ゼロカーボンシティを目指す自治体の事例まとめ
~脱炭素施策の具体例と進め方~



はじめに

ゼロカーボンシティとは、温室効果ガスの排出を減らしつつ、森林などに吸収される量を増やすことで、排出量を実質ゼロにすることを目指す取り組みです。

この記事では、
・ゼロカーボンシティとは何か
・自治体の事例
・進め方のポイント
を紹介します。



ゼロカーボンシティとは何か


ゼロカーボンシティの定義

環境省によると、ゼロカーボンシティとは「2050年までにCO₂排出を実質ゼロにする」目標を掲げ、その実現に向けて取り組むことを公に宣言した自治体のことです(参照*1)。

重要なのは、ゼロカーボンシティは、「単独の施策名」を表す語ではなく、自治体が庁内外を巻き込みながら脱炭素を進めるための「ゴール設定の表明」である点です。「太陽光パネルを増やす」「EVの促進」といった個別の施策そのものではなく、それらを含めて地域全体で脱炭素を進めるための共通ゴールを宣言する枠組みです(参照*1)。

したがって、「実質ゼロ」の意味を押さえたうえで、自治体として取り組む内容を具体化し、計画と事業に落とし込むことが必要です。


実質排出量ゼロとは?

環境省によると、「実質排出量ゼロ(ネットゼロ)」とは、CO2など温室効果ガスの人為的な排出量と、森林等の吸収源による除去量の間で、温室効果ガスの排出量をゼロにすることです(参照*2)。

まず優先されることは、省エネや再エネへの転換、交通や建築物の改善などによって排出そのものをできるだけ減らすことです。そのうえで、どうしても残るガスの排出を、森林やCO₂回収などによって吸収、除去を行い、全体としての排出量をゼロに近づけていきます(参照*3)。


自治体が取り組むべき範囲

自治体は、
・庁内で完結できる取り組み
・地域全体で行う取り組み
両方を扱う必要があります(参照*4)。

庁内の取り組みにおいては、庁舎・学校など公共施設の省エネ/再エネ、上下水道や廃棄物処理などの自治体サービスなど、自治体自身の活動に伴う排出の削減を目指します(参照*4)。

地域全体においては、住民・事業者の取組も含めて排出の削減を進める必要があります。再エネ導入促進、省エネ等の排出抑制、公共交通・緑地などの整備改善、循環型社会の形成のための施策が求められます(参照*4)。

ゼロカーボンシティを達成するためには、公共施設だけでなく、地域の協力も得ながら、全体での排出量を抑える取り組みが必要になります(参照*4)。


ゼロカーボンシティを目指す自治体の取り組み事例


■交通・モビリティの脱炭素

広島県広島市、福岡県福岡市の事例

交通におけるガスの排出量は重要な課題です。
路線バスの脱炭素化や、次世代燃料の実装など、住民の移動を支えながら排出削減を考えることが必要です。

広島市では「バス・プラットフォーム」でEV大型路線バスを導入し、2026年2月から市内中心部を循環する路線などで運行を開始する予定です。車両導入に加えて、営業所に急速充電器を整備するなど、運行に必要なインフラまで一体で整える点が特徴です(参照*5)。

また福岡市は、水素の需要創出に向けて行政が率先して燃料電池(FC)モビリティの導入を進める方針を掲げ、企業・大学等と連携した協議会を通じて水素ステーションの共同運営や需要開拓に取り組むことを示しています(参照*6)。


■公共施設におけるPPAを活用した脱炭素

神奈川県川崎市、京都府京都市の事例

自治体にとって早期に成果を出しやすいのが、保有・管理している庁舎や学校などの公共施設です。
そして、PPAとは、自治体が太陽光パネルを買う代わりに、民間の会社が公共施設の屋根に太陽光パネルを設置し、点検や修理を行う仕組みのことです。自治体は、そこで作られた電気を契約に基づいて購入して使うことで、初期費用を抑えながら再エネを導入できます(参照*7)。

神奈川県川崎市は、学校等の公共施設にPPA方式で太陽光発電設備を導入し、設備の運転管理・維持管理まで含めて事業者に委託しています。平常時の温室効果ガス排出の抑制に加え、災害時のエネルギー確保も可能になっています(参照*8)。

また京都市は、公共建築物の整備にあたっての独自基準として「公共建築物脱炭素仕様」を設け、省エネ化や創エネ、木材活用などを含む総合的な環境負荷低減を進めています(参照*9)。


■都市部の再エネ調達と自治体間連携

神奈川県横浜市、東京都中央区×福島県大熊町の事例

温室効果ガスの排出を減らすうえで重要なのが、電気の切り替えです。再生可能エネルギーの電気を増やすと、家庭や事業所が使う電気に伴うCO2を下げやすくなります(参照*10)。
しかし、都市部は太陽光や風力を大規模に増やす場所が限られることもあります。そこで、再生可能エネルギー資源が豊富な地域との連携が重要になります(参照*11)。

神奈川県横浜市は2050年までの脱炭素化に向け、再生可能エネルギーの普及拡大に取り組み、再エネ資源を豊富に有する17市町村と連携協定を締結しました。横浜市は協定の取り組みとして、市内での再エネ電力への切り替えや環境教育の促進、連携自治体の地域活性化を目的に、連携自治体に立地する再エネ発電所を見学するツアーも実施すると発表しています(参照*12)。

東京都中央区は2024年1月、福島県大熊町と「脱炭素による未来共創に関する連携協定」を締結しました。協定では、大熊町で生産される再エネ電力を中央区内で活用することを柱に、人材交流(職員・住民の相互交流)や産業振興、森林整備などの吸収源対策も連携事項に掲げています。エネルギーの生産地と消費地が、電力の脱炭素化と地域課題の解決を同時に行っています(参照*13)。


■データ可視化を通した市民の行動変容

鳥取県米子市、神奈川県小田原市の事例

脱炭素は、設備だけでなく日々の行動でも差が出ます。節約を求めるだけではなく、住民自ら行動を変えたくなる仕掛けや、効果が見える工夫を組み込む必要があります。

鳥取県の米子市・境港市は、環境省の「脱炭素先行地域」の取組として、公共施設群などを対象に、電気使用量やCO₂排出量をデータプラットフォーム上で見える化し、市民・事業所に情報公開する仕組みづくりを進めています。施設ごとの使用実態や削減状況を共有できるようにすることで、行政内部の省エネ改善だけでなく、住民や事業者に対しても排出量や取り組みの効果を説明しやすくなります(参照*14)。

神奈川県小田原市は、SBエナジー株式会社などが実施する、脱炭素型ライフスタイル転換促進「yOUR(ユアワー)」のアプリの実証実験に参加し、電力需給がひっ迫しそうな時間帯の外出を促す通知を発信する取り組みを行いました。参加者はゲームを楽しみながら、外出行動に応じたPayPayポイントなどを獲得することができます(参照*15)。


■地域特性に合わせた温室効果ガスの削減

沖縄県宮古島市、岡山県真庭市の事例

気候や生活スタイルが異なれば、ガスの排出要因も変わります。たとえば、寒い地域では暖房の比重が大きく、車移動が多い地域では移動の排出が増えます。そのため、施策は地域の事情を押さえたうえで考える必要があります。

沖縄県宮古島市は、脱炭素先行地域の取組として、太陽光発電・蓄電池やEV、省エネ機器、蓄熱冷凍冷蔵設備などを最大限導入し、EMS(エネルギーマネジメントシステム)で電力需給を制御する「脱炭素グリッド」の構築を掲げています(参照*16)。

地域の資源を活用することで、温室効果ガスの削減を目指す取り組みもあります。
岡山県真庭市は、木質ペレット(チップ)ストーブ、薪ストーブ、木質バイオマス事業用ボイラーの新規購入・設置費用の補助を行っています。こうした取り組みを通して、化石燃料に頼らないまちづくりを目指しています(参照*17)。


■温室効果ガスの吸収源を増やす取り組み

長崎県五島市、東京都北区の事例

排出を減らすだけでなく、吸収を増やす取り組みも「実質ゼロ」には欠かせません。森林や藻場など、自然がCO2を取り込む仕組みを守り、増やすことで、地域の環境課題の解決にもつながります。

長崎県五島市では、磯焼けの進行で藻場がほとんど見られない状態だった海域を対象に、ガンガゼ(ウニ類)の駆除や母藻の供給、保護区の設定、藻場面積の増加を狙った「海藻カーペット(漁網を用いた移植)」などの対策を組み合わせて、藻場の再生・維持に取り組んでいます。再生した藻場は、一年に12.1tのCO2を吸収しています(参照*18)。

東京都北区では、小学生を対象にした森林整備体験を実施しています。北海道清水町や群馬県中之条町で、植樹体験などを通じて、環境保全に森林が与える効果を学習し、将来世代の意識向上を行っています(参照*19)。


取り組みを進めるポイント


現状の把握による優先課題の特定

まずは、地域におけるガスの排出量と原因をつかむところから始まります(参照*4)。

国の公開データを基に作成された「自治体排出量カルテ」などを活用し、部門別の排出構成(家庭・業務・運輸など)や活動量(世帯数、自動車保有台数、従業者数等)など、排出の要因を把握することが必要です。そして、自治体が介入しやすい領域と照らし合わせます(参照*20)。

この段階でのゴールは、重点部門と重点施策を絞ることです(参照*4)。


目標設定と合意形成

現状が見えたら、2050年の目標達成に向けて、年度ごとの仕事に分解します(参照*4)。

まずは、中間目標(2030/2035/2040)を設定します。
あわせて、「対象エリア」を戦略的に設計します。自治体全域を一気に変えるのではなく、取り組みやすい地区や効果が見えやすい地区を先行エリアとして設定し、小さな成果でも継続して出せる体制を整えることが重要です(参照*4)。

最後に、住民や関係各所との合意形成です。ここで重要なのは、単なるお願いをするのではなく、住民にとってのメリットを明確に示すことです。電気代高騰への耐性、防災性(避難所電源)、地域経済(地産地消・雇用)など、地域の関心と結びつけて説明することが必要です(参照*4)。


立案・振り返りまで含めた施策の事業化(執行体制・進捗管理・資金確保)

計画を実行するには、施策を事業化することが必要です(参照*4)。

環境省は、ゼロカーボンシティの施策を事業化する地方公共団体に向けて
・推進体制
・実施状況の点検方法
・分析・評価の仕組み
・見直し方法
の設計を推奨しています(参照*21)。

資金面では、環境省の「地域脱炭素推進交付金」や、その中の重点対策加速化事業など、複数年の計画を後押しする支援枠組みが用意されています(参照*22)。
継続した取り組みのためには、申請・執行・検証までの工程を最初から組み込んでおくことが重要です。


おわりに


ゼロカーボンシティとは、「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする」目標を掲げ、地域ぐるみで脱炭素に取り組む自治体のことです。排出を減らしつつ、森林や藻場などの吸収・除去を行いながら、「実質ゼロ」を目指します。

事例を見ると、都市部では再エネ資源が豊富な地域との連携で電力の脱炭素化を進め、公共施設では太陽光の導入や省エネ改修を率先して成果を作る動きが広がっています。さらに、アプリや見える化で市民の行動変容を促したり、暑さ・移動・産業構造など地域特性に合わせて施策を設計したり、藻場再生など吸収源を増やす取組を数値化して活用する例もあります。

進める上では、まず排出の内訳を把握して重点課題を絞り、中間目標を置いて計画を立案することが重要です。長期的に継続できる設計にすることが大切です。

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参照


(*1) 環境省 2050 年 ゼロカーボンシティの表明について

(*2) 環境省 – 地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況 | 地域脱炭素 | 環境省

(*3) 国際連合 A Beginner’s Guide to Climate Neutrality

(*4) 大臣官房 地方公共団体実行計画(区域施策編)策定・実施マニュアル(簡易版)

(*5) 広島市公式ウェブサイト – プラットフォームで導入するEVバスの運行を開始します!(2026年1月30日)|広島市公式ウェブサイト

(*6) 福岡市 – 福岡市 水素リーダー都市プロジェクト

(*7) 「再エネ スタート」はじめてみませんか 再エネ活用 – PPAモデル | 再生可能エネルギー導入方法 | 「再エネ スタート」はじめてみませんか 再エネ活用

(*8) 川崎市 – 川崎市 : 幸町小学校ほか36校への太陽光発電設備導入事業(PPA)に関する公募型プロポーザル実施のお知らせ

(*9) 京都市 京都市公共建築物脱炭素仕様

(*10) 環境省 はじめての再エネ活用ガイド(企業向け)

(*11) 環境省 平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査概要

(*12) 再エネを通じた地域間循環に向けて、再エネ発電所見学ツアーの企画・運営等を行う協働事業者を募集します 横浜市

(*13) 中央区 – 中央区ホームページ/「福島県大熊町と脱炭素を軸とした連携協定」を締結しました! 【1月18日プレスリリース】

(*14) 環境省 米子市:地域課題解決を目指した非FIT再エネの地産地消と自治体が連携したCO2排出管理によるゼロカーボンシティの早期実現

(*15) 小田原市 – 小田原市 | 脱炭素型ライフスタイル転換促進アプリケーション「yOUR」の冬季実証に参加しています

(*16) 宮古島市脱炭素先行地域|行政情報|宮古島市

(*17) 【受付終了】ペレットストーブ等の購入・設置費用の一部を補助します – 真庭市公式ホームページ

(*18) https://www.blueeconomy.jp/wp-content/uploads/jbc2022/shinsei/19/19.20220930af202211JBCA00021.pdf

(*19) 一般社団法人デジタル地方創生推進機構 – 東京都北区:ゼロカーボンシティへの挑戦と環境教育の推進 | 一般社団法人デジタル地方創生推進機構

(*20) 脱炭素地域づくり支援サイト|環境省 – 自治体排出量カルテ – 脱炭素地域づくり支援サイト|環境省

(*21) 地方公共団体実行計画(事務事業編)策定・実施マニュアル目次|環境省 地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト

(*22) 脱炭素地域づくり支援サイト|環境省 – 地域脱炭素推進交付金 – 脱炭素地域づくり支援サイト|環境省



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