シビックプライドとは?その効果や醸成方法、自治体の取組み事例を紹介
「地域活性化」や「地方創生」に効果があるシビックプライドは、現在多くの自治体から注目され、様々な取り組みがされています。
シビックプライドは郷土愛や地元愛とは異なり、地域住民に根付かせることが難しいのも事実です。
この記事では、シビックプライドの概要、メリットや効果だけでなく、シビックプライドの形成・醸成に欠かせないポイント、自治体の取り組み事例などを紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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シビックプライドとは
シビックプライドとは「都市に対する市民の誇り」と定義されており、地元愛とか郷土愛とは一線を画しています。
また、自分自身が関わって地域を良くしていこうとする、当事者意識に基づいた自負心とも言えるでしょう。
近年、多くの自治体がシビックプライドに注目しており、それに関連してシティプロモーション活動が活発化してきています。
地元愛・郷土愛との違い
シビックプライドは、地元愛や郷土愛と混同されがちですが、厳密に言えば両者は異なる意味を持ちます。
● シビックプライド:特定の地域に誇りを持ち、その地域を良くするために貢献しようとする自負心
● 地元愛・郷土愛:生まれ育った故郷に対する愛情
シビックプライドは、故郷に限らず「移住先」や「関心ある地域」なども含まれ、生まれ育った地域に限定した地元愛や郷土愛とは、その対象範囲が異なります。
また、地元愛や郷土愛が「単なる感情」であるのに対し、シビックプライドは「地域に貢献しようとする心意気」が含まれ、地域創生に積極的であるかがポイントです。
シビックプライドの歴史
シビックプライドという考え方が生まれたのは、産業革命が起きていた19世紀のイギリスと言われています。
当時のイギリスでは、商工業の発展に伴い多くの都市が生まれ、激しい都市間の競争もありました。また、市民階級が力をつけ始めた時代でもあり、市民自らが住んでいる都市を「誇りあるものにしよう」とする動きが活発になっていました。
イギリスの経済的発展には、シビックプライドの醸成が関係しているという考えもあり、シビックプライドを形成しようとする国や地域は、世界中に広がっています。
また、日本でも2008年頃からシビックプライドという言葉がマスコミで使われ始め、自治体にも浸透しつつあります。しかしながら、まだ市民権を得たとは言い難い状況です。
シビックプライドが注目される背景
自治体を中心にシビックプライドが注目されているのは、シティプロモーションや地域活性化に効果があると期待されているからです。
以下の自治体のように、シティプロモーションの基本方針や推進指針では、シビックプライドの効果や貢献について触れられることが増えています。
● 栃木県足利市:市民のシビックプライドの意識が高まれば転出者が減り、移住希望も増えると指摘
● 三重県伊賀市:定住やUターン人口の増加、市民による情報発信の増加といった、シビックプライドの効果に言及
● 長野県上田市:シビックプライドの醸成により、転出者が抑制され、定住人口が増加すると記載
このように、シビックプライドが「地方創生」や「人口増加」に貢献すると捉えている自治体は多く、シビックプライドの醸成や形成に取り組む自治体も増加しています。
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シビックプライドの効果とメリット
地域経済の発展だけでなく、地域活性化にも効果があるシビックプライドですが、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは、シビックプライドの醸成により得られるメリットについて紹介します。
少子高齢化の改善につながる
地域住民の「地域に貢献したい」という気持ちが高まれば、都市部への流出を減らすことができます。
多くの地域では、進学や就職のために「若者が都市部へ流出する」という課題を抱えており、人口減少や地域経済の縮小、自治体の財政悪化という社会問題にも発展しています。
老若男女を問わず、シビックプライドを形成することができれば、若者がその地域に住み続け、結婚をし、子育てをしてくれ、少子化や高齢化にも歯止めをかけられるでしょう。
また、一度は地域を離れてしまった住民が、再び地域に戻ってきてくれることも期待できます。
このように、シビックプライドの形成や醸成は、地域の「少子高齢化の改善」に大きく貢献してくれます。
移住者(転入者)の増加につながる
シビックプライドは、地域住民の定住化だけでなく、移住者(転入者)の増加にも役立ちます。地方へ移住したい人が増えている近年、地方自治体によるプロモーション活動は欠かせません。
地域住民や自治体が中心となって、生活のしやすさ、活気ある経済、充実した受け入れ態勢などをアピールすることで、移住してくれる人を増やすことが可能です。
また、移住には至らなくとも「関係人口」の増加にも、シビックプライドは大いに役立ちます。関係人口が増えれば、地域活動や地域経済の活性化にも繋がるでしょう。
地方創生の活力になる
シビックプライドを持つ人たちは「地域に貢献したい心意気」があるため、地方創生への取り組みにも積極的に参加してくれます。
地域住民にシビックプライドを浸透させることで、地域活性化に向けた様々な施策に対しても寛容になってくれるでしょう。
地方創生への積極的な参加、変化に対する寛容さなどを持つ住民が増えれば増えるほど、住みやすい街づくり政策も進めやすくなり、より魅力ある地域へと発展させることができます。
シビックプライドが醸成されている地域ほど、地方創生の活力は大きいと言えるでしょう。
インバウンドの促進につながる
地方には、インバウンド(訪日外国人旅行者)が増加している地域があります。そして、地方を巡りたいという外国人観光客のニーズも高まっています。
観光地ではなく地方に行きたい人たちは、インターネットなどで情報収集をしており、こういう人たちに向けて、地域の魅力をアピールすればインバウンド増加にも繋がります。
シビックプライドを持つ人たちは、SNSなどを使って地域の魅力を積極的に発信してくれるため、インバウンドの促進にも繋がるでしょう。
また、地域の魅力を発信し続けることで、外国人だけでなく日本人の観光客も訪れてくれるというメリットもあります。
シビックプライドの醸成・形成方法
シビックプライドのメリットを最大限活かすには、地域住民にシビックプライドを形成してもらい、さらに醸成させることが大切です。
シビックプライドの形成や醸成には様々な方法があり、以下の方法は代表的なものになります。
● 首長の施政方針に盛り込む
● キャンペーンを実施する
● 住民参加型のイベントを開催する
● 地域の魅力を定期的に発信する
● 義務教育の地域学習を活用する
これらの方法について、詳しく紹介します。
首長の施政方針に盛り込む
シビックプライドの形成や醸成には、自治体の主導が必要不可欠です。議会の施政方針に盛り込むことで、自治体の後押しをすることができます。
たとえば、東京都多摩市市長は2018年の施政方針で、以下のようにシビックプライドについて述べています。
「住み続けたいまち。子育てしたいまち。老いを迎えても幸せを実感できるまち。いつまでも自分らしく、いきいきと暮らしていける多摩市を全国に発信し、市民の皆さんの『まちを愛する心=シビックプライド』を大切にしたまちづくりを進めます」
首長や自治体がシビックプライド形成を宣言することで、条例や施策などもシビックプライドを意識したものに変えていくことができ、徐々に住民にも浸透していくでしょう。
キャンペーンを実施する
キャンペーンによるシビックプライドの成功例は、オランダのアムステルダム市が2003年に始めた「I amsterdam」キャンペーンです。
このキャンペーンでは、アムステルダム市民を撮影したフォトブック出版、ロゴ入りグッズの販売がされ、さらには展示会を開いてロゴが無料配布されました。
地方の自治体でも、ロゴを作成したり、撮影スポットを作ったり、グッズ販売を展開したりすることで、徐々にシビックプライドを芽生えさせることができます。
また、キャンペーンを実施したときに集まってくれる住民は、地域のアピール活動へ積極的に参加してくれるでしょう。
住民参加型のイベントを開催する
一昔前は、お祭りや伝統行事がシビックプライドの形成・醸成に一役買っていましたが、近年は、祭りや行事といったものが減少しています。それを補うために、住民が参加できるイベントを開催する方法もあります。
地域独自の魅力を活かしたイベントを開催すれば、住民が地域の魅力を再発見する機会にもなり、シビックプライドの醸成にも役立ちます。
また、イベントに参加した住民たちにSNSなどでの情報発信をお願いすることで、地域外の人たちへのアピールにもなるでしょう。
地域にはまだ隠された魅力がたくさんあるはずです。住民にどのようなニーズがあり、地域にはどのような魅力があるかを再検討すれば、魅力あるイベント開催ができるでしょう。
地域の魅力を定期的に発信する
地域の魅力をアピールすることも、シビックプライドの醸成に繋がります。自治体が積極的にプロモーションをすれば認知度が高まり、地域住民もより積極的に地域貢献しようと考えてくれるでしょう。
また、住民にアピール活動へ参加してもらうことも、シビックプライド形成に大切なポイントです。SNSやブログ、動画などで積極的に発信してもらうためには、以下のことが重要になります。
● 撮影スポットを作る
● ロゴやグッズを作る
● キャッチフレーズを作る
● イベントを開催する
これ以外にも、各地域では色々なアイデアでアピールをしています。どうすれば住民に「情報発信したくなる」と思ってもらえるか、これがキーポイントです。
義務教育の地域学習を活用する
一番オーソドックスな方法が、教育の中でシビックプライドを形成・醸成していく方法です。小中学校での地域学習などは、その最たる例になります。
授業の中で地域の歴史や特色について学んだり、課外授業で資料館に出かけたり、地元企業の人を招いて話をしてもらったりなど、様々な方法でシビックプライドの形成にアプローチできます。
子どもの頃から、住んでいる地域のことを深く知ることで、郷土愛・地元愛だけでなく地域に貢献したいと思う気持ちも芽生えるでしょう。
シビックプライドの効果測定方法
自治体では「シビックプライドの効果をどう測定すればよいか」悩んでいる担当者も多いようです。
シビックプライドの効果測定には、以下の2つの方法が適しています。
● 居住意向調査
● 住民推奨調査(ネットプロモータースコア)
多くの自治体で実施されている「居住意向調査」は、地域住民のシビックプライドを測定する方法にも使われています。
一般的には、居住意向や愛着の数字とシビックプライドには「相関関係がある」とされています。
また、神奈川県川崎市のように「住民推奨調査」を応用して、シビックプライドの効果測定をしている地域もあります。
居住意向調査は「住民の愛着と誇り」を測る指標となり、住民推奨調査は「地域外の人たちへの推奨度合い」を測る指標となるため、両方の調査を実施することでより正確な効果測定が可能です。
シビックプライド自治体の取り組み事例
全国各地の地方自治体では、シビックプライドの形成や醸成に向けて、様々な取り組みがされています。
ここからは、シビックプライドに関連する自治体の取り組み事例について、いくつか代表的なものを紹介します。
埼玉県戸田市|インナープロモーションの強化
戸田市では、既存住民の流出抑制のために「インナープロモーションの強化」が必要となり、読売広告社と共同して、新旧住民が参加するワークショップを企画して実施しました。
● 戸田市の良いところ、悪いところの洗い出し
● 戸田市の理想の未来をレゴブロックでカタチにする
この2つのワークを通じて、地域住民の関係作りやシビックプライド醸成について、一定の成果が得られました。
ワークショップの結果から、シビックプライド醸成について「男性は誇り」を「地元民は愛着」を「転入者は共感」を意識する傾向があると示唆されています。
地域のイメージだけでなく「人々のつながりの充実」も、シビックプライドには大切なことだと分かる一例です。
埼玉県春日部市|シティセールス活動
春日部市では、イメージアップ、シビックプライド醸成、移住促進、関係人口の獲得などを図るため、第3次春日部市シティセールス戦略プランが策定されました。
市内・市外の20〜40代をターゲットに設定し、ブランドメッセージとしてキャッチコピー「+1(プラスワン)のあるまちkasukabe(かすかべ)」と、シティセールスシンボルマークを作成しました。
また、転出を抑制するためにシビックアクションを段階的に展開し、自治体の各課による取り組み、市民参加型のイベントの実施、クレヨンしんちゃん活用事業などを通じて春日部市の魅力をアピールしています。
岩手県北上市|ブランドイメージの発信
北上市では、ALL北上でシビックプライドを醸成するために、以下の取り組みが始まっています。
● 都市ブランドメッセージの継続的発信
● プロモーションメディアの効果的な運用
● 市民とのブランド共創
● 魅力の拡散につながる仕組みづくり
これらのアクションプランを達成するために、具体的な取り組みも決められています。
行動計画はPDCAサイクルに沿って柔軟に変更・追加されており、取り組み内容も徐々に増えてきています。
さらに、行政と市民の連携だけでなく、外部からの意見も取り入れることで、より客観的・創造性ある展開を目指しています。
栃木県足利市|ロゴの作成
足利市では市制100周年を機に、足利のシビックプライドを示すメッセージ「A to A じぶんらしく、あたらしく、あしかがらしく」を市民投票で策定しました。
その後、地元高校生や足利市出身のクリエイターなどと協働して、ロゴマーク(通称:あしもりマーク)を作成しました。
あしかが高校生クラブ「あしもり隊」も結成され、地元高校生を中心に様々な活動をしています。
三重県伊賀市|住み良いまちづくり
伊賀市では、シビックプライドを醸成させるために「伝統的な文化財」や「歴史的な建物」の保全と活用を図り、まちなかで暮らすことを推進しています。
そのために、以下の3つの事業を計画しました。
● 古民家等再生活用事業
● 空店舗等情報システム整備及びコンサルタント事業
● にぎわい忍者回廊整備事業
中心市街地を活性化することで、居住と観光が紡ぐ交流のまちづくり、子ども達が住み夢と誇りを持ち続けるまちづくりを目指しています。
参考:伊賀市「第2期伊賀市中心市街地活性化基本計画【概要版】」
兵庫県神戸市|メッセージの発信
神戸市では、阪神・淡路大震災後20年をきっかけに「BE KOBE」というシビックプライド・メッセージを作り、発信を続けています。
BE KOBEの文字は、市内各所にモニュメントととして設置され、SNS映えする新たな観光スポットとなっています。このような観光スポットからも、SNSを通じて「BE KOBE」というメッセージが発信されています。
参考:神戸市「創造都市ライン」
富山県富山市|モニュメントの設置
富山市では、シビックプライド醸成に向けて、キャッチフレーズ「AMAZING TOYAMA」を作り、市民と連携しながらシティプロモーション事業を展開しています。
富山城址公園、富山駅前には、AMAZING TOYAMAのモニュメントが設置され、正方形のデザインが特徴です。同様にロゴマークも作成され、誰もが幅広く利用できるよう「ダウンロード」して使えるようになっています。
参考:富山市「AMAZING TOYAMA(アメイジング トヤマ)プロジェクト」
まとめ|シビックプライドの課題と今後の展望
シビックプライドは、地域課題の解決、地域活性化など、地域の取り組みには欠かせない要素のひとつと言えます。
シビックプライドという言葉だけが広まるのではなく、地域住民の中にシビックプライドを形成・醸成していくことが重要なポイントです。そのためには、自治体の継続的な取り組みだけでなく、それを担保する条例や行政計画が必要になるでしょう。
今後は、行政主導の取り組みだけでなく、いかに「住民を巻き込んで」シビックプライドを醸成させていくかも課題となります。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。