観光DXを推進するポイントと取り組み事例を紹介!観光産業DX推進のメリットとは
国内の旅行客やインバウンドの増加により、日本の観光産業は急激に成長を続けています。
一方、観光業でも人手不足は深刻な問題であり、オーバーツーリズムなどの課題が浮き上がっているのも実情です。
そこで、観光庁が中心となって観光DXを推進しており、地域の実情に合わせた観光業のDX化が注目されています。本記事では、観光DXの概要、推進するメリットを解説し、地域の事例もあわせて紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
●監修者の詳細な経歴はこちら
観光DXとは?
観光DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して観光業の効率化を図るとともに、データの収集と分析を通じて新たなビジネスモデルを創出し、観光産業全体の変革を目指す取り組みです。
観光DXは、観光庁が行う「観光DX推進のあり方に関する検討会」でも、重点的に取り組むべき分野として位置付けられています。
観光業にDXを取り入れることで、地域経済の活性化にも大きく役立つとされ、観光地経営の高度化や、観光産業の生産性向上など、多方面にわたる効果が期待されています。
たとえば、AIチャットボットやデジタル地域通貨の導入により、旅行者の利便性を向上させることで観光消費額を増加させ、地域に足を運ぶ価値を高めることなどが挙げられます。
参考:観光庁「観光DX推進による観光地の再生と高度化に向けて」
そもそもDXとは何か?
経済産業省は、DXを「企業がデータとデジタル技術を駆使し、顧客や社会のニーズに応じて製品やサービス、ビジネスモデルを変革し、競争優位性を確立する活動」と定義しています。
観光DXでは、さらにAI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を使って観光業に新たな価値を提供し、観光客に地域の魅力を再発見してもらうことで、観光地での消費活動を増加させることなどを目指します。
そのためには、観光業界において、観光DXを推進する上で業務フローの改善や新たなビジネスモデルの創出だけでなく、レガシーシステムの刷新や組織文化の変革が必要不可欠です。
観光業界がDXを推進することで、旅行者の利便性が向上し、地域全体の魅力が増すことにより、観光産業全体の競争力が高まるでしょう。
観光DXが注目される背景
観光DXが注目される背景には、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の感染拡大が大きな要因となっています。これにより、物理的な接触や接待への懸念が生じ、デジタル技術を活用した非対面型の観光サービスへの需要が急速に増加しました。
また、観光客の消費行動もデジタル化の波に乗って変化し、インターネットを利用した情報収集やオンライン予約、決済が一般化しています。こうした企業と消費者が、場所や時間に左右されず、双方向でコミュニケーションを取るデジタルシフトをきっかけに、観光業界においても既存のサービスやマーケティング戦略を見直す契機となっています。
具体的には、バーチャルツアーやデジタルガイドブック、オンラインイベントなど、リアルとバーチャルが融合した新しい観光サービスの形です。
さらに、グローバル市場の競争が激化する中で、DXは地域の観光業を支え、海外の観光客を惹きつけるための重要な戦略となります。
観光DXの推進により、地域経済の活性化や長期的な観光産業の発展が期待されるため、多くの自治体や企業が積極的に取り組んでいます。
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観光DX推進に向けた主な取り組み
観光庁では、観光DX推進に向けた主な取り組みとして、以下の4つの柱を中心に、観光のデジタル化を行っています。
● 旅行者の利便性向上・周遊促進
● 観光産業の生産性向上
● 観光地経営の高度化
● 観光デジタル人材の育成・活用
これらの取り組みを通じて、観光業界全体のデジタル化が進められ、新しい観光の価値創出の促進が期待されています。
一方で、観光業界におけるデジタル化やDXの遅れは依然として課題であり、その克服に向けた継続的な努力が必要です。
旅行者の利便性向上・周遊促進
観光地での利便性を高めるため、旅行者が頻繁に利用するウェブサイトやSNSに、積極的に最新情報を掲載することが大切です。これにより、旅行者が必要な情報を容易に入手できるようになります。
さらに、オンライン予約や決済のシステムを含む、よりシームレスな旅行体験を提供することも重要です。交通やチケット、デジタルマップなどの機能と組み合わせることで、地域内の周遊を促進することができ、消費拡大にもつながるでしょう。たとえば、AIを活用したパーソナライズされた観光情報の提供や、リアルタイムな混雑情報の発信などが挙げられます。
また、地域固有の情報や、その時々の最適なレコメンデーション(おすすめ情報)を提供することで、旅行者の満足度を向上させることが重要視されています。
観光産業の生産性向上
観光産業の生産性向上のために、宿泊施設や観光施設におけるオンラインチェックインの導入、AIやロボットを活用した業務の自動化、データ利用の最適化などが一例として挙げられます。
宿泊事業者では、観光客からの予約や在庫管理の効率化を目指し、PMS(プロパティマネジメントシステム)やCRM(顧客関係管理システム)といったデジタルツールの導入を進めることで、生産性や利益を高めることが可能です。
このようなツールの導入によって、顧客一人ひとりに合わせたサービス提供が実現できるため、経営資源を最適化することができるでしょう。他にも、過去のデータや顧客分析から予測を立てるRMS(レベニューマネジメントシステム)を活用すれば、需要予測に基づく価格設定も可能になります。
また、観光DXを推進するとともに、地域全体でデータを共有し、一体となったマーケティング戦略を展開することで、観光地域全体の魅力を高めつつ経済活性化にもつながるでしょう。
さらに、官民が協力してデータ仕様の統一化に取り組むことで、データの相互運用性が高まり、より効果的なデータ活用が可能となります。
観光地経営の高度化
観光DXの取り組みにおいて「観光地経営の高度化」は重要な柱の一つで、観光地経営を取り組むDMO(観光地域づくり法人)でも、CRMやDMP(データ管理プラットフォーム)などのデジタルツールの導入が推進されています。
▼観光地域づくり法人(DMO)とは
地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する地域経営の視点に立った観光地域づくりの司令塔として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人。
観光地経営の高度化には、観光地域全体として戦略的なデータの活用が必要であり、これにより訪問者の行動パターンや消費傾向を分析し、よりパーソナライズされたマーケティング戦略を展開することが可能です。
たとえば、ビッグデータの分析により、観光客の属性や動態を可視化し、需要予測に基づくDP(ダイナミックプライシング)や、ピンポイントなプロモーションにより収益最大化を図れます。
さらに、観光DXにより可視化されたデータを基にした意思決定を通じて、地域の観光資源を最適に配置することにより、観光地としての魅力を最大化できるでしょう。
観光地経営のデジタル化とDXの推進は、単にデジタル技術の導入にとどまらず、地域関係者を巻き込みながらデジタル化やDXを推進するための要素を分析する「経営戦略全体の見直し」とも密接に関連しています。
観光デジタル人材の育成・活用
観光DX推進における「観光デジタル人材の育成・活用」は、観光業のデジタル化を成功させるための重要なポイントです。
観光DXでは、外部の専門家や企業による伴走支援を通じて、観光地経営やデジタル技術に関する知識とノウハウの獲得を目指します。
また、事業者の経営層および組織全体はもちろんのこと、さらには地域コミュニティに対してもDX活用に関する教育プログラムを提供することにより、広範囲にわたる学びの機会を提供できるでしょう。
こうした取り組みにより、観光業界全体のデジタル化に対する理解と対応力の高まりを期待できます。
観光業界においても、DXを実現するためには技術だけでなく、それを適切に活用できる人材の存在が不可欠です。そのためには、専門的なスキルを持つ人材の育成が欠かせません。加えて、デジタル人材の育成においては、産学官連携による即戦力人材の育成や、副業や兼業の活用による民間人材の登用も重要です。
観光DX推進5つのメリット
観光DXを推進することで得られるメリットとして、主に以下の5つが挙げられます。
● 観光客の利便性向上
● 新しい顧客体験の提供
● マーケティング効果の最大化
● 運営の効率化とコスト削減
● 地域経済への貢献
これらのメリットは、観光DXが単に新しい技術を導入するだけでなく、観光地や観光産業の持続的発展にも貢献できることを示しています。
観光DXに取り組むことで、観光業にとって多様なメリットを享受できるでしょう。
利便性の向上
オンラインでの宿泊予約、AIによる観光プラン提案、決済機能の充実により、旅行者は時間と場所を選ばず、自身に合ったプランを簡単に調整でき、観光体験の質を格段に向上させます。
たとえば、観光客は地域のホテルや観光アクティビティをオンラインで比較し、自由に選択することが可能です。多言語対応のウェブサイトを提供すれば、言語の壁を越えて容易に情報にアクセスできます。
また、個々の好みや過去の旅行履歴を分析し、AIによってパーソナライズされた提案を行うことで、より満足度の高い旅行の実現にも役立つでしょう。
さらに、スマートフォン1つでチェックインから決済までが完結できるため、旅行中もスムーズに行動できるようになります。キャッシュレス決済の導入により、現金の準備や両替の手間が省け、安全かつ便利な旅行が可能になります。
加えて、デジタルチケットやQRコードの活用により、観光アクティビティの事前申込や入場をよりシームレス化できるでしょう。
マーケティング効果の最大化
観光DX推進におけるマーケティング効果の最大化は、観光業界の大きな変革です。
DX推進により正確なターゲットマーケティングが可能となり、旅行者のニーズに合わせたサービスを提供できます。さらに、ビッグデータの分析を通じて、顧客の行動や好みを深く理解できれば、より効果的なマーケティング戦略を立てることも可能です。
マーケティングでのデータ精度が向上すれば、広告費の削減にもつながります。
また、観光客の口コミやレビューなどのリアルタイムなフィードバックを活用することで、サービスの改善や新たな提案が容易になり、観光業界全体の価値を高められます。
さらに、AI技術を利用して顧客の過去の行動から未来の行動を予測し、その情報をもとに新しい観光資源を開発するなど、革新的な試みも可能になるでしょう。
新しい顧客体験の提供
観光DXの取り組みとして挙げられるオンラインツアーやAIの導入、スマートグラスによる音声ガイドなどを導入することで、旅行者にとって革新的な体験を提供できます。これらの技術により、従来の観光体験を大きく超えた、各個人にカスタマイズされた体験を提供することが可能です。
オンラインツアーを行うことで、ユーザーは物理的にその場にいなくても、世界各地の観光地を訪れることができます。さらに、VR(バーチャルリアリティ)技術を用いることで、観光スポットにいるような没入感を得られ、訪問前の下見や観光地の魅力発見にも役立ちます。
AI技術を活用した観光プランの提案では、旅行者の好みや過去の行動データを分析し、最適な観光スポットや観光アクティビティの提案が可能です。これにより、旅行者が自分に合ったオーダーメイドの観光ツアーを楽しむことができます。
スマートグラスを導入すれば、リアルタイムでの情報提供や翻訳サービスを受けながら、手ぶらで観光地を楽しむことも可能です。音声ガイド機能によって多言語対応も容易となり、外国人観光客の利便性も大きく向上するでしょう。
人材の有効活用
観光業界においてもDX推進をすることで、業務プロセスが自動化され、これまで人手を要していた多くの業務を効率的に進めることができます。
たとえば、AIやロボットの導入による業務の自動化により、単純作業や反復的な業務を機械に任せることができ、従業員は顧客対応やサービス向上など、より専門的な業務に集中することが可能です。
具体的には、オンラインでの予約システムの導入やデータ管理の自動化により、顧客からの問い合わせへの迅速な対応や、パーソナライズされたサービスの提供が容易になります。
これらのシステムを導入することで、従業員の作業負担を大幅に軽減し、労働時間の削減にもつながります。結果として、人的リソースを効果的に配分し、付加価値の高い業務に注力することができるでしょう。
観光DXは、人的リソースの最適化だけでなく、従業員の働きがいやモチベーションの向上、そして組織全体の生産性向上にもつながります。
人的ミス・トラブル防止
観光DXの推進において業務のデジタル化は、人的ミスや人的トラブルの防止にも、大きく貢献します。
特に、宿泊予約やチケット発行管理をデータベース化することで、情報の誤入力や喪失リスクを大幅に軽減でき、顧客サービスの向上を図ることが可能です。
たとえば、オンラインでの予約システムを整備することで、観光客は自宅から容易に宿泊先を予約可能となります。事業者は、予約データの即時反映が可能になり、ダブルブッキングといった人的ミスを減らし、クレーム対応を大幅に減らすことができるでしょう。
また、観光地でのチケット発行や入場管理をデジタル化することで、紙のチケットを用いる際に発生しがちな、紛失や偽造といったセキュリティリスクも減らせます。デジタルチケットは他にも、顧客データの収集や分析にも活用できるため、マーケティングや顧客管理の改善に役立ちます。
観光DXの事例:地域一体の取り組み事例
観光DXにおいて、他の地域の成功事例や地域一体の取り組み事例を知ることは重要です。他の地域で成功した取り組みを理解できれば、それらの成功事例を自身の地域に適用しやすくなるでしょう。
似たような課題を持つ地域がどのようにして問題を解決したかを知ることで、自身の地域での取り組みをよりスムーズに進められます。
また、地域一体となった取り組みの事例を知ることは、それぞれの地域が直面する固有の課題に対して適切な解決策を見つけ、地域の観光業を持続的に成長させるために有益です。
そして、他の地域の成功事例を自分の地域の特色に合わせて応用し、より効果的な観光DXの推進が可能となるでしょう。
長野県山ノ内町(志賀高原)
長野県山ノ内町周辺の志賀高原では、観光協会が運営する公式ウェブサイト「CLUB SHIGA KOGEN」に宿泊施設や飲食店、観光アクティビティの直販機能を備え、旅行者ごとの取引データをマーケティングに活用した結果、直販売上の確保と誘客促進につながりました。
他にもウェブサイトから、宿泊施設や飲食店、観光アクティビティなどを直接予約や決済できる機能を整備した結果、旅行代理店やOTA(インターネット上だけで取引を行う旅行会社)を介さずに販売手数料を抑え、収益を確保できました。
また、予約・決済された取引データをもとにCLUB SHIGA KOGENの会員向けのクーポンを発行するなど、個別顧客に最適化したマーケティングを実施しています。
さらに、データ分析ツールを用いてウェブサイトの予約情報から地域全体の入込状況やキャンペーンへの反応を可視化することで、ターゲットを絞り込んだプロモーションや商品開発が可能となり、マーケティング効果を最大化しています。
神奈川県箱根町
神奈川県箱根町における観光DXの取り組みでは、「箱根観光デジタルマップ」の地域導入が注目されています。このデジタルマップでは、交通機関の渋滞情報や駐車場の満空情報、飲食店の混雑状況をリアルタイムで可視化しています。
これらの情報と季節や時間帯、観光客の現在地を自動的にマッチングし、空いている周遊ルートや観光施設を表示、推薦することで、観光客の行動変容を促進することが可能です。
これにより、地域内の観光オーバーツーリズムを未然に防止や抑制し、同時に消費拡大を図っています。
デジタルマップではさらに、地域の食や歴史散策などのコンテンツを中心とした周遊ルートや、早朝また夜間観光における渋滞緩和を目的としたルート、車や公共交通機関などの交通手段を考慮したルートも提案し、旅行者はより快適で効率的な観光体験ができるでしょう。
このシステムを通じて、箱根町は観光客の利便性を大幅に向上させ、交通手段や観光施設の分散利用にもつながっています。さらに、この取り組みは地域事業者との協力によって推進され、箱根町内の飲食店や宿泊施設それぞれがGoogleマイビジネスを活用して情報発信しています。
箱根観光デジタルマップでは、デジタル技術を駆使して渋滞や混雑の課題解決と消費拡大の両立を図る、他の観光地でも参考になるデジタル変革の成功例でしょう。
兵庫県豊岡市(城崎温泉)
兵庫県豊岡市、特に城崎温泉地域では、宿泊事業者ごとに異なっていたPMS(顧客予約管理システム)を同一規格の「地域共通PMS」に統一しました。さらに、導入した地域共通PMSの活用を支援するため、事業者向けのレベニューマネジメント研修を実施しています。
これにより、事業者は宿泊施設の予約と客室状況、顧客、売上を一括管理でき、業務を効率化させ、顧客満足度の向上や従業員の業務負担の軽減を実現しました。
また、地域共通PMSにより収集した顧客データをCRMに連携することで、旅行者の属性に応じたメールマーケティングにも活用しています。
他にも、豊岡市で実施している観光ウェブアプリの顧客情報とあわせて飲食店や土産店への誘客、再来訪意向の拡大、ふるさと納税への活用も図っています。
これらの取り組みにより、城崎温泉地域は2022年の地域消費額が2019年比で3.8億円増加し、宿泊事業者の生産性向上と地域観光消費額の拡大を実現しました。
福井県
福井県は、宿泊事業者の生産性向上やマーケティングの高度化を目的に「FTAS(福井観光データ分析システム)」を構築しました。FTASでは、観光地に設置したセンサーから取得した人流や宿泊施設のPMS、県立恐竜博物館の予約データのオープン化、旅行者のアンケート結果、POS(販売管理)、デジタルクーポン決済、GBP(Googleビジネスプロフィール)、日本観光振興機構のデジタル観光統計といった8つのデータセットと連携しています。
これらの幅広いデータは、地域の観光施策や戦略立案にも活用されています。
また、福井県では各エリアや個別事業者のデータを活用した施策の立案と実行を後押しするため、県内4エリアと6観光事業者に対してデジタルマーケティングやプロモーションの伴走支援を行っています。
これにより、勝山市エリアの公式ウェブサイトのユーザー数が2023年11月に前年同期比で1万9119ユーザーと増加しました。
個別宿泊事業者においては、2023年11月時点の客室稼働率が前年同期比6.2%ポイント改善するなど、具体的な成果を上げています。
北海道(ニセコエリア)
北海道ニセコ町では、地域内の多様な体験アクティビティ(スノーアクティビティやスキー教室など)をオンライン上で予約、決済可能なツールを導入しました。旅行者は、宿泊先のホテルが案内する体験アクティビティを自身の希望に応じて選択でき、予約できます。
これにより、体験アクティビティ事業者は収益機会の最適化を行えました。宿泊事業者は、体験アクティビティのチケット販売をオンラインサイトに誘導することで現金管理の手間を節約でき、業務効率化につながっています。
また、ニセコエリアでは、地域の観光施設などの静的情報や地域内の飲食店の予約状況などの動的情報を蓄積する「NISEKO DIGITAL MAP(データ収集分析プラットフォーム)」を構築しました。
このプラットフォームは、飲食店や体験アクティビティ事業者にも公開し、宿泊予約情報を地域内で共有することで、食材調達やシフト調整の参考にするなど、事業者におけるデータ活用と経営高度化を支援しています。
さらに、データに基づいた観光イベントを企画し、NISEKO DIGITAL MAPで発信することで、閑散期の集客を図るなど、地域全体でのデータ活用による観光需要の創出や事業者ごとの平準化にも取り組んでいます。
結果として、2021年から2022年までの冬季シーズンの閑散期の宿泊者数は、ピーク期の約20%だったのに対して、2022から23年では43%まで上昇するなど、宿泊者数と稼働率改善に効果を上げています。
日本観光振興協会
日本観光振興協会では、日本各地の地域観光情報と仕様を統一し、情報更新がしやすくなるよう業務フローを簡素化や自動化を行いました。
また、地域と観光情報を共有する共通のデジタルプラットフォーム全国旅行情報サイト「ジャパン・ヨンナナ・ゴー」を構築し、API活用を促し、データ利用を促進しています。これにより、情報発信サイトの刷新による情報発信の拡充にもつながっています。
次に、全国観光情報データベースと連携した「全国観光DMP」を整備し、観光商品データだけでなく地域の統計、観光予報プラットフォームの宿泊情報などを幅広く集約し、観光情報やマーケティングデータも集約して、データの可視化や集計、分析できる機能を地域に提供しています。
日本各地の観光協会は、全国観光DMPを基盤に独自のダッシュボードやシステムを構築でき、人流分析によるターゲティング広告配信といったサービスの高度化やマーケティング施策に活用可能です。
全国観光DMPの導入により、地域が持つデータを利用した観光地経営の戦略策定や具体的なマーケティング施策を実現できるようになりました。
これにより、2023年時点で14都道府県36市町村が、地域内の宿泊数、消費拡大・人流データの確認および他の地域との比較機能を活用しています。うち、群馬県と埼玉県、千葉県、長崎県は全国観光DMPでのデータ活用の成功事例といえるでしょう。
観光DX推進には課題の把握と目標設定が必要
観光DXを推進する際には、地域ごとに抱える課題を明確に把握し、具体的な目標設定を行うことが重要です。目標設定には、地域全体での協力と共通理解が必要不可欠で、地域関係者間のコミュニケーションを密にし、合意形成を図ることが求められます。
観光資源の特性や観光業のデジタル化の遅れ、労働力不足、既存ビジネスモデルの非効率性など、地域によって直面する課題はそれぞれ異なります。これらの課題を洗い出し、優先順位をつけることで、計画的なDX推進が可能です。観光DXでは、各地域の実情に合わせた戦略的なデジタル活用が求められます。
また、観光業界には特化した知識とデジタルスキルを兼ね備えた人材が少ないため、適切な研修と育成プログラムの整備が不可欠です。産学官連携による即戦力人材の育成や、副業、兼業の活用に伴う民間人材の登用により、デジタル人材の確保を推進するとよいでしょう。
一方、導入コストや人材育成といった観光DX推進には多くの負担が伴います。しかし、各地域の取り組みや成功事例を参考にしながら、自治体を含めた地域が一体となってデジタル活用を進めていくことが大切です。
明確な目標と課題認識を持ち、できるところから着実にDXを推進していくことが、これから発展し続けられる観光地域づくりに向けた第一歩となるでしょう。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。