グリーンツーリズムの事例やメリットを紹介!自治体の取り組みポイントも解説
自治体による地域活性化の取り組みの1つとして、グリーンツーリズムが注目を集め始めています。
地域が持っている自然や文化や伝統といった資源を活用し、旅行者や移住者を増やしていくには、戦略的なアプローチが欠かせません。
そこで本記事では、グリーンツーリズムを促進させるポイント、メリットや課題などを解説し、グリーンツーリズムに取り組んでいる自治体の事例を紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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グリーンツーリズムとは?
グリーンツーリズムとは、都市部の人々が農山漁村地域に滞在し、その土地の自然や文化、人々との交流を楽しむ余暇活動のことです。グリーンツーリズムの特徴は、単なる観光ではなく、地域の生活や産業を体験することにあります。
また、グリーンツーリズムは、エコツーリズムやアグリツーリズムと混同されることがありますが、それぞれに違いがあります。
エコツーリズムが自然環境の保護を主な目的とするのに対し、グリーンツーリズムは地域振興に重点を置いています。また、アグリツーリズムが農業体験に特化しているのに対し、グリーンツーリズムはより幅広い農山漁村での体験を含んでいます。
自治体にとって、グリーンツーリズムの推進は地域活性化の有効な手段の一つとなり得ます。しかし、その実現には地域住民の理解と協力、適切な施設整備、効果的な情報発信など、多くの課題に取り組む必要があります。
グリーンツーリズムの歴史と背景
グリーンツーリズムの歴史は、都市化の進展と自然回帰への願望が交錯する中で形作られてきました。この観光形態は、単なる余暇活動を超えて、都市と農村の新たな関係性を構築する試みとして注目を集めています。
その起源は、長期休暇文化が根付いているヨーロッパにあります。特にフランスやイタリアでは、19世紀後半から都市住民が農村で休暇を過ごす習慣が広まり、20世紀には農業体験を通じた観光が地域経済の重要な柱となりました。この流れは、農村の伝統文化保護と経済活性化の両立を可能にする新たなモデルとして、他の国々にも影響を与えました。
そして、日本におけるグリーンツーリズムの本格的な展開は1990年代に始まります。バブル経済崩壊後の地方経済の停滞や、都市部での生活ストレスの増大を背景に、農村地域の活性化と都市住民の癒やしの場の創出が求められるようになりました。1994年には「農山漁村余暇法」が制定され、グリーンツーリズムの推進に向けた法的基盤が整備されています。
グリーンツーリズムの目的と意義
グリーンツーリズムの取り組みは、地域資源の有効活用と都市住民への新たな体験提供を通じて、地域経済の活性化を図ることを主眼としています。
まず、農山漁村地域にとっては、グリーンツーリズムが新たな産業創出の機会となります。従来の一次産業に加え、観光業という新しい収入源を確保することで、地域経済の多角化と安定化が期待できるでしょう。また、地域の伝統文化や自然環境を観光資源として活用することで、これらの保全にも繋がります。
一方、都市住民にとっては、日常生活では得られない自然体験や農林漁業体験を通じて、心身のリフレッシュや新たな価値観の獲得が可能となります。特に、子どもたちにとっては、食育や環境教育の貴重な機会となり得るでしょう。
さらに、グリーンツーリズムは都市と農村の交流を促進し、相互理解を深める役割も果たします。この交流は、単なる観光にとどまらず、地域間の人材交流や移住促進にも発展する可能性を秘めています。
持続可能な観光の観点からも、グリーンツーリズムの意義は大きいと言えます。大規模な観光開発とは異なり、既存の地域資源を活用するため、環境への負荷が比較的小さいのが特徴だからです。また、地域住民が主体となって運営することで、観光収入が地域内で循環し、長期にわたり継続的な地域振興に繋がるでしょう。
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グリーンツーリズムのメリット
グリーンツーリズムは、都市部と農山漁村地域の双方に多くのメリットをもたらす取り組みです。この観光形態が持つ主なメリットには、以下が挙げられます。
● 地域経済の活性化
● 環境保護と持続可能な観光
● 地域文化の保全と交流促進
● 都市住民のリフレッシュと移住促進
また、子どもたちにとっては、グリーンツーリズムは貴重な教育機会となります。自然の中での体験学習は、教室では得られない実践的な知識や感性を育むことができるからです。実際に、修学旅行や林間学校の一環としてグリーンツーリズムを取り入れる学校も増えています。
グリーンツーリズムは地域経済の活性化、環境保護、教育機会の提供など、多面的なメリットを持つ取り組みです。自治体にとっては、これらの多様な効果を最大限に引き出すための戦略立案が求められています。
地域経済の活性化
グリーンツーリズムは、農山漁村地域の経済活性化に大きな可能性を秘めています。この取り組みは、従来の一次産業中心の経済構造に新たな息吹を吹き込み、地域に多様な経済効果をもたらします。
まず、従来の農業や漁業に加え、観光業という新しい収入源が生まれることで、地域経済の多角化が進みます。例えば、農家民宿の運営や体験プログラムの提供など、これまでにない事業機会が生まれ、地域の雇用創出にもつながります。
そして、都市部からの訪問者は、地域の特産品を購入することで地元の商業活動を活性化させるでしょう。お土産品の開発や販売、地元食材を使用したレストランの経営など、観光客の消費行動が地域経済に直接的な効果をもたらします。これにより、農産物や水産物の新たな販路が開拓され、地域の生産者にとっても大きなメリットとなります。
さらに、農業や漁業体験を通じて、地域の一次産業が観光資源として再評価されるという効果も見逃せません。従来は単なる生産活動と捉えられていた農作業や漁業が、都市住民にとって魅力的な体験プログラムとなることで、その価値が再認識されます。これは、地域の人々が自らの仕事や生活に誇りを持つきっかけにもなり、地域全体の活力向上につながります。
環境保護と持続可能な観光
グリーンツーリズムは、環境保護と持続可能な観光を両立させる重要な取り組みとして注目されています。この観光形態は、地域の自然資源を活用しながら、環境への負荷を最小限に抑える工夫がなされています。
自治体がグリーンツーリズムを推進する際、環境保護の観点は欠かせません。観光客の受け入れ数を適切に管理し、自然環境への過度な負荷を避けることが重要です。また、地域の生態系を守るため、特定の場所への立ち入りを制限したり、ガイド付きツアーを実施したりするなどの対策も効果的でしょう。
環境教育プログラムは、グリーンツーリズムの中核を成す要素の一つです。観光客に地域の自然環境や生態系の重要性を伝えることで、環境保護意識の向上につながります。例えば、地元の専門家による自然観察ツアーや、子ども向けの体験学習プログラムなどが考えられます。
そして、地域の自然資源を活用しつつ、それらを保全する取り組みを同時に行うことで、長期的な視点での観光振興が可能になります。再生可能エネルギーの利用や、地元の食材を活用した食事の提供など、環境に配慮した施設運営を行うことで、観光による環境負荷を軽減できるでしょう。
地域文化の保全と交流促進
グリーンツーリズムは、都市部の人々に農山漁村の伝統文化や生活様式を体験する機会を提供するだけでなく、地域住民にとっても自らの文化の価値を再認識する契機となっています。
地域の伝統文化や生活様式を観光客に伝える過程で、地元住民は自らの文化的資産を見直し、その価値を再評価することができます。例えば、長年続けてきた祭りや伝統工芸の技術が、観光客の目を通して新たな魅力を持つものとして認識されることがあります。これは、地域文化の継承にとって非常に重要な要素となっています。
文化体験プログラムの実施は、地域の文化資源を観光資源として活用する効果的な方法の一つです。地元の伝統的な料理教室や工芸品作りのワークショップなどを通じて、観光客は地域の文化を直接体験することができます。これらのプログラムは、単なる観光以上の深い文化交流の機会を提供し、地域文化への理解と尊重を促進するでしょう。
都市住民のリフレッシュと移住促進
都市部の喧騒から離れ、農山漁村地域の豊かな自然や文化に触れることで、都市住民の心身をリフレッシュさせ、新たな生活様式への関心を高めることができます。
グリーンツーリズムを通じて、都市住民は日常生活では味わえない体験をすることができるため、ストレス解消や心身のリラックスにつながり、都市生活で蓄積された疲れを癒す効果があるでしょう。
さらに、地域の人々との交流を通じて、その土地の文化や生活様式を深く知ることができます。この経験は、都市住民に新たな価値観や生き方の可能性を示すきっかけとなり、移住を考える契機になることがあります。
実際に、グリーンツーリズムをきっかけに移住を決意する人も少なくありません。短期滞在から始まり、リピーターとなって何度も訪れるうちに、その地域の魅力にひかれて移住を決意するケースもあります。自治体にとっては、グリーンツーリズムを通じて地域の魅力を効果的にアピールすることで、移住者獲得につなげられる可能性があります。
グリーンツーリズムのデメリットや課題
グリーンツーリズムは地域活性化や都市住民との交流促進など、多くのメリットがある一方で、いくつかの課題やデメリットも存在します。これらの問題点を認識し、適切に対処することが、持続可能なグリーンツーリズムの実現には不可欠です。
また、グリーンツーリズムの課題に対処するためには、地域全体での協力体制の構築や、行政からの適切な支援が欠かせません。
さらに、長期的な視点に立った人材育成や、地域の特性を活かした独自のプログラム開発など、継続的な努力が必要となるでしょう。
自治体は、グリーンツーリズムの課題を踏まえた上で、地域の特性に合わせた戦略を立案し、実行していくことが重要です。
環境や生態系への影響
グリーンツーリズムは、農山漁村の活性化や都市住民との交流促進など、多くの利点がある一方で、環境や生態系への影響も無視できません。自治体がグリーンツーリズムを推進する際には、これらの影響を十分に考慮し、適切な対策を講じる必要があります。
まず、グリーンツーリズムの発展に伴い、宿泊施設や体験施設の建設、道路整備などのインフラ開発が進むことで、地域の自然環境に負荷がかかる可能性があります。特に、これまで人の手があまり入っていなかった地域では、開発による生態系の破壊や景観の変化が懸念されます。
また、観光客の増加に伴う自然資源の過剰利用も問題です。特に、希少種や絶滅危惧種が生息する地域では、慎重な管理が求められます。
これらの課題に対処するためには、自治体が中心となって環境保護と観光振興のバランスを取らなけらばなりません。具体的には、環境アセスメントの実施や、自然保護区域の設定、観光客の受け入れ数の制限などが考えられます。また、エコツーリズムの考え方を取り入れ、環境教育プログラムを充実させることで、観光客の環境意識を高めることも重要です。
経済的負担と資金調達の課題
グリーンツーリズムの導入には、相当な初期投資が必要となります。農家民宿の整備、体験プログラムの開発、案内看板の設置など、観光客を受け入れるための基本的なインフラ整備には多額の費用がかかります。特に、古い農家を改修して宿泊施設として利用する場合、耐震補強や設備の近代化など、予想以上のコストがかかることがあるでしょう。
これらの初期投資に対する資金調達は、多くの自治体や地域にとって大きな課題です。従来の銀行融資では、グリーンツーリズム事業の将来性や収益性を評価することが難しく、十分な資金を調達できないケースが多々あります。そのため、観光庁の補助金メニューや、クラウドファンディングなどの新しい資金調達方法を活用する必要があります。
また、持続可能な運営のためには、安定した観光収入の確保が不可欠です。しかし、グリーンツーリズムは季節性が高く、天候にも左右されやすいため、年間を通じて安定した収入を得ることが難しい面があります。この課題に対しては、オフシーズンの魅力づくりや、多様な体験プログラムの開発が求められるでしょう。
さらに、グリーンツーリズムの経済効果を最大化するためには、地域全体でのビジネス化が不可欠です。単に農家民宿や体験プログラムを提供するだけでなく、地域の飲食店、小売店、交通事業者など、様々な事業者が連携してサービスを提供することで、観光収入の地域内循環が促進されます。
通事業者など、様々な事業者が連携してサービスを提供することで、観光収入の地域内循環が促進されます。
高齢化による人材不足
農山漁村地域では、若者の都市部への流出が続き、地域住民の高齢化が急速に進行中です。この状況は、グリーンツーリズムの運営に必要な人材の確保をより一層困難にしています。
観光客を受け入れるためには、宿泊施設の運営、体験プログラムの企画・実施、地域案内など、多岐にわたる業務の整備が必要です。しかし、高齢化が進んだ地域では、これらの業務を担える人材が不足しています。特に、体力を要する作業や、デジタル技術を活用した情報発信などは、高齢者だけでは対応が難しい場合があるでしょう。
しかし、若者の流出を防ぎ地域に定着させることには、相当の時間が必要です。短期的には、都市部からの移住者や地域おこし協力隊など、外部人材の活用が有効となるかもしれません。
また、地域住民の理解と協力を得るためには、グリーンツーリズムがもたらす利点をしっかりと伝えるコミュニケーションが重要です。観光客との交流が地域の活性化につながることや、自分たちの知識や技術が観光資源として価値を持つことを理解してもらうことで、住民の参加意欲を高めることができます。
自治体によるグリーンツーリズム促進のポイント
自治体がグリーンツーリズムを効果的に促進するためには、地域の特性を活かしつつ、持続可能な観光モデルを構築することが重要です。
以下に、自治体がグリーンツーリズムを推進する上で押さえるべきポイントを紹介します。
● 地域資源の活用と観光プランの開発
● 地域住民との協力体制の構築
● 持続可能な観光モデルの構築
● 観光資源のブランド化とプロモーション
これらのポイントを押さえつつ、各自治体の特性や課題に応じた独自の戦略を立案・実行することで、魅力的で持続可能なグリーンツーリズムの実現が可能となるでしょう。
自治体には、長期的な視点を持ちつつ、地域の潜在的な魅力を最大限に引き出す取り組みが求められています。
地域資源の活用と観光プランの開発
グリーンツーリズムの成功には、地域資源を効果的に活用し、魅力的な観光プランを開発することが不可欠です。自治体には、地域の特性を活かしながら、観光客に独自の体験を提供することで、持続可能な観光モデルを構築することが求められます。
まず、地域の自然環境を活用した観光プランの開発が重要です。例えば、豊かな森林を持つ地域では、森林浴や野鳥観察ツアーを企画したり、清流がある地域ではカヌー体験や渓流釣りを提供したりすることができます。これらの体験は、都市部の観光客にとって新鮮で魅力的な体験となり、リピーターの獲得にもつながるでしょう。
次に、地域の文化や伝統を活かしたプログラムの開発も効果的です。地域に伝わる祭りや伝統行事への参加体験、地元の伝統工芸品の制作体験など、その地域ならではの文化に触れる機会を提供することで、観光客の興味を引き、深い思い出を作ることができます。
地元の特産品や伝統工芸品を観光資源として活用することも、地域経済の活性化につながります。地元の食材を使った料理教室や、伝統工芸品の制作体験などのプログラムを通じて、特産品の販売促進や、地域ブランドの確立にも繋げていきましょう。
また、地域の歴史や文化を学べるプログラムの提供も重要です。地元の歴史に詳しいガイドによる町歩きツアーや、地域の民話や伝説を題材にしたストーリーテリング体験など、地域の奥深い魅力を伝えるプログラムを開発することで、観光客の知的好奇心を満たし、より深い地域理解を促すことができます。
地域住民との協力体制の構築
まず、地域住民の参加を促進し、観光プランの開発や運営に積極的に関与してもらうことが重要です。地域住民が主体的に関わることで、その土地ならではの魅力を最大限に引き出すことができます。
また、地域住民に対する教育や研修を通じて、観光客へのおもてなしの質を向上させることも重要です。これにより、地域の歴史や文化に関する知識を深め、観光客に対してより質の高い体験を提供することができるでしょう。
さらに、地域の若者を巻き込み、次世代の観光リーダーを育成する取り組みも重要です。北海道では「農たび・北海道」というブランドのもと、若手農業者がグリーンツーリズムの企画・運営に携わる機会を提供しています。
その結果、新しい視点での観光プランの開発や、SNSを活用した情報発信など、若者ならではのアイデアを取り入れることができます。
持続可能な観光モデルの構築
持続可能な観光モデルの構築には、環境に配慮した観光プランの策定が不可欠です。自治体には、地域の自然資源や文化遺産を保護しつつ、観光客に魅力的な体験を提供するバランス取りが求められます。
例えば、エコツアーの企画や、環境負荷の少ない交通手段の推奨などが考えられます。これらのプランを通じて、観光客に持続可能な旅行の重要性を伝え、環境意識の向上を図ることができるでしょう。
また、地域の自然資源を保護しながら観光を促進するためのガイドラインの設定も重要です。観光客の受け入れ数の制限や、特定のエリアへの立ち入り規制など、具体的なルールを定めることで、過剰な観光による環境破壊を防ぐことができます。
国土交通省が提供する「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」などを参考に、地域の実情に合わせたガイドラインを作成することが効果的です。
さらに、持続可能な観光の実現には、地域の環境保護団体との連携が欠かせません。これらの団体は地域の自然環境に関する深い知識を持っており、その知見を観光プランに反映させることで、より効果的な環境保護と観光振興の両立が可能になるでしょう。
観光資源のブランド化とプロモーション
地域の観光資源をブランド化する際は、その地域ならではの特徴や価値を明確にすることが重要です。自然景観、伝統文化、特産品など、他の地域にはない独自の魅力を洗い出し、それらを一貫したストーリーで結びつけることで、強力なブランドイメージを構築できます。
ブランド戦略の策定には、地域住民や関連事業者との協力が欠かせません。ワークショップやアンケート調査を通じて、地域の魅力や課題を共有し、共通のビジョンを形成することが大切です。この過程で、地域全体の意識向上や協力体制の構築にもつながるでしょう。
また、SNSやデジタルメディアを活用したプロモーション活動は、効果的かつ広範囲に情報を発信する上で重要です。Instagram、Facebook、YouTubeなどのプラットフォームを活用し、魅力的な写真や動画を定期的に投稿することで、潜在的な観光客の興味を引くことができます。
さらに、地域の観光イベントを定期的に開催することも、観光客の関心を引き続けるための重要な戦略です。季節ごとの祭りや体験イベント、食のフェスティバルなど、地域の特色を活かしたイベントを企画し、年間を通じて観光客を呼び込むことができます。これらのイベントは、メディアの注目を集めやすく、PR効果も高いため、戦略的に活用することが大切です。
自治体のグリーンツーリズム取り組み事例
グリーンツーリズムは、地域の自然や文化を活かした持続可能な観光形態として、多くの自治体が積極的に取り組んでいます。ここでは、特徴的な取り組みを行っている以下の自治体の事例を紹介します。
● 岩手県花巻市
● 栃木県大田原市
● 熊本県人吉球磨地域
● 北海道
全国には都市近郊型から山村型まで、様々な形態のグリーンツーリズムが存在し、それぞれが地域の活性化と観光客の満足度向上を目指しています。
今後は、デジタル技術の活用やSDGsの視点を取り入れた取り組みがさらに増えていくことが予想されます。
岩手県花巻市
岩手県花巻市は、グリーンツーリズムの先進地として知られており、豊かな自然と文化を活かした独自の取り組みを展開しています。花巻市のグリーンツーリズムの特徴は、地域全体で連携し、多様な体験プログラムを提供している点です。
花巻市では「はなまきグリーン・ツーリズム推進協議会」が中心となり、農家民宿や農業体験、文化体験などを総合的に推進しています。この協議会は、JAいわて花巻が事務局を務め、農家や地域住民、行政が一体となって運営しています。このような組織体制により、地域の資源を効果的に活用し、魅力的なプログラムを提供することが可能となっています。
花巻市のグリーンツーリズムの特徴的な取り組みの一つに、教育旅行の受け入れがあります。市内の農家民宿が連携し、中学生や高校生の修学旅行を受け入れ、農業体験や農家との交流を通じて、都市部の若者に農村の魅力を伝えています。この取り組みは、単なる観光にとどまらず、食育や環境教育の場としても機能しており、教育的価値の高いプログラムとして評価されています。
栃木県大田原市
栃木県大田原市は、豊かな自然環境と農業資源を活かしたグリーンツーリズムの先進地として注目を集めています。市の中央を流れる那珂川や八溝山系の里山など、豊かな自然に恵まれた大田原市は、グリーンツーリズムを通じて地域の活性化と観光振興を図っています。
特筆すべきは、大田原市の農家民泊の規模です。市の周辺エリアを含め180軒を超える農家が宿泊者の受け入れを行っており、年間約6000泊(2019年)という実績を上げています。
この成功の背景には、地域DMOである大田原ツーリズムの存在があります。大田原ツーリズムは、農家民泊の運営支援や情報発信、教育旅行の誘致など、多角的なアプローチでグリーンツーリズムを推進しています。
大田原市のグリーンツーリズムでは、単なる農業体験にとどまらず、地域の文化や歴史を学ぶ機会も提供しています。例えば、松尾芭蕉「奥の細道」と縁の深い地として知られる大田原市では、俳句づくり体験や史跡巡りなど、文学と農村体験を融合させたプログラムも人気です。
熊本県人吉球磨地域
熊本県人吉球磨地域は、九州山地に囲まれた豊かな自然環境と深い歴史文化を持つ地域で、グリーンツーリズムの推進に積極的に取り組んでいます。この地域は、人吉市を中心とした10市町村で構成され、球磨川の清流と温泉、そして700年の歴史を誇る相良氏の城下町文化が融合した独特の魅力を持っています。
この地域のグリーンツーリズムは、単なる農業体験にとどまらず、地域の豊かな自然や文化資源を最大限に活用しています。
食の面でも人吉球磨地域は豊かな資源を持っており、球磨川の清流で育った鮎や、地域の特産品である球磨焼酎など、地域ならではの食文化を体験できるプログラムが充実しています。地元の農家や食品加工業者と連携し、農産物の収穫体験や加工品の製造体験なども提供しており、地域の食文化を総合的に学べる機会を創出しています。
一方で、人吉球磨地域は過去10年間で約2割の人口減少を経験しており、グリーンツーリズムの推進は地域活性化の重要な施策となっています。農家民宿の運営や体験プログラムの提供は、新たな雇用創出や若者の定住促進にもつながっており、地域の持続可能性を高める取り組みとして期待されています。
北海道
北海道は、広大な自然と豊かな農業資源を活かしたグリーンツーリズムの先進地として知られています。特に、農業と観光を融合させた「農村ツーリズム」の取り組みが注目を集めています。
北海道庁は、従来の「グリーン・ツーリズム」の概念を発展させ、2017年度から「農村ツーリズム」という新たな取り組みを推進しています。この取り組みでは、農林漁業者だけでなく、観光業をはじめとする地域の多様な主体が連携し、地域全体で観光振興と農村活性化を目指しています。
北海道の農村ツーリズムの特徴は「農たび・北海道」というブランド名で展開されている点です。このブランドのもと、農家民宿での宿泊体験や農作業体験、地域の食文化体験など、多様なプログラムが提供されています。
また、北海道では、デジタル技術を活用した農村ツーリズムの推進も行っています。北海道庁のウェブサイトでは、農泊や農林漁業体験型教育旅行のイメージ動画を配信し、潜在的な観光客への情報発信を強化しています。
グリーンツーリズムの発展にインバウンドの取り込みは不可欠
グリーンツーリズムの発展において、インバウンド観光客の取り込みは不可欠な要素となっています。日本の豊かな自然や独特の文化を体験したいと考える外国人旅行者にとって、グリーンツーリズムは魅力的な選択肢となり得るからです。
現在、日本のインバウンド観光は東京、京都、大阪などの主要都市や有名観光地に集中する傾向にあります。しかし、これらの地域では観光客の急増によるオーバーツーリズムの問題が顕在化しつつあります。一方で、地方の豊かな観光資源が十分に活用されていないという課題も存在します。
グリーンツーリズムは、こうした課題を解決する可能性を秘めています。地方の農山漁村地域で展開されるグリーンツーリズムは、外国人旅行者に日本の伝統的な生活様式や文化、豊かな自然を直接体験する機会を提供できるからです。
特に、欧米やオーストラリアなどからの旅行者の間で「コト消費」と呼ばれる体験型観光への関心が高まっています。グリーンツーリズムは、まさにこのニーズに応える観光形態であり、インバウンド市場の新たな可能性を開くものと言えるでしょう。
また、グリーンツーリズムは持続可能な観光開発の観点からも注目されています。環境への負荷を最小限に抑えつつ、地域の自然資源や文化を保護しながら観光振興を図ることができるからです。これは、SDGs(持続可能な開発目標)の理念にも合致し、今後ますます重要性が高まると考えられます。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。