なぜ進まない?
地方行政における自治体DXの課題と、その解決策。
はじめに
地方行政の現場では、「自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)」が急速に注目を集めています。住民サービスの質を維持しつつ、限られた人員や予算の中で効率的に行政運営を進めるためには、デジタル技術を活用した抜本的な変革が求められています。
本記事では、自治体DXがなぜ進みにくいのか、その背景や主な課題を整理し、成功に向けた戦略や先進事例を分かりやすく解説します。
自治体DXが進まない主な要因
制度・予算と調達プロセスの制約
多くの自治体では、独自の制度や調達プロセスがDX推進の大きな障壁となっています。補助金や交付金の申請には複雑な手続きが必要で、限られた職員体制の中で膨大な事務作業をこなすのは困難です。
そのため、新規DXプロジェクトに十分な時間や資金を割けず、既存業務の維持が優先されがちです。
また、財務規定や入札ルールが細かく定められており、最新技術やソリューションの迅速な導入が難しく、重要性は認識されていてもスピード感を持った着手が難しい状況です。
実際、企業と比べて自治体のDX投資規模は小さく、テックタッチ株式会社の調査では、予算制約がIT人材不足と並びDX推進の主要課題であるとする回答が多く、「民間より遅れている」と感じている担当者が約4割に上ったと報告されています(参照*1)。
また、デジタル田園都市国家構想交付金(デジ田)の利用状況を見ると、人口規模が大きい自治体ほど積極的に活用が進んでいる一方、小規模自治体では実際の活用率が低く、複雑な手続きやプロジェクト企画力の不足が障壁となっていることが明らかになっています(参照*2)。
IT人材・デジタルスキルの不足
自治体DXを推進するには、高度なIT知識や実務経験を持つ人材が不可欠です。しかし、多くの自治体では専門IT部門の人員が限られており、3~4年ごとの人事異動によってノウハウが断絶するケースが多発しています。
前述したテックタッチ株式会社の調査でも、IT人材確保の難しさや人事異動によるノウハウ継承の課題が大きく、ITリテラシー格差や教育機会の不足が指摘されています(参照*1)。
新卒採用でIT人材を獲得したり、外部から専門家を呼び込むにも財政面や制度面の制約がつきまといます。また、総務省の調査によれば、DXや情報化のための都道府県での職員育成実施率は100%ですが、市区町村では75.3%にとどまり、自治体ごとに取り組みの格差があることも分かっています(参照*3)。
組織文化とエンゲージメントの課題
自治体組織には、前例踏襲や慣例依存の文化が根強く残っています。そのため、新たなシステム導入を試みても「従来どおりが安全」と考え、DX推進より現状維持が優先される傾向があります。
現場職員は通常業務で手一杯なことが多く、新しい仕組みに適応する余裕が生まれにくい点も課題です。業務が増えることでストレスやモチベーション低下につながるリスクも指摘されています(参照*4)。
アナログ業務プロセスと縦割り組織の課題
セキュリティ・インフラ環境の制約
自治体は住民の個人情報を多く扱うため、セキュリティ要件が厳しく、クラウドサービスやSaaSの導入をためらうケースが多いとされています(参照*1)。庁内ネットワークの厳格な運用ポリシーやインターネット接続の制限など、セキュリティ強化は不可欠ですが、不便さからシステムが活用されない事態も報告されています。
また、インフラ環境の整備状況は自治体間で大きな差があります。大都市圏ではクラウド化や基幹システム更新が進んでいる一方、地方の小規模自治体ではITインフラが十分整っておらず、導入までに時間がかかるケースもあります。
小規模自治体と地域格差の課題
人口規模が小さい自治体は、財政基盤や人員確保が難しく、ITベンダーや支援機関との連携も限定的になりがちです。そのため、国や外部パートナーが提供する制度や補助金を十分に活用できず、地域間のDX推進格差が拡大する傾向があります。デジタル田園都市国家構想交付金においても、小規模自治体ほど交付金の活用率が低く、申請手続きの複雑さやプロジェクト企画力の不足が障壁となっています(参照*2)。
さらに、高齢化率が高い地域では職員や住民のデジタルリテラシー格差が深刻で、紙文化の廃止やオンライン申請の導入にも反対意見が根強く残っています。若手のIT人材が都市部へ流出する現状では、地域でDX推進体制を維持することが一層難しくなります。
自治体DX成功のためのポイント
DXの目的・ビジョンと「Why」の共有
自治体DXを推進する際は、「何を導入するか」だけでなく「なぜ導入するのか」を明確に共有することが重要です。組織上の理由だけでなく、職員一人ひとりが自分の業務や住民サービスにどう関わるのかを理解できるよう、具体的な動機付けまで丁寧に伝える必要があります(参照*6)。
抽象的な理念やメリットだけでなく、成功事例や業務の具体的な変化を示し、「紙書類の処理時間が半減する」「住民の問い合わせ対応が円滑になる」など、分かりやすい指標を提示することがポイントです。こうした「Why」の共有が、DXを単なる掛け声で終わらせない第一歩となります。
トップマネジメントと責任者・推進リーダーの体制設計
中長期的な改革を進めるには、自治体全体の方向性を示すトップマネジメントの存在が不可欠です。首長や部長クラスがDXを戦略の柱と位置付け、推進責任者としてプロジェクト全体を牽引することで、組織全体がDXを日常業務として取り組みやすくなります(参照*6)。
責任者だけでなく、現場に精通した推進リーダーを複数設置し、現場職員の意見を吸い上げてシステムの使いやすさや業務フローの改善に反映させる体制が重要です。人事異動があってもリーダー層が機能し続けるよう、交代や引き継ぎのプロセスを制度化することも求められます。推進リーダー制度を整備し、庁内全体で連携することで、DXの成果を着実に積み重ねることができます。
DX人材の確保・育成とリスキリング戦略
全庁横断の業務プロセス改革と標準化の推進
従来のアナログ業務を根本から見直し、紙処理の廃止を進めることはDX実現の大前提です。自治体ごとに縦割りされたシステム環境を一体化し、データ活用のプラットフォームを構築することで、行政手続や住民情報の共有が円滑になります。政府も自治体情報システムの標準化・共通化とオンライン手続きの拡大を推進しており、各自治体ではその方針と連動してシステム導入の効率化や運用コスト削減が期待されています(参照*8)。
全庁横断的なプロセス改革を進めるには、部門間の合意形成やシステム連携の調整など課題も多いですが、デジタル基盤を整備することでマイナンバーカードの普及や窓口業務の簡素化など多くの波及効果が得られます。関係者が全庁で目標を共有し、新しいプロセスへの移行を段階的かつ計画的に進めることが重要です。
住民視点のサービスデザインとデータ活用の推進
DXの究極の目標は、住民にとって利便性が高く利用しやすい行政サービスを提供することです。窓口に来庁しなくてもオンラインで手続きが完結できる仕組みや、高齢者にも配慮した直感的な操作性の導入など、幅広い世代が行政手続きをスムーズに行える環境づくりが求められます(参照*9)。
サービスごとに必要なデータを分析・活用し、住民ニーズを的確に把握する仕組みが不可欠です。問い合わせや申請内容のデータを集積し、混雑傾向や高齢者向けサポートのニーズを分析してサービス導線を最適化するなど、デジタル技術を住民に押し付けるのではなく、自然に恩恵を受けられる設計がポイントです。
外部パートナー・国の支援と共同化の活用
自治体内部のリソースだけでDXを完結させるのは困難なため、外部の専門家やコンサルティング企業の知見を活用するケースが増えています。新システムやクラウドサービスの選定・導入設計、職員研修など、知識とノウハウが必要な場面では外部パートナーとの協業が効果的です(参照*5)。
また、国も総務省やデジタル庁を中心に自治体DXを支援する施策を展開しています。交付金の柔軟な利用やシステム標準化ガイドラインの策定など、自治体が取り組みやすい環境整備が進んでいます。これらの支援策を積極的に活用し、複数自治体が連携して共同調達や情報共有を行うことで、効率的な導入が可能となります。
成功事例から学ぶ自治体DXの実践
窓口業務と行政手続きのDX事例
北海道北見市では、2011年に税務部門で「書かないワンストップ窓口」を導入し、住民異動や戸籍届など多岐にわたる手続きを一括処理できる体制を構築しました(参照*10)。この仕組みは全国の自治体にも広がり、著作権利用料が市の財源となるなど財政面でも効果を上げています。
従来は紙書類中心で、住所変更や税関係の届出で何度も同じ情報を記載する必要がありましたが、一元化により手戻り作業が減り、住民・職員双方の負担が大きく軽減されました。
デジタル庁が推進する「書かない、待たない、回らない、ワンストップ窓口」のビジョンとも合致し、住民サービスの利便性向上と職員の業務負荷軽減が両立されています(参照*11)。
住民コミュニケーションと情報発信のDX事例
ガバナンスとDX人材育成の先進事例
埼玉県上里町では、首長をトップとする「行政改革推進本部」を設置し、各課から選出されたDX推進リーダーを集めた「DX推進リーダーワーキンググループ」で現場課題の共有や具体策の検討を行っています(参照*6)。管理職だけでなく、若手や中堅職員が主体的に動く体制が特徴です。
都道府県単位で職員研修を100%実施している自治体では、デジタル担当部門を中心に組織横断の教育プランを構築し、職員が業務を行いながらスキルアップできる仕組みを整えています。こうした継続的な学習機会の提供により、自治体全体のデジタル素養向上と業務改革への積極性が高まっています。
小規模自治体と地域特性を活かしたDX事例
おわりに
自治体DXの推進には、人材不足や組織文化、縦割り構造など多様な課題が存在しますが、国の後押しや社会的要請も強まり、実際に取り組みを加速させている自治体も増えています。
組織全体で「なぜDXを進めるのか」を共有し、リーダーを中心に職員一人ひとりが納得感を持って取り組むことが、DX推進のカギとなります。本記事が自治体で働く皆さまの参考となり、より多くの成功事例が生まれる一助となれば幸いです。
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全国から自治体関係者が来場する日本最大の展示会
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参照
(*1) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 【自治体職員、毎日3時間のシステム操作】約4割が「民間よりDX推進が遅れている」と実感、人事異動とIT格差がボトルネックに
(*3) AIS | 一般社団法人 行政情報システム研究所 – 2023年8月号 トピックス 自治体におけるDX人材確保・育成に向けた取り組み
(*4) 庁内DX意識・実態調査サービス(サービス)|一般社団法人 自治体DX推進協議会
(*5) 自治体DX推進のポイントとは|コラム|デジタル・DXの戦略・実装情報サイト|タナベコンサルティング
(*6) ITmedia ビジネスオンライン – 責任者がいない、現場の職員が動かない──自治体DXを阻む、2つの「症例」
(*7) 一般社団法人 オープンガバメント・コンソーシアム – (3).デジタル人材分科会
(*8) NTTデータ関西公式オウンドメディア – 18の事例で探る、自治体のDX推進で何がどう変わる?
(*9) https://digital.go.jp/policies/cs-dx
(*10) 一般社団法人デジタル地方創生推進機構 – 自治体DXの鍵はアナログな業務改革にあり――北見市「書かないワンストップ窓口」
(*11) 日本テレワーク協会 – 大分県日田市|日本テレワーク協会
(*12) デジタル庁ニュース – 自治体DXニュース:Vol.11(2025年5月)|デジタル庁ニュース
(*13) 地域社会DXナビ – 市の各種情報、次々と音声付きに。簡単音声化サービスが活躍
(*14) 一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 – 日本DX大賞2024 受賞者発表、132エントリーから選ばれた優れた取り組みを表彰日本DX大賞2024 受賞者発表
