自治体の広報が住民に読まれていない原因と改善方法

自治体による広報活動は、大きな転換点を迎えています。
以前は広報誌で一方的な情報配信をすることが中心でしたが、現在ではSNSや動画などの様々な媒体を用いて、相手の求めている情報を発信していくことが自治体における広報の役割となってきています。

 

「戦略的広報」という言葉がよく使われるようになり、自治体でも先進的な広報活動が行われています。
本記事では、自治体における広報の課題やそれを解決するための戦略、成功事例などについて紹介をしていきます。効果的な広報活動を行っていくために、ぜひこの記事をご参考になさってください。


▶監修・解説:並木将央氏
日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長 並木将央氏。
2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。
●監修者の詳細な経歴はこちら



広報の定義や自治体における広報の課題    

2022年時点で全国には約1700の自治体が存在しています。

 

地域の魅力をアピールし、移住者を増やすことなどを目的として、広報に力を入れる自治体が増えてきています。ゆるキャラの活用やSNSとの連携など様々な手法が採り入れられ、以前の自治体広報とは様子が変わってきています。

 

以前は役所からの「お知らせ」という形で、住民の求める情報というよりも役所が伝えたいことをお知らせする形態だったといわれています。しかし、広報の語源となっている「PR」とは、「パブリックリレーションズ(Public Relations)」の略語です。つまり、公衆とより良い関係を作るための施策のことで、組織と人をつなぐ考え方や活動を指すものです。

 

従来型の自治体広報(=お知らせ広報)では、本当の意味でのPR(=広報)を実現しているとは言えません。最近では自治体広報においても多くの変化が生まれてきています。一体どのように変化しているのでしょうか? まず自治体広報の目的を確認したうえで最近の傾向を紹介していきます。



自治体が広報活動を行う3つの目的    

まず、自治体が広報活動を行う目的についておさらいをします。大きく3つの目的があると言われており、それぞれ細かく解説していきます。

 


1.地域住民に必要な情報を伝える

まず1つ目の役割は「地域の住民に必要な情報を伝える」ことです。

 

防災、育児、介護など役所が取り組んでいることは住民に関わることが多く、非常に重要な情報です。自治体広報において最も重要な役割だといえるかもしれません。

 

全ての住民に広く、わかりやすく伝えていかなければ自分の住んでいる自治体でどんなことに取り組んでいるのかが伝わりません。しかし、従来型のお知らせをして、ただ伝えるだけの広報では不十分です。幅広い年齢層や多種多様なバッググランドを持った相手に伝わりやすいような手段や工夫が必要です。

 

また、何を住民が本当に必要としているか? は住民にヒアリングをしてみなければわかりません。必要な情報を伝えるためにも、積極的に住民ニーズを把握し、収集した情報の共有を行い、広報を行っていくことが大切です。

 


2.住民の街づくりや政策への参画意識の醸成

2つ目の目的は、「住民の街づくりや政策への参画意識の醸成」です。

 

これまでの一方通行的な自治体広報では、なかなか自分の住んでいる地域への興味関心が湧きにくいという問題があります。最近では市民と先端技術による問題解決手法である「シビックテック」(シビックテックについてはこちらの記事で解説しています)が盛り上がりをみせ、住民と行政が協力して問題解決に当たることが増えています。

 

そこで重要なのが広報活動です。住民の知りたい情報の提供が不十分であると、住民は街づくりや政策への参画意識が高まらず、地域との連帯感が希薄化していく可能性があります。

 


3.地域外の人にも自治体の魅力を伝える

3つ目の役割が、「地域外の人にも自治体の魅力を伝えること」です。

 

これまでの自治体広報は地域の住民に向けたものでしたが、現代ではそうした役割だけではありません。WebサイトやSNS上で情報を発信することで、移住を考えている方や旅行で訪れる先を探している外国人の方など様々な方の目に触れる可能性があります。

 

自治体の魅力を伝えることができれば、移住者の増加や企業誘致、インバウンド客の増加など、結果的に多くのメリットを得られる可能性があります。
 



自治体の広報を届ける6つの方法    

自治体の広報を届けるためにはいくつかの方法があります。

以前は広報誌が中心だったかもしれませんが、世代や性別によって使い分ける必要があります。ここではWebサイトやSNSなど主な手法のメリットや使い方などについて表を用いて解説します。


広報誌

○ 紙媒体である広報誌を全戸に配布。

○ 視覚的にデザインすることや魅力的な企画を作ることで、親しみやすい冊子にすることなどが可能。

○ 抽選をつけることで市民からの反響も計測可能。


SNS

○ イベント当日のライブ配信やフォロワーへの返信などでリアルタイムで市民とつながることができる。

○ 手軽で簡単に日本中や世界中の人に届けられる。

○ 数字の分析が容易なため、PDCAが回りやすい。


メール

○ 広報誌やWebサイトなどと連携することで、住民が目に触れる機会を増やすことができる。

○ アンケートもフォームを設置することで容易に取りやすくなる。


Webサイト

○ 自治体からのお知らせを掲載するだけでなく、メールやSNSと連携させることで、多くの情報を漏れなく伝えることができる。

○ 内部リンクを整えることで、目的のページだけでなくそれ以外のページを見てもらえるメリットがある。


映像

○ 認知:魅力をアピールした映像を作成することで、認知度が高まる。

○ 参加・利用:イベントの模様を配信することで、より参加しやすくなる。

○ 国勢調査のネットでの回答方法を配信することで、利用を促進できる。


パブリシティ

○ メディアやプレスリリース配信サイトなどに情報を提供や掲載することで、より多くの方に知ってもらうことが可能となる。





これから求められる自治体広報の戦略とは  

これからの自治体広報にはどんなことが求められていくのでしょうか?

今後求められていく重要な戦略について3つに分けて紹介します。

 


住民ニーズに沿った情報発信を行う

まず重要なことは、住民が知りたいと思っていることをきちんと伝えていくことです。

 

公益財団法人日本広告協会「自治体の広報活動調査からみた自治体広報紙の必要性」という調査によれば、ある市の住民に対して市の情報に対するニーズを尋ねています。その結果、以下のような回答を得られました。


1.健康・福祉・医療介護  76.4%
2.防犯・防災  47.8%
3.環境・ごみ・リサイクル  45.7%
4.観光(観光名所・イベント)  33.4%
5.各種証明・届出(税・戸籍など)  30.4%
6.教育(子育て・学校)  30.3%
7.市の施策、計画  26.5%
8.生涯教育(講座・サークル活動)  25.4%
9.住まい・上下水道  23.6%
10.都市計画・道路  23.1%


もちろん内容や数値などは地域差があるかもしれませんが、求めている情報に大きな違いはないと思われます。この調査のように住民ニーズを調査し、何を求めているか知ることで、住民が求めている広報活動に近づいていくはずです。
 


目的に合わせて媒体を選ぶ

また、目的に合わせて媒体を選ぶことも重要です。

自治体の広報には防災、福祉、環境、観光……と様々な種類があるうえ、多くの年代の方に届けないといけません。そのためには何か1つだけの媒体では届きづらく、複数の媒体を組み合わせて情報発信していく必要があります。

媒体ごとに特色を踏まえ、目的に合わせたメディア媒体の例を紹介します。


行政情報を認知してもらうメディア

種類や量の多い情報を網羅的に伝えることができるため、Webサイトや広報誌が最適です。特にWebサイトは活用の幅が広く、下記のような活用も可能です。

・目的ページだけでなくお知らせをしたい他のページにも誘導できる

・ソーシャルボタンをWebサイトに設置すると、SNSで共有が可能となり、多くの方に伝播する

 

観光情報を認知してもらうメディア

映像やSNSが最適です。映像では文字では伝わりにくいことまで伝えられることが可能なほか、SNSには、「即効性・手軽さ・拡散力に優れている」というメリットがあります。観光スポットの魅力を余すことなく伝えられ、興味関心を高めることが可能となります。

 

防災情報を認知してもらうメディア

SNSやメールが最適です。最近ではSNSを利用して避難場所などの災害情報を調べる方も多く、リアルタイムに情報を伝えることが可能です。また、災害対策は必ず知っておいてほしいことも多くの年代の方に届けることができます。



外部人材(プロ人材)の活用という方法も

未経験でいきなりSNS運用やパブリシティを行うことはハードルが高いかもしれません。その場合、外部人材(=プロ人材)に頼ることがおすすめです。しかし、コストがかかるデメリットもあります。

 

実際、全国的に自治体による外部人材の活用が進んでいます。例えば兵庫県三木市では、「複業人材登用による情報発信強化に向けた実証実験」を実施しました。同市では、「市民から『市が何をしているか分からない』という意見をいただき、情報発信力が長年の課題」だったそうです。

 

そこで、市の情報発信の強化に加え、職員のスキルを高める手助けをしてもらうことを目的として専門的な人材の登用を決定しました。同市のような取り組みは全国的に広がりを見せており、難しい場合はこうした専門的な人材に頼るのも一つの手です。
 


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自治体の広報成功事例3選    

実際に国内で広報に成功している自治体が生まれ始めてきています。いくつかの成功事例について具体的に紹介します。

 

神奈川県葉山町

SNS、特にInstagram活用の先駆けとして有名なのが、神奈川県葉山町です。

同町の
Instagramのフォロワー数は、約3.7万人と成功している自治体の1つです。

Instagram活用の目的は「移住促進」で、若い世代に興味・関心を持ってもらうために運用を行っています。特徴的なのがハッシュタグです。「#葉山歩き」というハッシュタグをつけることで、自治体からの発信だけでなく一般ユーザーにも投稿してもらうことで、町の魅力を様々な角度から発信してもらうような工夫をこらしています。

因果関係までは分析しきれていないようですが、転出者よりも転入者の方が増加傾向にありSNS運用による効果が出ているようです。

 


茨城県

2009年の都道府県魅力度ランキングで最下位になった茨城県では、戦略的な広報を推進しています。特に有名なのが、県で運営する動画サイト「いばキラTV」の活用です。

民放の県域テレビ局を持たない茨城県では、動画配信という手段に着目し、地域の魅力が伝わる動画を作成することで、PRにつなげようとしました。1万本以上の動画を作成し、精力的な活動を続けたことで、「動画掲載本数・総再生回数・チャンネル登録者数」の3冠を達成し、都道府県運営の動画サイトとして国内トップの地位を獲得するまでに至りました。

今後も観光や外国人観光客の誘致、県産品の認知度アップなどを目標として活動を続けていく予定だそうです。


千葉県流山市

千葉県流山市では、日本の自治体で初めてとなるマーケティング課を創設し、広報活動を行っています。民間から専門人材を登用し、新たな取り組みを進めています。

 

他の多くの自治体と同じように流山市でも人口減少や高齢化の進行、財政状況の悪化などが課題となっています。そこで注力した施策の1つが「シティプロモーション」と呼ばれるものです。「シティプロモーション」は多義的な概念ですが、簡単に言えば「地域の売り込みや自治体名の知名度の向上」のことです。

 

同市では、長寿社会を支える共働き子育て夫婦「DEWKS」(Double employed with kidsの略。共働きの子育て世代のこと)をメインターゲットにしたマーケティング施策(PR施策)を推進してきました。

 

具体的に下記が挙げられます。

●「母になるなら、流山市。」という交通広告を首都圏向けに展開

●  主要駅に駅前送迎保育ステーションの設置

●  保育園の利便性の向上 など

 

現在では、「流山市ブランディングプラン」を策定し、流山をブランドにしていくための街づくりを市民と一緒に行っていこうとしています。



自治体における広報でよくある課題や疑問  

自治体広報を行っていく上で、よく疑問や課題に挙がるのが

 

    ●  Webサイトに関すること

    ●  肖像権や著作権に関すること

    ●  表記について

 

などです。

 

こうした疑問に対して、公益社団法人「日本広報協会」では「お役立ちナビ」の中で、具体的な事案に即して、それぞれ説明しています。

 

例えば、「広報紙や広報ビデオに、市民が映った写真や映像を使用する際の肖像権の取り扱いについて知りたい」という場合、同法人の資料では、下記のように説明がされています。


(A)肖像権とは、法律上はっきりと規定されたものではありませんが、一般に次の権利を言います。

 

みだりに顔や姿を撮影されない権利

撮影された肖像写真などの利用を拒否する権利

肖像写真の利用時に、本人の財産的利益を補償する権利

 

近では、人権意識やプライバシー意識の高まりから、肖像権を巡るトラブルが増えてきているようです。広報の分野でも、プライバシーや肖像権には十分な配慮が必要です。

 

まず、撮影時に注意したいことは、次の2点です。

 

1.(相手に対して)撮影していいかどうか了解を得ること

2.その写真等を広報紙やビデオに使っていいかどうか了解を得ること

 

また、了解を得ずに撮影した肖像写真を、後日、広報紙に使う場合は、改めて本人に掲載したい旨を伝え、了解を得なければなりません。


広報活動では、多数の関係者との調整が必要となるため、迷うことやわからないことも多々出てくることでしょう。その際に上記サイトが解決の一助になることもありますので、ぜひご参考になさってください。




まとめ|地域住民に自治体の広報を伝えよう    

本記事では、広報の定義や自治体における広報の課題といった前提から、これから求められる自治体広報の戦略や実例などについて紹介をしてきました。広報の成否は自治体の今後の行く末に関わってくる重要な領域です。魅力を伝え、多くの方から注目をされる自治体になるよう、取り組んでいきましょう。

 

一方的な情報配信をするのでなく、様々なツールを用いながら住民が知らない地域の魅力を知らせる情報を発信していくことが自治体における広報の役割となってきています。また、そうした取り組みが全国各地で少しずつ始まっているのです。

 

効果的な広報活動を行っていくために、ぜひこの記事をご参考になさってください。

 


▶監修・解説:並木将央氏

日本の成熟社会の専門家、経営コンサルタント、株式会社ロードフロンティア代表取締役社長。

1975年生まれ。東京理科大学大学院工学研究科電気工学専攻博士前期課程修了、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社、つくば研究開発センター研究員勤務。法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科修士課程修了。株式会社ロードフロンティアを設立し、成熟社会経営コンサルティング、企業セミナーや大学での講演などを幅広く行う。2014The Japan Times「次世代のアジアの経営者100人 2014」に選出。人口減少に伴う「成長社会」から「成熟社会」という社会の大きな変化に対応した経営変支援。人材獲得、人材育成、業務効率化、資金繰り、売上UPなどの課題を同時解決するコンサルティングサービスを提供。




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