インフラ老朽化問題の現状と事故事例|国土交通省の対策と自治体への支援を解説


▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
●監修者の詳細な経歴はこちら



インフラの老朽化が及ぼす問題とは

現在、私たちの生活を支えている道路や上下水道・橋やダム・トンネルなどの社会インフラの多くは、高度経済成長を機に整備されたもので、完成から50年以上が経過しています。金属の腐食やコンクリートのひび割れなど、経年や環境の影響で劣化が確実に進んでいるでしょう。

 

ひとたび、こうしたインフラが劣化に耐えきれず崩壊してしまえば、人命を失う重大事故や、生活に支障をきたす大問題に発展します。報道されるレベルではなくとも、小規模の事故や障害は実際に日々起きています。対策がなされなければ、明日にでも私たちの社会生活に重大な影響をもたらす大事故にいたる恐れがあるのです。
 


  インフラ老朽化の現状と将来予測

インフラの老朽化の現状と、将来の見通しを整理しておきましょう。国土交通省は2020年に今後20年間で、建設後50年以上経過する社会資本の割合を算出しました。
以下の表にまとめます。

<国土交通省 社会資本老朽化の現状>

項目

2020年3月

2030年3月

2040年3月

道路・橋

約30%

約55%

約75%

トンネル

約22%

約36%

約53%

河川管理施設

約10%

約23%

約38%

下水道管きょ

約5%

約16%

約35%

港湾施設

約21%

約43%

約66%

今後、20年間にわたり建設後50年を経過するインフラ設備が、加速度的に増加することが見て取れます。なんらかの対策を講じない限り、古い設備を中心に順を追って不具合が生じてくることは、火を見るより明らかです。

参考:国土交通省 社会資本老朽化の現状


将来予測されるインフラ維持費用

国土交通省は、将来に予測されるインフラ維持費用についても試算をしました。インフラの維持には、不具合が起きてから対応する「事後保全」と、発生する前に予防措置を講ずる「予防保全」の二つの考え方があり、それぞれに基づいて算出しています。

<インフラ維持管理・更新費推計>

単位:兆円

項目

2018年度

2023年度

2028年度

2038年度

2048年度

予防保全を基本に推計

5.2

5.5~6.0

5.8~6.4

6.0~6.6

5.9~6.5


事後保全を基本に推計

5.2

7.6~8.5

7.7~8.4

8.6~9.8

10.9~12.3

2048年度の試算では、事後保全で最大12.3兆円が見込まれるの対し、予防保全では6.5兆円と約半分に抑えられることが分かります。国土交通省のインフラ維持・管理の基本的な考え方は、予防h保全にあるといえるでしょう。

参考:インフラ維持管理・更新費推計



インフラ老朽化問題が顕在化した事故の事例

過去にはインフラ老朽化を原因とする事故が、多数発生しています。ここでは、直近25年程さかのぼり、時系列に沿って振り返ります。
 


三重県 木曽川大橋 トラス斜材破断(2007年)

2007年6月、三重県木曽大橋においてH型鋼の破断が見つかります。橋の崩落に直結する重大な損傷であったため交通規制を行い、緊急の補強工事を施します。その後、ほかにも腐食している斜材が複数見つかり、橋全体の補強工事が行われました。

 

木曽大橋は1963年竣工で、この時点で44年が経過していました。橋の点検にあたった専門家は斜材の腐食により、橋本体が上下に波打つ状態を目視しています。異常の発見から全体の点検まで、適切に行われたことにり大事故を未然に防げた好事例といえるでしょう。
 


神奈川県 十文字橋 橋脚の洗掘(2007年)

2007年9月には、神奈川県足柄上郡松田町にある十文字橋の橋脚が、洗堀により沈下する事故が発生しています。直前に神奈川県に接近した台風9号の影響が直接の引き金でしたが、橋自体が1913年に竣工した古いものであり、以前より老朽化が指摘されていました。

 

事故当日も台風接近にともない、重点警戒箇所として通行止めとパトロールがなされており、幸いにも人的被害はありませんでした。しかし、橋脚の沈下により橋げたが完全に折れたため、全面通行止めとなり、復旧までに1年3ヵ月を要しています。
 


中央自動車道 笹子トンネル 天井板崩落事故(2012年)

2012年12月に、中央自動車道笹子トンネルにおいて、天井板が崩落する事故が発生しました。コンクリート製の天井板が約130mにわたって崩落し、走行中の車両が複数台巻き込まれます。結果として9名の死者を出す大事故となりました。

 

この事故をきっかけにインフラ老朽化の問題は注視されるようになり、国は5年に1度のトンネルや橋の定期点検を義務付けました。しかし、人員と財源の不足から思うように進んでいない現状があります。
 


東京都 水道管破損事故(2018年)

2018年7月、東京都北区で地下に埋設された水道管が破損します。これにより周辺の道路が陥没、20戸以上の浸水、周辺地域の断水が発生します。破損した水道管は1968年に埋設されたもので、老朽化が指摘され2018年度内の交換が予定されていたものでした。

 

東京都内の水道管の全長は27,000km(地球2/3周の距離)にもおよぶとされています。現在のリソースで交換可能な距離は年間500km程度であり、すべてを交換し終えるまでには50年を要する計算です。都内だけでも毎年10件程度、同様の事故が発生しており、根本的な解決策が見いだせない状態が続いています。
 


西日本豪雨による広島県 砂防ダム決壊(2018年)

2018年7月、大規模な土石流が広島県坂町小屋浦地区を襲います。前月末より続いた西日本豪雨の影響で、砂防ダムが決壊し複数の死者を出す惨事となりました。決壊した砂防ダムは50mにわたって壁がすべてなくなるといった惨状で、想定を上回る土砂が流入したことがうかがえます。

 

同砂防ダムは1947年に石積みで作られたもので、老朽化を懸念する声が住民より上がっており、2020年完成予定でコンクリート製の砂防ダムを建設中でした。しかし、2014年に発生した広島土砂災害の復旧に予算があてられたことにより、建設が遅れ気味であったとのことです。
 


大阪府 学校校舎の天井の一部が落下(2021年)

2021年5月、大阪市立瓜破小学校の教室の天井が落下する事故が発生しました。幸いにも始業前で登校していた児童も少なく、近くにいた児童の左腕をかすめた程度で大事故にはいたりませんでした。

 

しかし、落下した天井ボードは重さ2.6kg・長さ90cmにもおよぶもので、直撃していれば大けがをしていたに違いありません。この事故の前後にも大阪市内の学校施設で同様の事故が発生しています。学校施設の老朽化も問題となっており、危険箇所の把握や修繕が早急に求められます。
 


和歌山県 水管橋崩落(2021年)

2021年6月、和歌山市を流れる「紀の川」にかかる水道橋の一部が崩落します。これにより紀の川流域北側の6万世帯が1週間にわたって断水し、138,000人に影響が生じました。和歌山市は並走する橋を通行止めにし、仮設の水道管を通すことにより応急処置を行いますが、すべての復旧には8ヵ月を要したといいます。

 

崩落の原因は水道橋の腐食によるものでした。和歌山市は毎月1回、目視による定期点検を実施していましたが、腐食箇所を発見できなかったようです。目視による点検の限界を示唆する事例といえます。


【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する日本最大の展示会

【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する
日本最大の展示会


インフラ老朽化に対する国土交通省の対策

2012年の笹子トンネル崩落事故をきっかけにインフラ老朽化の問題は顕在化しましたが、依然として整備は進んでいない状況です。実際に国の予算でも、インフラ整備に関する公共事業費は減少しています。この傾向は地方自治体においても同様で、インフラ老朽化対策に潤沢な予算を組めない状況が続くと見込まれます。

 

こうした財政難のなか老朽化インフラの問題にアプローチしていくには、民間との連携により効率的なメンテナンス技術を導入することが不可欠です。限られた予算内で、ひとつでも多くのインフラを長持ちさせることが、基本的な方針となるでしょう。
 


インフラ長寿命化計画

「インフラ長寿命化計画」とは国土交通省が2014年に取りまとめた行動計画です。同省が所管するインフラの維持・管理・更新を着実に推進し、ライフサイクルを延長させるための中長期的な取り組みが示されました。

 

2021年には、「第二期インフラ長寿命化計画」として、これまでの取り組みを踏まえ「持続可能なインフラメンテナンス」の実現に向けた取り組みを定めています。単なるライフサイクル延長対策にとどまらず、民間との連携強化や新技術の導入により、メンテナンスの生産性を向上させることが盛り込まれています。
 


インフラDX 総合推進室

「インフラDX総合推進室」とは、国土交通省が2021年に組織した体制で、国総研などの研究所・地方整備局などと連携し、インフラDXの推進を目的としています。インフラDX推進に向けた環境や実験フィールドの整備、3次元データを活用した新たな技術の開発や導入促進、DX推進の担い手となる人材の育成が活動の中心です。

 

これまでに、「建設DX実験フィールド」「国土技術政策総合研究所DXデーターセンター」「地方整備局DX推進センター」「インフラDXルーム」などの施設を開所しています。こうした環境整備を行い、インフラDX推進のため、「産・学・官・民」の力を集約する役割を担っています。
 


インフラメンテナンス国民会議

「インフラメンテナンス国民会議」は、インフラメンテナンスに向けた、企業や研究機関、施設管理者・市民団体などの連携を促すためのプラットフォームです。以下の5項目を目的に掲げています。

 

1.革新技術の発掘と社会実装

2.企業等の連携の促進

3.地方自治体への支援

4.インフラメンテナンスの理念の普及

5.インフラメンテナンスの市民参画の推進

 

国土交通省が事務局をつとめ、関係省庁の協力を得ながらフォーラムやシンポジウムを開催し、インフラメンテナンスに取り組む機運を高める活動を行っています。
 


地域インフラ群再生戦略マネジメント

「地域インフラ群再生戦略マネジメント」とは、地方自治体が単体で老朽化したインフラ整備にあたるのではなく、複数の自治体で協力しあって対応していく仕組みです。複数の市町村で対象エリアを構成し、エリア全体の将来像を踏まえつつ、多角的な視点から地域のインフラを総合的にマネジメントしていきます。

 

複数の分野にわたるインフラを「群」として捉え、その群を含むエリアの市町村が一体となり老朽化インフラのメンテナンスにあたるものです。主体はあくまで市町村ですが、国や都道府県も積極的に関与します。「総力戦で取り組むインフラメンテナンス」というイメージがぴったりくるでしょう。



インフラ老朽化対策を効率化する最新技術

インフラ老朽化対策は、国や地方自治体だけで取り組めばよいというものではありません。民間企業とも連携を深めていくことが求められます。とくに優れた最新技術の開発には、民間企業の技術力が不可欠です。

 

ここでは、インフラ老朽化対策に活用できる最新の技術を紹介します。
 


ドローン

ドローン技術は、インフラ老朽化の点検に威力を発揮します。人間が容易に近づけない高所・閉所の点検を安価かつ安全に行えるからです。電柱や鉄塔、ダム・トンネル・橋・線路、ビルの外壁や屋上など、多くのインフラ点検の場で活躍しています。

 

現場の労働力不足を補うだけでなく、高所での作業では足場を組む必要がなくなり、作業時間やコストを大幅に削減できます。今後、AI画像分析の精度が向上すれば、より詳細で高精度な点検が可能になるでしょう。今後のインフラ老朽化点検に欠かせないアイテムです。
 


RTK(Real Time Kinematic)測位

RTK測位とは、「相対測位」とも呼ばれ、衛星を用いて高精度の位置情報を取得する技術です。ドローンの自動航行には、正確な位置情報が欠かせません。従来のGPSでは誤差が生じ、正しいルートから外れたり、障害物に衝突したりします。

 

ドローン1機もそれなりに高額なため、RTK測位技術を活用すれば事故や紛失を恐れることなく、ドローンの運用が可能になります。
 


AI

AIによる画像診断も、インフラ老朽化点検に欠かせない技術です。AI画像診断は近年、精度の向上が著しく、様々な分野で活用が進んでいます。インフラ老朽化の点検においては、専門家が膨大な量の画像をすべて確認していくことは、実質不可能です。こうした作業をAIが代替することで、より効率的でコストのかからない点検が可能になります。

 

ドローンの遠隔操作とAIの画像診断を組み合わせることにより、高精度かつコストを抑えた点検が可能になります。ドローンとあわせ、AIによる画像診断もこれからのインフラ老朽化点検に欠かせない技術といえるでしょう。
 


5G

5Gは、超高速・超低遅延の通信回線です。ドローンや点検車両が撮影した映像を、5G回線を用いて送信することにより、よりリアルタイムに監視が可能になります。従来の通信回線では不可能であった高精度の画像も負荷なく送信でき、AI画像診断とあわせることで精度の高い点検が可能になるでしょう。

 

ドローンの遠隔操作においては、リアルタイムで送られてくる映像に少しでも遅延があった場合、操縦ミスによる墜落事故に直結します。安全にドローンを飛ばすためにも、5Gは重要な役割を担っています。



インフラ老朽化に対する国土交通省の自治体への支援

地方自治体は財源や人員の面で、インフラ老朽化対策に十分なリソースを割けない現状があります。こうした現状を改善するには、国土交通省の支援が必要です。具体的な支援としては、以下の3点が挙げられます。
 


研修の充実・強化

確実な維持管理ができるよう、点検に関する実務的な研修を実施しています。点検技術者が不足する地方自治体を対象に、技術支援の一環として平成26年より職員への研修参加を呼びかけました。

 

「道路・河川の研修」「港湾分野の研修」など各テーマを設け、維持管理に関する能力を強化する研修を実施しています。
 


基準・マニュアルの策定

確実な維持管理を行うためには、共通の基準やマニュアルが必要です。国土交通省はこうしたマニュアルを整備し、技術的助言として提供しています。

 

「河川」「下水道」「道路」「港湾」「海岸」の5分野からなる点検マニュアルを策定し、確実なサイクルでメンテナンスが行えるよう支援しています。
 


メンテナンス体制の強化

管理対象となるインフラが多数存在し、人員と技術力が不足している自治体の維持管理体制を、民間のノウハウ導入や関係機関の連携により強化するものです。

 

点検・診断に必要となる知識を明確化し、それに値する既存の民間資格を登録します。市町村が発注するメンテナンス業務に、民間資格が活用されることで、点検・診断業務の質を担保するものです。

 

そのほか、民間委託に向けた検討や、各自治体の施設管理者が一堂に会する会議の開催など、各分野での支援を実施しています。



インフラ老朽化対策・国土交通省と自治体の最新の取り組み

インフラ老朽化に対する地方自治体と国土交通省の支援として、直近の取り組みに「官民連携モデリング」が挙げられます。令和5年1月から3月にかけて地方自治体と企業を対象に、インフラ老朽化対策を先進的に進めていくための、PPP/PFIモデル形成に向けた提案を募りました。

 

シーズ(企業からの提案)は76件、ニーズ(地方公共団体が抱える課題)は11件が寄せられました。

 

インフラの老朽化は、地方自治体の抱える大きな課題であり、解決に向けては民間の提案に基づく先導的な手法が不可欠です。民間企業と国土交通省が主体となり、新しい解決手法を地方自治体に広げ、浸透させていく取り組みとして期待されています。



まとめ:インフラ老朽化は地方自治体にとっても喫緊の課題

インフラ老朽化は放置すれば、人命を失う大事故に発展する喫緊の課題です。しかし地方自治体にとっては、人員や財源の問題から、十分な対策がなされていない現状もあります。こうした現状を変えていくためには、国土交通省をはじめ、地方自治体、民間企業が一体となった取り組みを進めていく必要がありそうです。

 

笹子トンネルの崩落事故から10年以上が経過し、地方自治体においてもインフラ老朽化対策は、新たなフェーズに入る時期にきているのかもしれません。


▶監修・解説:北川哲也氏

補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。

2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。



■関連する記事