ヤングケアラー問題とは?自治体支援の現状と取り組み事例を紹介
高齢化や晩婚化などの社会的背景もあり、社会問題としてのヤングケアラーという存在に注目が集まってきています。
ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちは、様々な問題に直面しており、社会全体でのあらゆる支援が必要不可欠です。
そこで本記事では、ヤングケアラーが直面している問題や自治体による支援の実情を解説し、自治体による支援事例を紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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ヤングケアラーとは?意味や背景
ヤングケアラーとは、本来大人が担うべき家事や家族の介護・世話を日常的に行っている18歳未満の子どもたちを指します。彼らは、家族の病気や障害、精神的問題などにより、年齢や成長段階に見合わない重い責任を負っています。
具体的には、幼い兄弟の世話、家事全般、障害のある親の介助、アルコール依存症の親の見守りなどです。これらの負担が過度になると、学業や友人関係、心身の健康に影響を及ぼす可能性があるとされています。
しかし、ヤングケアラーの存在は表面化しにくく、支援が必要であっても気づかれないことが多いのが現状です。家族のプライバシーや、周囲の無理解、スティグマへの恐れなどが、問題の顕在化を妨げています。
社会的要因
ヤングケアラーの増加には、様々な社会的要因が複雑に絡み合っています。まず、晩婚化や高齢出産の傾向が強まっていることが挙げられます。厚生労働省の統計によると、第1子出産時の母親の平均年齢は年々上昇し、2020年には30.7歳に達しています。この傾向により、子どもが成長する過程で親の介護が必要になるケースが増加しています。
また、核家族化の進行や地域のつながりの希薄化も、ヤングケアラー問題を深刻化させる要因となっています。かつては、祖父母や親戚、近隣住民が家族のケアを分担することができましたが、現代では家族内で問題を抱え込みやすい環境になっています。
一方で、日本における法的支援の整備の遅れも問題の顕在化を遅らせている要因の一つです。欧米諸国では、ヤングケアラー支援のための法律や制度が整備されていますが、日本ではまだ十分とは言えません。2022年に児童福祉法が改正され、ヤングケアラー支援が法律に明記されましたが、具体的な支援策の実施はこれからの課題となっています。
支援の必要性
ヤングケアラーに対する支援の必要性は、近年ますます高まっています。しかし、社会全体での認知度はまだ十分とは言えず、多くのヤングケアラーが適切な支援を受けられずにいるのが現状です。
支援体制の構築が急務である理由の一つは、ヤングケアラー自身が自分の状況を認識できていないケースが多いことです。家族のケアを当たり前のこととして受け入れ、支援を求める必要性を感じていない場合があります。そのため、ヤングケアラー自身が自分の立場を理解し、必要に応じて支援を求められるよう、教育や啓発活動が重要となります。
また、ヤングケアラー支援には、教育機関、福祉機関、医療機関など、多様な主体の連携が不可欠です。学校では、教職員がヤングケアラーの早期発見に努め、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーと連携して支援につなげることが求められます。地域社会では、民生委員や児童委員、地域包括支援センターなどが、ヤングケアラーを含む家族全体を支援する体制を整えることが重要です。
さらに、ヤングケアラー支援には、社会全体の理解と協力が必要不可欠です。ヤングケアラーの存在や抱える問題について、広く社会に周知し、支援の重要性を訴えていくことが大切になります。企業や地域団体などが、ヤングケアラー支援に関する啓発活動や具体的な支援プログラムに参加することで、より包括的な支援体制を構築できるでしょう。
国の取り組み
ヤングケアラー問題に対する国の取り組みは、近年急速に進展しています。2024年6月5日に「子ども・若者育成支援推進法」の改正法が可決しました。この改正法では、ヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と明確に定義し、国や自治体に支援を行う努力義務を課すことを目指しています。
また、国は2022年度から2024年度までの3年間を「ヤングケアラー認知度向上の集中取組期間」と位置付け、広報活動や啓発イベントを通じて社会全体の認知度を高める取り組みを展開中です。具体的には、ポスターやリーフレットの作成、全国フォーラムの開催などが行われ、中高生の認知度を50%まで引き上げることを当面の目標としています。
さらに、政府はヤングケアラーを含む子育てに困難を抱える世帯への支援を強化するため「こども家庭センター」の全国展開を進めています。こども家庭センターでは、妊娠期から子育て期までの切れ目のない支援を提供し、複合的な課題を抱える家庭に対して包括的な支援を行うことが期待されています。
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ヤングケアラーが直面している問題
ヤングケアラーが直面している問題は多岐にわたり、その影響は長期的かつ深刻です。また、主な問題点として以下が挙げられます。
● 学業への影響
● 社会的な孤立
● 健康への影響
● 家庭内での責任と負担
● 自己認識の欠如
これらの問題に対処するためには、教育、福祉、医療など多方面からの包括的な支援が必要です。自治体には「ヤングケアラーの早期発見」と「適切な支援提供」のための体制構築が求められています。
また、社会全体でヤングケアラーの存在を認識し、支援の重要性を理解することが不可欠です。
学業への影響
ヤングケアラーの学業への影響は深刻で、多くの子どもたちが教育を受ける機会を十分に得られていない現状があります。家族のケアに時間を取られることで、学校生活全般に支障をきたし、将来の選択肢を狭めてしまう可能性が高いです。
まず、ヤングケアラーは家庭でのケア責任により、学業に集中する時間が著しく制限されます。厚生労働省の調査によると、中学生の16.0%、高校生の13.0%が「宿題をする時間や勉強する時間が取れない」と回答しています。これは単に成績の低下だけでなく、学ぶ意欲や好奇心の減退にもつながる可能性があるでしょう。
さらに、家族の世話のために遅刻や欠席が増える傾向も見られます。継続的な欠席は、学習の遅れを招くだけでなく、友人関係の構築にも悪影響を及ぼす可能性があります。
学業の遅れは、進学や就職の選択肢を狭める可能性もあり、高校や大学への進学を諦めざるを得ない状況に追い込まれるケースも少なくありません。これは、ヤングケアラー自身の将来に対する不安を増大させ、精神的な負担となっています。
社会的な孤立
ヤングケアラーは家族のケアに時間を取られることで、同年代の友人と交流する機会が著しく制限され、結果として友人関係が希薄になりがちです。この状況は、単に寂しさを感じるだけでなく、長期的には社会性の発達にも影響を及ぼす可能性があります。
また、家族の状況を他人に知られたくないという思いから、自ら友人との交流を避けるケースもあります。このような孤立は、同年代の子どもたちが経験する通常の社会化プロセスから取り残される結果を招きかねません。
さらに、コミュニケーション不足は社会性の発展に障害をもたらす可能性があります。友人との交流を通じて学ぶべき対人スキルや感情のコントロール、協調性などの獲得が遅れる恐れがあります。
このような孤立感が続くことで、徐々に精神的なストレスを増幅させてしまうでしょう。
健康への影響
家族のケアを担う責任が、子どもたちの成長期における健康的な生活リズムを乱し、長期的な健康被害をもたらすリスクが高まっています。
まず、身体面での影響として、睡眠不足や栄養バランスの崩れが挙げられます。ケアの負担が大きいため、十分な睡眠時間を確保できず、また食事の準備や摂取にも十分な時間を割くことができないケースが多いです。これらの要因が重なり、成長期の子どもたちの身体発達に悪影響を及ぼす危険があります。
さらに、長時間のケアによる身体的疲労の蓄積は、慢性的な疲労感や体力低下を引き起こします。特に、高齢者や身体障害のある家族のケアを担う場合、体力的な負担が大きく、腰痛や肩こりなどの身体症状を訴えるヤングケアラーも少なくありません。
また、精神面での影響も看過できません。家族のケアに対する責任感や、学業との両立によるストレスが、うつ病や不安障害などの精神疾患のリスクを高めています。
家庭内での責任と負担
本来、大人が担うべき家事や介護などの役割を、子どもが日常的に引き受けることで、年齢相応の生活や発達が阻害される危険性が高まっています。
ヤングケアラーは、家族の介護や世話、家事全般など、多岐にわたる責任を負うことが多く、その負担は想像以上に大きいです。例えば、食事の準備や掃除、洗濯といった基本的な家事から、病気や障がいのある家族の身体介助、服薬管理、さらには家計のやりくりまで、大人顔負けの役割を担っているケースも少なくありません。
このような状況下では、子どもとしての生活を楽しむ時間や機会が著しく制限されます。友達と遊ぶ、部活動に参加する、趣味を楽しむといった、子どもの成長に不可欠な経験が犠牲になってしまいます。
さらに問題なのは、家庭内での役割が固定化されやすいことです。一度ケアの役割を担うと、その責任から抜け出すことが難しくなり、自己犠牲を強いられる状況が長期化する傾向があります。この結果、自分の人生よりも家族のケアを優先せざるを得ないという心理的プレッシャーに常にさらされることになります。
自己認識の欠如
多くのヤングケアラーは、自分がケアラーであるという認識を持っていません。これは、彼らが置かれている状況を「普通」だと捉えているためです。
また、自分の状況を問題だと認識できないため、ヤングケアラーは適切な支援を受ける機会を逃しがちです。例えば、学校のカウンセラーや地域の福祉サービスなど、利用可能な支援リソースがあっても、それらを活用しようとしない傾向があります。
さらに、自己認識の欠如は問題の深刻化を招く要因となります。ヤングケアラーは自分の状況を当たり前のこととして受け入れ、過度な負担や責任を背負い続けてしまうからです。これにより、学業の遅れや社会的孤立、心身の健康問題など、様々な二次的な問題が発生し、長期化する可能性が高まります。
自治体によるヤングケアラー支援の現状
自治体によるヤングケアラー支援の現状は、近年急速に進展しています。多くの自治体が独自の支援策を打ち出し、ヤングケアラーの早期発見と適切な支援提供に取り組んでいます。
一方で、課題も存在します。自治体によって支援の内容や質に差があり、地域間格差が生じている点が指摘されています。また、ヤングケアラー自身やその家族が支援を求めることに躊躇する傾向があり、支援が必要な人に十分に届いていない現状もあります。
今後は、自治体間での好事例の共有や、ヤングケアラー当事者の声を積極的に取り入れた、より実効性の高い支援策を構築していくことが求められています。
ヤングケアラー支援のための法制度と政策
2024年6月に成立した改正子ども・若者育成支援推進法は、ヤングケアラー支援を明文化し、18歳以上の若者にも切れ目のない支援を提供することを明確にしました。この法改正により、ヤングケアラーの定義が法律上明確化され、支援の対象が拡大されたことは大きな前進と言えます。
自治体レベルでも、ヤングケアラー支援のための条例制定が進んでいます。北海道や埼玉県など、ケアラー全般を対象とした支援条例を制定する自治体も増加中です。
国の政策としても、ヤングケアラー支援のための予算が増額されています。令和5年度予算からは、ヤングケアラー支援体制構築事業における国の負担割合が2/3に引き上げられ、自治体の負担が1/3に軽減されました。これにより、自治体がより積極的に支援事業に取り組めるようになっています。
法制度の整備に伴い、ヤングケアラーの早期発見と支援の体制も強化されています。子ども・若者支援地域協議会と要保護児童対策地域協議会が協働して効果的に支援を行う仕組みが構築され、多機関連携による包括的な支援が可能となりました。
教育機関との連携による支援
多くの自治体では、学校教職員向けのヤングケアラー理解促進研修を実施しています。これらの研修では、ヤングケアラーの特徴や支援の必要性、具体的な対応方法などが学べるようになっています。例えば、東京都では「ヤングケアラー支援マニュアル」を作成し、教育現場での具体的な支援事例を紹介しています。
このような取り組みにより、教職員のヤングケアラーに対する理解が深まり、早期発見につながっています。
また、スクールソーシャルワーカー(SSW)やスクールカウンセラー(SC)の役割も重要です。これらの専門職は、ヤングケアラーと学校、家庭、地域の支援機関をつなぐ橋渡し役として機能しています。
教育現場でのヤングケアラーの把握も進んでいます。多くの学校で、定期的なアンケート調査や個別面談を実施し、ヤングケアラーの早期発見に努めています。また、把握した情報を適切に共有するため、校内委員会の設置や、自治体の福祉部門との定期的な情報交換会の開催など、情報共有の仕組みづくりも進められています。
多機関連携による包括的支援
現在、複数の自治体が、福祉、医療、教育機関と連携し、ヤングケアラーとその家族を総合的にサポートする体制を構築しています。
この連携体制の中核を担うのが、ヤングケアラーコーディネーターです。多くの自治体で配置が進んでおり、学校と市町村福祉部門をつなぐ調整役として機能しています。コーディネーターは、ヤングケアラーの早期発見から支援の実施まで、一貫したサポートを提供する重要な役割を果たしています。
一方で、多機関連携にはまだ課題も存在します。例えば、個人情報保護の観点から、関係機関間での情報共有が制限される場合があります。また、支援の継続性を確保するための仕組みづくりも重要な課題となっています。
認知度向上と啓発活動
多くの自治体が、ヤングケアラーの存在と支援の必要性を広く社会に知らしめるため、様々な施策を展開中です。
まず、広報活動の一環として、自治体の広報誌やウェブサイトでヤングケアラーに関する特集記事を掲載する取り組みが増えています。また、啓発イベントも各地で開催されており、講演会やシンポジウム、パネル展示などを通じて、ヤングケアラーの実態や支援の重要性を伝える機会が設けられています。
これらのイベントでは、当事者や支援者の声を直接聞くことができ、参加者の共感を得やすいでしょう。
さらに、地域の企業との連携も進んでいます。北海道では、大手コンビニエンスストアと協力し、店舗内にヤングケアラー啓発のポスターやステッカーを掲示するキャンペーンを展開しています。日常生活の中で目にする機会を増やすことで、より多くの人々にヤングケアラーの存在を知ってもらう工夫がなされています。
そして、学校を巻き込んだ啓発活動も重要です。教職員向けの研修会を開催し、ヤングケアラーの早期発見と適切な支援につなげる取り組みが広がっています。また、生徒向けの授業やワークショップを通じて、同世代の子どもたちにもヤングケアラーについて考える機会を提供しています。
自治体のヤングケアラー支援例
自治体のヤングケアラー支援は、近年急速に進展しています。各地域の特性や課題に応じて、独自の取り組みが展開されており、その支援内容は多岐にわたります。
ここでは代表的な事例として、以下の自治体の取り組みを紹介します。
● 埼玉県入間市
● 兵庫県神戸市
● 群馬県高崎市
● 埼玉県川口市
● 兵庫県尼崎市
自治体のヤングケアラー支援は、まだ発展途上の段階にありますが、各地域の創意工夫により、着実に前進しています。
今後は、これらの先進的な取り組みを参考に、より多くの自治体がヤングケアラー支援を充実させていくことが期待されます。
埼玉県入間市
埼玉県入間市は、2022年7月1日、入間市は全国に先駆けてヤングケアラー支援条例を制定・施行しました。この条例は、18歳未満のヤングケアラーに特化した支援を明確に定めている点が特徴的です。
入間市では、ヤングケアラーを「本来大人が担うと想定される家事や家族等身近な者に対する介護、看護、日常生活上の世話その他の援助を無償で提供する18歳未満の者」と定義しています。この定義に基づき、ヤングケアラーの早期発見と適切な支援を目指しています。
入間市のヤングケアラー支援条例の特徴は、市の責務だけでなく、保護者、学校、地域住民等、関係機関の役割も明確に定めている点です。これにより、社会全体で子どもの成長を支える環境づくりを目指しています。
兵庫県神戸市
神戸市では「こども・若者ケアラー」という独自の呼称を用い、18歳未満の児童だけでなく20代の若者も支援の対象としています。
神戸市の取り組みの特徴は、多角的な支援体制の構築にあります。2021年度から、以下の3つの主要な施策を実施しています。
● 相談・支援窓口の設置
● 交流と情報交換の場の提供
● 関係者への理解促進
さらに、神戸市では福祉局、健康局、こども家庭局、教育委員会事務局からなるプロジェクトチームを設置し、横断的な支援体制を構築しています。このチームは、当事者や支援団体、市内関係機関へのヒアリングを実施し、現場のニーズを直接政策に反映させる努力をしています。
神戸市の取り組みで特筆すべきは、支援の流れを明確化していることです。相談や発見から始まり、関係機関での対応、専門窓口での支援調整まで、一連のプロセスを体系化しています。これにより、支援の漏れや重複を防ぎ、効率的かつ効果的な支援を実現しています。
群馬県高崎市
2022年9月から開始された「ヤングケアラーSOS」は、全国的にも先進的な支援プログラムとして評価されています。
この支援プログラムの特徴は「高崎市の子どもは高崎市で守る」という理念のもと、ヤングケアラーの負担を直接的に軽減する点にあります。具体的には、家族の介護や家事、兄弟や姉妹の世話などを日常的に行っている子どもたちに対して、サポーターを無料で派遣するサービスを提供しています。
対象となるのは、主に市内在住の中学生と高校生です。ただし、要望があれば小学生も支援の対象としており、柔軟な対応を心がけています。サポーター派遣の上限は、子ども1人につき1日2時間、週2日までとなっています。通常、2人のサポーターが自宅を訪問し、支援を行います。
埼玉県川口市
川口市の支援策の特徴は、相談体制の充実、直接的な支援サービスの提供、そして経済的支援の3つの柱から成り立っていることです。
まず、相談体制については、ヤングケアラー相談専用ダイヤルを設置しています。この専用ダイヤルは、ヤングケアラー本人だけでなく、その家族や周囲の人々からの相談も受け付けており、幅広い支援の入り口となっています。
直接的な支援サービスとしては「ヤングケアラー家事等支援事業」を実施しています。この事業では、家事などを担うことで学業や社会生活に支障が出ているヤングケアラーの家庭に、無料で訪問員を派遣します。訪問員は、ヤングケアラーに代わって家事等を行い、子どもたちの負担を直接的に軽減する役割を果たします。
さらに、川口市の支援策で特筆すべきは「家族のケアをする子ども応援金事業(ヤングケアラー支援金)」です。この事業は、ヤングケアラーの現在と将来を経済的に支援することを目的としています。支給額は、小学生・中学生が月額5,000円、高校生が月額15,000円となっており、ヤングケアラー本人名義の口座に直接振り込まれます。
兵庫県尼崎市
尼崎市の支援策の特徴は、早期からの取り組みと、当事者の声を重視した政策立案にあります。2017年にコミュニティ・ソーシャルワーカー(CSW)がヤングケアラーの問題に着目したことをきっかけに、専門家を交えた勉強会や海外の支援団体を招いたシンポジウムを開催するなど、積極的な情報収集と啓発活動を行ってきました。
2019年には「子どもの育ち支援センター」と「尼崎市立ユース交流センター」を開設し、困難を抱える子どもたちへのワンストップ支援体制を整備しました。これらの施設は、ヤングケアラー支援の拠点としても機能しています。
特筆すべきは、2022年から開始された「ヤングケアラーピアサポート事業」です。この事業では、ヤングケアラー同士が悩みや不安を共有し、語り合う機会を提供しています。ボードゲーム大会やe-sports大会、おかしづくり体験など、楽しみながら交流できる場を設けることで、ヤングケアラーの孤立防止と相互支援を促進しています。
ヤングケアラー支援にはさらなる課題解決が不可欠
近年、ヤングケアラー支援は社会的な注目を集めていますが、その取り組みにはまだ多くの課題が残されています。自治体レベルでの支援体制の構築が進んでいるものの、さらなる課題解決が不可欠な状況です。
最大の課題の一つは、ヤングケアラー自身が自分の状況を認識していないことが多く、支援が必要な状況が表面化しにくい点です。多くのヤングケアラーは、家族のケアを担うことを「当たり前」と捉えており、支援を求める必要性を感じていません。この自己認識の欠如が、適切な支援につながることを妨げています。
また、ヤングケアラーを支援するための具体的な体制や制度が整備されていない自治体が多いことも大きな問題です。先進的な取り組みを行っている自治体がある一方で、多くの自治体では専門的な相談窓口や支援プログラムが不足しています。この結果、地域によって受けられる支援に大きな格差が生じています。
さらに、福祉、教育、医療などの関連機関が連携して支援を行う体制が不十分で、個別の対応にとどまっているケースが多いのが現状です。ヤングケアラーの抱える問題は多岐にわたるため、包括的な支援が必要不可欠です。しかし、多くの自治体では各機関の連携が十分に機能しておらず、効果的な支援につながっていません。
支援金やサービスの提供が不十分な点も大きな課題です。一部の自治体では経済的支援や家事支援サービスを提供していますが、全国的に見ればまだまだ限定的です。ヤングケアラーが必要な支援を受けるためには、より充実した経済的・実践的サポートが求められます。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。