改めて見直したい水害対策!地域や家庭でできる取り組みや自治体の対策事例を紹介
ここ数年、水害によるリスクが深刻になってきており、自治体だけでなく地域や各家庭を巻き込んだ水害対策が求められています。
しかし、自治体と地域住民が連携して対策できている地域はごくわずかです。
そこで本記事では、水害対策の概要、水害対策グッズ、自治体の取り組み事例などを紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。
家庭や地域でできる水害対策
近年、集中豪雨や大型台風が増え、水害リスクが深刻化しています。
自治体の治水工事だけに頼らず、家庭や地域が主体的に備えることで被害を減らすことが可能です。
ハザードマップの活用や土嚢などの準備はもちろん、スマート防災技術や地域コミュニティの協力によって、安全な暮らしを実現することができます。
水害ハザードマップの活用
水害ハザードマップは、地域特有の浸水リスクを把握する重要な資料です。
定期的な更新で気候変動や地形変化にも対応し、住民参加型で作成すれば実際の冠水例や浸水履歴を反映できます。紙とデジタルの両方を活用し、各家庭がリスクを具体的にイメージしやすい体制を整えましょう。
適切な避難ルートや避難先が把握できるだけでなく、家族構成や周辺環境を踏まえた避難計画の見直しにも役立ちます。
家庭での土嚢・水嚢対策
家庭や地域で土嚢や水嚢を使うときは、以下の点に注意するとよいでしょう。
● 家周りの侵入経路(ドアや窓、基礎の隙間など)を事前に確認
● 土嚢・水嚢の必要個数と詰め方をチェックリスト化
● 高齢者や体力面で不安がある世帯は地域で作業を分担
● 自治体の備蓄倉庫と連携し、資材を迅速に供給
● 大雨時は軍手や防水手袋を着用し、視界の悪い中での安全確保を徹底
こうした準備が浸水被害の軽減につながり、地域の結束も高めます。
家庭用水害対策グッズの選定
家庭で活用する水害対策グッズを導入する際は、耐久性やコストパフォーマンスなど、以下のことを意識するとよいです。
● 防水バッグや小型排水ポンプなど、メーカーごとの性能や価格を比較
● 公的機関や自治体の検証データがあれば活用し、品質を見極める
● 補助金や助成制度を活用し、費用負担を軽減
● 導入後は実際に試用し、家族内で取り扱いを共有
実績がある製品や導入事例も参考にしながら、家庭ごとの状況に合ったグッズを選びましょう。
家庭向けスマート防災技術の活用
IoTセンサーを家屋や地下室に設置して水位をリアルタイムで監視し、しきい値を超えればスマホへ通知する仕組みが注目を集めています。
AIを活用した洪水予測では気象データや地形情報を解析し、従来より高精度な推定が可能です。行政からの避難勧告に先立ち、自主的な避難判断を早める材料としても期待されます。
防災アプリには緊急情報のプッシュ通知や家族の位置共有など多機能なものもあり、高齢者やITに不慣れな方でも使いやすい機能を備えたアプリを選ぶことで、地域全体の防災力が底上げされるでしょう。
家庭内防災訓練と情報共有
家族全員で避難ルートを確認したり、水嚢を配置する想定をシミュレーションするだけでも、防災意識は格段に高まります。訓練後は意見を出し合い、家の構造的な問題点や段差などを再確認しましょう。
通信手段が遮断される可能性を考え、非常時に集合すべき場所や連絡方法を定めておくことが重要です。
自治体が行う防災説明会や近所とのコミュニケーションを通じて学んだ情報を共有し、家庭での対策をさらに充実させることが効果的です。
地域コミュニティによる自主防災活動
自治体のハード対策だけでなく、住民主体の自主防災組織や水防団が定期的に訓練を実施し、迅速な避難誘導や土嚢設置が行えるようにしておくことがポイントです。
全体で災害対応マニュアルを作り、役割分担や連絡網を整備すれば、緊急時に誰が何をするかが明確になり、被害拡大を抑えられます。
SNSやチャットアプリを使って大雨の予報情報を早期に共有し、各家庭が準備に取りかかれるようにする仕組みも有用です。
日本の水害対策の取り組み状況
日本は地形や気候の影響で洪水が多発しやすく、河川改修やダム整備など大規模な施策に力を注いできました。
しかし、インフラの老朽化や気候変動の激化を受け、ハード整備だけでなく住民参加型のソフト対策やデジタル技術の導入が急務となっています。
ここでは、河川対策、流域・地域における対策、災害リスクを考慮したまちづくりの取り組み、この3点に絞ってお伝えします。
河川対策
ダムや遊水地による洪水調節、放水路の建設などで水位を抑える手法が広く採用されています。
老朽化施設に対しては長寿命化計画を策定し、計画的なメンテナンス・更新が重要視される状況です。
近年はスマートセンサーを導入して水位をリアルタイム監視し、大雨による急激な増水をいち早く捉えて避難勧告に結びつけるケースが増加しています。
河道掘削や堤防強化など伝統的な方法とも並行して、環境面にも配慮した総合的な治水が目指されています。
流域、地域における対策
雨水貯留施設や浸透ますを設置する「流域対策」は、浸水リスクを抑えるうえで有効です。
輪中堤や宅地の嵩上げといった手法を土地利用規制と組み合わせ、洪水被害を局所的に防ぐ事例もあります。
内水氾濫のリスクがある地区では、排水機場整備と河川管理者・地方公共団体の連携が欠かせません。
また、グリーンインフラを取り入れ、公園や緑地を雨水の貯留空間として活用する動きも活発化してきています。
こうした多角的な対策が、広域的な浸水被害の軽減に貢献しています。
災害リスクを考慮したまちづくりの取り組み
床上浸水の危険が高い地域では、災害危険区域の指定や建物の耐水化、移転などを推奨する動きが進行中です。
莫大な費用と長い工期を要する堤防整備だけに頼らず、地域コミュニティが土嚢を積んだり、互いに避難を促したりする「共助」が重視されています。
さらに、気候変動を想定した長期的なリスク評価や早期警戒システムを導入し、避難計画や復旧段階でもデジタル技術を活用する自治体が増えています。
行政・住民・企業の連携によって、多方面からまちの安全を高める試みが続けられています。
自治体の水害対策の取り組み事例
大都市圏では下水道や高規格堤防など大規模インフラの整備が進み、中山間地域や離島では住民参加型のネットワーク構築が欠かせません。
ここでは、以下の都市の事例を紹介します。
● 東京都
● 大阪府
● 名古屋市
● 京都市
● 福岡市
● 仙台市
自治体相互や民間企業との連携を深化させ、情報共有や技術導入を通じて防災レベルの底上げが図られています。
また、これらの自治体のように「ハザードマップを定期的に見直す」「地域住民が防災訓練に積極的に参加する」「グリーンインフラを導入する」といった取り組みを継続して行うことが望ましいでしょう。
東京都
河川水位をリアルタイムで監視し、異常を感知すれば即座に警告を出す仕組みを整備しました。IoTセンサーやデジタルハザードマップを活用し、住民はスマホで危険度や避難場所を把握できます。
また、官民の協力で通信回線などの保守を行い、災害時の情報断絶を防止しています。
多角的な対策は、都内に集中する人口や複雑に入り組む都市構造を背景に、行政と市民の協働で水害リスクを最小限に抑える方策として注目を集めています。
大阪市
雨水貯留施設や透水性舗装の整備により、急激な降雨でも下水道や河川への流入を遅らせ、浸水被害を軽減しています。
都市緑化や公園の水辺空間再整備で、自然の吸収力を高めるグリーンインフラにも注力しています。
さらに排水ポンプ場や下水管の能力を強化し、集中豪雨に対応できる体制を整えている点が特徴です。
気候変動の影響による豪雨の頻発化が見込まれるなか、自治体と企業、住民が連携し、防災と環境保全を両立する取り組みとして今後も拡大が期待されています。
名古屋市
高度成長期に整備された施設の老朽化を踏まえ、更新・耐久強化を計画的に実施すると同時に、異常時の放流制御システムを導入し、豪雨時には自動操作で水位を調整しています。
洪水予測データの精度向上を反映した新ハザードマップも作成し、どの地域がどの深さで浸水するかを可視化しました。これには、住民一人ひとりが現実的な対策を取りやすくなるメリットがあります。
これらの取り組みを中心に、名古屋市では防災教育や避難訓練にも力を入れ、市民意識の向上と行政・地域の連携強化を図っています。
京都市
「京都市水共生プラン」に基づき、鴨川などで自然護岸や湿地再生を行い、水の流れを活かした浸水被害の緩和策を重視しています。河川敷を多自然型公園として整備し、普段は憩いの場、増水時には遊水地として機能させています。
伝統ある町家や神社仏閣にも配慮した防水設備を検討し、大学や研究機関との連携で技術開発を進めるなど、古都ならではの独自防災体制を構築しています。
歴史と自然に根ざした環境を守りながら、水害リスクを抑えこむための知恵が積み重ねられており、他の都市では得られないユニークな視点を盛り込んだ防災体制の確立が進められています。
福岡市
九州北部で台風や梅雨前線の被害を受けやすい福岡市は、「雨水整備Doプラン2026」を策定し、排水ポンプ場の性能向上や雨水管拡張を段階的に実施しています。
また、各エリアの排水能力を定期的に検証し、新たな豪雨パターンにも柔軟に対応中です。
さらに、地域住民への周知活動にも力を入れ、「なぜこの場所で浸水対策を行うのか」「どの程度の効果が期待できるか」を具体的に説明することで、住民が自主的に防災行動を取りやすい環境を整えています。
仙台市
東日本大震災の経験を踏まえ、自治体・消防・警察・住民が参加する統合防災訓練を定期的に実施しています。
実際の水害を想定した机上演習や現場訓練を組み合わせ、情報連絡や避難誘導の問題点を洗い出しつつ、津波避難訓練とも連携し、複合災害を視野に入れた対策を強化している点が注目されます。
また、参加対象者を子どもから高齢者まで幅広く設定し、世代間の協力体制が構築されるよう工夫が凝らされているのも特徴です。
こうした継続的な取り組みによって、災害が発生した際の対応速度や災害対策本部からの指示伝達精度が高まり、実際の被害を最小化できる体制づくりが進んでいます。
主な水害対策グッズ
水害対策では、被害発生後にすぐ使える各種防災グッズが欠かせません。ここでは主な水害対策グッズとして、以下のものを紹介します。
● 吸水土のう・水嚢
● 止水板・防水シート
● 個人用防水装備
● ポータブル排水ポンプ
● 防カビ・除湿対策グッズ
● デジタル水位計・警報システム
● 防水モバイルバッテリー
吸水土のうや止水板、防水装備、デジタル水位計などを平時から用意し、家族構成や地域特性を踏まえて最適な種類と数量を揃えると、非常時の対応がスピーディーになります。
吸水土のう・水嚢
従来の土のうより軽量・省スペースなタイプが普及し、水に触れると短時間で膨張し浸水をブロックします。
砂を準備せずとも使えるため、高齢者や少人数世帯でも扱いやすいメリットがあります。自然分解素材の製品もあり、環境負荷を抑えつつ、ドアや窓付近を素早く防御可能です。
自治体備蓄と組み合わせれば、被災エリアへの集中配布にも対応できます。
止水板・防水シート
ドアや窓、ガレージなど建物の開口部を物理的に遮断し、水の侵入を大幅に減らします。近年は軽量素材や工具不要の製品も増加し、女性や高齢者でも比較的簡単に取り扱えるのが特徴です。
防水シートを併用すれば泥水や細かいゴミの流入も抑えられ、後片付けの負担を軽減できます。
定期的な点検や取付訓練を行い、実際の豪雨時に戸惑わず対策を完了できるよう準備しましょう。
個人用防水装備(防水ソックス・防水手袋など)
冠水道路の移動や浸水後の清掃時に、足首や手首の浸水を防ぎ破傷風や皮膚炎リスクを下げるために役立ちます。
ゴアテックスなどの透湿素材を用いた製品なら蒸れを軽減し、長時間の作業も快適です。防水ズボンやレインウェアと組み合わせれば、作業範囲を広くカバーできます。
災害ボランティアへの貸与や自治体の備蓄品としても有効で、衛生面の確保に貢献します。
ポータブル排水ポンプ
床下や地下施設からの浸水を素早く排出するのに欠かせないアイテムです。バッテリー内蔵型や手動式など小型化が進み、停電下でも活用できます。
自治体が複数台を備蓄すれば、被害が集中したエリアでの貸し出しを円滑に行え、被害拡大を防げます。
感電防止対策やホースの固定方法などを含め、使用手順をあらかじめ確認し、使用後のメンテナンスも怠らないようにしましょう。
防カビ・除湿対策グッズ
浸水後、床下や壁内部に残った水分はカビや腐食の原因となります。除湿機や使い捨て除湿剤を複数設置し、可能な限り水分を取り除くことが重要です。
防カビスプレーや抗菌剤を活用し、建材の劣化や健康被害を抑えましょう。
停電時に備えて発電機やモバイル電源を用意する家庭も増えており、除湿を中断させない工夫が長期的な被害を軽減します。
デジタル水位計・警報システム
河川や建物周辺の水位を常時監視し、上昇時にアラートを出す仕組みです。スマホ連動型なら離れた場所でも状況を把握でき、高齢者や通勤・通学者への連絡もスムーズになります。
自治体が補助金を出す例もあり、設置が進む一方で、センサーの定期点検やバッテリー交換を怠ると誤報リスクがある点に注意が必要です。
住民全体で正しい運用法を理解し、警報作動時の行動を決めておくことが大切です。
防水モバイルバッテリー
豪雨時や浸水現場でもスマホやライトを充電できる防水バッテリーがあれば、連絡手段を維持して緊急情報のやり取りを続けられます。
ソーラーパネル内蔵型や手回し充電式など多機能モデルが登場し、避難所生活での電源確保にも役立つ点が注目されています。複数ポートを備えるタイプなら同時に複数台を充電でき、周囲とのシェアにも便利です。
ただし、完全防水でも長時間水中で使うことは想定されていない場合が多いため、取り扱い説明を確認し、定期的に点検する必要があります。
自治体は段階に応じた水害対応が必要
水害は予防・警戒・発生・復旧といった各段階で対応が異なります。総合防災計画や早期警報システムの整備、避難指示の迅速化など、多面的な取り組みが欠かせません。
さらに被災者支援や避難所運営など、各フェーズでの細やかな配慮が求められ、行政やボランティア、住民が協力し合う仕組みが大切です。
【市町村が実施すべき主な対策(フェーズ別)一覧】
● 災害対応体制の実効性確保
● 情報の収集・発信と広報の円滑化
● 避難対策
● 避難所等における生活環境の確保
● 応援の受入れ体制の確保
● ボランティアとの連携・協働
● 生活再建支援
● 災害救助法の適用
● 災害廃棄物対策
市町村は、防災計画やハザードマップを平常時から整備し、情報発信や避難指示を迅速化することで早期行動を促す必要があります。
復旧段階では被災者支援や廃棄物処理を効率化し、次の災害に備えるアップデートを欠かさないことが求められます。
最新のトレンドや製品・サービスの情報を入手するには、展示会への参加が効率的です。
自治体・公共Weekは「自治体DX」「地方創生」「スマートシティ」「防災」「インフラメンテナンス」「福祉」につながる製品・サービスを求めて、全国から自治体や官庁、公共機関が来場する展示会です。その場で商談も可能で、課題解決に意欲的な自治体と繋がることができます。
年に1回、東京ビッグサイトで開催しております。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する日本最大の展示会
【出展社・来場者募集中!】
全国から自治体関係者が来場する
日本最大の展示会
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。