地方人口減少の原因と自治体が対策すべきこと!取り組み事例も紹介
2008年をピークに日本の人口は減少に転じており、多くの地方自治体では人口減少による影響が出ています。
しかし、地方の人口減少に歯止めをかけた自治体はそれほど多くありません。大部分の自治体が人口減少に頭を抱えているのが実情です。
そこで本記事では、地方人口が減少している原因やその影響、人口減少への対策や自治体事例を紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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日本における人口減少の推移と将来予測
日本の人口減少が加速度的に進んでいます。2024年11月時点での日本の総人口は約1億2,379万人で、前年同期と比べて56万人減少しました。この減少幅は、これまでの予測を上回るペースとなっています。
特に注目すべきは、年齢層別の人口構造の変化です。15歳未満の若年層人口は前年比で33万7千人という大幅な減少を記録しました。
国土交通省の推計によると、2050年までに日本の総人口は9,515万人程度まで減少すると予測されています。この減少傾向は地域によって大きな差があり、特に東北地方や中国地方での人口減少が顕著になると予想されています。
このような急激な人口構造の変化は、社会保障制度や地域経済に深刻な影響を及ぼしかねません。特に、生産年齢人口の減少は、地域の経済活動や税収に直接的な影響を与え、公共サービスの維持を困難にする可能性があります。
参考:総務省統計局「人口推計(2024年(令和6年)5月確定値、2024年(令和6年)11月概算値)」
参考:国土交通省「今後の社会・経済情勢の変化」」
データで見る地方の人口減少
地方における人口減少の実態は、地域によって大きな差が生じています。特に東北地方での人口減少は深刻な状況にあり、その影響は地域社会の様々な側面に及んでいます。
最新の人口推計データによると、2023年10月時点で人口増加を記録したのは東京都のみでした。東京都は0.34%の人口増加を示す一方で、他の道府県ではすべて人口が減少しています。特に東北地方の人口減少率は顕著で、秋田県では1.66%、青森県では1.75%もの人口減少が確認されました。
また、人口構造の変化も著しく、東北地方では65歳以上の高齢者比率が急速に上昇しています。今後、地域の担い手不足がさらに深刻化する可能性があります。
地方人口が減少している原因
地方の人口減少には、複数の要因が複雑に絡み合っており、それぞれの要因を解決していく施策が自治体には求められています。
地方人口が減っている要因として、主に以下が挙げられます。
● 少子化と出生率低下
● 高齢化社会と人口減少の悪循環
● 都市部への一極集中
● 経済的要因による地方離れ
● ライフスタイルの変化
● 進学による人口流出
また、地域コミュニティの希薄化も地方人口の減少に影響を与えています。従来の地縁・血縁による支え合いの機能が弱まり、若い世代にとって地方での生活の魅力が低下しています。
その他にも、娯楽施設や文化施設の不足といったことも、若者の流出を促す要因となっています。
少子化と出生率低下
日本の少子化は、予想を上回るペースで進行しています。この深刻な状況の背景には「出生率の低下」が少なからず影響しています。出生率が下がっている原因としては、結婚年齢の上昇と未婚率の増加が挙げられ、地方では若者の都市部への流出により、結婚適齢期の人口そのものが減少しています。
経済的な不安も大きな要因です。現在の収入では子育てに踏み切れないと感じる若者が増加しており、学費や教育費への不安が強い点も見逃せません。
さらに、育児支援の不足も深刻な問題です。都市部と比較して、地方では保育施設や子育て支援サービスが限られており、共働き世帯の増加に十分対応できていません。特に、待機児童問題や保育士不足は、若い世代の出産意欲を削ぐ要因となっています。
高齢化社会と人口減少の悪循環
地方では高齢化率が年々高くなってきており、すでに多くの地域で深刻な問題が発生しています。高齢者の増加に伴い死亡数も増加傾向にあり、出生数の低下と相まって自然減が加速しています。2024年の出生数は70万人を下回るとの見込みもあり、この傾向は特に地方部で顕著です。
働き手の不足も深刻な課題となっており、生産年齢人口(15-64歳)も年々減少しています。この減少は地域経済に大きな影響を与え、特に地方では事業継続が困難になるケースが増加しています。事業所の閉鎖や撤退は雇用機会の減少につながり、若者の流出をさらに加速させるでしょう。
さらに、公共サービスの維持も困難になっています。高齢化率が40%を超える地域では、医療・介護サービスの需要が増加する一方で、それを支える人材が不足しています。また、税収の減少により、インフラの維持管理や公共施設の運営にも支障が出始めています。
参考:長浜市「【令和6年11月13日】長浜の未来図と総合計画について」
都市部への一極集中
日本の人口移動は、依然として東京圏への一極集中が続いています。この背景には、若者にとって魅力的な就業機会や教育機関の集中などが挙げられます。また、多くの自治体が「良質な雇用機会の不足」を、人口流出の主な原因として挙げています。
特に深刻なのは、18~22歳の若年層の流出です。地方では大学などの高等教育機関が限られており、進学時に都市部へ移動せざるを得ない状況が続いています。さらに、就職時にも地方では専門性の高い職種や成長産業での雇用機会が少ないため、多くの若者が都市部での就職を選択しています。
この傾向は、政府の地方創生政策にもかかわらず改善の兆しが見えていません。2024年度に目標としていた東京圏と地方の転出入均衡は達成できず、目標年度を2027年度に先送りする事態となっています。
経済的要因による地方離れ
地方における経済的要因による人口流出は、複数の課題が重なり合って深刻化しています。地方圏の労働生産性は都市部と比較して著しく低く、特に中小企業が中心となる地域では、この傾向が顕著になっています。
また、地方経済が衰退していくことで地元での就業機会が減少し、これが若年層の流出を加速させています。
さらに、地域間の所得格差も人口流出を促進する重要な要因となっています。東京都の平均年収は地方と比較して高く、特に専門職や技術職での格差が顕著です。
公共投資の縮小も地域経済に深刻な影響を与えています。特に、インフラ整備や公共施設の維持管理費用の削減は、建設業や関連産業の衰退を招き、雇用機会のさらなる減少につながっています。この状況は、地域の経済循環を弱め、新規投資や起業の機会も減少させる結果となっています。
ライフスタイルの変化
現代社会におけるライフスタイルの多様化は、地方の人口動態に大きな影響を与えています。特に、若い世代において結婚や出産に対する価値観が大きく変化しています。
若年層の未婚女性の中には「一生結婚するつもりはない」と考える人の割合が増えてきており、従来の結婚・出産を前提としたライフプランから大きく変化したと言えるでしょう。
都市部と地方の生活環境の格差も、若者の地方離れを加速させる要因となっています。地方在住者の多くが都市部の利便性に魅力を感じており、柔軟な生活スタイルを可能にするインフラの存在が重視されています。
さらに、地域コミュニティの希薄化も深刻な問題です。かつての地方では、祭りや伝統行事を通じて世代間交流が活発でしたが、若者の流出により、そうした文化的つながりが失われつつあります。特に、SNSやオンラインコミュニティに慣れ親しんだ若い世代にとって、従来型の地域コミュニティは魅力的な選択肢とはなっていません。
進学による人口流出
大学進学時における若者の地方からの流出は、地方人口減少の重要な要因となっています。地方から都市部への進学による人口移動は依然として高い水準を維持しており、特に東京圏への一極集中が顕著です。
地方から大都市圏への大学進学時の流出は深刻な状況にあります。北関東・甲信越地方、四国地方などでは、多くの学生が地元を離れて進学しています。この流出の大半は東京圏や近畿圏といった大都市圏への進学であり、地方の人材流出に拍車をかけています。
さらに問題なのは、一度地方を離れた若者の多くが地元に戻らないという現象です。特に、専門性の高い職種や成長産業で働きたい学生にとっては、都市部での雇用機会は魅力的に写っています。
地方の人口減少が引き起こす問題
地方の人口減少がもたらす影響は、社会の様々な側面に及んでいます。特に深刻なのは、人口減少が地域社会の基盤を揺るがし、さらなる人口流出を引き起こす悪循環を生み出していることです。
地方の人口減少が引き起こす主な問題としては、以下が挙げられます。
● 生活関連サービスの縮小
● 交通難民の増加
● 共助機能の低下
● 防災・防犯リスク
● 行政サービスの低下
● 労働力不足と地域経済の縮小
● 医療・介護サービスへの負担増加
● 教育機関の統廃合
このように、地方人口が減少することで様々な問題が浮かび上がってきます。地方自治体には、地元の経済政策だけにとどまらず、近隣の自治体とも協力した人口減少問題への包括的な取り組みが求められるでしょう。
生活関連サービスの縮小
人口が減少している地域では、小売店や病院、金融機関などの生活関連サービスが撤退するケースが増加しており、深刻な課題の一つとなっています。
特に深刻なのは、医療・介護施設の撤退です。無医地区は全国の過疎地域で増加してきており、適切な医療を受けられないケースもあります。高齢化が進む地方では、医療・介護サービスへの需要が高まる一方で、施設の統廃合や閉鎖が進んでおり、住民の健康管理に深刻な影響を及ぼしています。
買い物環境の悪化も顕著です。いわゆる「食料品アクセス困難人口」は全国で約900万人に達すると推定され、その多くが地方在住の高齢者となっています。スーパーマーケットやドラッグストアなどの撤退により、日用品の購入にも支障をきたす地域が増加しています。
交通難民の増加
地方における交通難民の問題は、人口減少に伴ってますます深刻化しています。一般路線バス事業者の99.6%が赤字事業者となっており、特に地方部での公共交通の維持が困難になっています。
特に深刻なのは、高齢者や学生など自家用車を持たない住民への影響です。すでに、地方在住の高齢者の中には、通院や買い物などの日常生活に支障をきたしている人も多くいます。また、運転免許を返納した高齢者の増加に伴い、移動手段を失う住民が年々増加傾向にあります。
公共交通機関の縮小は、地域経済にも大きな影響を及ぼしています。商業施設や観光地へのアクセスが制限されることで、地域の経済活動が停滞し、さらなる人口流出を招く悪循環が生まれています。地方の観光地の中には、公共交通の減少により観光客数が減少し、地域経済への打撃となっているところもあります。
共助機能の低下
地域社会における共助機能の低下は、人口減少と高齢化の進行に伴ってますます深刻化しています。全国の町内会・自治会の加入率は年々低下を続け、地域活動の担い手不足が深刻な問題となっています。その結果、防災力や防犯力も低下しています。
地域の伝統行事や祭りの存続も危機に瀕しています。ここ数年は、地域行事が中止や規模縮小を余儀なくされました。これらの行事は単なる娯楽ではなく、地域の連帯感を育み、災害時の共助体制を強化する重要な機能を担ってきたため、その喪失は高齢者の社会的孤立を深刻化させる要因となっています。
自主防災組織の機能低下も顕著です。組織の高齢化が進み、災害時の避難支援や初期消火活動などの対応力が著しく低下しています。特に、災害時要援護者の把握や支援体制の構築が困難になっており、地域の防災力の低下が懸念されます。
防災・防犯リスク
人口減少に伴う空き家・空き店舗の増加は、地域の防災・防犯面で深刻な課題となっています。全国の空き家数は849万戸に達し、この20年間で約1.5倍に増加しました。特に、長期にわたって不在の「その他空き家」は349万戸と、約1.9倍に増加しています。
空き家の放置は、地域の防災力を著しく低下させています。管理されていない空き家は老朽化が進み、地震や台風などの自然災害時に倒壊するリスクが高くなるからです。また、放火などの火災リスクも増大し、密集市街地では延焼の危険性も高くなります。
空き家の増加は地域の治安悪化につながり、不法侵入や不法投棄の温床となるケースが増加しています。特に、所有者が遠方に居住している場合、適切な管理が行き届かず、問題が深刻化する傾向にあります。
さらに、空き地の管理コストも自治体の大きな負担となっています。雑草の繁茂や害虫の発生を防ぐための定期的な管理が必要ですが、所有者不明の土地も増加しており、自治体が代執行で対応せざるを得ないケースも増えています。
行政サービスの低下
人口減少は、地方自治体の財政基盤を大きく揺るがしています。生産年齢人口の減少により税収が減少する一方で、高齢化の進行に伴い社会保障費は増大を続けています。
地方の財政悪化により行政サービスの質も低下してきており、住民の満足度も下がっているのが実情です。また、多くの自治体で公共施設や学校の統廃合が進められており、住民の利便性も低下しつつあります。
インフラ整備や施設の老朽化対策も大きな課題となっています。全国の公共施設の多くが建設から30年以上経過しており、今後10年間で更新が必要とされる施設が急増する見込みです。しかし、財政難により十分な対策が取れない自治体が増加しています。
さらに、行政サービスの担い手不足も深刻化しています。地方公務員の採用試験の受験者数は減少傾向にあり、特に専門職の確保が困難になっています。デジタル化による業務効率化を進める自治体も増えていますが、システム導入・運用コストの負担が新たな課題となっています。
労働力不足と地域経済の縮小
特に農業分野での人手不足は深刻です。農業就業人口の平均年齢は68歳を超え、後継者不足により耕作放棄地が増加しています。製造業においても、地方の工場では人材確保が困難となり、工場の縮小や閉鎖を余儀なくされるケースが増加しています。
中小企業の事業承継問題も深刻化しています。地方には後継者が決まっていない中小企業も多く存在しており、その多くが黒字企業にもかかわらず、事業継続の危機に直面しています。特に地方では、若者の都市部への流出により、家業の継承者が見つからないケースが増加しています。
この状況は地域経済の縮小を加速させています。事業所の閉鎖や撤退により雇用機会が減少し、それがさらなる人口流出を招く悪循環に陥っています。
医療・介護サービスへの負担増加
地方では高齢化率の上昇に伴って、医療・介護サービスへの需要は増加しているものの、看護師や介護士などの人材確保が困難になってきています。
特に過疎地域での医療・介護体制の維持が困難です。医師がいない無医地区も増えてきており、さらに介護職員も少ないことから介護サービスの縮小や撤退が進み、高齢者の医療・介護へのアクセスがさらに困難になっています。
老々介護の問題も深刻です。65歳以上の介護者が介護を担うケースが増加しており、地方では若い世代の流出により、高齢者世帯が孤立するケースが目立ちます。また、独居高齢者も増加傾向にあり、緊急時の対応や日常的な見守りの体制構築が課題となっています。
教育機関の統廃合
人口減少に伴う教育機関の統廃合は、地域社会に深刻な影響を及ぼしています。全国で公立小中学校が閉校または統合されており、この傾向は今後さらに加速すると予測されています。
特に深刻なのは、統廃合による通学距離の延長です。統廃合後の通学時間が1時間を超える事例も報告されており、特に冬季の通学や低学年の児童にとって大きな負担となっています。スクールバスの導入で対応する自治体も多いものの、運行本数の制限により、放課後活動への参加が制限されるなどの課題が生じています。
さらに、教育の質への影響も懸念されています。小規模校のメリットであった少人数教育や地域に根ざした教育活動が失われる一方で、統合後の学校でも教職員の確保が困難になるなど、新たな課題も発生しています。
このような教育環境の悪化は、若年層家庭の地方移住への意欲を削ぐ一因となっているだけでなく、さらに若者層の流出を加速させるでしょう。
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地方人口減少への対策
地方の人口減少に歯止めをかけるには、自治体主導による様々な対策が必要です。画一的な対策も必要ですが、時には自治体独自のアイデアを織り交ぜた取り組みが重要になるでしょう。
ここでは、まず基本的な対策として、以下の項目を取り上げます。
● テレワークの普及による移住促進策
● 観光促進と定住支援
● 移住者向け住宅支援策
● 新産業誘致と雇用創出
● スマートシティ化
さらに、自治体には地域の特性を活かした独自の施策展開も求められています。例えば、地域資源を活用した産業振興や、教育を通じた人材育成など、地域の将来を見据えた取り組みが重要となっています。
テレワークの普及による移住促進策
テレワークの普及は、地方移住の新たな可能性を開いており、各自治体は積極的な支援策を展開しています。
2024年度からは、地方移住支援制度が大幅に拡充されました。テレワークで働きながら移住する世帯に対して、単身で最大60万円、世帯で最大100万円の支援金が支給されます。さらに、18歳未満の子ども一人につき最大100万円が加算される新制度も開始され、子育て世帯の地方移住を後押ししています。
自治体側の受け入れ体制も充実してきています。例えば、徳島県神山町では、高速通信網の整備や共有オフィススペースの設置により、テレワーカーの移住が増加しています。また、長野県軽井沢町では、企業と連携してワーケーション施設を整備し、段階的な移住促進を図っています。
特に注目すべきは、企業との連携による移住支援です。大手企業を中心に、従業員の地方移住を支援する制度を導入する企業が増加しています。例えば、引っ越し費用の補助や、地方でのサテライトオフィス設置など、具体的な支援策を展開しています。
参考:内閣府「移住支援金」
参考:総務省「ICTによる地方創生の成功事例(徳島県神山町モデル) 首都圏のICTベンチャー系企業等」
参考:長野県「信州リゾートテレワークのご案内」
観光促進と定住支援
地域の魅力を活かした観光振興と定住促進の取り組みが、全国各地で新たな展開を見せています。特に注目されているのが、地域固有の資源を活用したブランディング戦略です。
成功事例として知られる島根県海士町では、「ないものはない」という逆説的なキャッチフレーズで地域の魅力を再定義し、観光客だけでなく、UIターン者の定住率も増加させています。
熊本県の「くまモン」は、地域ブランディングの代表的な成功例で、その経済効果は観光業だけでなく地域全体に波及しています。地域住民との協働による取り組みで、地元企業との商品開発や地域イベントの開催により、地域の一体感を醸成しています。
さらに、地域の伝統産業と現代のニーズを組み合わせた取り組みも注目を集めています。伝統工芸の技術を活かした新商品開発や、古民家を改装したワーケーション施設の整備など、地域の特色を活かしながら新たな価値を創造する試みが広がっています。
移住者向け住宅支援策
地方自治体による移住者向けの住宅支援策が、新たな段階に入っています。従来の空き家活用に加えて、より包括的な支援制度が展開されており、特に若者や子育て世代の移住を促進する取り組みが強化されています。
空き家をリノベーションして提供したり、空き家バンク制度や補助金制度を活用したりして、若者や子育て世代の定住を促進する自治体が増えてきています。
こういった取り組みの特徴は、これらの支援策が単なる住宅提供にとどまらず、地域コミュニティの活性化にも配慮している点です。例えば、自治会への加入を条件とする自治体や、地域活動への参加を促進するプログラムを併設している事例も増えています。
新産業誘致と雇用創出
地方における新産業誘致と雇用創出の取り組みとして、デジタル技術を活用した産業の誘致が活発化しており、地域経済の活性化と若年層の定着に大きな成果を上げています。
徳島県神山町では、2010年以降に多くのIT企業がサテライトオフィスを開設し、新規雇用を創出しました。特筆すべきは、単なる企業誘致にとどまらず、地域全体でデジタル人材の育成に取り組んでいる点です。地元の高校でプログラミング教育を実施し、地域内でのキャリア形成を可能にする環境を整備しています。
また、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)センターの誘致も活発化しています。地方のコスト優位性を活かしつつ、テレワークを組み合わせることで、都市部企業のバックオフィス機能を受け入れる動きが広がっています。これにより、事務職を中心とした多様な雇用機会が生まれています。
スマートシティ化
地方自治体では人口減少対策の重要な施策として、デジタル技術を活用した公共サービスの効率化や生活インフラの最適化が進められています。こうしたスマートシティ化の動きが全国に広まりつつあります。
農業分野でも革新的な取り組みが始まっています。ドローンやAIを活用したスマート農業の導入、気象データやセンサー情報を活用した精密農業など、新技術を活用した農業です。
教育分野では、オンライン教育プラットフォームを構築し、地理的な制約を超えた学習機会の提供を実現している自治体もあります。また、教育データの分析により、個々の生徒に適した学習支援も可能になっています。
さらに、デジタル田園都市国家構想の一環として、地域間でのデータ連携も進んでいます。複数の自治体が協力してデータプラットフォームを構築し、行政サービスの広域連携や災害対策の強化を図る取り組みも始まっています。
地方自治体の人口減少に対する取り組み事例
全国の地方自治体では、人口減少対策として様々な革新的な取り組みを展開しています。また、これらの取り組みを参考にすることで、良いアイデアを生むきっかけになるかもしれません。
ここでは、特に注目される事例をいくつかご紹介します。
● 長崎県小値賀町
● 島根県隠岐島前
● 石川県加賀市
● 北海道上士幌町
これらの事例に共通するのは、地域の特性を活かしながら、新しい視点で課題解決に取り組んでいる点です。また、単なる人口増加策ではなく、地域の持続可能性を高める総合的なアプローチを採用していることも特徴といえます。
長崎県小値賀町
長崎県五島列島の北端に位置する小値賀町は、人口約2,200人の小規模自治体ながら、独自の観光戦略により地域活性化に成功している注目すべき事例です。
同町では、リゾート開発に頼らず、島の自然や暮らしをそのまま観光資源として活用する戦略を採用しました。特に効果を上げているのが、「暮らすように旅をする」をコンセプトにした民泊事業と古民家活用プロジェクトです。
民泊事業では、地域住民が主体となって観光客を受け入れ、農業や漁業などの日常的な生活体験を提供しています。この取り組みは、米国の高校生を受け入れる国際親善大使派遣プログラムで2年連続世界一の評価を獲得するなど、国際的にも高い評価を得ています。
また、築100年以上の古民家をリノベーションした一棟貸しの宿泊施設も人気を集めています。現在6棟が整備され、日本の伝統的な建築美を保ちながら現代的な快適さを提供することで、新たな観光客層の開拓に成功しました。
特筆すべきは、これらの取り組みが単なる観光振興にとどまらず、移住促進にも効果を上げている点です。観光事業の成功により全国的な知名度が向上し、メディアでの露出が増えたことで、若者を中心としたIターン者が増加しています。さらに、地域の価値を再認識したUターン者の増加にもつながっています。
島根県隠岐島前
島根県隠岐諸島の島前地域では、教育を軸とした地域活性化の取り組みが注目を集めています。海士町、西ノ島町、知夫村の3町村で構成される同地域では、かつて人口減少により地域唯一の高校である隠岐島前高校が統廃合の危機に直面していました。
しかし、島前地域で始動した「隠岐島前教育魅力化プロジェクト」により、状況は大きく変化しました。同プロジェクトでは、地域に根ざしたキャリア教育「地域創造コース」を新設し、地域課題の解決に取り組む実践的な教育プログラムを展開しています。
特筆すべきは、地域と高校が連携した「隠岐國学習センター」の設立です。この公営塾では、生徒の自主的な学習をサポートするだけでなく、個々の生徒のキャリア設計も支援しています。現在では、放課後の学習拠点として重要な役割を果たしています。
このような取り組みの結果、離島ではめずらしい人口の社会増が実現し、教育やまちづくりの先進事例として全国から注目を集めています。
石川県加賀市
石川県加賀市は、人口減少対策として先進的なスマートシティ化を推進している注目すべき事例です。同市は金沢市以南の石川県内で唯一「消滅可能性都市」に該当したことを契機に、従来型の地域振興策から大きく舵を切り、先端技術の導入による地域活性化を進めています。
特筆すべきは、「人材育成」と「新技術の導入」を二本柱とした包括的なアプローチです。人材育成面では、全国に先駆けて市内全ての小中学校でプログラミング教育を開始し、次世代の産業人材の育成に注力しています。また、「加賀ロボレーブ大会」の開催など、実践的な学びの場も提供しています。
新技術導入においては、「加賀市イノベーションセンター」を設立し、レーザー加工機や3Dプリンターなどを備えた「ものづくりラボ」を整備しました。
加賀市の事例は、先端技術の活用により、人口減少に直面する地方都市が新たな発展の可能性を切り開けることを示しています。
北海道上士幌町
北海道上士幌町は、人口約5,000人の小規模自治体ながら、包括的な子育て支援策と移住促進策により、人口減少に歯止めをかけることに成功している注目すべき事例です。
同町の特徴は、子育て世代に選ばれるまちを目指し、出産から就学までの切れ目のない支援体制を構築している点です。具体的には、18歳までの医療費完全無料化、認定こども園の保育料無償化、さらに第2子以降の出産時に100万円を支給する「子育て支援金制度」などを実施しています。
移住支援においても革新的な取り組みを展開しています。町独自の上士幌町版ハローワーク「上士幌町無料職業紹介所」を設置し、移住希望者の就職支援をワンストップで提供。また、移住体験住宅を整備し、実際の生活を体験できる機会を提供することで、ミスマッチを防ぐ工夫も行っています。
さらに、移住者の定着率も高く、移住前の丁寧な相談対応と、移住後のフォローアップ体制の充実によるものと評価されています。
人口減少社会における自治体の役割
人口減少社会において、地方自治体の役割は大きく変化しています。従来の行政サービス提供者としての役割に加え、地域の持続可能性を確保するための新たな取り組みが求められています。
特に重要なのが、自治体間の広域連携です。各自治体が連携することにより、医療、公共交通、廃棄物処理などの行政サービスを効率的に提供し、単独では維持が困難なサービスの継続を実現しています。
また、定住自立圏構想も進展しており、中心市と周辺市町村が協定を結び、生活機能の確保や地域活性化に取り組んでいます。例えば、医療機関の共同運営や図書館ネットワークの構築など、具体的な成果が表れています。
住民参加型のまちづくりも重要な課題です。自治体の中には、住民やNPO、地域企業との協働による「地域運営組織」の設立を支援しているところもあります。これらの組織は、地域の課題解決や生活支援サービスの提供など、行政の補完的役割を担っています。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。