地方財政の最新動向|自治体が押さえるべきポイント



はじめに

自治体の財政運営は、国の予算編成や税制改正と密接に連動しています。物価高や金利上昇、社会保障費の増加といった歳出圧力が強まるなかで、地方財政の最新動向を正確につかむことが欠かせません。

この記事では、2026年度の地方財政対策を軸に、歳出構造の変化や税制改正の影響、中長期的な財政健全化の見通し、そして予算編成の判断基準まで、自治体が押さえるべきポイントを紹介します。



地方財政の全体像と仕組み


地方財政計画の役割と策定プロセス

地方財政計画は、翌年度の地方全体の収支を見通し、必要な財源を確保するための土台です。国の予算編成作業と並行して、総務省が地方財政計画の策定作業を進めます。その過程で翌年度の地方財政全体の収支が算定され、所要の財源との間に過不足が見込まれる場合には、それが均衡するように財源対策が行われます。この財源対策が地方財政対策と呼ばれ、国の予算の概算決定に先立って、総務省と財務省の調整が繰り返されたのちに決定されます(参照*1)。

つまり、地方財政計画は、各自治体が自らの予算を組む際の前提条件にあたります。国がどの程度の財源を用意するのかこの計画を通じて明らかになるため、計画の内容を正確に読み取ることが予算編成の出発点になります。


一般財源総額実質同水準ルールの位置づけ

一般財源総額の実質同水準ルールは、自治体の安定的な財政運営を支える枠組みの一つです。一般財源とは、使いみちが特定されず自治体が自由に充てられる財源のことです。このルールは、前年度の地方財政計画の水準を下回らないよう一般財源を確保するという考え方に基づいています(参照*2)。

政府は2024年6月21日に「経済財政運営と改革の基本方針2024」を閣議決定し、この一般財源総額実質同水準ルールを2027年度まで維持することとしました。同方針では、交付団体をはじめ地方の安定的な財政運営に必要となる一般財源の総額について、2024年度地方財政計画の水準を下回らないよう実質的に同水準を確保するとしています(参照*3)。

各自治体がこのルールの適用期間と基準年度を確認しておくことで、向こう数年間に見込める一般財源の規模感を把握できます。


令和8年度地方財政対策の重点ポイント


一般財源総額67.5兆円と地方交付税20.2兆円の確保

2026年度の地方財政対策では、交付団体ベース(水準超経費を除く)の一般財源総額が前年度を3.7兆円上回る67.5兆円となりました。総務省は、地方交付税総額も前年度を1.2兆円上回る20.2兆円を確保したとしています(参照*4)。

自治体としては、この67.5兆円のうち自団体に配分される額を交付税の算定結果から確認し、歳入見通しに反映する作業が求められます。


臨時財政対策債ゼロの継続と償還基金費の創設

臨時財政対策債の発行額は、地方財政の健全化を測るうえでの重要な指標です。臨時財政対策債とは、地方交付税の不足を補うために自治体が発行する借金にあたります。総務省は2026年度も臨時財政対策債の発行額を引き続きゼロとしたうえで、臨時財政対策債償還基金費(仮称)を0.8兆円創設しました。さらに交付税特別会計借入金の残高を2.9兆円縮減するとしています(参照*4)。

各自治体は、過去に発行した臨時財政対策債の償還計画と新たな基金費の関係を予算上で整理する必要があります。


物価高対応・教育無償化・地域未来基金費の新設

2026年度の地方財政対策では、歳出面でも複数の新たな措置が盛り込まれました。総務省は物価高対応として、官公需の価格転嫁を推進する観点から委託料、維持補修費、投資的経費などを0.6兆円増額計上しました(参照*4)。

また、いわゆる教育無償化への対応として、地方負担0.4兆円が地方財政計画の歳出に全額計上され、一般財源総額も増額確保されました。都道府県による産業クラスター形成や地場産業の高付加価値化、販路開拓を後押しする「地域未来基金費」0.4兆円も新設され、教育分野と地域産業分野の双方で新たな財政措置が講じられています(参照*5)(参照*6)。

各自治体は、これらの新設項目が自らの事業にどう対応するかを洗い出し、活用可能な地方財政措置を予算編成に組み込む作業を進めることになります。


歳出構造の変化と自治体が直面する課題


人件費・社会保障関係費の増加圧力

人件費と社会保障関係費は、自治体の歳出構造を左右する要因になりつつあります。地方財政計画における歳出の推移を見ると、高齢化の進行等による社会保障関係費の増加を、給与関係経費や投資的経費の単独分を抑制することで吸収し、歳出全体の伸びが抑えられてきました。しかし今後は賃金水準の上昇や専門分野の人材確保を反映した人件費の増加が見込まれます(参照*1)。

各自治体は、人件費と社会保障関係費の中長期推計を自団体の状況にあてはめ、他の経費を圧縮できる余地がどこに残されているかを点検する段階にあります。


インフラ老朽化と防災・減災投資の拡大

防災・減災やインフラ老朽化への対応は、投資的経費の増加要因になり得ます。自然災害が激甚化・頻発化するなかで、防災・減災および国土強靱化の推進による投資的経費等の増加が見込まれています(参照*1)。

たとえば熊本県は、歳出増加の背景として、熊本地震や令和2年7月豪雨からの復旧・復興に加えて、国土強靱化の県債償還の本格化や公共施設等の老朽化対策を挙げています。そのうえで令和7年8月豪雨への対応を最優先としつつ、物価高騰や金利上昇に伴う公債費の増加にも対処する必要があるとしました(参照*7)。自治体ごとに老朽化の進行度合いと災害リスクを数値で把握し、優先順位をつけた投資計画を策定することが求められます。


税制改正が地方財政に与える影響


軽油引取税・環境性能割廃止と地方特例交付金による補塡

2026年度の税制改正は、地方税収に直接響く内容を含んでいます。総務省は、4月1日からの軽油引取税の当分の間税率および自動車税等の環境性能割の廃止や、これらに伴う地方団体の減収の補塡措置を盛り込んだ法案を提出しました(参照*8)。

佐賀県は、自動車税環境性能割と軽油引取税の暫定税率の廃止にあたり、2026年度の減収分は地方特例交付金により全額補塡されることになったことを評価しています。一方で、代替となる恒久財源の確保を強く求めるとしています(参照*9)。自治体は、単年度の補塡額だけでなく、翌年度以降の恒久財源がどのように措置されるかを注視し、中期の歳入見通しに織り込む必要があります。


基礎控除引上げ議論と個人住民税への波及リスク

基礎控除の見直しをめぐる議論は、地方財政への影響が少なくないとされています。個人住民税は地方税収の約3割を占める基幹税目です。所得税は国税ではありますが、その収入額の33.1%が地方交付税の原資となっています。所得税および個人住民税における基礎控除額等を引き上げた場合、個人住民税の減収とともに地方交付税原資の減少が恒久的に続くこととなり、地方財政に与える影響が少なくないと指摘されています(参照*1)。

基礎控除の引上げ幅がどの水準で決着するかによって、自治体の税収と交付税の両方に影響が及びます。各自治体は複数のシナリオで減収額を試算し、歳入欠陥への備えを検討しておくことが実務上の課題になります。


地方財政の健全化と中長期的な展望


交付税特別会計借入金の縮減と債務残高の推移

地方財政の財源不足を補うための借入金である交付税特別会計借入金や、財源不足を補うために発行されてきた臨時財政対策債の残高は、地方財政の健全度を測る指標となります。財務省の資料によると、臨時財政対策債および交付税特別会計の借入金の残高は近年減少傾向にあるものの、依然として残高が積み上がっている状況です。金利のある世界に移行するなかで、将来の利払費負担にも配慮した財政運営が求められるとし、現下の地方財政や金利の状況などを踏まえた着実な償還の必要性が指摘されています(参照*3)。

2026年度についても、地方交付税の総額確保のため2,000億円を国に帰属させ、その全額を交付税特別会計に繰り入れる措置が講じられています(参照*10)。自治体は、自団体の地方債残高と国全体の特別会計借入金残高の推移を併せて確認し、将来の交付税配分への影響を見積もることが大切です。


中長期試算に見る公債等残高対GDP比の見通し

国・地方の公債などの残高がGDPに対してどの程度の水準にあるかを示す公債等残高対GDP比は、長い時間軸で財政の持続可能性を見る際の手がかりになります。内閣府が公表した試算では、成長移行ケースにおいて金利の上昇が押上げ要因となるものの、高い経済成長率とプライマリーバランスの黒字が押下げ要因となり、試算期間を通じて公債等残高対GDP比は着実に低下すると示されました(参照*11)。

この試算は国と地方を合わせた全体像ですが、金利上昇の影響は各自治体の公債費にも直結します。償還計画のなかで、今後の借換え時に適用される金利水準を複数パターンで見込んでおくことが欠かせません。


自治体の予算編成で押さえるべき判断基準と注意点


国の制度活用とスクラップ・アンド・ビルドの徹底

限られた財源のなかで施策の優先順位をつけるには、国の制度を活用できるかどうかの検討が欠かせません。大阪府は予算編成要領のなかで、事業の実施にあたっては府として主体性を持って厳しく選択したうえで、有利な地方財政措置がある国の制度の活用を積極的に検討するよう求めています。さらに市町村との役割分担について、現行制度における権限や財源等の配分を踏まえて整理し、市町村や民間などが本来の主体であるものについては府の役割を整理して撤退を早めるとしました(参照*12)。

熊本県も、過去の大災害からの復旧・復興を進めながら県勢発展に向けた取組みを推進するには、これまで以上に真に必要な事業への選択と集中、スクラップ・アンド・ビルドが必要であるとしています(参照*7)。各自治体は、既存事業の棚卸しと国の制度との突合を一体で進めることが、予算編成における実効性の高い手順となります。


金利上昇局面での公債費管理と基金運用

金利上昇局面では、公債費の見通しと基金運用を合わせて管理する必要があります。金利上昇は歳出面の公債費を押し上げると同時に、基金の運用利回りにも影響を与えます。地域社会の担い手が減少するなかで、多様なニーズに対応しながらより少ない職員数で質の高い行政サービスを安定的に提供しなければなりません。そのために、徹底した行政の合理化・効率化を図ると同時に、民間企業を含めた多様な主体が連携・協働する取組を進めることで地域の課題解決をはかっていく必要があります(参照*3)。

金利が上昇する局面では、新規の起債コストだけでなく、既発債の借換え条件も厳しくなります。一方で基金の運用収入は改善する可能性があります。公債費の将来負担と基金運用の見通しを一体で管理し、償還ピークと運用益のバランスを年度ごとに確認していくことが、財政運営の安定に直結します。


おわりに


2026年度の地方財政対策では、一般財源総額67.5兆円の確保や臨時財政対策債ゼロの継続、償還基金費の創設など、財政健全化と歳出需要への対応が同時に進められました。一方で、税制改正に伴う恒久財源の不透明さや金利上昇局面での公債費増加など、注視すべき課題も残っています。

各自治体が中長期の歳入・歳出見通しを複数シナリオで描き、国の制度を活用しながら選択と集中を徹底できるかどうかが、今後の財政運営の分岐点になります。

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