地方創生がなぜ必要か?推進目標や自治体の取り組み事例も紹介
近年、日本では「人口減少」や「東京一極集中」といった問題が、様々なメディアで取り立たされています。
こういった問題を解決するために、地方自治体による地方創生の取り組みはとても重要です。しかし、効果的な取り組みができている自治体はそれほど多くありません。
そこで本記事では、地方創生が必要な理由、地方創生に活かしたいポイント、地方創生の目標や自治体事例などを解説します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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地方創生とは
地方創生は、各地域が持つ独自の特性や資源を最大限に活用し、持続可能な社会を実現するための国家戦略です。2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が制定され、本格的な取り組みが開始されました。この政策は、深刻化する人口減少や東京一極集中という課題に対応し、地域社会の活力を維持・向上させることを目指しています。
地方創生の特徴は、従来の地域振興策とは異なり、各地域が主体的に取り組むことを重視している点です。国は基本的な方針を示し、財政的・制度的な支援を行いますが、具体的な施策は地域の実情に応じて地方自治体が立案・実行します。これにより、画一的な対策ではなく、地域固有の課題に即した解決策を見出すことが可能となります。
近年の取り組みでは、デジタル技術の活用が重要な要素となっています。自治体DXの推進や地方創生テレワークの拡大など、テクノロジーを活用した地域活性化策が本格化しています。
地域活性化との違い
地方創生と地域活性化は、一見似たような取り組みに思えますが、その目的や範囲、アプローチ方法に明確な違いがあります。
地方創生の主な目的は、深刻化する人口減少問題への対応と東京圏への一極集中の是正にあります。一方、地域活性化は、より小規模で具体的な取り組みを指します。各地域が持つ固有の資源や特性を活かし、地域経済の振興や文化の継承、コミュニティの活性化を図ることが主な目的です。
両者の関係性を理解する上で重要なのは、地方創生が「政策」であるのに対し、地域活性化は「状態」を表す概念だという点です。つまり、地方創生という政策を通じて、結果として地域が活性化するという関係性にあります。実際、成功している地方創生の事例では、地域活性化の要素を効果的に組み込んでいることが多く見られます。
また、予算規模や実施主体にも違いがあります。地方創生は国からの交付金や補助金を活用した大規模なプロジェクトが多いのに対し、地域活性化は地域住民や地元企業が主体となって、比較的小規模な予算で実施される取り組みが中心です。
地方創生がなぜ必要とされているか?
日本の地方は、かつてない危機に直面しています。総務省が発表した2023年の住民基本台帳人口移動報告によると、東京都への転入超過数は68,285人に達し、地方から都市部への人口流出が依然として続いています。
このような状況の中、主に以下の理由により地方創生が必要とされています。
● 人口減少と少子高齢化による地方の衰退
● 東京一極集中による地方への悪影響
これらの問題を放置しておくと、地方の経済基盤を脆弱化させ、地域社会の存続すら危ぶまれる事態を引き起こす可能性が限りなく高まります。
人口減少と高齢化が進む中、地方の活力を取り戻し、新たな価値を創造することは、日本全体の競争力維持のためにも不可欠です。
人口減少と少子高齢化による地方の衰退
日本の人口減少と少子高齢化は、特に地方において深刻な課題となっています。日本の総人口は2008年のピーク以降、減少に転じました。そして、地方では若年層の都市部への流出に歯止めがかからず、地方の人口減少は加速しています。
こういった状況は、地域経済に深刻な影響を及ぼしています。労働力人口の減少により、地域の基幹産業である農林水産業や製造業での人手不足が深刻化し、事業の継続が困難になるケースも見逃せません。また、消費人口の減少は地域の商店街やサービス業の衰退を加速させ、地域経済の縮小スパイラルを引き起こしています。
さらに、人口減少は自治体の財政基盤も脆弱化させています。生産年齢人口の減少による税収減と、高齢化に伴う社会保障費の増大により、多くの地方自治体が財政的な課題に直面しています。これにより、公共サービスの維持が困難になり、地域住民の生活基盤にも影響が及んでいます。
このような状況に対応するため、地方自治体にとって地方創生は不可欠な取り組みと言えるでしょう。
東京一極集中による地方への悪影響
東京一極集中の問題は、近年さらに深刻化しています。この現象が地方に及ぼす影響は多岐にわたりますが、最も深刻なのは、若年層の流出による地域経済の衰退です。若者の流出は、地域の労働力不足を引き起こし、地元企業の事業継続を困難にしています。
さらに、人材流出は地域コミュニティの崩壊にも直結します。地域の伝統行事や文化の担い手が減少し、長年培われてきた地域の絆が徐々に失われつつあります。加えて、空き家の増加や耕作放棄地の拡大など、地域の景観や環境にも大きな影響を及ぼしています。
一方で、東京圏への人口集中は、都市部にも深刻な課題をもたらしています。住宅価格の高騰や通勤ラッシュの激化、保育所不足など、生活環境の質の低下が問題となっています。また、首都直下型地震などの災害リスクを考えると、過度な一極集中は国家の危機管理の観点からも望ましくありません。
このような状況に対し、地方における魅力的な雇用機会の創出や、生活インフラの整備、さらには地域独自の価値創造が不可欠です。
地方創生に活かしたいポイント
地方創生を効果的に推進するためには、地域の特性を活かしながら、持続可能な発展モデルを構築することが重要です。
以下は、地方創生に活かしたいポイントの代表例になります。
● 地域資源の可能性
● デジタル技術やリモートワークの普及
● 官民連携による持続可能な地域づくり
● 地方創生SDGsの推進
● 短期施策からの脱却
このように、地方創生の成功には、複数の要素を組み合わせた総合的なアプローチが重要です。これらの取り組みを複合的に実施しながら、地域が自立した発展をしていけるような支援が必要となるでしょう。
地域資源の可能性
地域資源の活用は、地方創生における重要な戦略の一つです。各地域が持つ固有の自然、文化、産業、人材などの資源を効果的に活用することで、持続可能な地域発展を実現できます。
地域資源を観光コンテンツとして活用する新しい動きも出てきています。青森県田舎館村では、農業という地域資源を「田んぼアート」として芸術的に昇華させ、年間32万人以上の観光客を集める観光地となりました。このように、既存の資源に新しい価値を付加することで、地域の魅力を高めることが可能です。
地域資源の活用においては、地域住民の参画も重要な要素です。地域住民が主体的に参画することで、より効果的な地域資源の活用が可能となります。
また、持続可能なビジネスモデルとして、地域資源を活かした地元産業の振興も求められるでしょう。
参考:国土交通省「「田んぼアート」を活用した新たなイベント企画や特産品開発、将来的な民泊 の仕組みづくり等を支援し、田舎館村観光の活性化を図る」
デジタル技術やリモートワークの普及
デジタル技術とリモートワークの普及は、地方創生における新たな可能性を切り開いています。特に、情報産業に関連する企業が集中している東京都では、在宅勤務やテレワークの普及が進んでいます。こうした働き方の変化は、都市部から地方への移住促進が現実的になってきていると言えるでしょう。
徳島県神山町のIT企業誘致は好例です。高速通信インフラの整備と積極的な企業誘致策により、これまでに多くのIT企業がサテライトオフィスを開設し、さらに新規雇用を創出しました。この成功は、デジタルインフラの整備が地方創生の重要な基盤となることを示しています。
また、地域産業のデジタル化も進んでいます。農業分野では、IoTやAIを活用したスマート農業の導入が進み、生産性の向上と若手農業者の増加につながっています。
このように、デジタル技術とリモートワークの普及は、地方創生に新たな可能性をもたらしています。ただし、その効果を最大限に引き出すためには、デジタルインフラの整備だけでなく、地域住民のデジタルリテラシー向上や、地域特性に合わせた活用戦略の策定が重要です。
官民連携による持続可能な地域づくり
地方創生を実現する上で、官民連携(Public Private Partnership:PPP)は重要な推進力となっています。自治体と民間企業が協力することで、新しいビジネスモデルの創出や雇用機会の創出が可能です。
成功事例として注目されているのが、千葉県鋸南町の「保田小学校」プロジェクトです。廃校となった小学校を道の駅として再生し、地域の交流拠点に変貌させました。この事例は、公共施設の有効活用と民間のノウハウ融合による新たな価値創造のモデルケースとなっています。
地域の課題を解決していくには、外部からの知見や投資も不可欠です。地元企業だけに限らず、多種多様なステークホルダーとの連携が求められています。
地方創生SDGsの推進
地方創生とSDGsの連携は、持続可能な地域社会の実現に向けた重要な戦略として注目を集めています。近年、SDGsに取り組む自治体が増加しており、特に地方部での取り組みが活発化しています。
SDGs未来都市に選定された自治体の成功事例からは、環境・社会・経済の三側面での統合的な取り組みが地域の価値創造につながることが明らかになっています。例えば、岐阜県美濃市では、古民家の再生プロジェクトを通じて、伝統的な町並みの保全と観光振興、地域コミュニティの活性化を同時に実現し、年間観光客数が増加しました。
このように、地方創生SDGsの推進は、地域の持続可能性を高めるだけでなく、新たな価値創造や国際競争力の向上にもつながる重要な施策となっています。今後は、デジタル技術の活用やグリーン成長戦略との連携により、さらなる発展が期待されます。
短期施策からの脱却
地方創生において、一時的な人口増加や経済効果を狙った短期的な施策だけでは、真の地域活性化は実現できません。持続可能な地域社会を実現するためには、10年、20年先を見据えた中長期的な視点が不可欠です。
また、従来の定住人口増加策だけでなく「関係人口」や「交流人口」の創出も重要です。関係人口や交流人口の多い地域ほど、将来的な移住者増加や地域経済の活性化につながる傾向があります。
さらに、各地域の特性を活かした独自の発展モデルの構築も重要です。画一的な施策ではなく、地域資源や歴史、文化、産業構造などを踏まえた戦略的アプローチが求められます。地方創生の成功には、短期的な成果を追うのではなく、地域の特性を活かした長期的なビジョンと、それを実現するための段階的な施策展開が不可欠です。
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地方創生の目標
地方創生は、単なる地域振興策ではなく、日本の持続可能な発展のための重要な国家戦略として位置づけられています。特に、以下の「ヒューマン」「デジタル」「クリーン」の3つの視点を重点に据えた取り組みが展開されています。
● ヒューマン:地方への新しい人の流れを創出することが目標
● デジタル:地域のDXを推進し、行政サービスの効率化と住民サービスの向上が目標
● クリーン:2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、地方が主導
これらの取り組みを通じて、最終的には3つの大きな目標達成を目指しています。
第一に、地域経済の活性化です。地域の特性を活かした産業振興や、新たな雇用創出により、地域の経済基盤を強化します。
第二に、人口流入の促進です。若者や子育て世代の移住支援、関係人口の創出により、持続可能な地域社会の形成を目指します。
第三に、生活環境の向上です。医療・福祉サービスの充実や、教育環境の整備により、誰もが安心して暮らせる地域づくりを進めます。
参考:内閣官房「まち・ひと・しごと創生基本方針 2021」
参考:内閣官房「まち・ひと・しごと創生基本方針2021について」
地域経済の活性化と雇用創出
地域経済の活性化と雇用創出は、地方創生における最重要課題の一つです。中でも注目すべきは、地域固有の資源を活用した産業振興です。地元の資源を活用して観光業や農林水産業を振興することで、地域経済の活性化を図ることが求められます。
それと同時に、地元企業の成長を支援したり、新規ビジネスを創出したりすることで、地域内での雇用機会を増やす取り組みも大切です。
外部からの投資や企業を積極的に誘致したり、リモートワークが可能なデジタル環境を整備したりなど、都市部の人たちが地方に移住しやすくなるような施策も期待されています。
地域経済の活性化と雇用創出には、地域資源の活用、デジタル技術の導入、地域金融機関との連携など、複合的なアプローチが必要です。
地方への新しい人の流れをつくる:移住・定住促進
地方への新しい人の流れを創出することは、地方創生における重要な課題です。移住促進の中核となるのが、Uターン(出身地への移住)、Iターン(出身地以外への移住)、Jターン(出身地近くへの移住)を支援する施策です。
現在、移住支援金の支給要件が緩和され、テレワーカーも対象に加わりました。これにより、都市部の企業に勤務したまま地方で暮らすという新しいライフスタイルが実現可能になっています。
子育て世代の移住促進も重要な施策です。移住希望者の多くは、子育て環境を重視しているという調査もあり、各地域では保育所の整備や教育環境の充実、住宅支援などを積極的に展開しています。
さらに、企業の地方移転やサテライトオフィスの誘致も、新たな人材流入を生み出す原動力となっています。令和6年度の税制改正では、地方拠点強化税制が令和8年3月31日まで延長され、内容も拡充されるため、より多くの企業が地方への進出を検討するようになると期待されています。
結婚・出産・子育ての希望をかなえる環境づくり
地方創生の重要な柱の一つとして、若い世代が安心して結婚し、子どもを産み育てられる環境の整備が挙げられます。少子高齢化が進む日本において、特に地方では人口減少が深刻な問題となっており、子育て世代を呼び込み、定住を促進することが地域の持続可能性を高める上で不可欠です。
2023年には、合計特殊出生率が過去最低の「1.20」を記録しており、この状況を改善するためには、結婚・出産・子育てに関する包括的な支援策が必要です。
子育て支援の基盤となる保育所や学校などの教育インフラの整備も急務です。それとともに、子育て世代向けの住宅支援も重要な施策となります。若い家族への経済的支援は、子育て世帯の負担を軽減し、地方への移住を後押しする効果があります。
また、地域全体で子育てを支える仕組みづくりも不可欠です。子育ての悩み相談や一時預かりなどのサービスを提供する取り組みは、核家族化が進む中で孤立しがちな子育て世帯を支える重要な役割を果たすでしょう。
さらに、働き方改革によるワークライフバランスの向上も、子育て環境の改善に大きく寄与します。島根県では、県内企業に対して「しまね子育て応援企業」認定制度を設け、育児休業の取得促進や柔軟な勤務体制の導入を奨励しています。
多様な人材が活躍できる地域社会の実現
地方創生の成功には、多様な人材の活躍が不可欠です。特に、女性、高齢者、外国人など、多様な人材が活躍できる「職場環境の整備」と「社会参加の促進」が求められます。様々な人たちが活躍できる場があれば、新しいアイデアやイノベーションにもつながります。
また、副業・兼業人材の活用も新たな可能性を広げています。都市部に多くいる専門的な知識やスキルを持つ人たちを、積極的に受け入れることで地方創生への力となるでしょう。長野県飯山市では、都市部の専門人材を週末だけ招聘し、地域企業のマーケティング支援や商品開発に携わってもらう取り組みを実施しています。
地元企業とのマッチング支援や、スキルアップ研修、デジタルスキル研修、リーダーシップ開発プログラムなど、体系的な育成システムの構築も重要な取り組みです。
デジタル技術とDXによる地方創生
自治体のDX推進は、地方創生における重要な取り組みです。DX推進により、行政サービスの効率化、コストの削減、住民サービス向上などが実現できます。特に、行政サービスをデジタル化するだけでも、住民の利便性が大幅に向上し、行政コストも大きく削減できるでしょう。
また、スマートシティの取り組みも全国で展開されています。会津若松市では、デジタル技術を活用したヘルスケアシステムや環境モニタリング、スマート農業などを統合的に推進し、持続可能な都市モデルを構築しています。この取り組みにより、エネルギー消費の削減や、農業生産性の向上を達成しました。
デジタル技術を活用できる環境を整えることで、リモートワークやオンライン教育など、新しい働き方・学び方が地方でも可能になり、都市部から地方への移住促進につながるでしょう。
地域産業のデジタル化を促進することで、より一層の効率化・高度化を達成することができ、さらなる生産性向上や新規ビジネスの創出にもつながります。
グリーン成長戦略:脱炭素社会への貢献
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、地方創生における脱炭素化の取り組みが加速しています。地方部は都市部と比較して再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが高く、地方が脱炭素社会実現の主役となることが期待されています。
特に注目すべきは、再生可能エネルギー事業を通じた地域経済の活性化です。洋上風力発電、地域の森林資源を活用したバイオマス発電など、エネルギーの地産地消も進められています。
環境保護活動と観光資源開発を両立させた「エコツーリズム」も、地方創生を後押しする取り組みとして注目されています。この取り組みにより、環境に配慮した観光地としてのブランド価値を高めつつ、インバウンド需要の増加にもつながるでしょう。
官民連携による地方創生推進
官民連携は、地域創生においても重要な役割を持ち、新しいビジネスモデル構築や公共サービス改善には欠かせません。地域自治体には、官民連携による地方創生の推進が求められています。
例えば、千葉県鋸南町の廃校を再利用したケースなどが、官民連携の成功事例として取り上げられます。その他にも、民間企業との協働プロジェクトを進めている自治体も多くあり、地方においても官民連携が促進されていると言えるでしょう。
また、民間企業の誘致だけでなく、市民団体との連携によって地域課題の解決に取り組むケースも増えてきています。
資金調達面でも官民連携は重要な役割を果たしており、さらに、クラウドファンディングやふるさと納税の活用など、新たな資金調達手法も広がりを見せています。
地方創生の自治体取り組み事例
地方創生における自治体の取り組みは、官民連携を軸に新たな展開を見せています。自治体の中には、地域課題の解決と経済活性化を両立させる革新的なアプローチをしている事例もあります。
ここでは、以下6つの自治体が実施している地方創生の取り組みを紹介します。
● 静岡県西伊豆町
● 群馬県前橋市
● 岩手県八幡平市
● 島根県海士町
● 兵庫県加西市
● 富山県富山市
このような事例から、地域資源の活用、デジタル技術の導入、市民参画の促進、多様な資金調達など、複合的なアプローチの重要性が見えてきます。各自治体が地域の特性を活かしながら、持続可能な地域づくりを進めていくことが求められています。
静岡県西伊豆町
静岡県西伊豆町では、人口減少と地域経済の活性化という課題に対して、地域資源を活かした独自の地方創生の取り組みを展開しています。
2005年の「平成の大合併」以降、人口減少が進み、かつて主力だった観光産業も衰退傾向にある中、町は地域の特性を活かした新たな取り組みを開始しました。
特徴的な施策が「ツッテ西伊豆」プロジェクトです。これは、釣り船での漁業体験と地域通貨を組み合わせた画期的な観光プログラムで、観光客が釣った魚を地元市場で買い取り、その対価を地域通貨として発行します。この通貨は町内の飲食店や宿泊施設で使用できる仕組みを構築しました。
また、2020年には地元出身者が中心となって「株式会社西伊豆プロジェクト」を設立。行政と民間が連携し、地域の課題解決に取り組んでいます。
群馬県前橋市
群馬県前橋市は、赤城山を観光資源として活用したサイクルツーリズムを展開しています。この取り組みの特徴は、赤城山周辺の複数の地方公共団体との広域連携によって進められている点です。
DMO赤城自然塾を主体に、サイクルツーリズムの対象区域を拡大し、複数の地方公共団体や民間事業者等、地域の関係者が連携してサイクルツーリズムに取り組むことで、サイクリストを中心とした観光誘客による交流人口の増加と、観光消費の拡大による地域経済の活性化を図っています。
具体的な成果として、観光入込数は507千人(目標20千人)、サイクリングガイドの養成人数は6人(目標6人)、多機能ポータルサイトアクセス数は259,804回(目標37,500回)、e-bikeのレンタル台数は40台(目標20台)と、いずれも目標を達成または大きく上回る実績を上げています。
岩手県八幡平市
岩手県八幡平市は、遠隔診療と見守りのDX基盤構築による持続可能な地域づくり事業を展開しています。この事業は、医療アクセスの確保と高齢者の見守りという地域課題の解決を目指しています。
具体的には、遠隔診療システムを導入し、医療機関への通院が困難な患者に対して医療アクセスを確保しています。2021年度のKPIでは、遠隔診療によって医療アクセスを確保できた患者数が目標の10人を達成しました。
また、高齢者の見守りについては、遠隔での見守りシステムを構築し、参加者の80%を無事に見守ることに成功しています。これは当初の目標60%を大きく上回る成果となっています。
さらに、この事業では地域のICT人材育成にも注力しており、育成した人材からプロジェクトへの参画を促進しています。2021年度は目標通り2人の人材がプロジェクトに参画し、地域のデジタル人材の確保にも貢献しています。
島根県海士町
島根県海士町は、地域に関する様々なデータを一元管理して見える化できるシステムとして、「海士町版RESAS」を2021年8月にリリースしました。このシステムは、地区別人口の割合や転出転入者の推移及び要因など、地域に関する情報に焦点を絞り、町の情報を深掘りして分かりやすく視覚化された情報に誰でもアクセスできるようになっています。
海士町版RESASは、人口、教育、産業、医療・介護・福祉をテーマとして扱い、データに基づいて効果的かつ戦略的に事業を進めることを可能にしています。テーマごとに分析グラフを用いて海士町の特徴を深堀し、課題の特定に役立てることができます。
具体的な活用事例として、子ども議会での政策提言に活用されており、小学6年生が海士町の地区別人口構成などの現状を理解するためのツールとして使われています。また、介護施設の業務量可視化による解決策の検討や、地域の高齢者ケアについての議論の場でも活用されています。
兵庫県加⻄市
兵庫県加西市では、ポストコロナ時代における新しい働き方を推進するため、「加西市産業活性化センター」を拠点とした取り組みを展開しています。このセンターは、地域の中小企業や起業家に対して実践的なビジネス支援を提供する拠点として機能しています。
主な取り組みとして、以下が挙げられます。
● 新しい働き方の拠点整備として、コワーキングスペースやテレワークスペースを設置し、リモートワークやワーケーションの環境を整備
● 起業・創業支援として、相談窓口の設置や各種セミナーの開催、ビジネスマッチング支援などを実施
● デジタル技術の活用支援として、中小企業のDX推進やICT活用をサポート
● 人材育成支援として、地域の若手人材や女性起業家向けの研修プログラムを提供
これらの取り組みにより、地域における新しい働き方の普及と、地域経済の活性化を目指しています。特に、コロナ禍を契機としたテレワークの普及に対応し、地方での新しい働き方のモデルケースとなることを目指しています。
富山県富山市
富山市は、コンパクトシティ政策を基盤としながら、デジタル技術やデータの活用により市民生活の質と利便性の向上を目指す「富山市版スマートシティ」を推進しています。2022年11月には「富山市スマートシティ推進ビジョン」を策定し、産学官民の連携による地域課題の解決を図っています。
以下3つのシステムを利活用して事業を展開しました。
● 富山市センサーネットワーク
● 富山市ライフライン共通プラットフォーム
● 富山市オープンデータサイト
2021年度のKPIでは、スマートシティ関連事業創出数、センサーネットワーク活用事業数、ライフライン共通プラットフォーム活用事業数のいずれも目標を達成。デジタル技術を活用した持続可能な都市づくりのモデルケースとして注目を集めています。
地方創生には情報発信が重要
地方創生の成功には、効果的な情報発信が不可欠です。特に、SNSやウェブサイトなどのデジタルツールを活用しながら、ターゲット層へアプローチすることが重要です。
また、地域の特性に合わせた戦略的な情報発信が求められます。何を目的として、誰に対して情報を届けるか、これらを明確にしてから発信しましょう。そうすることで、ターゲットに効率良く情報を届けられます。成功したケースは積極的に共有し、次の情報発信に生かしていきましょう。
デジタルマーケティングの観点からは、ターゲット層に応じた情報発信チャネルの使い分けも重要です。若年層向けにはSNS、中高年層向けにはWebサイトやメールマガジン、海外向けには多言語対応のコンテンツなど、きめ細かな対応が求められます。
このように、地方創生における情報発信は、単なる広報活動ではなく、戦略的なコミュニケーション施策として位置づけられています。今後は、メタバースやAIなど最新技術も活用しながら、より効果的な情報発信の手法を確立していくことが重要です。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。