マイナンバーカード自治体の活用事例と普及への取り組みを紹介
マイナンバーカードの保有率は、各自治体によって大きく異なっているのが実情です。保有率が高い自治体では、住民の90%近くがマイナンバーカードを持っています。
また、マイナンバーカードの保有率を上げるだけでなく、利活用を普及させるために、全国の自治体では様々な取り組みが進められています。
本記事では、マイナンバーカード普及時の注意点、空き容量の活用メリット、自治体の取り組み事例などを中心に紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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マイナンバーカードの交付・保有状況
総務省の発表によると、2023年9月30日時点でマイナンバーカードの保有枚数は「約9,090万枚」で、人口に対する保有割合は「約72.5%」となっています。
都道府県別のマイナンバーカード保有枚数率1位は、宮崎県の「81.2%」で、上位10都道府県は以下のとおりです(2023年9月末時点)。
1位 宮崎県
交付枚数(累計):933,369
保有枚数:867,867
保有枚数率:81.2%
2位 鹿児島県
交付枚数(累計):1,305,523
保有枚数:1,239,157
保有枚数率:77.9%
3位 佐賀県
交付枚数(累計):654,341
保有枚数:621,456
保有枚数率:77.0%
4位 鳥取県
交付枚数(累計):441,554
保有枚数:419,975
保有枚数率:76.8%
5位 山口県
交付枚数(累計):1,072,906
保有枚数:1,013,217
保有枚数率:76.4%
6位 岐阜県
交付枚数(累計):1,595,200
保有枚数:1,513,212
保有枚数率:76.3%
7位 広島県
交付枚数(累計):2,233,818
保有枚数:2,111,628
保有枚数率:76.2%
8位 秋田県
交付枚数(累計):751,388
保有枚数:716,602
保有枚数率:76.2%
9位 愛媛県
交付枚数(累計):1,062,318
保有枚数:1,009,382
保有枚数率:76.1%
10位 山形県
交付枚数(累計):831,680
保有枚数:792,740
保有枚数率:76.0%
指定都市・中核市別マイナンバーカード保有枚数率1位は、宮崎市の「81.3%」で、上位10都市は以下のとおりです(2023年9月末時点)。
1位 宮崎市
交付枚数(累計):344,963
保有枚数:324,751
保有枚数率:81.3%
2位 鹿児島市
交付枚数(累計):489,686
保有枚数:470,317
保有枚数率:78.7%
3位 秋田市
交付枚数(累計):244,060
保有枚数:232,801
保有枚数率:77.5%
4位 鳥取市
交付枚数(累計):149,079
保有枚数:141,566
保有枚数率:77.2%
5位 熊本市
交付枚数(累計):591,483
保有枚数:559,048
保有枚数率:76.4%
6位 広島市
交付枚数(累計):947,447
保有枚数:899,505
保有枚数率:75.9%
7位 福山市
交付枚数(累計):365,393
保有枚数:349,800
保有枚数率:75.9%
8位 岐阜市
交付枚数(累計):322,320
保有枚数:305,385
保有枚数率:75.9%
9位 浜松市
交付枚数(累計):629,787
保有枚数:600,529
保有枚数率:75.8%
10位 一宮市
交付枚数(累計):300,997
保有枚数:288,191
保有枚数率:75.8%
普及促進への取り組み
マイナンバーカードの保有枚数率が「90.7%」にまで達している兵庫県養父市では、マイナンバーカード交付を促進するために「団体・企業への出張サービス」を開始しました。さらに、毎月第2日曜日は休日申請窓口を開設して対応しています。
また、マイナポイント第1弾キャンペーン終了後には、養父市独自で2,000円のクーポン券を配布しました。
保有枚数率が「88.0%」となっている宮崎県都城市では、マイナンバーカード申請の特設ブースを、市役所内だけでなく、市の支所、民間施設などにも拡大しました。
イオンモール、温泉施設、大学、図書館など、人の集まる場所へと出張をしています。
両市の共通点である「市が自ら出向いて」という部分が、マイナンバーカード交付を促進させるポイントとなるでしょう。
マイナンバーカード普及時の注意点
マイナンバーカードを普及させるにあたっては、注意点もしっかり把握しておきましょう。以下は、特に注意しておきたいポイントです。
● 発行までに時間がかかる
● ネガティブなイメージも存在する
● 導入・運用にはコストがかかる
利用者、自治体、事業者、それぞれの立場においてデメリットがあります。
発行までに時間がかかる
マイナンバーカードは、申請してから発行までに時間がかかるという点がデメリットです。
マイナンバーカードが「必要になったから申請する」と、結局は間に合わないといったことが起こり得ます。
そのため「必要になってからでは遅い」ということを、地域住民に説明していくことも必要でしょう。
また、暗証番号を忘れてしまうケースも多いという点も、マイナンバーカードのデメリットになります(その都度手続きが必要になる)。
ネガティブなイメージも存在する
マイナンバーカードに対して「個人情報の流出」や「なりすまし被害」といったネガティブなイメージを持つ人は、決して少なくありません。
マイナンバーカードのICチップには、税・年金の情報や病歴など「プライバシー性の高い情報は記録されない」ことを、しっかりと説明していく必要があります。
また、日本のマイナンバー制度では、なりすまし被害を防ぐためマイナンバーの利用範囲を法令や条例で制限し、マイナンバーを利用する際には厳格な本人確認も義務付けているという点も周知していくと良いでしょう。
導入・運用にはコストがかかる
自治体や事業者側は、マイナンバーカードの活用に「コストがかかる」という点にも注意しておきましょう。
マイナンバーカードの活用にあたっては、暗証番号(PIN)とICチップを読み込むための「カードリーダー端末」を導入する必要があり、導入費用や運用費用がかかります。
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マイナンバーカードの空き容量とは
マイナンバーカードの空き容量とは、カードに搭載されたICチップの「空いている容量」のことです。つまり、マイナンバーカードには、使われていない空き容量が存在しています。
このICチップの空き容量は、様々なことに活用できるメリットがあり、実際に活用される事例も増えてきました。
また、マイナンバーカードの空き容量は、市町村・都道府県は条例で定めるところにより利用可能です(印鑑登録証など)。新たに、民間事業者も主務大臣の定めるところにより利用可能となっています。
活用するメリット
空き容量の活用によって得られるメリットとして、主に以下の点が挙げられます。
● マイナンバーカードを使用するため、新規カードの作成は不要
● 国際規格に準拠した高度なセキュリティ
● 経費を抑え使い勝手の良いクラウドも利用可能
● 複数のサービスをマイナンバーカード1枚に集約可
● 長期にわたり継続利用できる(有効期限が10年)
このような種々のメリットがあるため、ICチップの空き容量を活用した事例が増えてきています。
空き容量の活用例
マイナンバーカードの空き容量を活用している例として、以下の3つが挙げられます。
● 入室や入館権限に利用
● 窓口手続きの簡略化
● 図書館の利用
自治体だけでなく民間事業者でも、マイナンバーカードを「入室・入館権限」に活用しているところがあります。専用リーダーにカードをかざすだけで、入室や入館ができる便利なシステムです。
自治体によっては、独自のアプリを活用するなどして、窓口業務を効率化するために、住民票などの申請手続きを簡略化しています。
また、マイナンバーカードの空き容量を利用して、図書館の貸し出しカード機能を持たせている自治体もあります。利便性を向上させつつ、マイナンバーカード申請へのアピールも実施しています。
自治体におけるマイナンバーカード活用事例
ここからは、各自治体独自のマイナンバーカード活用事例を紹介します。
行政サービスは電子化される方向に進んでおり、マイナンバーカードを上手く活用することで「サービス向上」や「業務効率化」にも繋がるでしょう。
愛知県小牧市|図書館における活用
小牧市では、図書館での初回利用時にマイナンバーカードと図書館利用券番号を紐付けることで、自動貸し出し機による図書の貸し出しを可能にしました。
また、マイナンバーカードを図書館の利用者カードとして利用できることを、4ページにわたって広報誌に掲載してアピールしています。
マイナンバーカード交付時には、市民窓口課にてチラシを配布して広く周知できるよう取り組んでいます。
参考:愛知県小牧市「図書館における マイナンバーカードの利用」
福岡県北九州市|図書館アプリの実証
北九州市では、マイナンバーカードを活用した「図書館アプリ」の利用について実証を実施しました。
スマホの図書館アプリへの初回登録時に、マイナンバーカードをかざすだけで本人確認と利用者登録ができます。これは全国初の試みです。
この方法だと図書館カードとの紐付け手続きも必要なくなり、アプリでバーコードを表示するだけで図書館利用者カードの代わりとして使用できます。
このアプリを導入したことで、図書館を利用するたびにマイナンバーカードを持参する手間がなくなりました。
参考:福岡県北九州市「マイナンバーカードを活用した図書館アプリの実証」
大阪府箕面市|印鑑登録証明書の交付
箕面市では、印鑑登録証の代わりにマイナンバーカードで「印鑑登録証明書の交付」が受けられるようにしています(本人のみ)。マイナンバーカードを使えば、コンビニでも証明書を取得することが可能です。
また、登録証の持ち方として、①印鑑登録証だけを持つ、②マイナンバーカードだけを持つ、③印鑑登録証とマイナンバーカードを両方持つの3つの選択肢から選べるようになっています。
参考:大阪府箕面市「印鑑登録における マイナンバーカードの活用」
埼玉県伊奈町|窓口整備事業
伊奈町では「マイナンバーカード対応記帳台」を設置し、タッチパネルの操作だけで申請書類を取得できるようにしました。
町民の利便性向上はもちろん、役場窓口の業務負担軽減にも繋がっています。
マイナンバーカード対応記帳台にて、住民票、印鑑証明書、税務証明書など、10種類以上の申請書類を取得することが可能です。
岡山県鏡野町|電子申請・届出システム
鏡野町では、マイナンバーカードを利用して、スマホから「証明書等の郵送請求」や「各種申請・届出」や「補助金等の交付申請」ができるようにしています。
このシステムを導入したことにより、町民には以下のメリットが生まれました。
● 役場窓口への来訪不要
● キャッシュレス決済
● スマホで完結
● 手書き申請書の作成不要
電子申請・届出システムにより、各種証明書の交付だけでなく、ゴミやリサイクルに関連した申請や届出、移住支援金や乗合タクシーの補助金申請なども可能です。
香川県土庄町|入退室・出退勤への活用
土庄町では新庁舎建設に伴い、マイナンバーカードを活用した入退室・出退勤管理システムを導入しました。
マイナンバーカードの空き容量を利用し、職員の出退勤情報、時間外勤務の申請、休日出勤の情報を一元管理しています。
また、一部の部屋や休日の庁舎出入り口には「入退室用カードリーダー」を設置することで、鍵の管理を不要にしました。
新潟県三条市|選挙の投票入場受付
三条市は、マイナンバーカードを活用したサービスや業務効率化に、積極的な取り組みをしている代表的な自治体のひとつです。
その中でも「選挙の投票入場受付」は、他の自治体でもほとんど実施されていない取り組みで、マイナンバーカードを投票入場券として利用しています。
投票時にはカード受付専用レーンを設けることで受付時間を短縮し、さらに待ち時間短縮と配置職員の削減を実現しつつあります。
群馬県前橋市|タクシー運賃補助
前橋市では、平成28年から高齢者や障害者などを対象に「タクシー運賃の一部を助成する割引サービス」を始めました。
令和4年度からはマイナンバーカードでの運用に一本化し、高齢者のマイナンバーカード取得率アップにも繋げています。
これまでは、使用済み利用券をタクシー会社や市役所で集計・データ入力していましたが、マイナンバーカードを活用することにより、大幅な工数削減を実現しました。
参考:前橋市交通政策課「マイタク 移動困難者へのタクシー運賃補助」
兵庫県神戸市|企画乗車券販売時に活用
神戸市では、神戸鉄道の利用促進を目的として、シニア層に「神鉄シーパスワン」という企画乗車券を販売しています。
この乗車券を販売する際に、マイナンバーカードを活用した本人確認・乗車券販売枚数管理ができるシステムを構築し、運用をスタートしました。
本格的にシステムを運用し始めてから、利用者の利便性向上、事務費用の削減といった成果にも繋がっています。
香川県坂出市|公共交通機関のキャッシュレス決済
坂出市では、スマホアプリとマイナンバーカードを連携させ、バスやタクシーの料金をキャッシュレスで支払えるようにしています。定期券や回数券もアプリ上で購入可能です。
公共交通の割引券などもアプリ上で管理できるようになるため、窓口での申請、郵送といった手間を減らすこともできています。
マイナンバーカードの利用により公共交通の利便性が高くなることで、マイナンバーカードを普段の生活で使える「市民カード化」することを目指しています。
岡山県吉備中央町|救急搬送での利用
吉備中央町は中山間地域であり、救急搬送が必要なときは隣接地域へ搬送することを余儀なくされています。
そこで、救急車内での安全確保、搬送先の医療機関での診察効率化などを目的として、マイナンバーカードを利用して傷病者の医療情報を共有できるようにしました。
救命士がスマホアプリで傷病者のマイナンバーカードを読み取ることで、医療関係者に情報が共有される仕組みとなっています。
参考:内閣府地方創生推進室「デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)の交付対象事業の決定について」
兵庫県三木市|健康アプリでの活用
三木市では、健康アプリの導入をスタートし、健診や健康イベントへの参加によりポイントが付与される仕組みを構築しました。
貯まったポイントは「マイナンバーカードで本人確認」することで、電子マネーに交換することができます。
この取り組みを通じて、市民の健康増進とマイナンバーカードの普及を進めています。
宮崎県都城市|デジタルケア避難所
都城市では、避難所の管理業務を効率化するため、避難者カードを書かずに入所ができる「デジタルケア避難所」というシステムを構築しました。
マイナンバーカードを読み取ることで本人確認ができるため、避難者カードへの記載が不要となり、避難者と職員の双方にとって負担が軽減されます。
また、避難者情報を災害対策本部へリアルタイムで共有することができ、避難所の混雑状況も住民に可視化することができます。
まとめ|今後も活用の広がりが期待されるマイナンバーカード
政府としては、地震などの大規模災害に備えて、マイナンバーカードを紐付けした避難支援アプリの普及を促進させたいという意向があります。
避難支援をデジタル化することで、避難先の通知、避難所の名簿作成、支援物資の配布といったことが迅速かつ的確に実施できるからです。
また、マイナンバーカードをスマホへ搭載することや、運転免許証との一体化については、デメリットや懸念材料はありますが、国はできるだけ早く実現させたいと考えています。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。