リジェネラティブ(環境再生)とは?農業や酪農・漁業での取り組みと事例を紹介

近年、自然環境の再生に関連して「リジェネラティブ」という言葉が、注目を集め始めています。

 

とくに、農業分野ではリジェネラティブの考え方を取り入れて、新しい農作物栽培の手法が導入されつつあります。酪農業や漁業でも、リジェネラティブな活動をする人たちが出始めています。

 

この記事では、リジェネラティブの概要やメリット、農業・漁業・酪農業での導入事例などを紹介します。


▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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リジェネラティブとは

リジェネラティブ(Regenerative)とは、温暖化や異常気象、自然破壊によってダメージを受けた「土壌」や「海」の生態系を取り戻そうとする考え方で、日本語では「環境再生」とも訳されます。

 

これまでの環境対策に比べると、リジェネラティブはより踏み込んだ考え方とも言えるでしょう。

 

現在、農業分野を中心にリジェネラティブに基づいた取り組みが進められており、今後は農業分野以外への広がりが期待されています

 


リジェネラティブが注目される背景

リジェネラティブの考え方に基づいた取り組みが注目されるようになった背景には、近年の「環境問題」が大きく影響しています。

 

イギリス産業革命以降、急速な工業発展により環境は破壊され、地球温暖化も深刻です。また、異常気象も年々増加しており、土壌や海洋では生態系そのものが崩れ始めています。

 

そこで、生態系の「再生」を目指した取り組みとして、リジェネラティブという考え方が注目されるようになりました。

 

近い将来、土壌の荒廃により農作物の収穫量が減少し、それによって引き起こされる「食糧危機」も予想されています。このような背景もあり、とくに農業分野ではリジェネラティブに基づいた取り組みが進んでいます。

 


リジェネラティブとサステナブル(サステナビリティ)の違い

環境問題では「サステナブル(サステナビリティ)」という言葉がよく使われていますが、リジェネラティブとは大きな違いがあります。

 

●     サステナブル:環境をこれ以上悪化させないようにする。ゴミの削減、エコ製品の利用など

●     リジェネラティブ:自然の生態系を再生させる。不耕起栽培、有機農法、藻場作りなど

 

サステナブルの考え方に基づく取り組みでは、環境破壊を抑えることはできても「破壊された環境を回復させるには不十分である」という意見が増えてきました。

 

そのため、破壊された環境を積極的に「再生あるいは回復する」ことを目的とした、リジェネラティブという考え方や取り組みが注目され始めています。

 



リジェネラティブのポジティブな影響

人間の活動を「自然のサイクルの一環」と位置付けて考えることも、リジェネラティブの特徴です。

 

人間が自然の生態系を破壊していることは、人間自身が自然のサイクルを足止めしているとも言えます。

 

また、リジェネラティブの考え方に基づいて様々な取り組みをすることで、環境問題だけでなく地方創生、SDGsへも良い影響を与えられます。
 


環境問題の改善へ繋がる  

リジェネラティブの考え方を各産業に取り入れることで、水質汚染、酸性雨、生態系の破壊といった環境問題の緩和や、生物多様性の保全、生態系の改善へと繋がります。

 

しかし、自然の生態系を回復させて、地球環境に良い影響をもたらすには、とてつもなく膨大な時間がかかります。リジェネラティブな活動や取り組みを、できるだけ早急に始めていけるかも重要なポイントです。

 

環境破壊による地球温暖化、異常気象、さらには食料危機といった人類全体の課題を解決するには、リジェネラティブの考え方を取り入れた活動が必要不可欠になるでしょう。

 


地方創生に貢献できる  

リジェネラティブは農業分野での取り組みが活発であり、漁業や林業、酪農業などでも活動が広まりつつあります。

 

いわゆる「一次産業」と呼ばれるものと「リジェネラティブの取り組み」はとても相性が良いため、自然資源が多い地方において積極的に取り組まれることが期待されています。

 

また、地方の一次産業でリジェネラティブの取り組みが増えることによって、新たな産業が生まれて雇用が創出されれば、地域活性化や地方創生にも繋がるでしょう。

 

リジェネラティブに基づいた取り組みは、環境問題だけでなく、地域社会の課題解決にも貢献できます。

 


SDGsの取り組みを促進できる

SDGsが掲げている2030年目標を達成するためには、様々な取り組みのスピードを早めて、規模を拡大する必要があります。そのため、SDGsでは国や地域、企業という枠を超えて団結し、関係者が一体となって行動することが求められています。

 

リジェネラティブに基づいた取り組みによって、地域の人たちの団結力、地域と企業の関係性を高めてくれます。

 

リジェネラティブの活動を進めながら、人々の繋がり、団結力を高めていくことで、SDGsの取り組みの促進も期待できるでしょう。

 


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リジェネラティブが取り入れられている主な分野

リジェネラティブの考え方や活動は、様々な分野や産業で取り入れられています。とくに、農業分野では取り組みが活発化してきており、漁業や酪農業でも注目され始めています。

 

農業や漁業は、自然の生態系とも深く関わっているため、生態系回復への取り組みは極めて重要です。

 

ここでは、農業、漁業・水産業、酪農業におけるリジェネラティブの取り組みについて紹介します。

 


農業分野におけるリジェネラティブ

リジェネラティブが活発に取り入れられている産業の代表例が「農業」です。微生物や虫などの生態系を回復させ、土壌の改善を目的とした取り組みが中心となっています。

 

具体的な取り組みとしては、以下の方法が挙げられます。

 

●     不耕起農法:できるだけ土を耕さず農作物を栽培する

●     有機農法:自然由来の堆肥などの有機肥料を使用する

●     輪作:同じ土地で異なる作物を一定の周期で栽培する

●     被覆作物:露出した地面を覆うように植物を植える

 

土壌の状態が良くなると、空気中から二酸化炭素の炭素部分を吸収してくれるため、CO2削減にも繋がります。土壌の生態系回復により、農地の生物多様性の保護、保水能力の向上といった効果も期待できます。

 


漁業・水産業におけるリジェネラティブ

漁業や水産業でも、リジェネラティブの取り組みが進められています。海や川の生態系回復で注目されているのが「ブルーカーボン」です。
 

2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書において、藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた(captured)炭素が「ブルーカーボン」と命名され、吸収源対策の新しい選択肢として提示。ブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生態系として、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林が挙げられ、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれる。

引用:国土交通省「ブルーカーボンとは」

大気中の二酸化炭素増加による海洋酸性化が起こっており、河川や海洋の二酸化炭素濃度が増加することで「海洋生物の大量死」という危険も迫ってきています。

 

陸の生態系による二酸化炭素の吸収率は「約12%」ですが、海洋生態系による吸収率は「約30%」と言われており、海洋の生態系回復はCO2削減に大きな役割を期待できます。

 

また、磯焼けによる藻場の減少を回復させることで、海中の二酸化炭素量を減らすことができ、アワビやサザエなどが繁殖しやすい環境を作ることができます。 


酪農業におけるリジェネラティブ

牛の「げっぷ」に含まれるメタンガスが、地球温暖化の一因になっているという説が出始めています。諸外国では政府によるメタンガスの規制もあり、酪農家が減少している国もあります。

 

牛が空気中に出す二酸化炭素を減らすために、広い敷地で牛を放牧する取り組みを始めました。

 

牧草地で放牧すると牛のふん尿が堆肥となり、牧草への養分、土壌の生態系回復に役立つという考え方です。土壌の微生物が増えると、メタンガスや二酸化炭素の吸収率が高まり、結果としてCO2の削減が期待ができます。

 

現在、牛の放牧による土壌の炭素吸収率を数値化するために、産学連携で研究が進められています。

 



リジェネラティブ農業(環境再生型農業)のメリット

リジェネラティブ農業とは「環境再生型農業」のことで、土壌の生態系を回復させながら作物を育てる農業を意味します。

 

農業分野でリジェネラティブが注目される理由は、以下のメリットがあるからです。

 

●     農地の土壌が肥沃になる

●     環境汚染を減らすことができる

●     二酸化炭素の発生を抑えられる

 

企業でも、リジェネラティブ農業を促進する取り組みが進んでいます。

 


農地の土壌が肥沃になる

現在主流である「土地を耕す」農法だと、土壌の炭素を放出させてしまうため、土地を耕して農作物を作れば作るほど「土が痩せていく」という問題を抱えています。

 

しかし、リジェネラティブ農業では、必要以上に農地を耕さないため(不耕起農法)、土壌の中に炭素が増えていき「微生物の繁殖」が盛んになります。

 

また、農薬や化学肥料を使わず、有機物を分解した堆肥を使うことでも、土壌の微生物は増殖していきます。

 

このように、土壌の生態系を回復させることで、土壌の養分や有機物も豊富になり、さらに保水性も高まるなど、得られるメリットが多いです。
 


環境汚染を減らすことができる

窒素肥料を使用する農法では、土壌の窒素が雨水や地下水とともに、河川や海に流れ出してしまいます。結果、水中の窒素が増えてしまうことにより、藻類の大量発生や、飲用してしまうと健康被害に繋がり、河川や海の生態系が破壊されます。

 

また、化学肥料を過剰に使うことで土壌の微生物が減り、生態系をも壊してしまう可能性があります。

 

リジェネラティブ農業では、化学肥料を全く使用しないため、土壌汚染や海洋汚染のリスクを減らすことにも繋がります。

 


二酸化炭素の発生を抑えられる

不耕起農法、輪作、有機農法などを行うことで、土壌の生態系を回復させることができます。土壌の微生物が増えてくると、空気中の二酸化炭素を取り込んでくれるため、CO2削減にも繋がります。

 

土壌が健康になると農作物や植物などの生育も良くなり、光合成のために空気中の二酸化炭素をより吸収してくれます。

 

リジェネラティブ農業を取り入れると、農作物を作れば作るほど土壌が豊かになり、これまで以上に、大気中の二酸化炭素の削減に貢献できるでしょう。
 



農林水産業におけるリジェネラティブの取り組み事例

日本の農林水産業でも、リジェネラティブの考えに基づいた取り組みが増えてきています。

 

全国各地の取り組まれているリジェネラティブの事例について、いくつか紹介します。
 


岐阜県白川町|五段農園

岐阜県白川町の「五段農園」では、農薬や化学肥料を一切使わず、自家製堆肥で野菜を栽培しています。

 

五段農園では「土を育てる」というテーマのもと、以下の取り組みもされています。

 

●     地域資源を循環した高品質の堆肥づくり

●     農薬・化学肥料を使わない培養土・苗による有機農業支援

●     有機農業を学ぶ講座とワークショップ

 

地域で出た有機化合物を再利用して、品質の高い堆肥をつくり、循環型の有機農法を実践しています。

 

講座やワークショップを開催して、知見やノウハウを惜しみなく伝えているのも、五段農園の素晴らしい活動です。

参考:五段農園

 


高知県安芸市|合同会社シーベジタブル

高知県安芸市の「シーベジタブル」では、全国各地の沿岸にある海藻から種を取り出し、天然のミネラルが豊富な地下海水を使ったアオノリの陸上養殖をしています。

 

自然に湧き出る地下海水を使った「循環型の養殖モデル」です。地下海水は、一年を通して水温が安定しているため、高品質な海藻を通年育てることができます。

 

また、海藻は海中の二酸化炭素を吸収してくれる貴重な海洋植物です。

参考:合同会社シーベジタブル

   


北海道日高町|株式会社ユートピアアグリカルチャー

北海道日高町の「ユートピアアグリカルチャー」では、牛の放牧、山間地域での放牧に取り組んでいます。

 

牛を放牧することで「ふん尿」が堆肥となり、牧草がよく育つようになり、土壌の生態系も改善します。また、乾燥した牧草よりも青草を食べることで、風味豊かな牛乳が採れるようになりました。

 

北海道大学と共同で、放牧酪農により土壌への「二酸化炭素吸収率がどれくらいになるのか」などを、数値化する研究も行っています。

参考:株式会社ユートピアアグリカルチャー

 


宮城県南三陸町|宮城県漁協志津川支所戸倉出張所

宮城県南三陸町の「宮城県漁協志津川支所戸倉出張所」では、牡蠣の過密養殖による生産性低下が課題となっていました。

 

震災後、牡蠣の養殖を再開するにあたり「養殖の施設台数を半数以下」にしたところ、通常の生育期間の半分ほどで、収穫可能なサイズまで育ちました。

 

海の環境に配慮した養殖方法を選択したことで、新たな経済的メリットの創出に繋がっています。

参考:WWFジャパン「南三陸・責任ある養殖推進プロジェクト」

 


愛媛県松野町|株式会社サン・クレア

愛媛県松野町では「サン・クレア」が、田んぼを耕さない「不耕起農法による米づくり」に取り組んでいます。

 

刈り取った米は、ハザ掛け(稲木)に干すことにより、ゆっくり天日干しで自然乾燥され、風味のある美味しい米ができあがります。

 

不耕起栽培による米づくりは、環境にとっても、人間の体にとっても、優しい農法です。

参考:株式会社サン・クレア

 


茨城県笠間市|株式会社いわまの栗

茨城県笠間市の「いわまの栗」では、耕作放棄地や休耕地を改植して、リジェネラティブな農地に作り替える取り組みを実施中です。

 

できる限り自然に近い形で育てるため、農薬や肥料などは使わず、畑に生える草を活用した「自然草生栽培」を行っています。

 

岩間地区の栗生産の減少に歯止めをかけるため、管理する農地を拡大しています。

参考:株式会社いわまの栗
 


東京都三鷹市|鴨志田農園

東京都三鷹市にある「鴨志田農園」では、地域の未利用資源を利用して、病原菌や雑草の種子が含まれていない自家製完熟堆肥で野菜作りを行っています。

 

企業から出る食品残渣を培養土にする技術者の養成、生ゴミの堆肥化や有機農業の仕組みづくりを行う事業も手がけています。

 

また現在、各家庭で出た生ゴミを鴨志田農園に持ち込み、農園はその生ゴミを堆肥化して野菜を作り、できた野菜を消費者へ、という仕組みを作り助燃剤削減の実証実験中です。

参考:関東農政局「生産現場での取組事例紹介(農薬・化学肥料の不使用・使用低減)」




まとめ|リジェネラティブ農業・酪農・水産業の今後の課題

リジェネラティブの考えを取り入れた農業、酪農、水産業は、従来の生産方法よりも「生産量を落とさざるを得ない」という現実があります。そのため、リジェネラティブの活動に取り組む人たちが、期待通りに増えていかないといった課題もあります。

 

横浜市では、ブルーカーボン・オフセット制度を実施し、藻場や海藻の森が吸収する二酸化炭素を「ブルーカーボン」としてオフセット取引をしています。

 

今後、自治体による政策・制度の整備を積極的に実施していきながら、リジェネラティブな手法へ切り替える人たちを増やしていく必要があるでしょう。


▶監修・解説:北川哲也氏

補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。

2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。



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