商店街活性化の成功要因と自治体の役割とは?各自治体の成功事例も紹介
近年、様々な要因により「シャッター商店街」と呼ばれる地域が増えてきています。
その一方で、商店街の空き店舗を再利用、商店街の機能を転換、地域ニーズへの対応といった方法で商店街活性化に取り組んでいる地域もあります。
本記事では、商店街活性化に活用できる補助金制度、再活性化に成功した商店街の特徴、商店街を活性化した成功事例などを中心に紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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商店街が衰退する理由や背景
地域が抱えている「人口減少」や「高齢化」といった問題により、地域経済は縮小を続けています。そして、全国各地域の商店街は、衰退の一途を辿っているのが現実です。
商店街が衰退していく背景には、以下の要因が挙げられます。
● 経営者の高齢化
● 集客力や話題性に乏しい
● 店舗の老朽化
● 商圏人口の減少
● 大型店との競合
● 電子取引の普及 など
地方では、人口の流出により商圏人口が縮小するだけでなく、郊外のショッピングモールへ買い物客が流れているという状況が見られます。
かつては、地域の人々の「買物を支える」商業機能を有していた商店街ですが、現在は商業機能に対する期待は低下しています。
一方、多くの商店街はアクセスしやすい場所にあるという強みもあり、商業以外の機能を担うことが期待されています。
商店街の強みと弱み
商業機能として衰退してしまった商店街を再び活性化するには、商店街が持つ「強み」と「弱み」を理解しておく必要があります。
中小企業庁では、住民目線による商店街の強み・弱みについて、以下を挙げています。
強み
・ 駅前や観光資源の近くに立地
・ 気軽にアクセスできる「リアル」な交流が得られる場(きめ細かなサービス、人とのふれあい等)
・ 充実した社会インフラ(歴史的に集中投資されてきた経緯)
・ 地域に根差した生活・文化の象徴、地域毎の特色
弱み
・ 価格
・ 商品のラインナップ
・ 駐車場
・ 空き店舗
自治体や商店街の工夫次第では、商店街の持つ「強みを活かした取り組み」が可能です。そのためには、商業機能にこだわらない施策が必要になるでしょう。
再活性化に成功した商店街の特徴
地方の商店街には、以下の方法で再活性化を達成したところもあります。
● 地域住民のニーズに応える
● 起業や就業機会を提供する
● 社会的変化を取り入れる
かつて商店街が担っていた「地域の商業機能」という役割から脱却することで、商店街を再活性化することが可能になるでしょう。
地域住民のニーズに応える
近年、地域住民や地域コミュニティが「自治体に求めるニーズ」は変化してきており、地域課題への対応や生活支援といった役割を望む声が大きくなっています。
子育て世代、高齢者のニーズに対応した取り組みを実施して、商店街を再活性化させた地域もあります。
たとえば、佐賀県基山町にある基山モール商店街では、駅から徒歩1分という立地を活かしつつ、高まる保育ニーズに応える取り組みを始めました。
代表的な取り組みは、商店街と町が連携することで、近隣の保育園を商店街へ誘致したことです。また、保護者には商店街で使える割引券を配布しました。
これらの取り組みの結果、商店街を通行する人の量が24%増加しています。
参考:中小企業庁地域経済産業グループ「地域コミュニティにおける商店街に期待される新たな役割と支援のあり方」
起業や就業機会を提供する
商店街の空き店舗を活用して、IT企業の誘致、若年層への創業支援などに取り組む商店街もあります。
商店街にメリットがあるだけでなく、ベンチャー企業や若者の起業・開業などが、事務所や店舗の「賃料を低く抑えたい」というニーズにも応えられています。
宮崎県日南市の油津商店街では、システム開発会社のサテライトオフィスを空き店舗に誘致しました。同時に、保育園や子育て支援施設なども商店街に整備することで、子育て世代の雇用も獲得できています。
参考:中小企業庁地域経済産業グループ「地域コミュニティにおける商店街に期待される新たな役割と支援のあり方」
社会的変化を取り入れる
環境意識の高まり、インバウンド増加といった社会的変化に着目して再活性化に成功している商店街もあります。
たとえば、フードロス削減、地産地消の推進、再生エネルギーの活用、公共交通機関の利用などを促進するために商店街全体でSDGsに取り組んでいるケースです。
また、観光客が多い愛知県名古屋市では、円頓寺商店街がインバウンド向けのゲストハウスを整備した結果、若年層の集客にも繋がり「商店街全体の売り上げが50%増加」しています。
参考:中小企業庁地域経済産業グループ「地域コミュニティにおける商店街に期待される新たな役割と支援のあり方」
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商店街に求められていること
商店街を活性化させるには、商業機能の回復だけでなく、地域住民や地域コミュニティを支援する取り組みも必要になります。
そのためには、各自治体や商店街が、地域住民から何を求められているのか、潜在的なニーズはどこにあるかなどを把握することが大切です。
今後の商店街のあり方として、商業機能の回復を中心とする、コミュニティ支援機能を充実させる、商店街機能を180度転換するといった地域の実情に合わせた商店街の取り組みが必要になるでしょう。
客観的な状況把握による対応が必要
商店街が現在の状況を「客観的」に把握することが、活性化への取り組みの第一歩となります。まずは、以下の側面を中心に、商店街が置かれている状況を分析しましょう。
● 商店街の自己分析(問題の整理)
● 競合商業施設・交通機関(アクセス)
● 地域の人口や通行量
競合となる商業施設については、商工会議所へのヒアリング、現地調査などで、営業時間や駐車台数などを把握すると良いです。
また、自治体の統計データを活用して、性別・年代ごとの人口や通行量などもチェックしておきましょう。
商店街活性化に向けた地方自治体の役割
地域の課題やニーズへ対応する機能を「商店街が有する」ことは、地方自治体にとっても有益です。
名古屋市では、事業プランを作成するワークショップを開催し、商店街関係者のみならず、建築士、デザイナー、学生、まちづくりの専門家などを交え、商店街活性化のチーム作りを実現しました。
自治体としては、地域を支える商店街を今まで以上に支援することはもちろん、国とも連携・協調して役割を果たす必要があるでしょう。
参考:中小企業庁地域経済産業グループ「地域コミュニティにおける商店街に期待される新たな役割と支援のあり方」
地域の実情を踏まえた支援が必要
商店街が活性化を目指すにあたって、その方向性については商店街関係者や自治体が中心となって決めることが大切です。
自治体としては、地域の実情を踏まえながら「住民の暮らしを支える」という視点と、社会全体の「大きな変化への対応」という視点での支援が必要となります。
社会全体の変化への対応とは、IoTなど先端技術を用いた社会実証、災害・感染症などへの支援、消費税引き上げへの対応の円滑化などが挙げられます。
商店街活性化に活かせる補助金
商店街を支援する目的で利用できる補助金制度は、政府主導のものと、各地方自治体によるものに大別されます。
ここでは、商店街活性化に活用できる補助金を、いくつか紹介します。
地域商業機能複合化推進事業
中小企業庁が公募している補助金制度です。
公募概要は「中小商業者等のグループが、商店街等において、来街者の消費動向等の調査分析や新たな需要の創出につながる魅力的な機能の導入等を行い、最適なテナントミックスの実現に向けた仕組みづくり等に取り組む実証事業を、地方公共団体が支援する場合に、国がその費用の一部を補助する」とされています。
補助率・補助額は、以下のように定められています。
【消費動向等分析・テナントミックス構築事業(ソフト事業)】
地方公共団体が間接補助事業者に交付する額の4/5以内、上限額400万円
【商店街等新機能導入促進事業(ハード事業)】
地方公共団体が間接補助事業者に交付する額の2/3以内、上限額4,000万円
商店街チャレンジ戦略支援事業(東京都)
北海道芦別市|利用状況を踏まえた公園の再整備
東京都が実施している商店街に対する助成のひとつです。以下の事業に対して、金銭的な支援や補助をしています。
1.イベント・活性化事業
2.地域連携型商店街事業
3.地域力向上事業
4.未来を創る商店街支援事業
5.政策課題対応型商店街事業
6.広域支援型商店街事業
7.商店街ステップアップ応援事業
将来を見据えた戦略的な取り組みにチャレンジする商店街等に対して、幅広く支援を実施しています。本事業は、商店街の持続的な発展を支援する内容となっています。
商店街起業・承継支援事業(東京都)
東京都による商店街活性化を目的とした開業助成金制度のひとつです。
都内商店街で新規開業又は既存事業の後継を行う中小小売商業者が開業等をするに当たり、店舗の新装又は改装及び設備導入等に要する経費の一部を助成する内容となっています。
個人だけでなく法人や事業承継に対して、最大で580万円が助成されます。
商店街活性化に成功した事例
ここからは、地域の関係者を巻き込みながら、個性的で多様性ある商店街活性化に取り組んでいる事例を取り上げます。
こちらで取り上げる事例の詳細については、経済産業省中小企業庁「商店街における取組事例集」をご参照ください。
岩手県釜石市|釜石大観音仲見世通り
震災ボランティアをきっかけに、2015年に釜石市へと移住した建築士の宮崎氏が、再び「商店街を観光地として再生させる」ことを、市の会議体を通じて提案しました。この提案に賛同した人たちが「釜石大観音仲見世リノベーションプロジェクト」を発足させて取り組みが始まります。
商店街には多くの空き店舗が存在する状況でしたが、新しい店舗を誘致するために必要となる多額の修繕費が課題でした。そこで、自分たちの手でDIYをしながらリノベーションを実施し、低コストかつ多様な人材が関わる商店街づくりを実現しています。
2018年にはコワーキングスペースを開業し、地域の起業家の誘致と支援体制を構築しました。
秋田県大仙市|大曲花火通り商店街
商店街の役割を、余暇を楽しみながら買い物をする場所から、日常使いの場所へと変化させていくため、地域住民へアンケート調査を実施しました。その結果、地域住民のニーズを可視化することに成功しました。
全国商店街支援センターの講師派遣プログラムなどを活用し、各店舗の魅力アップにも繋げています。
商店街の店主と商店街以外の若手店主たちが連携して、新しいイベントも開催されており、お互いに口コミで集客を図るなど、商店街にとって新しい客層の流入にもつながっています。
埼玉県北本市|北本団地商店街
観光協会職員、カメラマン、建築家という立場の違う有志3名が、まちづくり会社「暮らしの編集室」を設立し、お互いの強みを生かした多角的な組織を構築しました。
子供から大人まで、訪れた人がそれぞれの過ごし方で一緒に居られるような「新たなコミュニティスペース」を目指し、空き店舗をシェアキッチンとシェアハウスに改修しました。
地域住民が快適に過ごせる場を作ったことで、地域に必要とされる商店街づくりができています。
また、北本市と連携し、ふるさと納税を活用した「ガバメントクラウドファンディング」で、資金調達を実施しています。
東京都墨田区|下町人情キラキラ橘商店街
持続できる商店街の活動を目標に、できるだけ補助金に頼ることなく、得られる収益をメインにイベントを実施しています。
駅前などの商業エリアと差別化を図るため、高齢者ニーズを考慮した介護分野での取り組みを実施しました。テナントを誘致した結果、2015年に居宅介護支援事業所も兼ねる「すみまめカフェ」の開業に至ります。
地域住民が交流する商店街ならではの取り組みであり、商業機能と福祉の両方のニーズを満たすだけでなく相乗効果も生まれています。
静岡県熱海市|熱海銀座商店街
2013年から隔月のペースで、熱海銀座商店街では「海辺のあたみマルシェ」を開催しています。商店街の道路を有効活用することに加え、熱海で店舗や工房を開きたいと考えている人を発掘することも目的となっています。
また、都市部に住んでいる人たちが気軽に立ち寄れて「二拠点居住の入り口となる」ことをコンセプトに、ゲストハウス「MARUYA」を開業しました。
熱海の良さを知ってもらう体験ツアーなどを通じ、熱海のファンを増やすことに注力しています。
愛知県春日井市|勝川駅前通商店街
住民の構成やニーズに応える商店街づくりをするため、定期的に地域住民のニーズを調査しながら、商店街に求められている店舗や業種を探りました。
テナントの誘致にあたっては、入居者を募集してから家賃収入の範囲で改修をする「逆算方式」を採用しています。
地域住民のニーズをしっかりと把握して、商店街に足りていない店舗を誘致する仕組みを構築したことにより、地元住民に求められる商店街へと生まれ変わりました。
その結果、新たな客層を獲得することができ、商店街や周辺地域が再び活性化することにも繋がっています。
和歌山県田辺市|田辺駅前商店街
田辺市が実施している「景観まちづくり刷新支援事業」の一環として、田辺駅前商店街にある建物外壁の塗り替えやアーケードの撤去を実施しました。
それだけでなく、田辺駅前商店街の個性を活かした多様性のある取り組みのために、商店街振興組合とまちづくり会社が主体となって勉強会を開催しました。
勉強会を通じて新しいアイデアが生まれ、多様な人材と連携することで独自性があるアイデアの創出にも繋がっています。
また、一日限定ではありますが、商店街内の全店舗(空き店舗を含む)のシャッターを開けるとともに、空き店舗を活用した「お試し出店」ができる取り組みも始まっています。
愛媛県松山市|松山中央商店街
キャッシュレス決済や通知機能を統合した、地域独自のデジタル決済ツール「まちペイ」を開発しました。現在では、地域の需要喚起にも欠かせないインフラへと成長しています。
また、商店街に来る人の属性、行動、消費動向などを、 AI カメラやまちペイを活用してデータ収集し、商店街に来た人に消費行動を促すための仕組みを構築しました。
データを基盤とした取り組みを実施することで、より効果的・効率的な成果を得られています。
福岡県北九州市|魚町銀天街
商店街振興組合は、商店街を1つのショッピングモールとして見立て、アーケードの新設・改修に着手しました。
コスト削減と環境への配慮を目的に、透過性の太陽光パネルやLED照明が設置されており、電力は太陽光発電により賄われています。
また、市内のSDGsへの関心の高まりや、商店街の取り組みとSDGsとの親和性の高さも相まって、地域の課題に向き合うため「SDGs商店街」として活動を開始すると宣言したことでも有名です。
コツコツと小さな活動を継続したことにより、SDGs商店街としてのブランドが定着して、商店街への新たな来訪者も増加しています。
宮崎県日南市|飫肥城下町
飫肥エリアには伝統的な古民家が多く存在しているため、民間活力を用いた古民家再生に注力しました。
現在、古民家を宿泊施設に改修するなどして、稼げる古民家へと転換することができています。
行政にとって負担となっていた「古民家」という地域資源を民間が活用し、収益化に成功した地域であることが認知された結果、域内外の民間事業者に注目してもらうことにも成功しています。
まちのコイン|株式会社カヤック
株式会社カヤックが提供する「まちのコイン」は、地域を繋げるコミュニティ通貨(電子地域通貨)サービスで、2019年9月には神奈川県「SDGsつながりポイント事業」にも採択されました。2023年8月現在22の地域で活用されています。
コロナ禍で落ち込んだ経済を活性化させるため「地域通貨」を導入している自治体も増えていますが、狭い地域での値引き合戦になっており、継続が難しい一面もあります。
この「まちのコイン」は、まちづくりにコインを活用する自治体や民間企業を増やすことで、交流人口の拡大を促進するだけでなく、より一層コストを減らして持続可能なコミュニティ通貨にすることを目指しています。
参考:面白法人カヤック「地域を面白く、より良い世界をつくる冒険を共に〜 コミュニティ通貨(電子地域通貨)サービス「まちのコイン」の 全国拡大を目指し、12月から新価格で提供開始」
まとめ|商店街に今後期待されること
現在、都市部へ本社機能や人口が集中することへのリスクが顕在化しつつあり、地方への移住・定住ニーズも高まりつつあります。
商店街が生活関連サービスを充実させ、地域住民のニーズを満たす機能を有することで、移住や定住支援の受け皿になることも期待されています。
商店街が活性化することは、地域課題の解決、地域経済の拡大といったことに繋がるだけでなく、地域が抱える深刻な課題でもある「過疎化対策」にも繋がっていく非常に重要な取り組みと言えるでしょう。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。