避難所運営はどう変わる?震災から学ぶ最新の避難所環境改善とは



この記事のまとめ

震災時の避難所運営は、命と健康を守るための環境改善が最大の課題となっています。能登半島地震の教訓を踏まえ、トイレ・食事・寝床の整備や要配慮者への支援、住民主体の運営体制づくりが進んでいます。本記事では、避難所運営における環境改善の要点を整理します。

  • 震災直後は上下水道の停止や過密により、避難所の生活環境が急速に悪化します。
  • 防災TKB(トイレ・キッチン・ベッド)の整備が、災害関連死を防ぐ柱とされています。
  • 高齢者や障害者、乳幼児、外国人、ペットなど多様なニーズへの配慮が欠かせません。
  • 自主防災組織やNPO、自治体の協定に加え、在宅避難と備蓄による自助が重要です。


避難所環境改善が求められる背景

震災時の避難所は、想定避難者数に対する収容力の不足と、国際基準を下回る居住環境という2つの構造的な課題を抱えています。


震災時の避難所が抱える課題

震災時の避難所では、想定を超える避難者数と限られた施設数のなかで、生活環境が急速に悪化する状況が繰り返されてきました。

首都直下地震等による東京の被害想定では、避難所へ避難する方は約200万人と見込まれる一方、都内の避難所数は約3,200か所にとどまります。最も避難者数が多くなる災害発生から1週間は避難所での生活環境の悪化が想定されており、東京都はその改善を喫緊の課題としています(参照*1)。また、時事通信は、首都直下地震の東京都の被害想定として、避難者299万人、帰宅困難者453万人が発生し、上下水道設備も大きな被害を受けると報じています(参照*2)。

こうした数字は、既存の避難所の収容力と生活支援の仕組みだけでは、発災直後の生活を支えきれない可能性を示しています。地域の避難所定員と想定避難者数の差を確認し、在宅避難や地域内の分散を含めた選択肢を整理しておく必要があります。


災害関連死とスフィア基準

過密な雑魚寝や不十分な間仕切りは、避難者の心身に大きな負担を与え、災害関連死のリスクにつながります。

国際的な人道基準であるスフィア基準では、避難者1人あたり最低3.5平方メートルの居住スペースを確保することが推奨されていますが、日本の多くの避難所では1人あたり2平方メートル程度で運営されることも多く、過密状態になりがちです。雑魚寝や不十分な間仕切りは、プライバシーの欠如を招き、精神的ストレスを増大させます(参照*3)。

居住面積が国際基準の半分程度にとどまることは、感染症や生活不活発病の背景としても無視できません。地域の避難所計画では、1人あたりの面積、間仕切りや段ボールベッドの配備、居住区画の設計がどこまで整っているかを見直す必要があります。


能登半島地震で明らかになった課題

2024年1月の能登半島地震では、トイレと寝床の確保の遅れや、要配慮者を含めた避難先の確保が課題として浮かび上がりました。


トイレ・食事・寝床の実態

能登半島地震では、発災直後のトイレと寝床の確保が大きな課題となり、被災者の健康を左右する場面が続きました。

日本トイレ研究所が、2024年1月に発生した能登半島地震で被災した能登町の住民に行った調査では、地震発生後に最初にトイレに行きたいと感じた時間について、3時間以内という回答が238人のうち約半数を占め、6時間以内までを含めると約9割に上りました。一方、仮設トイレが避難所に届いた時期は、回答者168人のうち2〜3日以内が16.5%で、約半数は8日以上と答えました(参照*2)。宝立小中学校では、震災直後に上下水道が停止したため、学校の備え付けトイレは使用できない状態でしたが、避難者がその状況を知らずに使用したことで排水できず、便器が詰まる事態が発生しました。このため初動段階では、学校のトイレ個室に段ボール製の簡易トイレを応急的に設置しました(参照*4)。

排泄の切迫と仮設トイレ到着までの時間差は、初動段階のトイレ運用計画の重要性を示しています。学校や公民館の備え付けトイレを断水時にどう扱うか、貼り紙や巡回の手順まで含めて事前に決めておくことが求められます。


要配慮者と在宅避難者への対応

能登半島地震では、避難所の生活環境改善と並行して、より安全な場所への段階的な避難が進められました。

内閣府によると、1次避難所の避難者数は発災直後の1月2日に最大の40,688人に達し、4月9日時点で3,351人となりました。被災者の命と健康を守るため、環境の整ったホテル・旅館等への2次避難が実施され、1月8日に石川総合スポーツセンターメインアリーナが1.5次避難所として開設されました。1月9日には2次避難施設へ移動するための受付窓口が開設され、ホテル・旅館等の2次避難所への避難者は2月16日に最大の5,275人となりました(参照*5)。国会の会議録によると、能登半島地震の現場では、まず被災者の命と健康を守り、災害関連死を防止するために、暖房設備の設置など寒さ対策を図った上で避難所を運営し、その後段階的にホテル、旅館や公営住宅、賃貸物件への入居といった多様な避難先への移行を早期に進める取組が行われました(参照*6)。

1次避難所から1.5次、2次へと避難先を段階的に切り替える流れは、生活環境の質を高める重要な手立てです。要配慮者や在宅避難者を含め、どの段階でどこへ移動できるかを事前に共有しておく必要があります。


防災TKBによる環境改善の柱

トイレ(Toilet)・キッチン(Kitchen)・ベッド(Bed)の頭文字を取った防災TKBの整備は、避難所の生活環境を改善し、災害関連死を防ぐ柱となります。


トイレ環境の確保と衛生管理

避難所のトイレは、感染症予防と尊厳ある生活の両面から、量と質の両方を確保する必要があります。

東京都によると、トイレは発災当初には50人に1基、発災1週間後には20人に1基、男女比1対3で設置することが目標として示され、スフィア基準に準拠する考え方が採用されました(参照*1)。内閣府が令和7年1月に調査して公表した段階では、トイレカー・トイレトレーラー・トイレコンテナの合計は全国で81台でした。これに加えて、令和6年度補正予算で379台、令和7年度補正予算で111台の調達が、各地域からの申請により採択されています(参照*6)。

トイレの基数と男女比の目安、そして自走式トイレの配備数は、地域の備えを比較する具体的な指標となります。自治体がこれらの数値にどこまで近づいているかを、平時から確認しておくことが有効です。


温かい食事の提供体制

避難所での食事は、栄養と衛生に加え、心の支えとしての側面も持ちます。

日本の避難所では、被災者が炊き出しに並び、寝る場所と同じスペースに戻って食事を取るのが一般的ですが、イタリアでは避難所に食堂テントが設置され、ボランティアの調理師が温かい食事を提供しています。食事空間と寝る場所を分けることで衛生状態や健康を保ち、被災者同士がコミュニケーションを取る場にもなっていると紹介されています(参照*2)。

食事空間を分けるという発想は、日本の体育館型避難所でも参考になる考え方です。テントや別室の活用、配食動線の分離といった具体策を、避難所運営マニュアルに落とし込むことが求められます。


段ボールベッドとプライバシー確保

床での就寝を避け、間仕切りで居住区画を守ることは、健康と尊厳の両方に直結します。

内閣府によると、能登半島地震では発災直後から、被災地の要請を待たずに国が物資を送るプッシュ型支援により、合計で約7,000個の段ボールベッドと約3,200個のパーティションが届けられました。他方で、発災当初は避難所が過密で段ボールベッドやパーティション等を設置するスペースがない、被災者が利用を断るといった状況も見られました(参照*5)。災害人道医療支援会(HuMA)の医療チームは、高齢者の身体機能低下を防ぐ観点および感染症防止の観点から、床での就寝は望ましくないとの注意喚起を行い、国のプッシュ型支援により届けられた段ボールベッドを1月5日頃から導入し、当初は高齢者や通院中の避難者を優先し、最終的には約300基が設置されました(参照*4)。

支援物資が届いても、設置スペースや利用者側の受け入れ態勢が整わなければ活用は進みません。平時からベッドや間仕切りの意義を共有し、優先順位のつけ方を運営者と住民の双方で確認しておくことが役立ちます。


要配慮者・多様なニーズへの配慮

避難所には高齢者や障害者、乳幼児、食物アレルギーのある方、外国人、ペット連れなど多様な避難者が集まるため、それぞれの事情に応じた備えが欠かせません。


高齢者・障害者・乳幼児への支援

震災時には、高齢者や障害者などの要配慮者に被害と負担が集中しやすい傾向があります。

西宮市によると、東日本大震災における障害者手帳所持者の死亡率は全住民と比べて2倍近くあったとされ、60歳以上の高齢者の犠牲が多かったことが明らかになっています。阪神・淡路大震災では、家屋の倒壊などにより多くの方が生き埋めになったり閉じ込められたりしましたが、その際に自助や共助で救助された割合は97.5%だったと調査で報告されています(参照*7)。内閣府によると、能登半島地震の避難所では、高齢者などの要配慮者や子どもに配慮したスペースの設置が進められました(参照*5)。

要配慮者の被害の大きさと、近隣による救助の割合の高さは、地域の共助の重要性を裏づけます。避難所内での区画配置や声かけの仕組みを、平時から地域単位で決めておくことが有効です。


食物アレルギー・外国人・ペット対策

食物アレルギーやペット同行など、多様なニーズへの備えは自治体ごとにばらつきがあります。

日本財団によると、2020年、2021年に厚生労働科学研究が行った調査では、6割の避難所においてアレルギー対応食の備蓄がないことなどが分かっています。能登半島地震で支援活動を行った3市3町へのアンケートでは、原材料を表示していたのは6自治体のうち2自治体にとどまりました(参照*8)。国会の会議録によると、環境省は自治体が地域の状況に応じたペットの災害対策を検討する際の指針となるよう、平成30年に人とペットの災害対策ガイドラインを策定し、能登半島地震での経験等を踏まえて改定作業を進めています(参照*6)。

アレルギー対応食の備蓄と原材料表示は、命に直結する情報でありながら整備が遅れがちな領域です。ペットについても、同行避難の可否と受け入れ体制を地域の運営マニュアルで具体化する必要があります。


住民主体の避難所運営体制の構築

避難所の環境改善を継続させるには、住民による自主運営と専門性を持つ外部団体の支援、そして平時からの訓練とマニュアル整備が土台となります。


自主防災組織とNPOの連携

住民が主体となる運営と、専門性を持つ外部団体の支援を組み合わせることが、避難所の環境改善を進める鍵となります。

内閣府によると、能登半島地震の被災地では、各地域に自主防災組織があり毎年防災訓練を実施していたことや、令和5年5月に発生した石川県能登地方を震源とする地震、いわゆる奥能登地震により住民の防災意識が高かったことが、住民による自主運営が実施できた要因の一つでした(参照*4)。防災白書によると、能登半島地震の発災以降、避難所運営や重機によるがれき撤去などの被災者支援を専門とする400を超えるNPO等が被災地に入り活動しました。令和6年1月2日からはNPO法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)が石川県庁に入り、専門性を持ったNPO等、行政、社会福祉協議会等との情報共有会議を通じて活動調整を行いました(参照*9)。

地域の訓練の積み重ねと、外部団体との情報共有の枠組みは、初動から復旧までを支える両輪です。地域の自主防災組織の活動状況と、行政・NPOとの連絡経路を確認することが役立ちます。


平時からの訓練とマニュアル整備

避難所を機能させるには、マニュアルの整備と、実際に体を動かす訓練が欠かせません。

内閣府によると、避難所の運営マニュアルを策定しているのは都道府県で66.0%(31)、市区町村で88.9%(1,167)でした。避難所運営要員となる防災部局以外の職員向けの避難所運営訓練等を実施しているのは、市区町村で65.8%(864)にとどまりました(参照*10)。東京都によると、女性や要配慮者を避難所運営委員会の運営メンバーに加え、当事者の意見を運営マニュアルに反映させることが求められています。メンバーの4割以上を女性とするなど作成段階から女性の参画を推進し、平時の避難所運営の話し合いでは子どもの意見も聴いてマニュアルに反映することが示されました(参照*1)。

マニュアルの策定率と訓練の実施率の差は、書類だけでは運営が動かない現実を示しています。女性や子ども、要配慮者の視点を運営に反映する枠組みを、平時から具体化することが有効です。


自治体の先進事例と自助の備え

トイレカーの相互派遣協定に代表される自治体間の連携と、在宅避難を支える家庭の備蓄は、避難所への集中を和らげる有効な手立てです。


トイレカー・協定など自治体の取組

自走式のトイレカーを軸にした自治体間の相互応援は、震災時のトイレ環境改善に直結する取組として広がっています。

内閣府によると、兵庫県南あわじ市、愛媛県宇和島市、長崎県島原市は、災害時における避難所等のトイレ対策として自走式のトイレカーを導入し、相互派遣協定を締結しました。3市は、令和6年能登半島地震において、トイレカーと職員を現地に派遣し、衛生面と快適性を確保したトイレの支援を実施しました(参照*10)。

複数の自治体で機材と人員を融通し合う仕組みは、単独の備えでは届かない支援を実現する現実的な選択肢です。自治体が同種の協定に参加しているかどうかの確認も、備えの評価につながります。


在宅避難と個人の備蓄

避難所の収容力には限界があり、自宅で安全に過ごせる場合の在宅避難と個人の備蓄が重要になります。

2025年12月に政府が発表した首都直下地震における新たな被害想定では、指定避難所に避難する人数は発災2週間後には最大で約480万人、うち東京都区部で約160万人に達し、指定避難所の収容可能人数を超えると予測されています(参照*3)。政府広報オンラインによると、自宅に倒壊などのおそれがなく安全に過ごせる場合は、できる限り在宅避難として自宅にとどまるようにし、そのためにも個々の住宅の耐震化などとともに、最低3日間、推奨1週間の飲料水や食品などを備蓄することが呼びかけられています(参照*11)。

収容想定と備蓄の目安を並べて見ると、避難所依存だけでは生活を維持しづらいことが分かります。自宅の耐震性、家具の固定、水と食料の在庫日数を、家庭ごとに点検することが有効です。


おわりに


震災時の避難所運営は、単に場所を用意するだけでなく、トイレ・食事・寝床という生活の基盤を整え、多様なニーズに応えることが求められる領域へと変わりつつあります。能登半島地震での経験や首都直下地震の被害想定は、従来の体育館型避難所の延長では対応が難しい現実を示しました。

そのため、防災TKBの整備、要配慮者への配慮、住民主体の運営、自治体間の協定、そして在宅避難と個人の備蓄という複数の層を重ねる発想が欠かせません。能登半島地震の教訓と新たな被害想定を踏まえ、地域と家庭の備えを数値と体制の両面から見直すことが求められます。

【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する日本最大の展示会

【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する
日本最大の展示会


参照



■関連する記事