地域循環共生圏(ローカルSDGs)とは?取り組み事例や課題について
第五次環境基本計画 において「地域循環共生圏」が提唱されましたが、実現のために「どのような取り組みが必要か」を十分に理解できていない地域も多いです。
また、地域が自立して持続的に成長していくには、様々な地域課題を統合的に解決していく必要があり、その過程の中で新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もあります。
そこでこの記事では、地域循環共生圏の目的、取り組み方法、自治体の取り組み事例などを紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
●監修者の詳細な経歴はこちら
地域循環共生圏とは?
地域循環共生圏とは、それぞれの地域において環境・社会・経済の課題を解決していく「自立・分散型の持続可能な社会」を示す新しい概念で、持続可能な社会を目指すことから「ローカルSDGs」とも呼ばれています。
つまり、その地域が持っている自然資源(土地、水、森林、生物など)や、社会資源(設備、組織、情報など)を循環させながら、新しいビジネスを創出したり、生活の質を高めたりして、それぞれの地域が自立しながら持続的に成長していくことを目指す考え方です。
地域循環共生圏の意義・目的
地域循環共生圏は、持続可能な社会を実現する取り組みであり、資源の有効活用、廃棄物の削減、リサイクルの推進など、環境に配慮した経済活動が含まれるのも特徴の1つです。
画一的な取り組みをするのではなく、それぞれの地域特性やニーズに応じた取り組みをしていくことで、地域が持つ課題を解決するだけでなく、潜在的な可能性を引き出すこともできます。
また、それぞれの地域が持つ固有資源を活かすだけでなく、別の地域や都市部とも互いに補完しながら、双方が持続的に成長・発展していくことも目指しています。
地域循環共生圏を創っていくには、デジタルやAIなどの最新技術を取り入れることで、さらに効率良く資源を循環させることができます。
地域循環共生圏が求められる背景
近年、SDGsや脱炭素社会へ向けた国際的な流れが進んでおり、持続可能な社会の実現が求められています。
● 2015年:国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択
● 2015 年:パリ協定が採択(脱炭素社会の実現)
また、現在の日本では「地域の過疎化」や「都市部への人・モノの集中」が問題となっており、地方再生は重要課題の1つです。
国際的な大きな流れ、日本が抱える地方再生問題といった社会的な背景もあり、地域循環共生圏の形成が今まで以上に求められています。
地方の各地域が持っている資源を最大限活用すれば、経済的にも持続的な成長が可能であることから、自治体だけでなく、多くの企業や団体も地域循環共生圏に注目しています。
地域循環共生圏を構築する取り組み
地域循環共生圏を構築するための取り組みは、以下のように様々な方法があります。
● 再生可能エネルギーの活用
● 循環資源の活用
● 自然資源の活用
● 地域間のつながりを活用
● 個人のライフスタイルのシフト
● ESG融資の推進
これらの代表的な取り組みについて、ここから解説します。
参考:環境省「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(令和元年度版)」
再生可能エネルギーの活用
環境省の試算によると、日本にはエネルギー需要の約1.8倍の「再生可能エネルギー供給力」が存在しています。
再生可能エネルギーの源は、地域の自然資源(太陽光・風力・水力・地熱など)に基づいているため、導入ポテンシャルとしては都市部よりも地方のほうが圧倒的に高いです。
しかし、2013年時点で9割以上の自治体がエネルギー収支で赤字を記録しており、地域外に資金が流出している状況が今も続いています。
再生可能エネルギーの導入や投資によって、地域経済の強化、新しい雇用の創出、災害時の復興力向上といったことが期待されます。
循環資源の活用
家畜ふん尿、食品廃棄物、下水汚泥、プラスチック、金属なども、地域循環共生圏の構築には不可欠な地域資源です。地域に存在するこれらの循環資源を、適切な規模で循環させることが求められています。
また、廃棄物処理施設を「地域のエネルギーセンター」として位置付けることで、以下のような役割を与えられます。
● 廃棄物エネルギー供給による地域産業の振興
● 災害時の防災拠点としての活用
● 環境教育や環境学習の場として提供
循環資源に対する見方や捉え方を変えるだけで、これまでは廃棄物として処理していたものを「地域の大切な循環資源」として有効活用することが可能です。
自然資源の活用
地方に多く存在している自然(森、山、川、海など)も資源として捉えることができ、この自然資源を活用することで豊かさを生み出せるでしょう。
また、自然とつながりが深い農林水産業や観光業では、それぞれの地域固有の自然資源を活用しながらの、地域産業の振興、地域のブランド化といった取り組みが進んでいます。
地域間のつながりを活用
人口減少と高齢化が進行している地域は着実に増えてきており、こういった地域では地方自治体の財政力も脆弱な傾向があります。
そのため、それぞれの地域が連携しながら、人材、資金、自然資源などを流動的に活用することで、周辺地域を含めて活性化を図ることができます。
また、都市には人材、資金が集まりやすい一方、食料、水、エネルギーなどは地方から得ています。都市の人々は地方に支えられていることを理解し、地方へ人材や資金を回すという発想も必要でしょう。
地域間のつながりだけでなく、地域と都市のつながりを強化していくことも、持続可能なまちづくりには重要です。
個人のライフスタイルのシフト
個人のライフスタイルを変えていくことも、地域循環共生圏の構築にとって大切なことです。
● 食品ロスを減らす
● ゴミの分別をする
● 省エネ家電を使う
● プラスチックゴミを出さない
● 環境に配慮した製品を使う
● 有機野菜や無農薬野菜を選んで食べる
こういったことは、今すぐ誰にでもできる取り組みです。自然の恵みや環境問題を意識したライフスタイルの移行を促すことも、持続可能な社会の実現には必要となるでしょう。
また、環境省では2014年に「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトを開始し、自然の恵みを保護し、それを支える社会を作るための取り組みを推進しています。
ESG融資の推進
2018年7月に環境省から「ESG金融大国を目指して」という提言がされ、ESG融資の推進が持続可能な社会や経済づくりには必要不可欠であるとしました。ESG融資では、以下の要素を考慮しています。
● 環境(Environment)
● 社会(Social)
● 企業統治(Governance)
つまり、環境などの非財務状況を考慮した融資です。企業側としても、持続可能な社会づくりへの取り組みを開示することが重要になります。
また、自治体に求められることは、キャッシュフローを生み出す取り組み、金融機関との連携といったことが挙げられます。
地域循環共生圏の構築において、ESG融資は資金の流れを太くする意味でも重要です。企業、金融機関、地方自治体、国、投資家などがパートナーシップを構築しながら、持続可能な社会づくりへ取り組むことが期待されています。
【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する日本最大の展示会
【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する
日本最大の展示会
地域循環共生圏と環境との関わり
地域循環共生圏は、環境・経済・社会の統合的な向上を目指す考え方ですが、自然や環境問題とも密接に関係します。
ここでは、国際的な環境問題と地域循環共生圏との関わりについて説明します。
生物多様性の保全
地球には約3,000万種類の生き物が生息しているとされており、人を含めてすべての生物には違いがあり、異なる環境で生きています。わたしたちの暮らしも、多様な生物がもたらす恵みに支えられています。
しかし、急激な気温上昇、過剰な森林伐採、水質汚染などにより、地球上の生物は様々な影響を受けており、絶滅に瀕している生物も少なくありません。このように生物多様性は危機に瀕しており、地球規模での保全と回復を図ることが重要です。
また、農業や林業などを通じて維持されてきた日本の山地のような自然環境は、多様な生物の生存には欠かせません。過疎化による一次産業の衰退は、生物多様性の保全にも悪影響を及ぼします。
自然と共生しながら一次産業を活性化することは、生物多様性の保存や回復にも繋がります。
気候変動への適応
地球規模での気候変動により、気温の上昇、豪雨の増加といった問題が起きています。持続可能な社会を構築していくには、気候変動への適応、気候変動の緩和といった対策が必要です。
適応策
● 農林水産業の振興
● 生物多様性の保全
● 防災や減災に対する施策 など
緩和策
● 省エネへの取り組み
● 温室効果ガスの排出削減
● 再生可能エネルギーの利用 など
気候変動による影響はそれぞれの地域によって大きく異なり、地域が持つ自然資源も異なるため、地域の特性を踏まえながら地域同士の連携や地域と都市の連携が重要になります。
また、地域資源を活用した持続的な取り組みが、気候変動への適応や緩和にも繋がります。
プラスチック資源の循環
プラスチックは多くの利点を持ち、食品ロスの削減やエネルギー効率の改善などに貢献してきましたが、不適切な処理による環境汚染が問題となっています。
G7、G20などでもプラスチックの海洋ゴミについて議論され、国際的な連携や協力の必要性が高まっています。
日本でも、使用済みプラスチックの適正処理、3R(リデュース、リユース、リサイクル)といった取り組みが推進されていますが、プラスチックを再生可能資源へ置き換えることも持続的な社会・経済の発展には重要です。
また、プラスチックを再利用可能な循環資源として扱うことで、それぞれの地域で継続的に活用していくこともできます。プラスチックの再生利用を目指すことで、新たな事業の発見、新規雇用の創出などにも繋がるでしょう。
地域循環共生圏の課題とは
地域の課題を見つけ、その課題を解決するために、自治体が中心となって積極的に取り組んでいる地域もあれば、そうではない地域もあります。
こうした「地域ごとの温度差」というものが、大きな課題の1つです。
日本全体で地域循環共生圏を構築していくには、以下のことがポイントになります。
● 自治体首長のリーダーシップ
● 課題解決のためのプロトコル作成
● 積極的ではない地域の底上げ
それぞれの地域が自立して持続可能な社会を作っていくという「大きなうねり」を生み出すには、人々の想いやノウハウを伝えていくことが重要です。そのためにも、すでに取り組みを始めている地域と、取り組みを始めていない地域のネットワークを構築する必要があります。
また、次世代や故郷のために「楽しみながら」地域を活性化していくというワクワクした想いが、とても大切になるでしょう。
地域循環共生圏の事例
地域循環共生圏は、2018年に閣議決定された「第五次環境基本計画 」において提唱され、現在、全国各地の自治体でその取り組みが行われています。
ここでは、地域循環共生圏を構築する取り組みについて、いくつかの事例を紹介します。
北九州市【資源とエネルギーの地域循環】
北九州市では、1997年に国内最大級のリサイクル拠点「北九州エコタウン」を創設しました。2018年3月末の時点で、26社のリサイクル企業が集積しています。
ペットボトルから家電、医療用具、植物油、自動車、金属、汚泥といった多種多様な廃棄物を再資源化して、必要とする産業へ循環するシステムが形成されています。また、太陽光、風力、バイオマス発電などの再生可能エネルギー施設も展開中です。
現在、北九州エコタウンは、600億円を超える売上高を計上しており、1,000人を超える雇用創出にも貢献しています。さらに、再資源化の取り組みによって、年間約43万トンのCO2削減にも貢献しています。
熊本市【エネルギーシステムの構築】
熊本市では、2008年11月に地域エネルギー会社「スマートエナジー熊本」を設立しました。現在、市内にある2つの清掃工場が発電する電力を、公共施設に供給しています。
また、熊本市は2016年に起きた震度7の大地震により、大規模な断水や停電を経験しました。そのときの教訓を活かして、避難所には停電時でも2日間運転継続が可能な大型蓄電池を設置しています。
エネルギーシステム全体での正循環を生み出し、地産地消のエネルギーモデルを発展させるとともに、被災した経験から防災機能の実用化までも実現している事例です。
富山市【コンパクトシティの実現】
富山市では、人口減少と高齢化が進む一方で、市街地が郊外へと急速に拡大しています。
そこで、富山ライトレールの整備、市内電車との接続、環状線化などを行い、駅周辺の商業地区へアクセスしやすい環境を整えました。
このように、公共交通の活性化施策により市内中心地の活性化を図りつつ、市民にとって質の高い生活が享受できるまちづくりを推進しています。
こうした取り組みの結果、駅周辺の時価が2〜5%ほど上昇し、2018年の固定資産税と都市計画税の税収が、2012年度と比較して約10%増加しました。
また、中心市街地を回遊しやすくなったことにより、市民一人当たりの歩数が増加しています。
滋賀県東近江市【地域資源の活用】
東近江市では、市民の消費額の2割が市外に流出し、さらに投資も市外に流出していました。また、2013年時点ではエネルギー代金の約294億円が市外に流れている状態でした。
このような状況を踏まえて、市では地域資源を活用して周辺地域と共生していくために、以下のような取り組みをしています。
● 自然を活かした再生可能エネルギーの普及
● 省エネルギーの仕組みづくり
● 食や木材の地産地消
● 生態系ネットワークの再生
自然という地域資源をベースにして、人と人のつながり、人と自然のつながりを活かしつつ、市民が豊かさを感じられる地域像を目指しています。
鹿児島県大崎町【リサイクル】
大崎町には一般ゴミの焼却施設が無く、埋立て処分場も逼迫している状態でした。そこで「埋立て処分場の延命化」を目的に、ゴミの分別回収と再資源化をスタートしました。
大崎町では、町民に「混ぜればゴミ、分ければ資源」という考えを浸透させ、12年連続リサイクル率日本一を達成しています。また、リサイクル率は82%に達しています。
さらに、住民・企業・行政が協働連携することで、焼却に頼らないゴミ処理方式「大崎システム」を構築し、その技術をインドネシアに提供するなどの国際協力も行っています。
埼玉県小川町【有機農業】
かつて小川町では、工業の発展に伴う公害が大きな社会問題となっていました。そのため、1970年代初頭から食の安全を守るために、全国に先駆けて「有機農業」の取り組みが始まりました。
小川町では、里山の落ち葉、麦わら、稲わら、雑草などの地域資源を、有機農業に活用しています。こうした有機農業の取り組みは地域住民や民間企業からも支援されており、その結果、集落ぐるみで有機農業に取り組む地域も出てきています。
2017年12月時点で、有機栽培に取り組む農家数の割合が、全国でもトップレベルの11%にまで達しています。
鳥取県米子市【電力のバリューチェーン構築】
鳥取県では、電気料金として県外に流出する額が「年間1,000億円」と試算されています。
そこで、米子市ではエネルギーの地産地消を進めるために、地域エネルギー会社「ローカルエナジー株式会社」を2015年に設立しました。
同社の電源構成としては、主に以下の地域資源を活用したものになっています。
● 廃棄物発電
● 太陽光発電
● 水力発電
● 地熱発電
また、天気、イベント、学校行事などに合わせた電力供給もしています。
会社を設立してエネルギーの地産地消を進めた結果、公共施設の電気代節約、地域での新たな雇用創出、温室効果ガスの排出量削減といった複合的な効果がもたらされています。
まとめ:地域循環共生圏の構築はビジネスチャンスにもなる
それぞれの地域が自立し、持続可能な社会を構築するために、地域固有の自然資源の利用、再生可能エネルギーの活用、循環資源の活用、地域間や都市部との連携などの取り組みが行われています。
こうした地域の取り組みは、新たなビジネスチャンスを生み出す機会にもなり、雇用の創出や地域経済の活性化にも繋がります。地域の経済が活性化し、自治体の財政も強化されれば、その地域は自立して持続的に発展していけるでしょう。
全国各地の自治体では、地域循環共生圏の構築に向けて様々な取り組みが進んでいます。これらの取り組み事例も参考にして、地域特性を活かした地域循環共生圏の構築を目指してください。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。