自治体がRPAを導入する際に押さえておきたいポイント5点

RPAとは、Robotic Process Automationの略称で、オフィス業務の多くを占めるデスクワークや定型業務を自動化・効率化するための技術です。働き方改革が求められている中、RPAに任せられる分野や業務に関しては急速に導入が進むと考えられます。

 

この記事では、実際にどのような分野や業務がRPAに切り替わるのかを紹介し、導入成功のために押さえておきたいポイントを解説します。



地方自治体でRPAの活用が可能な分野と業務内容

地方自治体が行う業務は、総合的に見て民間企業よりも定型業務の割合が多めです。生産性の低い単純作業や大量の定型業務、同じパターンの繰り返し業務など、人間が行うことでミスが生じやすい業務も少なくありません。そのような業務は、一部だけでも自動化したりロボットに代行させたりさせることによって、ミスを減らすことができ、時間や労働力の無駄も削減することが可能です。

 

特に、役所内の窓口やデスクワークを担当する職員の場合、フォーマットが詳細まで決まっている業務の割合が多いため、RPAを導入することによって働き方が大きく変わる可能性があります。

 

例えば、大量の案内状発送など多くの職員が残業しながら行っていた単純作業はRPAの得意分野です。また、ふるさと納税関連事務や時間外申請業務など、これまで手作業で行っていたデータ処理や集計作業を自動化すれば、労力を他の業務に回せるようになり、役所内の人員配置もガラッと変えることが可能になります。

 

ここで押さえておきたいのがRPAとAIとの違いです。AIには学習機能があるため、細かい指示をしなくても業務のプロセスを学んでいき、効率の良いやり方を自分で覚えてくれます。しかし、RPAには学習能力がありません。

 

あらかじめどのような作業をするかを明確にして、入力しておくことが必要です。このように言うとAIの方が優れていると思いがちですが、どちらにも一長一短あります。

 

生産性の低い単純作業や大量の定型業務、同じパターンの繰り返し業務などは、人間が長く続けるとミスが起きやすい業務です。このような業務を代行させるなら、AIよりも学習機能のないRPAが向いています。

 



地方自治体におけるRPA導入の事例紹介

2018年、総務省が「自治体戦略2040構想」を発表しRPA導入に向けた支援を始めたことにより、多くの自治体でRPA導入が始まっています。

 

「自治体戦略2040構想」とは、少子高齢化が進み労働力人口が減った場合でも十分な行政サービスを行うために自治体はどうすればよいのかをまとめたものです。労働力人口が減ることにより、職員の数も税収も減ることが懸念されるため、地方自治体の業務を自動化し「スマート自治体」へと変化させることが不可欠だということが述べられています。

 

自治体の業務のうち、通知の配布や問い合わせの対応、議事録の作成などは既にRPAによる自動化が進んでいる作業です。中でも通知の配布は、これまで条件に合う住民を住民台帳から検索する作業、指定のフォーマットに必要事項を入力して通知を作成する作業、宛名ラベルを作成する作業が別々に行われていました。3つの作業を1回の操作で自動的に行うことができるようになったことで、大幅に作業時間と人員を減らすことに繋がっています。

 

RPA導入以前にも、通知の配布に関わる3つの作業をそれぞれ自動化している自治体はありました。しかし、別々に行っていたことで、次の作業に移る際には再度情報の入力が必要となるため、余分な労力や時間がかかるうえにミスも起きやすかったのです。3つの作業を一連の業務フローとして自動化することで、複数の問題点を一気に解決することができました。

 

さらに、複数のシステムにまたがった処理を自動化できるようになった点も、自治体業務をより効率化するのに役立っています。自治体では、システムによって納入業者が異なるというケースが少なくありません。これまではそれぞれのシステム間に互換性がなければ、処理を自動化するのは無理だとされてきました。しかし、RPAを利用する事によって、複数のシステム間に互換性がなくても、自動化することが可能になったのです。業務のフォーマットを共通化することによって、他の自治体との間でも作業の自動化が可能になります。

 

ではここで、RPA導入に成功した事例を2つ紹介させていただきます。

 

熊本県宇城市では、実証実験の段階でふるさと納税や時間外申請などの自動化を行い、本格導入後に自動化の範囲を6つの分野に拡大しました。
その結果、年間で1700時間にも及ぶ業務の削減効果があったといいます。

 

石川県加賀市では、契約管理システム・電子入札システム間の連絡業務、時間外勤務集計業務、財産貸付・使用許可事務を自動化するところからスタートし、工事検査情報自動連携事務についてもRPAの本格導入を行いました。導入に際し、業務改善も行ったことから、年間365時間かかっていた業務が96時間まで短縮、工数も約74%減らすことに成功したということです。

 

他にも、実証実験で効果の大きさを実感し、本格導入の際には範囲を拡大している自治体が数多くあります。
 


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RPA導入に必要な予算やタスクとは?

「十分な予算をかけられない」「費用対効果がはっきりしないから予算を組めない」など、コスト面を心配してRPA導入を躊躇している自治体があります。しかし、実際に導入した自治体の多くは、部分的な導入で削減できる経費や解決できる課題の大きさを実感し、さらに導入範囲を増やしている状況です。一時的にかかる導入費にばかり目を向けて導入を躊躇していると、自動化の波に乗り遅れ、他の自治体との格差が広がってしまうかもしれません。

 

国は、2040年をターゲットに自治体のあり方を大きく変えようとしています。人口が大きく減少しても、今と同様の行政サービスを続けていくために欠かせない取り組みとして、RPAやAIの導入を推し進めているということはよく理解することが必要です。

 

周囲の自治体との間で業務の連携が当然のように行われるようになってから導入を考え出したのでは遅すぎるかもしれません。長期的なビジョンを持ったうえで、なるべく早く導入の可否を決めることが大事です。

 

もちろん、採算度外視でRPAの導入を進めるべきではありません。導入時にいくらかかるのか、維持費がいくら必要かを計算しつつ、導入によってどれだけ無駄なコストを削減できるか、コストの回収にどれほどの期間がかかるかなどのシミュレーションもしっかり行ったうえで判断しましょう。

 

RPA導入に際して、どのようなソフトを使用するかによっても予算が大きく変わります。例えば、業務自動化のシナリオを作成し、そのシナリオに合わせて業務を実行するWinActorの年間利用料金は約90万円。

 

一方、ロボット自身が作業ワークフローを作り、監視や管理も自動で行うUiPathの導入には開発環境と実行環境の1構成で52万5000円、管理支援機能も含む大掛かりな導入の場合には約400万円ほど掛かるようですので、まとまった予算は必要ですが、それ以上の経費節減につながるなら検討の余地はあるはずです。この他にも、様々なサービスがありますので、ぜひ比較検討してみてください。

 

導入前までに行うタスクとしては、まずRPAを導入する業務の洗い出しを行います。RPAに向く分野・業務と向かない分野・業務があるので、どの業務を自動化すると効果が出やすいかをよく考えることが大事です。

 

次に、RPAベンダーごとの得意領域を把握し、どのベンダーを利用するか、どのようなツールを導入するかを検討します。価格だけでなく、機能やサポート内容なども比較して決めましょう。
 



RPAの導入失敗を避けるために押さえておきたいポイント

国が導入を進めているから、周りの自治体が導入しているから、といった理由だけでRPAを導入しようとしてしまうと、失敗する可能性が高くなります。RPAの導入を成功させるために必要なポイントをきちんと押さえておきましょう。

 

まず、RPAを導入する際には、どの業務を自動化するかをよく考える必要があります。RPAの活用効果が出やすい業務と出にくい業務があるからです。
多くの予算を掛けられないのであれば、最も効果の出やすい業務に絞って導入することを検討してみるのが良いでしょう。

 

大量の定型業務は、手作業で行うと時間も手間も掛かるうえにミスが起きやすいため、効果を実感しやすい業務の1つです。
きちんと効果を実感してから自動化する範囲を拡大していくようにすれば、失敗を避けられます。

 

予算とスケジュールをしっかり立てたうえで導入することも、失敗を防ぐうえで大事なポイント。結果が出れば、掛けた費用以上に効果を実感できるRPAですが、自治体の規模によっても掛けられる予算に違いがあるかと思います。いくらまでRPAの導入に予算を割けるのか、いつまでにどのような結果が出せれば採算が取れるのかということを把握しておきましょう。

それと、互換性のないシステム間で自動化をするためには、できる限り条件分岐の必要がないようにフォーマットをそろえておく必要があるため、業務のフォーマットを共通化しておくことも大切です。

 

コストや時間の無駄が大きい業務や分野ほど、RPAを導入した際に効果を実感しやすいので、現状の無駄をしっかり洗い出しておくことも成功の秘訣です。

 

他の自治体で成功した事例をそっくりそのまま当てはめても成功するとは限りません。自分たちの職場では、何が改善できるポイントなのかを明確にしてから導入することが失敗を防ぐことに繋がります。




まとめ

全国の地方自治体では、今後も十分な行政サービスを提供していくために、RPAの導入を真剣に検討している自治体も多くなっています。

 

すぐには導入できない場合でも、導入するとどのような効果が期待できるのか、どれだけコストが掛かりどのような準備が必要なのか、といったことを一通り把握しておけると、いざというときに検討しやすくなるのではないでしょうか?

 

RPAを導入する際のポイントとして

 

●  RPAを利用できそうな業務の洗い出し

●  RPA関連サービスのリサーチ

●  コスト削減シュミレーション

●  予算とスケジュール管理

●  業務フォーマットの共通化

 

この5つは特に重要ですので、参考にしていただけると幸いです。



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