地域包括ケアシステムとは?自治体の先進事例と成功のポイントを解説
はじめに
地域包括ケアシステムは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体で届ける仕組みです。本記事の要点は次のとおりです。
- 制度の目的は2025年および2040年を見据えた在宅生活の継続支援であり、保険者である市町村が地域特性に応じて構築する。
- 千葉県柏市、東京都世田谷区、新潟県長岡市は、産学官連携・分野横断・協議会運営で先進事例となっている。
- 成功の共通点は、多職種連携、データによる見える化、住民参加による生活支援の創出である。
- 人材不足やデータ連携の課題に対して、地域ケア会議など既存の会議体の活用が有効。
地域包括ケアシステムの基礎知識
制度の定義と目的
地域包括ケアシステムは、高齢者が重度の要介護状態になっても、住み慣れた地域で人生の最後まで自分らしい暮らしを続けられるようにするための包括的な支援体制です。
医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制の構築が進められており、2040年に向けては85歳以上人口や認知症高齢者、独居高齢者の増加を踏まえて、システムの深化が必要とされました(参照*1)。また、地域包括ケアシステムは地域共生社会の実現に向けた中核的な基盤と位置づけられ、高齢者介護や障害福祉、児童福祉、生活困窮者支援などの分野の枠を超えて、人と人がつながり助け合う社会を目指す方向性が示されています(参照*2)。
定義を読み解くと、単なる介護サービスの提供にとどまらず、住まいや日常の支え合いまでを含む生活全体の設計であることが分かります。自治体は、この目的を踏まえて地域固有の資源や課題に合わせた仕組みを求められます。
5つの構成要素
制度を支える柱は、医療・介護・予防・住まい・生活支援の5つの要素です( 参照*3)。
5つの要素は独立して存在するのではなく、日常生活圏域の中で相互に補完し合う関係にあります。たとえば在宅医療は住まいの整備と切り離せず、介護予防は地域サロンなどの生活支援活動と重なります。自治体が計画を立てる際には、要素ごとの資源量と連携状況を一体で把握し、抜け落ちる領域が生じないよう配置していく作業が土台になります。制度を理解するうえでは、自分の地域でどの要素が弱いかを確認する視点が入口となります。
2025年・2040年問題との関係
制度は、団塊の世代が後期高齢者となる2025年と、85歳以上人口が急増する2040年という二つの節目を見据えています。
たとえば新潟県長岡市は、団塊の世代が75歳以上となる令和7年(2025年)を見据えて地域包括ケアシステムの構築を進めてきたと説明しています。令和22年(2040年)にかけて85歳以上人口が急増するとともに高齢者単独世帯や夫婦のみの世帯が増加すると見込まれる中で、地域社会の変化に応じてシステムを深化・推進させる必要があるとしています(参照*4)。
二つの時期を意識することで、短期の整備と長期の見直しを分けて考えられます。自治体の計画は、単年度の事業だけでなく、人口構造の変化に対応する設計に向けた見直しが求められます。
自治体が担う役割と構築プロセス
保険者としての市町村の機能
市町村は介護保険の保険者として、地域包括ケアシステムを主体的に組み立てる立場にあります。
地域包括ケアシステムを深化・推進するには、保険者である市町村や都道府県が地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げることが引き続き必要であり、そのためには地域の介護・医療資源等を見える化し、関係者で分析・議論しなければなりません(参照*1)。関連して、保険者機能は事務的、付加的、戦略的の3つに区分でき、自治体が単なる介護保険制度の事務処理機関から、地域の未来をデザインする戦略的な主体へと転換すべきとの指摘があります(参照*5)。
この視点に立つと、市町村の役割は給付管理にとどまりません。地域の資源を可視化し、関係者を巻き込みながら、医療・介護・生活支援を統合的に動かす司令塔として機能することが期待されます。
地域課題の把握とPDCAサイクル
地域包括ケアシステムを機能させるには、地域課題を分析し、計画・実行・評価・改善のサイクルを回す仕組みが欠かせません。
PDCAサイクルを活用して市町村の保険者機能および都道府県の保険者支援の機能を強化することが重要です。平成29年の法改正により、市町村と都道府県が地域課題を分析し、地域の実情に即して高齢者の自立支援や重度化防止の取組に関する目標を計画に記載するとともに、目標に対する実績評価を行い、評価結果を公表するよう努めることが定められました(参照*2)。加えて、自治体では個々の地域特性に応じて、医療・介護分野の連携による在宅医療の推進や、地域社会・関係機関と連携した住民の健康づくりに取り組み、医療費抑制等の面で一定の効果が現れているところもある一方、専門的人材や地域資源の不足等から対応に苦慮するところも数多く見受けられます(参照*6)。
PDCAは形式ではなく、計画に書いた目標を評価と公表まで通す運用が求められます。地域差を前提とすることで、他自治体の成果をそのまま移すのではなく、自らの資源に照らして応用する姿勢が有効に働きます。
先進事例に学ぶ取り組みの実際
千葉県柏市:豊四季台プロジェクト
千葉県柏市は、大学・都市機構と連携し、団地を舞台にした地域包括ケアの実践で知られています。
柏市は、平成21年6月に東京大学高齢社会総合研究機構、独立行政法人都市再生機構、柏市で構成する柏市豊四季台地域高齢社会総合研究所(三者研究会)を発足させ、平成22年5月13日に協定を締結し、高齢化率40%を超える豊四季台団地において「住み慣れた場所で自分らしく老いることのできるまちづくり(Aging in Place)」の提案と実践を目指し、「いつまでも在宅で安心した生活が送れるまち」と「いつまでも元気で活躍できるまち」の実現に向けたモデルプロジェクトを展開してきました(参照*7)。関連する解説では、2010年に東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)、UR都市機構、柏市の三者協働で「エイジングインプレイス」の理念に基づく豊四季台プロジェクト(柏プロジェクト)が始動し、2011年からは生きがい就労プロジェクトが開始され、無理のない働き方を実現するため少人数グループによる短時間労働を基本としたワークシェアリングを導入し、生きがいづくりを主な目的としています(参照*8)。
団地という限定された空間で、住まい・医療・就労を組み合わせた点が特徴です。高齢化が進んだ地区を実験的なフィールドとし、産学官の役割分担を明確にした取り組みは、他自治体が構造を学ぶ素材となります。
東京都世田谷区:世田谷版地域包括ケア
東京都世田谷区は、対象者を高齢者に限定せず、地域共生社会の考え方を先取りした独自モデルを進めています。
世田谷区は、平成26年度(2014年度)から、国の示す地域共生社会の考え方に先んじて、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるよう、高齢者だけではなく、障害者、子育て家庭、生きづらさを抱えた若者、生活困窮者など、困りごとを抱えたすべての区民を対象として、医療、介護・福祉サービス、住まい、予防・健康づくり、生活支援の5つの要素が一体的に提供される世田谷版地域包括ケアシステムの推進に取り組んできました(参照*9)。さらに区は、まちづくりセンターにあんしんすこやかセンターと社会福祉協議会が入り、身近な福祉相談の充実と地区の人材や社会資源の開発・協働を行う地域包括ケアの地区展開を実施しており、令和4年5月からは三者に児童館が加わり、子ども分野における地域資源開発にも力を入れています(参照*10)。
対象を広げる設計は、複数の困りごとを抱える世帯を一つの窓口で受け止める効果につながります。地区単位の拠点に複数機関を集約する運用は、相談先の分かりやすさを高める工夫として参考になります。
新潟県長岡市:協議会による分野横断
新潟県長岡市は、協議会と専門部会を軸に、分野を横断した推進体制を整えています。
長岡市は、地域包括ケアシステムの深化・推進にあたり、関係する各分野の代表等の意見を聴き、連携を密にしながら取組を進めるため長岡市地域包括ケア推進協議会を設置し、在宅医療・介護連携推進部会、認知症施策推進部会、関係者ネットワーク会議、介護予防部会の4つの専門部会において、地域ケア会議等から把握される地域課題について具体的な検討を行い、必要に応じて協議会での合意形成を図りながら、システムの深化・推進を進めるとしました(参照*4)。
個別のケースから抽出した課題を、部会で整理し、協議会で合意形成へつなげる流れが特徴です。会議体を階層化することで、現場の声と政策判断を切れ目なく結び付ける運用が可能になります。
成功のポイントと共通要素
多職種連携と地域ケア会議の活用
成功する取り組みに共通するのは、多職種を結ぶ会議体を軸に据えている点です。
地域ケア会議は、ケアマネジメント支援、地域支援ネットワークの構築、地域課題の把握という目的を持ち、個別課題の共通点から地域の課題に転化して市町村の政策にしていくもので、うまくいくと市町村の政策を現場とつなぐことができる有益なツールです(参照*5)。関連する政策動向として、平成26年6月には地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律が成立し、医療・介護両部門の機能分化・連携等による地域包括ケアシステムの構築が全国で進められています(参照*6)。
個別事例を政策課題に転化するには、参加者の顔ぶれと運営設計が鍵になります。医療・介護・福祉の担い手が同じテーブルで話し、記録を共有する仕組みが、連携を成果に結び付けるポイントです。
データに基づく見える化と評価
住民参加と生活支援サービスの創出
制度を支えるには、住民が支え手として参加する仕組みが欠かせません。
単身または夫婦のみの高齢者世帯や認知症の人の増加に対応し、地域サロンの開催、見守り・安否確認、外出支援、買い物・調理・掃除等の家事支援を含む多様な生活支援・介護予防サービスを整備するため、市町村が中心となって生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)や協議体による地域のニーズや資源の把握、関係者のネットワーク化、担い手の養成、資源の創出等を通じ、民間企業、協同組合、NPO、ボランティア、社会福祉法人等の生活支援・介護予防サービスを担う事業主体の支援と協働体制の強化を図ることが重要です(参照*2)。柏市は、フレイルの兆候を簡易に知ることのできるフレイルチェックを軸に、栄養・運動・社会参加をテーマとした各種講座を実施し、市民が主体的に継続できるよう支援し、市内を20に分けたコミュニティエリアで生活支援体制整備事業を行っていると示しました(参照*7)。
公的サービスだけで生活を支え切ることは難しく、住民や民間の担い手が加わって初めて日常が回ります。担い手を養成し、活動を面として広げる工夫が、成功の鍵となる要素です。
取り組みで直面する課題と対策
地域包括ケアシステムの推進には、人材・資源・データ連携などの構造的な課題が伴います。
現場からは、機能向上を阻む要因として、人材不足、業務過多、データ連携の壁のほか、複雑化する制度によって会議体が増え、現場が疲弊しているとの指摘があがっています(参照*5)。また、専門的人材や地域資源の不足等から対応に苦慮する自治体も数多く見受けられます(参照*6)。対策の手がかりとして、地域における頼れる身寄りがいない高齢者等への支援に関する自治体向けガイドブックは、現状把握・庁内検討・地域での議論・取組実践・効果検証の5段階のプロセスをステップごとに整理し、地域ケア会議等の既存会議体を活用した多職種・多機関連携による課題解決を推奨しています(参照*11)。
新たな会議体を増やすのではなく、既存の枠組みを活用して負担を抑える発想が有効です。5段階のプロセスに沿って進めることで、庁内の合意形成から効果検証までを一連の流れとして整えられます。
おわりに
地域包括ケアシステムは、2025年と2040年を見据えて、住み慣れた地域で暮らし続けるための土台を整える仕組みです。市町村は保険者として資源を見える化し、PDCAサイクルを通じて地域の実情に応じた計画を運用する役割を担います。
先進事例に共通するのは、多職種連携、データに基づく評価、住民参加という3つの柱です。人材不足やデータ連携の課題を抱えながらも、既存の会議体を活かして着実に段階を踏むことが、仕組みの整備につながります。
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参照
(*1) 論点ごとの議論の状況
(*2) ・介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針(◆令和06年01月19日厚生労働省告示第18号)
(*3) 厚生労働省 - 介護の将来像(地域包括ケアシステム) ○ 住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的
(*4) 地域包括ケアシステムについて
(*5) 医研シンポジウム2025
(*6) 公益財団法人日本都市センター - 地域包括ケアシステムの成功の鍵-医療・介護・保健分野が連携した「見える化」・ヘルスリテラシーの向上-
(*7) 柏市 - 長寿社会のまちづくり~地域包括ケアシステムの構築に向けて~
(*8) 知と交流で築くアクティブシニアの居場所(千葉県柏市 一般社団法人セカンドライフファクトリー)
(*9) 世田谷区 地域保健医療福祉総合計画 令和6~13 年度(2024~2031 年度)
(*10) 世田谷区 - 地域包括ケアシステムについて
(*11) 身寄りのない高齢者支援・保険外サービス活用に関する調査報告書の公開について(介護保険最新情報vol.1503)
