ドーナツ化現象とは?引き起こす問題と対策方法

ドーナツ化現象とは、都心から郊外に人が流れることで、都心を中心にドーナツ型に人口が減少することをいいます。現在も日本だけでなく全世界的にドーナツ化現象は発生しており、日本の多くの自治体でも悩まされている問題です。

 

本記事では、ドーナツ化現象が起こる原因や現在生じている問題、解決策などを実例を用いて解説します。ぜひ最後までご覧ください。


▶監修・解説:並木将央氏
日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長 並木将央氏。
2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。
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ドーナツ化現象とは

ドーナツ化現象とは、都市が拡大するにつれて都心部はビジネスや商業用のビルが並ぶようになり、居住者が郊外に移転することを指します。都心部の人口が減少する一方、郊外の人口が増加する様子が、真ん中が空洞である「ドーナツ」に似ているため、ドーナツ化現象と呼ばれています。原因には、地価の高騰や住宅環境の悪化などが挙げられます。

 

次に、ドーナツ化現象が起きる原因と背景を4つ紹介します。

 


住宅環境の悪化やリモートワークの推進

都心の住宅環境悪化も、ドーナツ化現象の原因です。

 

都心は人口が集中しやすく、高層ビルの建設が絶え間なく行われています。したがって、自然は減少し、コンクリートに囲まれた環境で生活を送らなければなりません。

 

また、現在は新型コロナの流行で、コロナ感染を防ぐために人口密度の低い郊外に移動したり、リモートワークの普及で在宅ワークをする人が増えたりと、よりドーナツ化現象を加速させているともいえるでしょう。
 

実際に総務省の調査によると2021年の東京23区からの人口は初の転出増加となり、その要因として「リモートワークで居住地が問われなくなった」「出勤が減ったことによって住環境が良い郊外に移転した」ことなどが考えられます。
 



ドーナツ化現象がもたらす問題

次に、ドーナツ化現象がもたらす問題を紹介します。ドーナツ化現象は、都心・郊外どちらにも悪影響を及ぼします。ドーナツ化現象が加速した際に発生する問題を把握しておくと、迅速な対応ができるでしょう。

 


都心:ゴーストタウン化による治安の悪化や老年人口の増加

ドーナツ化現象は、都心のゴーストタウン化を加速させます。

 

ゴーストタウンとは一度形成された都市から人々が離れることで、一度形成された都市や集落が廃墟化して、居住していたことを示す建物や痕跡のみが残されている場所のことです。

 

多くの企業オフィスがある都心では、日中は栄えていますが、夜になると人々は住居がある郊外に戻ってしまうため、夜間はゴーストタウン化する傾向があります。

 

ゴーストタウン化した土地は、空き巣や放火など犯罪発生率が高まったりと、居住環境が悪くなりがちです。

 

また、「地域別にみた高齢化|内閣府」では、大都市ほど老年人口が増加していくことが予測されています。日中働き、夜には郊外に帰る働く世代が高齢者になり、都心部に戻ることは考えづらいです。そのまま郊外に定住してしまうため、老年人口が増えていくと考えられます。

参照:https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/s1_1_4.html
 


郊外:スプロール現象

スプロール現象とは、無計画に郊外の都市開発を拡大していくことです。インナーシティ問題同様に、ドーナツ化現象で生じる問題の1つです。

 

ドーナツ化現象が発生すると、スプロール現象も同時に発生します。スプロールは、英語で「sprawl」、日本語訳で「無計画(まとまりのない)」という意味です。

 

スプロール現象が発生すると、移動手段を確保できない人は、郊外での生活が困難になると言われています。
なぜなら、交通整備などのインフラ事業が整備されていない状態で、さまざまな公共施設や商業施設が建設されるからです。

 

日本では、庁舎、総合病院、文化施設などの中心部にある公共公益施設が郊外へと移転するケースが増えたことや、大規模商業施設の郊外建設などが、スプロール現象の加速を強めたと考えられています。

 

国土交通省社会資本整備協議会では、スプロール化した土地では、以下の問題が発生すると考えています。


【スプロール現象の問題点】
・公共交通の維持が困難になる
・超高齢社会の移動問題
・自然環境の破壊
・中心都市のさらなる衰退




ドーナツ化によって引き起こされるインナーシティ問題と逆ドーナツ化現象とは?

ドーナツ化現象は様々な問題を引き起こします。ドーナツ化現象に関連してよく出てくる概念があるので、2つほどご紹介します。

 


インナーシティ問題

インナーシティ問題は、ドーナツ化現象が原因で発生します。

 

インナーシティ問題とは、都心周辺の地域の衰退が進み、地域社会として成り立たず、運営そのものが難しくなることといいます。その原因には、人口の減少、高齢化、経済低迷、建物の老朽化などが挙げられます。

 

インナーシティ問題が進むと、地域社会の運営が難しくなったり、生活環境が悪化したりなど、都心の治安悪化につながります。

 

また、日本でもインターエリアになりうる可能性がある都市がいくつも存在しています。その理由として挙げられているものは、以下の通りです。

 

●  高度経済成長期の後半から徐々に地域の衰退が始まっているから

●  産業集積地区としての事業者の後継者が見つかりづらいから

●  地域産業の衰退と人口の流出で、地域内の統合状態が悪化しているから

●  インナーシティ問題は、日本でも解決すべき問題の1つです。

 


都心回帰(逆ドーナツ)現象

ドーナツ化が進んできたこれまでとは異なり、2010年代からは「逆ドーナツ化」現象と呼ばれる現象も起こっています。「都心回帰現象(逆ドーナツ現象)」とは、名前のとおりドーナツ化現象で都心から郊外に流出した人々が、再度都心に戻ってくることです。

 

都心回帰現象が起きると、都心部の消費エネルギーが増え、ヒートアイランド現象(都市の気温が周囲よりも高くなること)が発生したり、災害対策への遅れが生じたりします。

 

都心回帰現象が起こる理由は、以下のとおりです。


【都心回帰現象が起こる理由】
・地価の下落にともなった住宅価格・ビル賃料の低下
・経済悪化による土地供給の増大
・都心オフィスまでの通勤時間短縮


1980年代後半から1990年代前半にかけて地価の上昇により、住宅費用やビル賃料が値上がりしたため、総人口が減少しています。

 

しかし、1990年代後半になると、景気低迷による地価の下落で、事業所の維持コストや住居価格が低下したことで、地方から都心に回帰する人が増えています。

 

また、景気低下が原因で倒産した企業ビルや工場跡地などが、安価マンション大量供給のきっかけとなり、首都圏の地価下落につながりました。

 

最近になって都市部へと人々が戻り始めた理由はさまざまです。
例えば、地価の減少や若者の価値観の変化、シェアハウスなどシェア型賃貸の増加……などが背景にあると考えられます。
 


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ドーナツ化現象への対策|コンパクトシティ

ドーナツ化は都心部だけの問題ではありません。地方都市でも同様の問題が起こっているだけでなく、地方から都心部の郊外に移住することでドーナツ化を加速させています。そこでドーナツ化現象の対策として政府や各自治体で進められている「コンパクトシティ」構想についてご紹介します。

 


コンパクトシティとは

コンパクトシティとは、住宅や公共サービス、商業施設などをコンパクトにまとめた都市のことです。電車やバス、徒歩でさまざまな施設や公共サービスにいける交通インフラの整備が必要とされます。

 

そのため、コンパクトシティは、車を持っていない方でも生活しやすい環境だといえるでしょう。

 

コンパクトシティが注目されている理由は、以下のとおりです。


【注目されている理由】
・少子高齢化やドーナツ化現象により、都市拡大の重要性が減ったため
・高齢者が増えたことで、車を運転できない高齢者が住みやすい街作りのニーズが増えたため
・同一地域内でのお金の循環を促すため
・公共交通機関の利用者が増えると、自動車から排出されるCO2削減に期待できるため


コンパクトシティで都心の生活環境を整備することで、生活利便性の向上や自然環境の確保、財政管理の効率化など、ドーナツ化現象の改善に期待できます。

 

スプロール現象が起きるとさまざまな問題が発生するため、「コンパクト・プラス・ネットワーク」や「地方都市リノベーション事業」など、自治体全体で対策が実施されています。


【コンパクト・プラス・ネットワーク】
居住や都市機能をコンパクト化し、都市機能の向上を目的とした政策手段です。

人口減少・高齢者増加、拡散した市街地を対象に、地域経済の活性化や行政コストの削減、地球環境への負担軽減などの効果に期待できます。

参照:国土交通省「コンパクト・プラス・ネットワーク」


【地方都市リノベーション事業】
持続可能な集約型都市構造への再構築を目的とした事業です。

地方都市の市街地を対象とした対策で、医療福祉や教育機関などの都市機能に必要な公共施設の整備・維持を支援します。

参照:国土交通省「地方都市リノベーション事業」




コンパクトシティのメリット

コンパクトシティのメリットは、以下のとおりです。


【コンパクトシティのメリット】
・交通アクセスの最適化
・生活の利便性向上
・行政コストの削減
・各自治体の負担経験・サービス向上
・自動車のCO2削減による地球温暖化対策
・高齢者や子育て世代の移住増加
・災害対策の最適化


コンパクトシティには、さまざまなメリットがあります。

 

生活に必要な公共施設・商業施設をまとめることで、その地域に住んでいる住民の利便性を高めたり、コンパクトシティ内での個人間のつながりを強くするコミュニティ化を促進できたりなどです。
 


コンパクトシティのデメリット

コンパクトシティは、メリットばかりではありません。デメリットもしっかりと把握しておきましょう。


【コンパクトシティのデメリット】
・実施するコストや期間などを細かく考える必要がある
・財政状況が悪い地域の場合、インフラ整備などの費用で赤字化する場合がある
・人口密集による近隣トラブルの増加
・既存住民の生活コストが増加する可能性がある
・災害発生時に被害が拡大する可能性がある
・農業が衰退し、食料自給率が低下する


コンパクトシティで最も気を付けなければならないのが、既存住民の生活水準が上がることです。したがって、コンパクトシティを実行して地価が上昇すると、都市の財政バランスをくずしてしまう危険性があるのです。

 

コンパクトシティはメリット以外にさまざまなデメリットもあるため、デメリットを考えた上で、計画を立てましょう。

 


コンパクトシティの成功例3選

最後に、コンパクトシティの成功例を2つ紹介します。

1.青森県青森市


◆人口と面積の規模(令和4年時点)

人口:およそ27万人
面積:およそ824平方キロメートル


青森県青森市では、1999年6月に「青森都市計画マスタープラン(コンパクトシティの形成)」を策定し、郊外に広がる都市機能を中心市街地に集積することを目指す取り組みが始まりました。


【青森市の取り組み】
・中心市街地の再活性化
・ウォーカブルタウン(遊歩街)の創造
・冬期バリアフリー計画 など


青森市がコンパクトシティを実施した背景には、高度経済成長による市街地拡大の影響で、郊外ではインフラ整備や除排雪経費などの費用(およそ19億円)が増大したことにあります。

 

多額な除排雪費用の削減や、郊外への人口流出を防ぐために、コンパクトシティが実施されました。

 

現在では、コンパクトシティの実施により、主要道路で地熱や海水熱を利用した融熱(雪を溶かすこと)の導入や、利便性の優れた町への活性化に成功しています。


2.富山県富山市


◆人口と面積の規模(令和4年時点)

人口:およそ41万人
面積:およそ1,241平方キロメートル


富山県富山市は、市民の自動車への依存度が高いことを課題としてコンパクトシティを実施しました。市民の自動車依存は、ドーナツ化現象により、都心部から郊外に大型商業施設や公共施設などが移転したことが原因です。

 

富山市がコンパクトシティ戦略で実施した取り組みは、以下のとおりです。


【富山県富山市の取り組み】
・公共交通を活性化させて沿線に居住・商業・文化などの都市機能を集積させる
・まちなか居住の増加
・中心市街地の活性化(複合施設「グランドプラザ」「総曲輪レガートスクエア 」の整備など)
・市民向けの支援(住宅購入費や家賃の助成など)


これらの取り組みを実施した結果、平成20年からの転入・転出推移は、転入超過を維持しています。都心部に人が流入するようになったということです。

また、課題とされていた市民の自動車依存ですが、コンパクトシティを実施したことで、沿線居住区に転入する市民が増加し、公共交通機関の利用者を増やすことに成功しています。



まとめ

今回は、ドーナツ化現象についてまとめました。ドーナツ化現象は、都心から郊外に移る人が増え、主要都市を中心に円状に人口が減少することです。ドーナツ化現象が発生すると、さまざまな問題が引き起こされます。

 

リモートワークの推進などで郊外移住者が増加するなどドーナツ化現象が再び進行するなど今後の動向はなかなか見通せない部分もあります。しかし、問題解決に向けて政府や各自治体はさまざまな取り組みを進めており、今後の動向に注目が集まります。


▶監修・解説:並木将央氏

日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長。

1975年生まれ。東京理科大学大学院工学研究科電気工学専攻博士前期課程修了、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社、つくば研究開発センター研究員勤務。法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科修士課程修了。株式会社ロードフロンティアを設立し、成熟社会経営コンサルティング、企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。人口減少に伴う「成長社会」から「成熟社会」という社会の大きな変化に対応した経営変支援。人材獲得、人材育成、業務効率化、資金繰り、売上UPなどの課題を同時解決するコンサルティングサービスを提供。




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