高齢者福祉とは?自治体の取り組み事例や課題を解説
日本は現在「高齢化社会」に突入しており、今後さらに高齢化が進むと予想されています。
そして、高齢者の福祉対策については、自治体における喫緊の課題であると言えるでしょう。
しかし、自治体による高齢者福祉には、様々な課題があることも否定できません。
そこで本記事では、地域の高齢者福祉の実情や課題などを解説し、自治体による高齢者への福祉対策の事例を紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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高齢者福祉とは?その歴史と発展
高齢者福祉とは、高齢者の尊厳を守り、健康で安心した生活を送れるよう支援する社会的な取り組みです。その歴史は、日本の高度経済成長期以降、急速に発展してきました。
近年では、地域包括ケアシステムの構築が進められています。これは、医療、介護、予防、住まい、生活支援が一体的に提供される仕組みで、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられることを目指すものです。
また、高齢者の社会参加や生きがいづくりにも注目が集まっています。シルバー人材センターの活用や、高齢者の知識・経験を活かしたボランティア活動の推進など、高齢者が社会の担い手として活躍できる環境づくりが進められています。
そして、高齢者福祉は社会の変化や高齢者のニーズに応じて、常に進化を続けています。今後も、高齢者一人ひとりの尊厳を守り、その人らしい生活を支援する取り組みが、さらに充実していくことでしょう。
高齢者福祉の始まりと法制度の整備
1963年に制定された老人福祉法は、高齢者福祉の基盤を形成する画期的な法律です。この法律は、高齢者の生活の安定、健康の維持、そして社会参加の促進を基本理念として掲げ、高齢者の尊厳を守りながら、豊かな老後を実現することを目指しました。
その後、高齢化の進展に伴い、高齢者福祉のニーズは多様化・高度化していきます。1980年代には、在宅福祉サービスの拡充や、高齢者の社会参加促進など、新たな取り組みが始まりました。特に、1989年に策定された「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」は、在宅福祉・施設福祉の基盤整備を大幅に推進する契機となっています。
そして、2000年に導入された介護保険制度は、高齢者福祉の在り方を大きく変革しました。この制度により、介護サービスの利用が措置制度から契約制度へと移行し、利用者が自らサービスを選択できるようになっています。また、介護の社会化が進み、家族だけでなく社会全体で高齢者を支える仕組みが整備されました。
介護保険制度の導入以降も、高齢化の進行に伴い、福祉制度の見直しと拡充が続けられています。2005年の介護保険法改正では、予防重視型システムへの転換や地域密着型サービスの創設が行われました。さらに、2011年には、地域包括ケアシステムの構築が政策目標として掲げられ、医療、介護、予防、住まい、生活支援が一体的に提供される体制づくりが進められています。
高齢者福祉の拡充に向けて
高齢者福祉の拡充に向けて、自治体は様々な取り組みを進めています。日本の高齢化率は年々上昇し、2037年には国民の3人に1人が65歳以上になると予測されています。
この急速な高齢化に伴い、福祉サービスへの需要が飛躍的に高まっており、自治体はこの課題に対応するため、新たな施策を展開しています。
その中核となるのが、地域包括ケアシステムの構築です。高齢者が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるよう、地域の特性に応じて、きめ細かなサービスを提供することを目的としています。
高齢者福祉の拡充は、単に福祉サービスを増やすだけでなく、高齢者の尊厳を守り、生きがいを持って暮らせる社会を作ることを目指しています。そのためには、個々の高齢者のニーズに寄り添いながら、地域全体で支える仕組みを構築していくことが必要です。
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地域の高齢者福祉の現状
地域の高齢者福祉の現状は、急速な高齢化と人口減少を背景に、様々な課題に直面しています。2025年には団塊の世代が75歳以上となり、医療や介護のニーズがさらに高まると予想されています。
このような状況下で、地域包括ケアシステムの構築が急務となっており、各自治体は高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられるよう、取り組みを進めています。
一方で、高齢者福祉サービスの地域間格差も課題となっています。都市部と地方では、サービスの質や量に差があり、特に過疎地域では、サービス提供体制の維持が困難になっているケースもあります。この問題に対し、自治体間の連携や、ICTを活用した遠隔サービスの導入など、新たな解決策が模索されています。
地域包括ケアシステムによる支援
地域包括ケアシステムは各自治体で導入が進められていますが、その実施状況には地域差があり、都市部と地方では課題が異なります。
都市部では高齢者人口の急増に対応するサービス提供体制の整備が急務となっている一方、地方では人口減少や過疎化により、サービスの維持が困難になっているケースもあります。
また、地域包括ケアシステムの中核を担うのが地域包括支援センターです。ここでは、高齢者の総合相談、権利擁護、介護予防ケアマネジメントなど、多岐にわたる支援を行っています。また、医療機関や介護事業所、民生委員、ボランティアなど、地域の様々な資源と連携し、高齢者を多面的に支える体制を構築しています。
地域特性に応じた柔軟な対応も重要です。都市部では高齢者の孤立防止が課題となっているため、見守りネットワークの構築や地域サロンの開設などが進められています。一方、農村部では移動支援や買い物支援など、生活基盤を支える取り組みが重視されています。
高齢者福祉サービスの多様化
ホームヘルプサービスやデイサービスは、高齢者福祉の基本的なサービスとして広く普及しています。ホームヘルプサービスでは、専門のヘルパーが高齢者の自宅を訪問し、食事の準備や掃除、入浴の介助などを行います。一方、デイサービスは、日中に施設で過ごしながら、入浴や食事、レクリエーションなどのサービスを受けられる通所型のプログラムです。
これらの基本サービスに加え、近年では高齢者の多様なニーズに応える新しいサービスが登場しています。例えば、認知症カフェは、認知症の高齢者とその家族が気軽に集まり、情報交換や相談ができる場所として注目を集めています。
また、高齢者の社会参加を促進するための就労支援サービスも増えており、シルバー人材センターなどを通じて、高齢者の経験や技能を活かした就業機会が提供されています。
しかし、高齢者福祉サービスの多様化が進む一方で、地域間のサービス格差も課題となっています。都市部では比較的多くのサービスが利用可能ですが、過疎地域ではサービスの選択肢が限られていることがあります。この格差を是正するために、自治体や民間事業者が協力して、地域の特性に合わせたサービスの開発や提供に取り組んでいます。
独居高齢者支援の取り組み
総務省の統計によると、65歳以上の一人暮らし高齢者の数は年々増加しており、2040年には約900万人に達すると予測されています。このような状況下で、自治体や地域社会は独居高齢者の安全と生活の質を確保するための様々な支援策を展開しています。
見守りサービスは、独居高齢者支援の中核を担う取り組みの一つです。従来の定期訪問や電話による安否確認に加え、近年では地域住民やボランティアの力を活用した見守り活動が広がっています。
また、テクノロジーの進歩により、新しい形の見守りサービスも登場しています。IoT機器やAIを活用したシステムでは、高齢者の日常生活の様子を非侵襲的に把握し、異変があった場合に速やかに対応することが可能になっています。
例えば、電気やガスの使用状況、ドアの開閉などのデータを分析して、高齢者の生活リズムの変化を検知するシステムなどが導入されています。
高齢者の社会参加を促す取り組み
高齢者の社会参加を促す取り組みは、高齢者福祉の重要な柱の一つとなっています。高齢者の豊富な経験や知識を活かし、地域社会の活性化につなげる試みが各地で展開されています。
また、多くの自治体で、高齢者と若者が交流できる場の創出に力を入れています。例えば、世代間交流イベントの開催や、高齢者の知恵や技術を若い世代に伝承する講座の実施などです。これらの取り組みは、高齢者の孤立防止や生きがい創出に寄与するだけでなく、若い世代にとっても貴重な学びの機会となっています。
さらに、高齢者の就労支援も重要な取り組みの一つです。シルバー人材センターを通じた就業機会の提供や、高齢者の起業支援など、高齢者の経験や技能を活かせる場を創出することで、社会参加を促進しています。
自治体には、これらの取り組みを総合的に推進し、高齢者が生き生きと活躍できる地域社会の実現に向けて、さらなる努力が期待されています。
テクノロジーを活用した福祉サービスの導入
AIやIoT技術の進歩により、高齢者の見守りや健康管理を効率的に行う新しい取り組みが各地で始まっています。
例えば、センサー技術を活用した見守りシステムでは、高齢者の日常生活の動きを検知し、異常があった場合に即座に家族や介護施設に通知することが可能になりました。これにより、独居高齢者の安全確保や、緊急時の迅速な対応が実現しています。
また、ウェアラブルデバイスを用いた健康管理サービスも注目を集めています。血圧や心拍数、睡眠状態などのデータをリアルタイムで収集し、分析することで、高齢者の健康状態を継続的にモニタリングできます。これにより、疾病の早期発見や予防につながる可能性が高まっています。
自治体では、これらのテクノロジーを活用して、高齢者の生活の質を向上させるための新しいサービスを模索しています。
テクノロジーを活用した福祉サービスの導入は、高齢者福祉の新たな可能性を切り開くものですが、その導入に当たっては、高齢者一人ひとりのニーズや状況に応じた丁寧な対応が求められます。自治体には、テクノロジーの利点を最大限に活かしつつ、人間味のある温かいサービス提供を実現することが期待されています。
自治体の高齢者福祉への取り組み事例
自治体の高齢者福祉への取り組み事例は、地域の特性や課題に応じて多様な形で展開されています。ここでは、以下の自治体における先進的な事例を紹介し、高齢者福祉の充実に向けてどのような取り組みを行っているかを紹介します。
● 新潟県長岡市
● 鳥取県南部町
● 三重県四日市市
● 北海道滝川市
● 岡山県総社市
● 愛知県長久手市
● 広島県大崎上島町
これらの事例から、自治体の高齢者福祉への取り組みには、地域の特性を活かした創意工夫が不可欠であることがわかります。また、行政だけでなく、地域住民や民間事業者との連携が重要なポイントです。
今後は、さらなる高齢化の進展に備え、テクノロジーの活用や地域資源の再発見など、新たな視点を取り入れながら、持続可能な高齢者福祉の実現に向けた取り組みが求められるでしょう。
新潟県長岡市
長岡市の特徴的な取り組みの一つに、高齢者の助けになるサービスの充実があります。例えば、65歳以上のひとり暮らし高齢者等を対象に、見守りや安否確認を目的とした緊急通報システムを提供しています。
さらに、長岡市は地域包括ケアシステムの構築において、地域住民との連携を重視しています。老人福祉センターの機能を拡充し、子どもから大人まで幅広い世代が利用できる場所として整備を進めています。
これにより、高齢者の社会参加の機会を増やすとともに、世代間交流を促進し、地域全体で高齢者を支える体制づくりを目指しています。
また、市内の各圏域で高齢化率に差があることを踏まえ、それぞれの地域の実情に合わせたサービス提供を行っています。例えば、高齢化率の高い栃尾圏域では、より手厚い支援体制を整備するなど、地域ごとのニーズに応じた施策を展開しています。
鳥取県南部町
鳥取県南部町では、地域包括ケアシステムの構築に向けて、独自の「鳥取型地域生活支援システムモデル事業」を推進しています。
この事業の中核となるのが、「地域コミュニティホーム」の設置です。これは、独居高齢者や年金生活者の増加という地域課題に対応するため、高齢者の生活を総合的に支援する拠点として機能しています。地域コミュニティホームでは、LSA(ライフサポートアドバイザー)が中心となり、高齢者の生活支援のコーディネートを行っています。
南部町の特徴的な取り組みの一つに、医療・介護サービスと生活支援の連携があります。必要に応じて、共助の医療・介護サービスや、互助の配食・見守りサービスなどを提供し、高齢者の生活を多面的にサポートしています。また、地域交流スペースを設けることで、高齢者の社会参加と地域とのつながりを促進しています。
三重県四日市市
三重県四日市市の取り組みの一つに「四日市市見守り等活動に関する協定」があります。この協定は、地域の事業者と連携して高齢者の見守りを行うもので、高齢者の孤立防止や緊急時の迅速な対応を可能にしています。
また、四日市市は在宅福祉サービスの充実にも力を入れています。例えば、高齢者おむつ支援事業を実施し、要介護高齢者の経済的負担を軽減するとともに、在宅生活の継続を支援しています。
介護予防にも積極的に取り組んでおり、「健康長寿を応援する情報誌:フレあえル」を発行し、高齢者の健康維持と社会参加を促進しています。さらに、介護予防等拠点施設「ステップ四日市」を設置し、高齢者の介護予防と生きがいづくりを支援しています。
北海道滝川市
滝川市の特徴的な取り組みの一つに、「いきいき百歳サポーター」制度があります。これは、行政が養成したボランティアが中心となり、高齢者が住み慣れた地域でいつまでも活き活きと過ごせるよう支援する取り組みです。サポーターは、介護予防教室の運営や高齢者の見守りなど、地域に密着した活動を行っています。
また、滝川市では高齢者の生活支援にも力を入れています。例えば、上下水道料金の軽減制度を設けており、高齢者世帯の経済的負担を軽減しています。さらに、高齢者の安否確認と夕食配達を組み合わせたサービスも提供しており、独居高齢者の生活を支えています。
滝川市の特徴的な取り組みとして「高齢者お助けかわら版」の発行があります。これは、高齢者向けのサービスを提供する企業や団体の情報を掲載したものです。市は、この取り組みに参加する企業・団体を積極的に募集しており、官民連携による高齢者支援の充実を目指しています。
岡山県総社市
総社市の特徴的な取り組みの一つに、平成17年から始まった小地域ケア会議の設置があります。この会議は、各地区の民生委員児童委員協議会単位を基本に開催され、地域の高齢者に関する課題を把握し、解決策を検討する場となっています。この取り組みにより、地域の実情に応じたきめ細かな支援が可能となっています。
また、総社市では高齢者の日常生活支援にも力を入れています。高齢者支援ガイドを作成し、保健・福祉サービスに関する情報を分かりやすく提供しています。さらに、ショートステイや緊急通報装置事業、住宅改造費助成など、多様なサービスを展開し、高齢者の生活を多面的にサポートしています。
介護予防の分野では、総合事業を通じて効果的な取り組みを行っています。特に、災害時の対応と連携した総合事業の展開は注目に値します。総社市では、日頃の介護予防活動が災害時の支援にもつながるという視点で施策を展開しています。
愛知県長久手市
長久手市は、名古屋市に隣接する人口約6万人の都市で、高齢化率は比較的低いものの、今後の高齢化に備えた先進的な施策を実施しています。
長久手市の取り組みの一つに「ながくて地域スマイルポイント」制度があります。これは、高齢者の社会参加を促進するためのポイント制度で、市が主催する行事や福祉施設でのボランティア活動などにポイントを付与し、貯まったポイントを地域で使える商品券などと交換できるシステムです。
また、長久手市では高齢者の生活支援にも力を入れています。65歳以上の高齢者を対象に、様々なサポートサービスを提供しています。例えば、65歳以上のひとり暮らしや75歳以上のみの世帯を対象に、緊急通報システムの設置や配食サービスなどを行っています。これらのサービスにより、高齢者が安心して暮らせる環境づくりを進めています。
参考:厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に関する事例集」
参考:長久手市「ながくて地域スマイルポイント事業」
広島県大崎上島町
広島県大崎上島町は、瀬戸内海に浮かぶ人口約7,000人の島町です。令和5年時点で高齢化率が46.3%と非常に高く、高齢者福祉の取り組みが急務となっています。
大崎上島町では、高齢者の社会参加を促進するユニークな取り組みも行っています。例えば、高齢者が地域の子どもたちに昔遊びや伝統文化を教える「世代間交流事業」を実施しています。これにより、高齢者の生きがいづくりと子どもたちの郷土愛の醸成を同時に図っています。
大崎上島町の取り組みで特筆すべきは、島という地理的特性を活かした施策です。例えば、島内の豊かな自然環境を活用したウォーキングコースを整備し、高齢者の健康増進と観光振興を両立させています。また、島内の空き家を活用した高齢者向けの共同生活住宅の整備も進めており、高齢者の居住支援と地域活性化を同時に実現しようとしています。
参考:厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に関する事例集」
参考:大崎上島町「高齢者を取り巻く状況(介護保険事業計画)」
自治体における高齢者福祉の課題
自治体における高齢者福祉の課題は、急速な高齢化と人口減少を背景に、多岐にわたっています。これらの課題に対応し、持続可能な高齢者福祉を実現することが、自治体にとって喫緊の課題となっています。
そして、特に大きな課題として以下が挙げられます。
● 人材の不足
● 独居高齢者への支援
● 高齢者福祉サービスの質
● 財政的な制約
これらの課題に対応するため、自治体では様々な取り組みが行われています。今後は、さらなる高齢化の進展に備え、新たな視点での取り組みが必要です。
自治体には、これらの多様な課題に対応しつつ、持続可能な高齢者福祉の実現に向けて、創意工夫を凝らした取り組みを続けていくことが期待されています。
人材の不足
高齢者福祉における人材不足は、自治体が直面する最も深刻な課題の一つです。急速な高齢化に伴い介護需要が増大する一方で、介護職員の確保が追いついていない状況が続いています。この人材不足は、高齢者福祉サービスの質と量に大きな影響を及ぼしています。
また、人材不足は現場で働く介護職員の負担増加にもつながっています。過重労働や精神的ストレスの増加により、介護職員の離職率が上昇する悪循環に陥っています。
この課題に対応するため、自治体では様々な取り組みを実行中です。一つは、外国人労働者の活用です。EPA(経済連携協定)や技能実習制度を通じて、外国人介護人材の受け入れを進めています。しかし、言語の壁や文化の違いなど、新たな課題も浮上しています。
独居高齢者への支援
独居高齢者への支援は、急速な高齢化と核家族化が進む日本社会において、自治体が直面する重要な課題の一つとなっています。
見守りサービスは、独居高齢者支援の中核を担う取り組みです。多くの自治体で、地域包括支援センターや民生委員を中心とした見守り体制が構築されています。例えば、定期的な訪問や電話による安否確認、緊急通報システムの設置などが行われています。
一方で、自治体による独自の支援金や補助金の提供も進められていますが、その内容や規模には地域差があります。
また、高齢者が地域社会に参加しやすい環境づくりも重要な課題です。社会参加は高齢者の孤立防止や生きがい創出に寄与するため、多くの自治体が力を入れています。
高齢者福祉サービスの質
高齢者一人ひとりのニーズが多様化する中、画一的なサービス提供ではなく、個別のニーズに応じたきめ細かな対応が求められています。
高齢者の身体状況や生活環境、希望は千差万別であり、これらを的確に把握し、適切なサービスを提供することが必要です。例えば、認知症の程度や身体機能の状態に応じて、デイサービスの内容をカスタマイズしたり、在宅介護と施設介護を柔軟に組み合わせたりするなど、個々の状況に合わせたサービス設計が求められています。
また、高齢者が利用しやすい交通手段の確保も、サービスの質を左右する重要な要素です。特に、過疎地域や公共交通機関が十分でない地域では、高齢者の移動手段の確保が大きな課題となっています。
さらに、地域間のサービス格差の是正も重要な課題です。都市部と地方では、利用可能なサービスの種類や質に差があることが指摘されています。この格差を解消するため、ICTを活用した遠隔医療や介護サービスの導入、地域の特性を活かした独自のサービス開発など、創意工夫を凝らした取り組みが各地で始まっています。
財政的な制約
急速な高齢化の進展に伴い、医療や介護などの福祉費用が増大し、自治体の財政を圧迫しています。
総務省の統計によると、地方自治体の民生費(社会福祉、老人福祉、児童福祉などに要する経費)は年々増加傾向にあり、令和4年度には約30兆円に達しました。これは地方自治体の歳出総額の約4分の1を占めており、10年前と比較して約7兆円も増加しています。この増加の大部分は高齢者関連の支出によるものです。
このような状況下で、自治体は持続可能な福祉サービスの提供方法を模索する必要に迫られています。多くの自治体では、効率的な資源配分とコスト削減に取り組んでいますが、サービスの質を維持しながらコストを抑制することは容易ではありません。
また、財政的制約の問題は、単に予算を削減すれば解決するものではありません。高齢者の尊厳を守り、質の高いサービスを提供しつつ、いかに持続可能な制度を構築するかが、自治体に問われています。今後は、地域の特性を活かした創意工夫ある取り組みと、国との連携強化が一層重要になるでしょう。
持続可能な高齢者福祉を実現するために
高齢者人口の増加に伴い、福祉サービスの需要が高まる一方で、環境への負荷を最小限に抑える取り組みが求められています。
この課題に対応するため、自治体は従来の福祉政策に加えて、環境に配慮した新たな施策を展開しています。例えば、高齢者施設におけるエネルギー効率の改善や、再生可能エネルギーの導入などが進められています。これらの取り組みは、施設の運営コストを削減するだけでなく、環境負荷の低減にも貢献しています。
また、高齢者の社会参加を促進しながら、環境保護にも取り組む活動が注目されています。地域の清掃活動や緑化活動に高齢者が参加することで、環境保護と高齢者の生きがい創出を同時に実現する取り組みが広がっています。
持続可能な高齢者福祉の実現には、行政、民間企業、NPO、地域住民など、多様な主体の協働が不可欠です。自治体には、これらの主体をつなぎ、地域の特性を活かした創意工夫ある取り組みを推進することが求められています。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。