーボンシティの概要や実施するメリットを解説します。


▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
●監修者の詳細な経歴はこちら



そもそもゼロカーボンシティとは?

ゼロカーボンシティとは、温室効果ガスの一種である二酸化炭素の排出量と吸収量がプラスマイナス0の状態である、カーボンニュートラルな都市を指します。ゼロカーボンシティは、2015年に採択されたパリ協定の目標「世界の気温上昇を2℃よりも低く、極力1.5℃までに抑えるよう努力する」から、名称が定められ取り組みが始まりました。

 

地球温暖化による気候変動は世界中で早急に対処すべき課題であり、日本も無関係ではありません。近年は、夏になると線状降水帯による豪雨災害が毎年のように発生し、大きな被害が出ています。

 

地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量は、産業革命以前と比較すると劇的に増加しました。世界の平均気温も1.1℃上昇しているため、温室効果ガス削減は世界共通の課題となっています。

 

2023年1月現在、先進国だけではなく途上国も含めたすべての国がパリ協定に参加しており、日本も2050年に温室効果ガスの排出をゼロにすると表明しました。

 

パリ協定への参加を踏まえて日本で定められた「地球温暖化対策の推進に関する法律」では、「地方公共団体も温室効果ガス削減に向けた施策を策定し、実施するよう努める」と明記されています。

 

こうした経緯から環境省は、「2050年までに二酸化炭素を実質ゼロにする」と宣言した自治体を「ゼロカーボンシティ」と定義しました。

 

以下のいずれかの方法で、ゼロカーボンシティであると表明すると、環境省に認められます。

1.定例記者会見やイベント等において、「2050 年 CO2(二酸化炭素)実質排出ゼロ」を目指すことを首長が表明

2.議会で「2050 年 CO2(二酸化炭素)実質排出ゼロ」を目指すことを首長が表明

3.報道機関へのプレスリリースで「2050 年 CO2(二酸化炭素)実質排出ゼロ」を目指すことを首長が表明

4・各地方自治体ホームページにおいて、「2050 年 CO2(二酸化炭素)実質排出ゼロ」を目指すことを表明

出典:環境省「2050 年 ゼロカーボンシティの表明について」

あわせて環境省では、炭素を減らすためのロードマップを作成。

自治体単位でゼロカーボンを進め、取り組みの輪を広げていき、全国的にカーボンニュートラルな社会の構築を目標としています。

上図の通り、国は「2050年までに確実にカーボンニュートラルを実現する」ために、2030年までを重要な期間と位置付けました。地域の特徴に合わせた方向性を示すために、先行地域を選定し脱炭素に向けた取り組みを進めています。

 

2030年までに行った先行地域の事例を全国へ展開し、日本全国がゼロカーボンシティとなり、持続可能で強靭な活力のある地域社会の実現を目指しているのです。
 



ゼロカーボンシティ宣言の自治体数一覧

2023年1月現在、ゼロカーボンシティ宣言している自治体数は、823自治体(45都道府県、476市、20特別区、239町、43村)あります。

 

全自治体数は1,788のため、2023年1月では約半数である46%の自治体がゼロカーボンシティ宣言をしている状況です。

 

2023年1月時点


宣言した自治体数

都道府県:45
市   :476
特別区 : 20
町   :239
村   :43
合計  :823


全自治体数

都道府県:47
市   :792
特別区 : 23
町   :743
村   :183
合計  :1,788


参考:総務省「広域行政・市町村合併

 

ゼロカーボンシティ宣言を表明した自治体の総人口は約1億2,448万人です。

つまり日本人の約99%は、ゼロカーボンシティ宣言した自治体に住んでいることになります。


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取り組み事例インタビュー|ゼロカーボンシティ宣言した自治体3選

ここからはゼロカーボンシティ宣言をした自治体の事例4つを紹介します。

 

1.山梨県「CO2ゼロやまなし」

2.静岡県沼津市「ゼロカーボンシティNUMAZU2050」

3.埼玉県熊谷市「ゼロカーボンシティくまがや」

 


1.山梨県「CO2ゼロやまなし」

2009年に山梨県では、全国でも先駆けて二酸化炭素排出ゼロを目指す「CO2ゼロやまなし」を宣言しました。そして2021年には全国で初となる、県内全市町村共同で「やまなしゼロカーボンシティ宣言」を実施しています。

 

山梨県では、2019年度の温室効果ガス排出量が、基準年の2013年度と比較し18.2%の削減に成功。2020年度の目標であった18%削減を、2019年ですでに達成することができました。

 

今後の温室効果ガス排出量削減目標は以下の通りです。

 

温室効果ガス排出量の削減目標(山梨県)


2030年(中間目標)
2013年度比 26%削減



2050年(長期目標)

CO2ゼロやまなし=カーボンニュートラル



ゼロカーボンに向けて「CO2ゼロやまなし」では、以下4つの取り組み方針を定めています。

「CO2ゼロやまなし」4つの取組み方針

1. 脱炭素でレジリエントなエネルギー構造への転換

2.グリーンかつスマートな社会経済システムへの転換

3.温暖化対策を通じた地域の高付加価値化

4.各主体によるGXへの参画


今後は再生可能エネルギーで作られた、二酸化炭素を排出しない水素の活用が期待されています。具体的には水素の貯蔵や輸送、利用までを一貫して行う「P2Gシステム」の技術開発と社会実証を開始予定です。

 

また、ぶどうやももなどの広い果樹園を活かし、フランス政府が提案した「4パーミル・イニシアチブ」にも取り組んでいます。「4パーミル・イニシアチブ」は、毎年0.4%の二酸化炭素を土の中に閉じ込められると、大気中の二酸化炭素増加を相殺して、温暖化を防ぐという考え方をもとに、国際的に取り組まれています。

今までは冬季に剪定されていた枝は焼却処理、もしくはチップ・堆肥にされていましたが、炭化し土壌に埋め込むと、より多くの二酸化炭素を土の中に貯蔵できるようになります。

 

あわせて「4パーミル・イニシアチブ」を通してつくられた農作物のブランド化を推進。当初は果物だけに行っていましたが、全国に拡大させるため野菜やお米にも適応されるように取組まれています。

 


2.静岡県沼津市「ゼロカーボンシティNUMAZU2050」

静岡県沼津市は、20224年2月に「ゼロカーボンシティNUMAZU2050」を宣言しました。

温室効果ガス排出量は2018年度の時点で基準年の2013年から6.6%削減しており、今後の削減目標は以下の通りです。

 

温室効果ガス排出量の削減目標(沼津市)


2030年(中間目標)
2013年度比 28%削減


2050年(長期目標)

2013年度比 95%削減





「ゼロカーボンシティNUMAZU2050」は、以下4つの取り組みが実施されています。

 
1.総合的な地球温暖化対策

・環境教育の推進
・地球温暖化防止のための普及啓発


 
2.低炭素な交通の普及とまちづくり

・公共交通の利用促進
・自転車利用の促進



3.省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの普及

・省エネルギー設備の導入促進


 
4.二酸化炭素の吸収促進

・緑化の推進


1つ目の「総合的な地球温暖化対策」では、特に環境教育・環境学習の推進や地球温暖化防止活動の周知・啓蒙に重点的に取り組むとされています。また、低炭素機器の設置や導入の支援なども行う予定です。

 

2つ目の「低炭素な交通の普及とまちづくり」では、自転車やバスの利用促進で自家用車利用の削減を目指しています。

 

沼津市は「沼津市自転車活用推進計画」の推進に伴い、自転車専用通行帯や駐輪場を整備。また、土日祝日に定期券を持つ人と一緒に乗車すると割引を受けられる「環境提供券制度」が、全国で初めて複数のバス会社協同のもと導入されました。

 

さらに、EVバスの試用後にポジティブな反応が多かったことから、2020年から本格的に運用が開始されています。屋根にソーラーパネルを設置、ゆっくり進む、窓がないなどの特徴がある環境にやさしいEVバスは、全国で初めて沼津市が路線バスとして導入しました。

 


3.埼玉県熊谷市「ゼロカーボンシティくまがや」

埼玉県熊谷市は、2022年10月28日に「ゼロカーボンシティくまがや」を宣言しました。宣言前までに熊谷市は、スマートハウスや再生可能エネルギー・省エネルギー設備設置費、電気自動車充給電設備設置費などの補助金を交付。

 

また、イベントや対策等を通じて環境啓発事業を進め、二酸化炭素排出量の低減に努めてきました。2016年度の時点で基準年度の2013年より、温室効果ガス排出量の11%削減につなげました。

 

「ゼロカーボンシティくまがや」における取り組み方針は以下の通り、5つ掲げられています。

「ゼロカーボンシティくまがや」5つの取組方針

1.    創エネルギー・省エネルギーの推進

2.    低炭素型まちづくりの推進

3.    循環型社会づくりの推進

4.    低炭素なライフスタイルの推進

5.    気候変動適応策の推進

熊谷市は日本有数の暑い町として知られ、2018年には観測史上1位となる最高気温41.1℃を記録しました。気温の高さに加え日照時間も長いことから、太陽熱や太陽光エネルギーを活用し、二酸化炭素排出量の削減を推進。

 

具体的には、太陽光発電システム公立小中学校や市有施設に太陽光発電システムの設置や、屋根や土地の貸出による太陽光発電事業の実施などです。小中学校への太陽光発電システム設置は発電機としての役割だけでなく、再生可能エネルギー教育への活用も期待されています。

 

他にも公用車にハイブリッドカーや電気自動車を導入したり、道の駅などの公共施設に電気自動車用充電器を設置したりと、次世代自動車への転換を後押し。さらに、自家用車の利用を減らすために、駐輪場の整備や自転車シェアリングの導入による自転車利用の促進も実施されています。また、駅と公共施設をつなぐことで利便性を高め、公共交通機関の利用を推奨する取り組みも行われています。

 

熊谷市の削減目標は以下の通りです。

 

温室効果ガス排出量の削減目標(熊谷市)


2030年(中間目標)
2013年度比 26%削減


2050年(長期目標)
2013年度比 80%削減


2022年10月にゼロカーボンシティ宣言を実施したため、削減目標は見直し予定です。



ゼロカーボンシティ宣言するメリットとは?

ゼロカーボンシティ宣言のメリットは、2つあります。
 

1.国の支援が受けられる

2.地域経済の活性化や地域貢献につながる
 

順番に説明します。

 


1.国の支援が受けられる

1つ目のメリットは、ゼロカーボンシティ実現に向けた基盤整備のために、国から以下の支援を受けられる点です。

ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業

1.自治体の気候変動対策や温室効果ガス排出量等の現状把握(見える化)支援

2.ゼロカーボンシティの実現に向けたシナリオ等検討支援

3.ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の合意形成等の支援

引用:環境省「ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業」



計画立案の段階から実施まで、一貫したサポートが受けられます。まずは、ゼロカーボンに向けて動き出すために、現在実施している気候変動対策や温室効果ガス排出量の見える化で、現状を把握します。

 

自治体側が現状を把握できた後は、国による目標・計画の立案のサポートが受けられる仕組みです。計画実施の段階では、地域の住民や事業者と合意形成を図るためのツールも整備されています。自治体はツールを活用することで、より効率的に再生可能エネルギーの導入や省エネルギー化に取り組めるでしょう。

 

あわせて、地域に根ざした再生可能エネルギー事業を推進するための支援も実施されています。

再エネの最大限導入の計画づくり及び地域人材の育成を通じた

持続可能でレジリエントな地域社会実現支援事業

1.地域再エネ導入を計画的・段階的に進める戦略策定支援
   1. 2050年を見据えた地域再エネ導入目標策定支援
   2. 円滑な再エネ導入のための促進エリア設定等に向けたゾーニング等の合意形成支援

2.官民連携で行う地域再エネ事業の実施・運営体制構築支援

3.地域再エネ事業の持続性向上のための地域人材育成(ネットワーク構築、相互学習等)


国は自治体に対して、再生可能エネルギー導入の計画的・段階的な推進や民間企業と連携した再生可能エネルギー事業の実施を支援します。

 

また、再エネ導入に必要な人材を育成する団体を公募し、他地域とのネットワーク構築や相互学習などの取り組みで人材を育成し、事業の持続性向上を目指します。

 


2.地域経済の活性化や地域貢献につながる

メリットの2つ目は、地域経済の活性化や地域貢献につながる点です。

 

日本は発電において、二酸化炭素の排出が多い化石燃料の割合が多く、再生可能エネルギーへの転換が求められています。そのため新しく太陽光や風力、水力、地熱などの再生可能エネルギーを導入する自治体も多いでしょう。その際、新たな産業や雇用が生まれるため、地域経済の活性化へとつながります。

 

また、地方自治体の9割以上はエネルギー収支が赤字となっている現状があります。これは化石燃料を海外からの輸入に頼っている部分が多いためです。再生可能エネルギーに転換できると、電力の自給自足が行えるだけでなく、余剰電力を電力需要の大きな地域に販売できる可能性もあります。

さらに、再生可能エネルギーを利用して発電や蓄電が可能な設備が整うと、災害時でも防災拠点としての機能が果たせ、地域貢献につながる側面もあります。

 

実際に千葉県木更津市では「道の駅木更津 うまくたの里」に太陽光発電システムを設置し、防災拠点として機能しました。2019年に発生した台風では、被害によって約2か月停電した地域もありましたが、太陽光発電によって電力が使えたため、トイレの利用や電話の充電等が行えたのです。

 

このように再生可能エネルギーを利用して発電や蓄電が可能な設備を設置することで、住民の利便性が向上し災害時にも役立てられるでしょう。




まとめ

ゼロカーボンシティとは、2050年までにカーボンニュートラルを目指す自治体を指します。地球温暖化による気候変動は日本でも起こっており、線状降水帯による豪雨災害などは毎年発生しています。

 

世界各国が2050年のカーボンニュートラルを目指す中で、日本も国と地方自治体が連携して取り組みを進めていく必要があります。自治体はゼロカーボンシティ宣言を行うと、国からさまざまな支援が受けられます。知識や経験がない自治体でもカーボンニュートラルに向けた施策が導入できるよう整備されていますので、地域の活性化にもつながるゼロカーボンシティ宣言を検討してみてください。

 

効果的な取り組みについてや導入方法が詳しく知りたい場合は、ゼロカーボンに関係するイベント等にも積極的に参加することをおすすめします。

 


▶監修・解説:北川哲也氏

補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。

2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。




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