人手不足時代の効率化が鍵。
自治体インフラ維持管理の新潮流とは
はじめに
自治体が管理する道路や上下水道、公園などのインフラは、地域住民の生活を支える基盤です。特に日本各地では、これらのインフラを安定的に維持管理することが、住民の安心と安全を守るうえで重要とされています。
しかし、少子高齢化の進行や財政制約、労働力不足などにより、自治体のインフラ維持管理体制は大きな転換期を迎えています。本記事では、自治体インフラ維持管理の現状と新しい管理手法、さらに具体的な事例を整理し、今後の方向性を探ります。
自治体インフラ維持管理の現状と課題
社会インフラ老朽化の進行
1960年代から70年代にかけて集中的に整備された道路や橋梁、トンネルなどの社会インフラは、建設から数十年が経過し、老朽化が深刻な問題となっています。特に橋梁では、50年以上経過した橋が急増し、安全確保のための維持管理に膨大なコストと手間がかかるようになりました。
近畿地方整備局管内では、2024年時点で建設後50年以上経過した橋梁が全体の約44%、2034年には約67%に拡大すると見込まれています(参照*1)。
建設当時の耐久性を上回る利用が続くケースも多く、適切な点検や補修を怠ると、突発的な崩落事故につながるリスクがあります。また、老朽化は災害時のリスクを増幅させる要因ともなっています。過去の大規模地震や豪雨の際には、橋やトンネルの損壊が交通や物流に甚大な影響を及ぼし、復旧費用も増大しました。
インフラの長寿命化や予防保全は、住民の生活を守る観点からも重要です。2013年には「社会資本メンテナンス元年」が宣言され、2014年度からは道路管理者に5年に1度の定期点検が義務付けられるなど、政策的な対応も進められています。
人口減少と財政制約の課題
日本では急速な少子高齢化による人口減少が進み、特に地方でその影響が顕著です。人口減少によりインフラ利用が減少しても、自治体が維持管理に要するコストは大きく変わらず、財政を圧迫する要因となっています。
高度経済成長期にはGDPの10%相当の公共投資が行われ、高速道路や橋梁が大量に整備されましたが、現在は税収の伸び悩みや公債費の増加により、インフラ更新に十分な予算を確保しにくい状況です(参照*2)。その結果、計画的な更新や修繕が遅れ、事後補修が増える悪循環につながっています。
予算不足により、上下水道管の耐用年数超過が増え、水道管や下水管の大規模漏水事故の危険性も指摘されています。学校や公民館などの公共施設では統廃合や集約化が進められ、この流れはインフラ全般にも広がっています。
機能を維持しつつ数量を減らす、広域で再編する、民間施設と共用化するなど、多角的な発想で支出を抑制しなければ、将来的に社会インフラ全体の維持が難しくなる恐れがあります。
技術職員不足と体制の脆弱化
インフラの点検や補修工事には専門的な知識や経験が必要ですが、近年は自治体職員全体の削減もあり、建設や土木の技術職員不足が深刻化しています。特に地方自治体では、少人数の職員が多くのインフラを担当し、点検や修繕計画の策定、発注業務まで担う必要があります(参照*3)。
水道や下水道分野では、耐用年数を超えた管路が増加しているにもかかわらず、建設業者の担い手不足や設計価格と実際のコストの乖離から入札不調が増えています。
職員の削減が長期化すると、次世代技術者の育成や研修機会が減り、組織的なノウハウが蓄積されにくくなります。上下水道などの高度な専門知識は、OJTや長期的な経験で身につくものであり、短期間で補うのは困難です。委託先企業の監督や設備の劣化状況を見極める能力も一朝一夕には身につきません。
事故リスクと住民生活への影響
老朽化や管理体制の不備による道路や橋の陥没事故は、住民の移動や生活基盤に大きな影響を及ぼします。2026年現在も、過去には老朽化した道路の破損による陥没事故が各地で発生し、トラックの転落など大きな被害が報道されています(参照*4)。大都市部では下水道や配管の破損が原因となる事故も増加しており、事故後の通行止めや復旧工事による生活や経済の混乱が指摘されています。
道路以外でも老朽化の影響は広範囲に及びます。上下水道や公園施設が安全に利用できなくなると、地域の魅力や住民サービスの水準が低下し、若年世代の流出につながる恐れもあります。大規模事故が発生すると、自治体の財政的ダメージやインフラ再編にかかる負担が増大し、将来世代の負担も重くなります。
自治体インフラ維持管理の新潮流
1.予防保全型維持管理への転換
従来は不具合が発生してから対応する事後保全型が中心でしたが、これでは修繕費用やリスク対応のコストが高くなりがちです。近年注目されているのが、定期的かつ計画的に修繕を行う予防保全型のアプローチです。国土交通省も予防保全型維持管理を中長期的なコスト削減につながる方法として推奨しています(参照*5)。事前に点検や修繕を行うことで、大規模な故障や事故を未然に防ぎ、結果として大掛かりな更新費用を抑えることが可能です。
2.官民連携と新たな事業スキーム
財政制約が強まる中、インフラ整備や維持管理では官民連携の拡大が重要です。自治体が単独で施設を維持するのが困難になりつつあるため、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)やPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)の活用が進んでいます。
特に近年注目されているのがPFS(成果連動型民間委託契約方式)で、明確な目標を設定し、その達成度合いに応じて支払い額が変動する契約方式です。福祉や医療分野での導入が進んでいますが、維持管理分野でも民間事業者のイノベーションを引き出す手法として注目されています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によれば、自治体の中には施設・インフラ維持管理分野でPFSを活用したいと考えるところが多く、(参照*6)具体的には、橋梁の点検や道路の補修などで、一定期間内に「修繕箇所をどこまで健全化できたか」といった成果指標を設け、達成度に応じて成果報酬を支払うスキームが考えられます。
さらに、自治体だけでインフラを維持管理することが難しい場合、官民が出資した特別目的会社(SPC)などを設立し、事業運営を委ねる方法があります。岩手県矢巾町では水道事業の経営戦略を定め、単独運営だけでなく官民出資型の体制を選択肢に加えることを検討しました。民間企業から技術者を起用し、複数自治体が共同で業務を委託することで人材確保とコスト抑制を両立する狙いがあります(参照*7)。
秋田県では、人口減少や担い手不足に対応するため、県・市町村と民間が出資する官民出資会社を設立し、生活排水処理事業等について、自治体の権限を維持したまま、技術・経営面の業務を広域で補完し、管理基準の統一化や情報の一元化を進めています(参照*8)。
3.デジタル技術とDX推進の方向性
国土交通省は地方自治体が新技術導入を検討する際の手引きを整備し、効率的かつ効果的なメンテナンスの実現を支援しており(参照*9)、自治体の人手不足を補い、維持管理の精度を高めるためには、ドローンや各種センサーを活用したデジタル技術の導入が期待されています。
例えば遠隔点検やAI分析は、従来の目視点検よりも広範囲を迅速にカバーでき、危険箇所の把握やデータ蓄積による劣化予測にも効果があります。世界銀行の取り組みでも、日本の事例を取り上げて都市インフラの点検やデータ活用を進めるために官民連携や予防保全型アプローチの有効性が議論されています(参照*10)。
神奈川県ではAIを用いて道路の損傷を検出するシステムが導入され、スマートフォンのカメラで撮影した路面画像を自動解析しています(参照*11)。これにより職員の目視確認の手間を大幅に削減し、損傷状況を地図上で一覧化することで補修の優先度も直感的に把握できるようになりました。
デジタル技術のもう一つのメリットは、収集した画像やセンサーデータを蓄積・分析することで、将来的な劣化予測やコストシミュレーションが可能になる点です。小さな亀裂や段差から事故リスクを評価し、早めに修繕計画を実行することで、大きな災害や予想外の出費を防ぐことができます。
実際、ドローンは、橋梁の下面やトンネルの天井など、人や車両で点検しにくい場所を短時間で調査できる利点があります。赤外線カメラや3Dスキャン機能を搭載すれば、ひび割れの深度や構造の変形も詳細に把握できます。
4.広域連携と地域インフラ群マネジメント
自治体ごとの財政や人材に余裕がない中、複数の自治体が共同でインフラを整備・維持する広域連携は重要な選択肢です。国土交通省は、道路や公園、下水道など多岐にわたるインフラを市町村の枠を超えてまとめて民間委託するモデル事業を支援しており、2023年には3~5カ所程度の地域を選び広域連携の計画策定などをサポートすることを決めました(参照*12)。これにより業務の集約効果やコスト削減が期待され、技術や人材を広域でプールしやすくなります。
複数の自治体が連携し、広域的に鉄道や道路、上下水道などを一括管理する取り組みも進んでいます。国土交通省の資料によると、人口減少と人手不足により今後はインフラ維持が困難となるエリアが増える中、複数の自治体や民間事業者がまとめて投資を行い、管理コストを減らす工夫が重要視されています(参照*13)。
道路補修では、区間を越えた包括的な再舗装計画を立てることで、資材発注や工事期間の調整がしやすくなります。単独で事業を行うよりもコストダウンや期間短縮につながるケースが多く、今後は共同処理制度のさらなる活用や新たな広域管理組織の設立など、多角的な団体間連携が求められます。
インフラ維持管理では、道路や橋、水道管など複数の部署が個別に管理していることが多く、情報共有の遅れが修繕計画に影響します。そこで注目されているのが、膨大なインフラデータを一元管理し、関連部門間で容易に参照・更新できる仕組みです。
総務省は広域でのインフラメンテナンスに関する共同実施モデルの構築を支援しており、データ造成や分析の集約化によって人材不足を補う役割も期待されています(参照*14)。
データ一元管理の利点は、設備ごとの点検周期や修繕履歴、コスト計算を一括で把握できる点です。視覚的なダッシュボードを使い、橋梁や上下水道の劣化度合いを比較しながら優先度を決定できれば、効率的な投資判断や予算確保にも役立ちます。
5.住民参加と共助の仕組み
近年は住民が地域インフラの不具合を通報したり、地域ボランティアが点検を行うなど、住民参加型の維持管理にも注目が集まっています。世界的には住民の声を行政に迅速に反映させる仕組みが整った都市事例があります(参照*15)。
例えば、地域住民の協力を得てインフラ維持管理を充実させる取り組みとして、スマートフォンアプリを用いた通報制度や市民参加型の巡回点検が挙げられます。国土交通省の官民連携プロジェクトでも、住民が橋梁や道路の状態把握に協力し、異常を発見した際はアプリなどを通じて写真付きで報告できるシステムが検討されています(参照*16)。
また、新潟県三条市では、道路・公園・水路の巡回や補修を一括で民間業者に委託し、住民からの苦情や要望も業者へ直接連絡できる仕組みとしました(参照*17)。職員数の減少や地元建設事業者の担い手不足の課題を解消すると同時に、業者はまとまった作業量を受注できるメリットがあり、双方にとって良好な結果が生まれています。この取り組みでは、自治体担当者が現場に行く回数が減り、補修時期や手法の調整も合理的に進められるようになりました。
住民が主体的に維持管理に参加することでインフラへの愛着が生まれ、地域コミュニティの活性化にもつながります。報告内容を分析した結果、深刻な不具合ではないものの、予防保全として早期補修を行うことで長期的な費用削減につながる例もあります。
さらに、橋やトンネルなどの防災上重要な設備について、自治体職員だけでなく地域住民や民間社員が連携して点検・補修方針を検討する組織が各地で生まれています。山口県では職員らが先進的な維持管理手法を共有し合うネットワーク組織を立ち上げ、橋の老朽化を防ぐための新技術や修繕事例の勉強会を開催しています(参照*18)。
おわりに
今後、自治体が抱えるインフラ維持管理の課題はさらに深刻化することが予想されます。老朽化や財政、技術者不足などの要因を総合的に捉え、早急かつ継続的に対策を講じなければ、地域の基本的なサービスすら維持できなくなる可能性もあります。
一方で、官民連携やデジタル技術、住民参加など多様な手法を組み合わせることで、維持管理の効率化と住民満足の向上は十分に実現可能です。地域の特性に合わせた手段を着実に検討・実行していくことが、これからの自治体インフラ維持管理における新潮流といえるでしょう。
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参照
(*1) インフラメンテナンスの重要性|国土交通省近畿地方整備局 近畿道路メンテナンスセンター
(*2) 一般社団法人 日本経済団体連合会 / Keidanren – インフラ老朽化の現状と対策 (2023年4月13日 No.3587)
(*3) 老朽化が進む水道インフラ 深刻化する人手不足 適正な価格転嫁が必要
(*4) 東洋経済オンライン – 「インフラ更新が心配」な街ランキング・南関東編
(*5) 野村総合研究所(NRI) – 社会インフラの「予防保全型」維持管理――転換への3つの課題
(*6) https://www.murc.jp/library/column/sn_231116
(*7) 「広域的・包括的・複合的なインフラ管理」による官民連携の新しいカタチ(前編)
(*8) https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/77003
(*9) 国土交通省 – 報道発表資料:地方自治体に向けた維持管理への新技術導入の手引き(案)を作成しました<br>~インフラ維持管理業務に新技術導入を検討している地方自治体職員の方々、ご一読ください~
(*10) World Bank – 都市インフラ管理への革新的アプローチ~日本の経験とグローバルな展開
(*11) 地域社会DXナビ – 路面損傷の画像をAIが大量学習中。道路管理を大幅効率化へ
(*12) 新建ハウジング – インフラ管理、複数自治体で 人材不足対応へモデル事業
(*13) ツギノジダイ – インフラ分野の担い手不足対策 需要者側の協力事例を国土交通白書が紹介
(*14) 総務省 – 総務省|報道資料|広域連携による市町村事務の共同実施モデル構築事業に関する提案募集
(*15) PwC – 「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第32回:住民参加型の地域インフラの維持管理
(*16) 令和7年度 民間提案型官民連携モデリング事業 シーズ一覧|PPP
