減災とは?自治体の取り組み事例や減災対策のポイントを紹介
近年、異常気象や温暖化による台風の大型化や、今までに経験したことがない集中豪雨など、甚大な被害を被るケースが増えてきています。
そのため、災害による被害を防ぐことよりも、できるだけ被害を少なくするという考え方が自治体にも広まっています。
しかし、減災対策があまり進んでいない自治体が存在するのも事実です。
そこで本記事では、自治体が取り組む減災対策、最新の減災技術などを解説し、自治体の減災対策への取り組み事例を紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
●監修者の詳細な経歴はこちら
減災とは?防災との違いや基本概念
減災とは、災害による被害を完全に防ぐことは困難であるという前提に立ち、被害を最小限に抑えるための事前対策や取り組みを指します。防災が災害を未然に防ぐことを目的とするのに対し、減災は災害発生を想定した上で、その影響を軽減することに重点を置いています。
また、自治体における減災の取り組みでは、地域の特性を考慮した対策が重要です。例えば、海沿いの自治体では津波対策に重点を置き、山間部の自治体では土砂災害対策を優先するなど、地域ごとのリスク評価に基づいた施策が求められます。
減災には行政だけでなく、住民の主体的な参加が不可欠です。自助・共助の精神に基づき、個人や地域コミュニティが災害に備える意識を高め、具体的な行動につなげることが重要になります。
そして、自治体は住民の防災意識向上や自主防災組織の育成支援などを通じて、地域全体の減災力を高める役割を担っています。
減災と防災の基本的な違い
減災と防災は、災害対策における重要な概念ですが、その基本的な考え方には明確な違いがあります。
減災は、災害の発生を前提としたアプローチです。自然災害の完全な予防は困難であるという認識のもと、被害を最小限に抑えることを目的としています。例えば、建物の耐震補強、避難計画の策定、ハザードマップの作成などが減災の取り組みに含まれます。これらの対策は、災害が発生した際の人的・物的被害を軽減し、社会機能の早期回復を目指しています。
一方、防災は災害の発生そのものを防ぐことを主な目的としています。堤防の建設や森林の保全など、災害の原因となる要素を事前に取り除く、あるいは軽減する取り組みが中心です。防災は、災害が起こらないようにするための予防的な対策に重点を置いています。
両者の大きな違いは、災害の発生を前提とするか否かという点にあります。防災が「災害を防ぐ」ことを目指すのに対し、減災は「災害は起こるもの」という前提に立ち、その影響を最小限に抑えることを目指します。
しかし、減災と防災は決して相反する概念ではありません。むしろ、相互補完的な関係にあると言えます。例えば、河川の氾濫を防ぐための堤防建設(防災)と、洪水時の避難計画策定(減災)を組み合わせることで、より効果的な水害対策が可能になります。
減災の重要性とその背景
日本は、その地理的条件から自然災害が多発する国として知られています。国土の7割が山地であり、急勾配の河川や複雑な地形・地質構造を持つことから、地震、津波、台風、豪雨、土砂災害など、様々な自然災害のリスクに常に晒されています。さらに、台風の大型化や集中豪雨の増加など、災害の激甚化・頻発化も注意すべき点です。
このような状況下で、従来の防災対策だけでは十分な効果を得ることが難しくなっています。災害の発生を完全に防ぐことは現実的に不可能であり、むしろ災害の発生を前提とした上で、その被害を最小限に抑える「減災」の考え方が重要性を増しています。
減災という観点は、単に人命や財産を守るだけでなく、地域社会の持続可能性を高めるといった点でも重要です。例えば、災害に強いインフラ整備や避難計画の策定は、平常時の生活の質も向上させる効果があります。また、地域コミュニティの防災力強化は、災害時だけでなく日常的な地域の結びつきも強化することができます。
このように、減災は現代の日本社会において、安全・安心な生活を維持し、持続可能な地域づくりを実現するための重要な要素となっています。
自治体の役割と責任
まず、自治体には災害時の情報収集と、住民への迅速かつ正確な情報提供が求められます。これには、災害の規模や被害状況の把握、避難指示の発令、避難所の開設情報など、住民の生命と安全に直結する情報が含まれます。SNSやLアラートなどのデジタル技術を活用し、多様な手段で情報を発信することが重要です。
また、自治体は地域住民との協力体制を構築し、共助を促進する役割も担っています。自主防災組織の育成支援や、防災訓練の実施、防災教育の推進などを通じて、地域全体の防災力を高めることが求められます。特に、高齢者や障がい者など、災害時に支援が必要な方々への対応策を地域と協働で検討し、実施することが重要です。
さらに、自治体には他の自治体や関係機関との連携強化も求められます。大規模災害時には、単一の自治体だけでは対応が困難な場合が多いため、広域的な協力体制の構築が不可欠です。例えば、被災者の受け入れや物資の融通、人員の派遣などについて、事前に協定を結んでおくことが効果的です。
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自治体が取り組むべき減災対策
自治体が取り組むべき減災対策は、地域の特性やリスクを考慮しつつ、多角的なアプローチが必要です。
以下は、具体的な自治体の減災対策になります。
● 地域特性に応じた減災プランの策定
● デジタル技術を活用した情報収集と伝達
● 自治体間の連携強化と共助の推進
● 初動対応を支える人員確保と訓練
● 住民参加型の防災訓練と教育
● 災害に備えるためのインフラ整備
● 地域コミュニティの活性化と共助の促進
これらの対策を総合的に推進することで、自治体は地域の減災力を高め、安全・安心な社会の実現に貢献することができます。
ただし、これらの対策は地域の特性や課題に応じて柔軟に適用し、継続的に改善していくことが重要です。
地域特性に応じた減災プランの策定
各地域が持つ固有のリスクや課題を的確に把握し、それに適した対策を講じることで、より効果的な減災が可能となります。
まず、地域の地理的特性や過去の災害履歴を詳細に分析することが不可欠です。海沿いの自治体では津波対策に重点を置き、山間部の自治体では土砂災害対策を優先するなど、地域固有のリスクに応じたプランを策定する必要があります。この際、国土地理院の地形図や気象庁の過去の災害データなど、信頼性の高い情報源を活用することが重要です。
また、地域住民の意見を積極的に取り入れた参加型のプラン策定も効果があります。住民説明会やワークショップの開催、オンラインアンケートの実施など、様々な手法を用いて住民の声を集めることで、地域の実情に即したプランを作成します。
例えば、高齢者が多い地域では避難支援体制の強化に重点を置くなど、人口構成や生活様式に合わせた対策を盛り込むとよいでしょう。
さらに、減災プランは定期的に見直し、最新の情報や技術を反映させることが重要です。気候変動の影響による災害リスクの変化や、新たな防災技術の登場など、防災・減災を取り巻く環境は常に変化しています。
AIを活用した災害予測システムやIoTデバイスによるリアルタイムモニタリングなど、最新のテクノロジーを積極的に取り入れることで、プランの実効性を高めることができます。
デジタル技術を活用した情報収集と伝達
AIやIoTを活用したリアルタイムの災害情報収集は、自治体の減災対策の効率を飛躍的に向上させます。河川や斜面にIoTセンサーを設置することで、水位や地盤の変化をリアルタイムで監視し、異常を即座に検知することが可能です。
また、AIを用いた画像解析技術により、監視カメラの映像から浸水や土砂崩れなどの危険な状況を自動的に識別し、早期警報につなげることができます。
ドローンの活用も、被災地の迅速な状況把握に大きな効果を発揮しています。災害発生直後、地上からのアクセスが困難な場所でも、ドローンによる空撮で被害状況を素早く把握することが可能です。さらに、ドローンが撮影した画像をAIで解析することで、被災マップを迅速に作成し、災害対策本部での意思決定を支援することができるでしょう。
さらに、SNSや専用アプリを通じた迅速な情報伝達も、住民の安全確保に大きく役立っています。多くの自治体がX(旧Twitter)やFacebookなどのSNSを活用し、リアルタイムで災害情報や避難指示を発信しています。また、防災専用のSNSシステムを構築し、防災関係機関間の情報共有を高度化・迅速化する取り組みも行われています。
自治体間の連携強化と共助の推進
大規模災害時には、単一の自治体だけでは十分な対応が困難な場合が多く、他の自治体や企業との協力体制が不可欠になります。
まず、自治体間の連携により、リソースの効率的な活用が可能です。災害時の避難所運営や物資の供給、人員の派遣などについて、事前に協定を結ぶことで、迅速かつ効果的な支援体制を構築できます。特に、近隣自治体との協力関係は、地理的な近さを活かした即時対応を可能にします。
また、共同訓練や情報共有を通じて、災害対応力の強化が可能です。定期的な合同防災訓練の実施や、災害対応マニュアルの共有、さらには防災担当者間のネットワーク構築など、平時からの連携が重要です。これにより、災害時のスムーズな協力体制の確立と、各自治体の対応力向上が期待できます。
広域災害に対応するための協定やネットワークの構築も必要不可欠です。例えば、東日本大震災の教訓を踏まえ、遠隔地の自治体との相互応援協定の締結が進んでいます。そうすることで、同時被災のリスクを軽減し、より確実な支援体制を確保することができます。
初動対応を支える人員確保と訓練
災害発生直後の迅速かつ的確な対応が、被害の拡大を防ぎ、住民の生命と安全を守るポイントになります。
そのためには、十分な人員の確保が不可欠です。自治体職員だけでなく、地域住民やボランティアの協力も重要な役割を果たします。自主防災組織や消防団との連携を強化し、初動対応時の人員体制を充実させることが効果的です。
定期的な訓練は、迅速かつ的確な対応力を養うために欠かせません。特に、初動対応に焦点を当てた実践的な訓練が重要です。例えば、夜間や休日など、職員が少ない時間帯を想定した訓練や、複合災害を想定したシナリオベースの訓練など、様々な状況下での対応力を高める工夫が必要となります。
訓練の内容としては、安否確認訓練、初期消火訓練、応急手当訓練、救助訓練などが基本となります。さらに、災害対策本部の設置・運営訓練や、情報収集・伝達訓練なども重要です。これらの訓練を通じて、各職員の役割や行動手順を明確化し、チームワークを強化することができるでしょう。
住民参加型の防災訓練と教育
地域全体の防災力を高め、災害時の被害を最小限に抑えるためには、住民一人ひとりの防災意識と対応能力の向上が不可欠です。
住民が主体的に参加する防災訓練は、地域の防災意識を大きく向上させます。従来の形式的な訓練ではなく、実践的かつ体験型の訓練を実施することで、より効果的になるでしょう。
また、家族や高齢者、外国人など、多様なニーズに対応した訓練の実施が重要です。例えば、子育て世帯向けの避難訓練や、多言語対応の防災訓練など、地域の人口構成や特性に合わせたきめ細かな訓練プログラムの開発が求められます。特に、要配慮者の支援を想定した訓練は、地域の共助力を高める上で重要な役割を果たします。
防災教育を通じて、日常から防災意識を高めることも重要です。学校教育との連携は特に効果的で、防災授業や防災キャンプなどを通じて、子どもたちの防災意識を育むことができます。さらに、子どもたちが家庭で学んだことを共有することで、家族全体の防災意識向上にもつながるでしょう。
災害に備えるためのインフラ整備
適切なインフラ整備は、災害発生時の被害を最小限に抑え、住民の生命と財産を守るための基盤となります。
まず、避難所や避難経路の整備は、災害時の安全確保に直結します。避難所については、耐震性や収容能力の向上だけでなく、長期滞在を想定した設備の充実も必要です。それには、バリアフリー化や空調設備の整備、プライバシーに配慮した間仕切りの設置などが挙げられます。
避難経路については、複数のルートを確保し、各ルートの安全性を高めることが求められます。例えば、橋梁の耐震化や、がけ崩れの危険がある箇所の補強工事、街路灯の整備などが考えられます。また、避難経路を明確に示す案内板の設置や、夜間でも視認性の高い蓄光材を用いた誘導サインの導入なども効果的です。
インフラの強化においては、耐震化や防水対策が重要です。特に、庁舎や病院、学校などの重要施設については、優先的に耐震補強を進める必要があります。また、近年の豪雨災害の増加を踏まえ、河川の堤防強化や雨水排水施設の整備、地下施設の防水対策なども急務となっています。
さらに、災害時に役立つ非常用電源や備蓄品の確保も重要なインフラ整備の一環です。特に、災害対策本部となる庁舎や避難所には、長期間の停電に備えた非常用発電設備の設置が不可欠です。また、太陽光発電システムや蓄電池の導入など、再生可能エネルギーを活用した電源の多様化も検討すべきでしょう。
地域コミュニティの活性化と共助の促進
災害時には、行政の対応だけでは限界があり、地域住民同士の助け合いが被害の軽減と迅速な復旧に大きく貢献します。
まず、地域コミュニティの強化により、災害時の助け合いを促進することができます。自主防災組織の設立と活動支援は、地域の防災力向上に直結します。これらの組織が中心となって、平時から防災マップの作成や避難訓練の実施、災害時の役割分担の確認などを行うことで、いざという時の対応力が高まるでしょう。
地域イベントやワークショップを通じて、住民同士の絆を深めることも重要です。防災をテーマにしたイベントはもちろん、お祭りや運動会など、日常的な交流の機会を設けることで、顔の見える関係性を構築できます。これにより、災害時にも互いに助け合える基盤が形成されます。
高齢者や障がい者など、災害時要援護者への支援体制の整備も、共助の重要な側面です。例えば、要援護者の情報を地域で共有し、避難支援プランを作成することが効果的です。ただし、個人情報保護にも配慮しながら、支援が必要な方々と地域のつながりを築いていく必要があります。
最新の減災技術について
最新の減災技術は、自治体の防災・減災対策に革新をもたらしています。AIやIoT、ビッグデータなどの先端技術を活用することで、より効果的かつ効率的な災害対応が可能となっています。
一方で、これらの最新技術を効果的に活用するためには、課題もあります。例えば、導入コストの問題や、運用するための専門人材の確保、個人情報保護への配慮などが挙げられます。また、技術に過度に依存することなく、従来の防災・減災対策とのバランスを取ることも重要です。
自治体は、これらの最新技術の特性や課題を十分に理解した上で、地域の特性に合わせて適切に導入・活用していくことが求められます。また、技術の進化は日進月歩であるため、常に最新の情報を収集し、必要に応じて導入技術の更新や新たな技術の採用を検討することも重要です。
AIを活用した災害予測と早期警戒システム
AIを活用した災害予測と早期警戒システムは、過去の災害データを分析し、自然災害の事前予測を可能にするだけでなく、リアルタイムでの被害状況の把握や迅速な避難指示の発令にも貢献しています。
AI技術を用いた災害予測システムは、気象データ、地形情報、過去の災害履歴などの膨大なデータを学習し、高精度な予測モデルを構築します。豪雨による河川の氾濫リスクや、地震発生後の津波の到達時間と規模などを、従来の手法よりも正確に予測することが可能になっています。
また、AIシステムは災害発生時の二次災害防止にも重要な役割を果たします。例えば、地震発生後の余震予測や、台風通過後の土砂災害リスクの評価など、刻々と変化する状況を継続的に分析し、新たな危険を予測することができます。
これにより、自治体は適切なタイミングで避難指示の解除や警戒態勢の維持を判断することができるでしょう。
IoTセンサーによるリアルタイム監視とデータ収集
IoTセンサーによるリアルタイム監視とデータ収集は、災害の予測、早期警戒、そして被害状況の迅速な把握を可能にし、自治体の防災・減災能力を大幅に向上させています。
水位や潮位の監視においては、IoTセンサーが精密な分析を可能にしています。河川や海岸に設置されたセンサーが、リアルタイムで水位データを収集し、クラウド上で一元管理されます。これにより、自治体は刻々と変化する水位状況を正確に把握し、洪水や高潮のリスクを事前に予測することができます。
さらに、センサー技術は地底からの微弱な振動も検知し、地震予測に役立つ可能性があります。高感度の地震計を広範囲に設置することで、地殻変動の微細な変化を捉え、大規模地震の前兆を捉えることができるかもしれません。この技術は、まだ研究段階ですが、将来的には地震の早期警戒システムの重要な要素となる可能性があります。
IoTセンサーは、土砂災害の監視にも活用されています。斜面に設置されたセンサーが、地盤の変位や水分量の変化を継続的に測定し、土砂災害の危険性を評価します。これにより、自治体は危険な斜面を事前に特定し、必要な対策を講じることができるでしょう。
衛星技術とスーパーコンピュータによる気象予測の高度化
衛星技術とスーパーコンピュータによる気象予測の高度化は、自治体の減災対策に革新をもたらしています。特に、線状降水帯の予測精度向上は、豪雨災害への事前対応を大きく改善しました。
最新の気象衛星「ひまわり」は、従来よりも高頻度・高解像度の観測を実現し、大気中の微細な変化を捉えることができます。この詳細なデータをスーパーコンピュータ「富岳」で解析することで、線状降水帯の発生メカニズムの解明が進んでいます。
この技術進歩により、自治体は従来よりも早い段階で避難指示を出すことが可能になりました。具体的には、線状降水帯の発生が予測される6時間前から、危険地域の住民に対して避難準備を呼びかけることができるようになっています。これにより、夜間や急激な天候悪化時の避難といった危険な状況を回避し、より安全な避難行動を促すことができます。
さらに、気象予測の高度化は、災害リスクの可視化にも貢献しています。予測された降雨量をもとに、河川の水位上昇や土砂災害の危険度を地図上にリアルタイムで表示するシステムも開発されています。自治体の防災担当者は、このシステムを活用することで、どの地域にどのようなリスクがあるかを視覚的に把握し、効果的な対策を講じることができるでしょう。
ドローンを活用した被災地の迅速な状況把握
災害発生直後、被災地の状況を素早く正確に把握することは、効果的な救助活動や支援物資の配布を行う上で極めて重要です。
ドローン技術の進歩により、自治体は災害発生後わずか数時間で被災地の全体像を把握することが可能になりました。従来のヘリコプターによる空撮と比べ、ドローンは低コストで運用でき、より機動的に展開できるという利点があります。
例えば、地震や豪雨による土砂崩れが発生した場合、道路が寸断されて地上からのアクセスが困難な地域でも、ドローンを飛ばすことで被害状況を迅速に確認できます。
被災地の航空写真や動画は、救助活動の優先順位を決定する上で貴重な情報源です。高解像度カメラを搭載したドローンは、建物の倒壊状況や道路の寸断箇所、浸水エリアなどを詳細に撮影できます。これらの映像データをAI技術で解析することで、要救助者の可能性が高い場所を特定したり、安全な救助ルートを設定したりすることが可能になります。
さらに、ドローンは夜間や悪天候時にも活用できるよう進化しています。赤外線カメラを搭載したドローンは、夜間でも熱源を検知して要救助者の発見が可能です。また、防水・防塵性能を高めたドローンは、豪雨や強風の中でも飛行ができ、刻々と変化する災害状況をリアルタイムで把握することができます。
デジタルプラットフォームを通じた住民とのコミュニケーション強化
SNSや専用アプリを活用することで、住民に迅速かつ正確な情報を提供し、災害時の情報伝達を効率化することができます。
まず、SNSの活用は、情報の即時性と拡散性を高めます。例えば、X(旧Twitter)やFacebookを通じて、避難指示や気象警報などの緊急情報を瞬時に多くの住民に伝達することが可能です。また、LINEなどのメッセージングアプリを活用することで、プッシュ通知機能を使って重要な情報を確実に届けることができます。
専用の防災アプリの開発も、効果的な情報提供の手段となっています。これらのアプリでは、ハザードマップの閲覧や避難所情報の確認、さらには個人の避難計画作成支援など、平常時から災害時まで幅広く活用できる機能を提供しています。
一部の自治体では、AIを活用して個人の居住地や家族構成に応じた最適な避難経路を提案するアプリを導入しています。
デジタルプラットフォームは、双方向のコミュニケーションを可能にする点も大きなメリットです。住民が災害時に現場の状況をリアルタイムで報告できるシステムを構築することで、自治体は正確な被害状況を把握し、適切な対応を取ることができます。
自治体の減災対策への取り組み事例
自治体の減災対策への取り組み事例は、地域の特性や課題に応じて多様な形で展開されています。ここでは、いくつかの先進的な事例を紹介し、効果的な減災対策のポイントを探ります。
近年では自治体間の連携や、産学官連携による先進的な取り組みも増えています。例えば、IoTセンサーを活用した河川水位のリアルタイムモニタリングや、AIを用いた災害予測システムの導入など、最新技術を活用した減災対策も始まっています。
自治体の減災対策は、地域の安全・安心を確保する上で極めて重要です。これらの先進事例を参考にしつつ、各自治体が地域の実情に合わせた効果的な対策を講じていくことが求められています。
高知県宿毛市
高知県宿毛市は、南海トラフ地震による甚大な被害が想定される地域であり、防災・減災対策に積極的に取り組んでいます。市は「犠牲者ゼロ」を目指し、住民主体の取り組みを重視しながら、様々な施策を展開しています。
宿毛市の特徴的な取り組みの一つに「宿毛市国土強靭化地域計画」の策定があります。この計画は、大規模自然災害等に備えた強靭な地域づくりを目指すもので、ハード・ソフト両面からの対策を包括的に定めています。
また、市は地域防災計画を定期的に見直し、最新の知見や技術を取り入れています。特に、災害対策本部の機能強化に力を入れており、市庁舎や防災センター、総合運動公園において、衛星携帯電話の使用環境を整備するなど、通信手段の確保に努めています。
宿毛市の減災対策で特筆すべきは、海岸堤防の地震津波対策です。市は津波の規模に応じて、防災と減災の両面からアプローチしています。レベル1津波に対しては堤防による背後地の防護を、レベル2津波に対しては住民避難と組み合わせた対策を講じています。この柔軟な対応は、地域の特性を考慮した効果的な減災策といえるでしょう。
石川県珠洲市
石川県珠洲市は、能登半島の最先端に位置し、三方を海に囲まれた自然豊かな地域です。この地理的特性から、津波や高潮のリスクが高く、市は積極的な防災・減災対策に取り組んでいます。
珠洲市の特徴的な取り組みとして、津波・高潮ハザードマップの作成と活用が挙げられます。市は最新の科学的知見に基づいて詳細なハザードマップを作成し、市民に広く公開しています。このマップは単なる浸水予測にとどまらず、避難経路や避難所の情報、さらには地域ごとの特性を考慮した避難のタイミングなども盛り込んだ、実用性の高いものとなっています。
また、珠洲市は防災教育にも力を入れています。学校教育の中で防災・減災に関する授業を定期的に実施し、子どもたちが自然災害のメカニズムや適切な避難行動について学ぶ機会を設けています。さらに、地域の高齢者と子どもたちが一緒に参加する防災訓練を実施するなど、世代を超えた防災意識の向上にも取り組んでいます。
珠洲市の減災対策の特徴として、デジタル技術の積極的な活用も挙げられます。市は防災情報ポータルサイトを開設し、リアルタイムの気象情報や避難情報を提供しています。また、スマートフォンアプリを通じて緊急情報を配信するシステムも導入し、市民がいつでもどこでも最新の防災情報にアクセスできる環境を整えています。
参考:内閣官房「防災情報の高度化(津波・高潮ハザードマップ作成の推進)による避難行動の推進」
参考:珠洲市「珠洲市復興計画骨子(案)」
秋田県秋田市
秋田県秋田市は、雄物川流域の河川改修を中心とした積極的な減災対策に取り組んでいます。特に、平成29年7月の豪雨災害を教訓に、国と連携しながら総合的な治水対策を推進しています。
雄物川流域では、国土交通省東北地方整備局が主導する河川改修事業が進められており、秋田市はこれと連携して市内の治水安全度向上に努めています。具体的には、堤防整備や河道掘削などの対策が実施され、その効果が令和5年7月の大雨時に発揮されました。椿川地点では水位を約88cm低下させ、浸水被害を防止することに成功しています。
秋田市の減災対策は河川改修だけにとどまりません。「秋田市地域防災計画」では「減災」の考え方を防災の基本理念として位置づけ、様々な対策を組み合わせた総合的なアプローチを採用しています。例えば、ハザードマップの作成・配布、避難訓練の実施、防災教育の推進など、ソフト面での対策にも力を入れています。
また、秋田市は高齢化率が高い地域であることを踏まえ、要配慮者への支援体制の強化にも注力しています。避難行動要支援者名簿の整備や、福祉避難所の指定・運営訓練など、きめ細かな対策を講じています。
和歌山県橋本市
和歌山県橋本市は、紀の川の中流域に位置し、豊かな自然環境と歴史的な街並みを有する一方で、水害や土砂災害のリスクも抱えています。そのため、市は積極的な防災・減災対策に取り組んでおり、特に近年は「防災・減災、国土強靱化」事業を活用した取り組みが注目されています。
その一例として、市内を流れる紀の川に架かる橋梁の洗掘対策が挙げられます。紀の川は豪雨時に水量が急増し、橋脚の基礎部分が洗掘されるリスクがありました。この問題に対し、橋本市は国土強靱化事業を活用し、橋脚周辺の河床を保護する工事を実施しました。この対策により、令和5年6月の台風時にも橋梁の機能が維持され、交通の安全が確保されました。
また、橋本市は地域の特性を活かした独自の減災対策も推進しています。市内には多くのため池が存在しますが、これらを防災資源として活用する取り組みを行っています。具体的には、ため池の耐震化や洪水吐の改修を進めるとともに、水位監視システムを導入し、豪雨時の水位変動を常時監視できる体制を整えています。
参考:内閣官房「「防災・減災、国土強靱化」事業により洗掘被害を未然に防止し、交通機能を確保」
参考:橋本市「橋本市国土強靭化地域計画」
新潟県燕市
新潟県燕市は、災害時の食料供給体制を整備するため、地域防災計画に基づいた具体的な取り組みを進めています。
燕市では、災害時における食料の調達と供給を円滑に行うためのフロー図を策定し、被災者への迅速な支援を目指しています。この計画には、市が備蓄する食料の管理や、必要に応じた調達先の確保が含まれています。また、地域内の協力体制を強化し、自治会や自主防災組織と連携して効率的な物資配分を実施することも重視されています。
さらに、燕市は災害時の混乱を最小限に抑えるため、地域住民への事前教育と訓練を積極的に行っており、住民が自らの安全を確保し、地域全体で共助の精神を育むことができています。
これから期待される新しい減災アプローチとは
新しい減災アプローチは、最新のテクノロジーを活用しつつ、地域コミュニティの力を最大限に引き出す方向に進化しています。
クラウド技術の活用は、自治体と住民間の情報共有を劇的に効率化する可能性を秘めています。例えば、リアルタイムで更新される避難所の混雑状況や、道路の通行可能情報などを、クラウド上で共有することで、より適切な避難行動を促すことができます。
さらに、AIによる分析を組み合わせることで、個人の状況に応じた最適な避難ルートを提案するなど、きめ細かな支援が可能になるでしょう。
また、VR技術を活用した災害シミュレーションは、住民の防災意識向上に大きく貢献すると期待されています。実際の避難行動をVR空間で体験することで、災害時の適切な判断力を養うことができます。また、自治体職員の訓練にも活用でき、様々な災害シナリオに対応する能力を効率的に向上させることができます。
自治体には、これらの新しいアプローチを柔軟に取り入れ、地域の特性に合わせてカスタマイズしていく姿勢が求められます。同時に、デジタルデバイドへの配慮や、プライバシー保護など、新たな課題にも適切に対応していく必要があるでしょう。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。