ハザードマップとは|災害別の種類や課題・作り方を解説


▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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  ハザードマップとは  

ハザードマップとは、自然災害が発生した際に想定される危険な場所や、避難経路・避難場所の情報を地図上にまとめたものです。市区町村単位で作成され、そのエリアに自宅や勤め先を持つ人が、災害時のリスクを事前に把握することを目的としています。

 

ハザードマップは、洪水・土砂災害・火山の噴火など、災害の種類ごとに作られることが特徴です。それぞれの災害に応じた危険箇所が細かく記されており、市区町村役場やホームページ、国土交通省のポータルサイトで入手できます。
 


防災マップとの違い

ハザードマップとよく似ており、混同しやすいものが「防災マップ」です。両者はいずれも災害を想定して作られていますが、目的に明確な違いがあります。

 

防災マップは、避難に必要な情報を地図上に示したものです。安全に避難することが目的のため、災害の種別ごとに作られることはありません。対してハザードマップは、災害発生時の危険回避を主な目的とした、被害予想図の側面があります。そのため災害の種別ごとに作成する必要があり、その点が防災マップとの大きな違いです。



ハザードマップの主な活用方法とは  

ハザードマップは、防災・減災を推進する上で、非常に役に立つ資料であることは間違いありません。しかし、住民の認知度は高くないのが現状です。ある調査によると約半数の住民が、「存在を知らない」「知ってはいるが避難の参考にしていない」と回答した例もあります。

 

ハザードマップの活用を促す啓発活動には、まず存在を知ってもらい、活用方法を理解してもらうことが必要なのかもしれません。以下でハザードマップの活用方法を解説します。

 


住んでいる地域の災害リスクを知る

自身が居住する地域や、勤め先・学校など、頻繁に立ち寄るエリアの災害リスクの把握に活用できます。自宅が危険度の高い場所にあると事前に知っていれば、早めの避難行動につながるでしょう。家族の立ち寄り先が危険箇所に指定されていると知っていれば、注意を促す声かけもできます。

 

災害発生時のリスクを事前に知っていれば、危険箇所に近づくこともありません。混乱のないスムーズな避難が可能になり、被害の広がりを食い止めることにもつながります。
 


指定緊急避難場所を事前に把握できる

災害に応じた指定緊急避難場所と避難ルートの事前確認に活用できます。実際に災害が起き、避難の必要性が生じたときに、やみくもに動くのは危険です。知らずに危険箇所を通行してしまい、巻き込まれてしまうことも考えられます。

 

ハザードマップで、災害の種類に応じた避難場所と安全な避難ルートを把握しておくことで、いざというときに慌てず行動でき、結果として自身の身を守ることにつながります
 


通行規制の可能性がある避難ルートをチェックできる

ハザードマップには、道路防災情報を提供しているものもあります。土砂崩れや冠水により、道路の寸断が予想される箇所をあらかじめ知ることができるのです。

 

避難ルートを把握し安全に避難していても、道路が寸断されればそこで立ち往生し、被害に合うことも考えられます。事前にそのリスクを把握しておくことで、より安全に避難できるでしょう。



災害別ハザードマップ8つの種類  

自然災害は、洪水や地震、津波や火山の噴火など、様々な種類があります。当然、それぞれの災害に応じて発生するリスクや危険箇所は異なります。災害の種類ごとに異なるハザードマップを作成するのは、こうした理由によるものです。

 

ハザードマップは、以下の8種類があります。
 


洪水ハザードマップ

洪水ハザードマップは、大雨により堤防が決壊した際に、浸水の恐れがある範囲や浸水の度合い(深さ)を把握するものです。あわせて、洪水発生時の避難場所や避難ルートの情報も記載されています。

 

まず、自宅のある場所が、浸水の可能性のあるエリアなのか、そうではないのか確認しておくと安心です。自宅に浸水のリスクがあると知っていれば、早めの避難につながるでしょう。孤立して救助を待つといったこともなくなります。
 


内水ハザードマップ

内水とは、大雨により下水道設備にキャパオーバーが発生し、水が地上にあふれ浸水する現象を指します。下水道の整備不足や放出する河川の水位が増し、放出できなくなったことが原因で起こります。

 

洪水であれば、河川の流域が危険箇所になることは、感覚的に分かるでしょう。しかし、内水は河川の側だけで起こるものではありません。内水ハザードマップの確認が、リスク回避の唯一の手段といってもよいかもしれません。
 


高潮ハザードマップ

高潮とは台風や発達した低気圧により、海面水位が上昇する現象です。満潮時と重なると沿岸地域に広い範囲で浸水が発生し、大きな被害につながる恐れがあります。

 

高潮は突然潮位が増して、うねりとともに瞬く間に浸水してしまうことも多く、避難のタイミングによっては、浸水に巻き込まれてしまうかもしれません。沿岸に自宅がある場合は、高潮ハザードマップを確認し、安全な避難経路や逃げても大丈夫な高台を確認しておく必要があります。
 


土砂災害ハザードマップ

土砂災害とは、大雨により地盤がゆるみ山の斜面が崩れる現象で、土石流・地すべり・がけ崩れなどを引き起こすものです。土砂災害は、ほぼ毎年のように大雨により発生し、家屋を巻き込み人の命を奪っています。

山の斜面に隣接した自宅を持つ住民は、必ず土砂災害ハザードマップを確認しておき、早めに避難することが命を守る行動につながるでしょう。なお、土砂災害ハザードマップは、「土砂災害防止法」により、各自治体に作成が義務付けられているものです。


津波ハザードマップ

津波とは、地震による衝撃で海面に大きなうねりを生じ、海水が沿岸に押しよせる現象です。沿岸地域はもちろん、川をつたい遡ることもあるので、河川の沿岸も危険区域に指定されることもあります。

 

津波の危険がある場合は、「まず高台に逃げる」が鉄則です。津波ハザードマップには避難場所とあわせて、安全な高台とその避難ルートも示されています。一度確認しておくことが、いざというときに自身の命を守ることにつながります。
 


火山ハザードマップ

火山ハザードマップには、噴火が起きたときに起こりうる、災害のリスクと発生が想定されるエリアが記載されています。火山による災害は、噴石の落下や火砕流・土石流、地すべりなど命の危険に直結するものです。また、噴煙や火山性ガスによる被害、火災のリスクもあります。

 

国内には多くの活火山があり、いつ噴火が起きるか分かりません。危険のある地域では、火山ハザードマップを確認し、避難のシミュレーションをしておく必要があります。
 


地震危険度ハザードマップ

地震危険度ハザードマップは、大規模地震の発生時のリスクを記載したものです。「ゆれやすさマップ」「地震危険度マップ」「液状化危険度マップ」に細分化されているケースもあります。

 

ゆれやすさマップは、南海トラフ地震における最大震度を予測したものです。地震危険度マップは、ゆれやすさから建物被害の度合いを予測したもので、全壊する建物の割合を地図上に示しています。全壊率の高いエリアでは、あらかじめ耐震補強をしておくなどの備えが必要です。
 


宅地ハザードマップ

宅地ハザードマップとは、造成地の危険度を地図上に示したものです。埋め立てや盛り土をして造成された宅地は、大雨や地震により、地すべり・土砂崩れ・土砂流出や被害を受けやすいため、監視や予測変動をする必要性があります。

 

造成地に住んでいる住民や周辺に造成地がある場合は、宅地ハザードマップを確認し、危険箇所を把握しておく必要があります。
 



  国土交通省のハザードマップポータルサイト  

国土交通省は、ハザードマップポータルサイトを公開しています。同サイトからは、国土交通省が作成した「重ねるハザードマップ」、全国の自治体が作成したハザードマップのリンクを集めた「わがまちハザードマップ」を閲覧できます。
 


  重ねるハザードマップ

「重ねるハザードマップ」は、国土交通省のホームページより閲覧できます。専用アプリはないですが、スマートフォンからも利用可能です。

 

サイトを開き、地図上のクリックや住所の入力により閲覧したい地域を選択。次に確認したい災害種別を選択すると危険区域が表示され、ほかの種別をあわせて選択すると地図上に「重ねて」表示されます。

 

さらに、「すべての情報から選択」をクリックすると、道路災害情報や指定避難場所などの情報が重ねて表示されます。
 


わがまちハザードマップ

わがまちハザードマップは、各市町村が作成したハザードマップですが、ポータルサイト上にリンクが集約されています。そのため、各市町村のホームページを探す必要がなく、ポータルサイトを検索することで、簡単にアクセスが可能です。

 

ポータルサイト上の地図で閲覧したい地域をクリックするか、都道府県・市町村・災害種別を選択することで各市町村のホームページの関連箇所にリンクしていきます。


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ハザードマップの作り方  

ここではハザードマップの作成手順を、洪水ハザードマップを例に解説します。

 

洪水ハザードマップは、大雨による河川の氾濫で浸水被害の可能性があるエリアの住民に対し、危険度や避難情報を知らせるものです。人的被害を防ぐことが第一の目的であるため、記載すべき情報が、分かりやすく伝わることが大前提となります。
 


ハザードマップの作成手順【例.洪水ハザードマップ】

ハザードマップの作成は、各市町村が主体となり行うものです。

 

まず、記載項目の検討からはじめます。洪水ハザードマップには、必ず記載すべき「共通項目」と、地域の特性にあわせて記載する「地域項目」の2種類を記載する必要があります。河川管理者より情報提供を受けながら、記載すべき「地域項目」を検討していきましょう。

 

次に、河川管理者から提供を受けた「浸水想定区域図等」を基本資料として、浸水想定地域を選定し洪水ハザードマップを作成します。その際、住民からの意見の反映や、市町村における地域防災計画との整合性もあわせてチェックが必要です。

 

完成した洪水ハザードマップは必要に応じて記載内容の更新を行います。更新に際して地域住民の意見を反映させることで、より信頼性・実用性の高いものにブラッシュアップされるでしょう。
 


ハザードマップの記載項目【例.洪水ハザードマップ】

洪水ハザードマップは以下の条件を満たすものとされています。


●     浸水想定区域が記載されている
●     避難情報が記載されている
●     市長村長が作成主体となっている


その上で記載すべき、「共通項目」と「地域項目」が定められています。

共通項目とは、洪水の危険性と避難に関する最小限の情報で、すべての洪水ハザードマップに原則として記載が必要とされている項目です。

 

●     洪水予報等・避難情報の伝達方法
●     気象情報等の在りか
●     浸水想定区域
●     避難場所
●     被害の形態
●     避難時危険箇所

 

上記6項目が、洪水ハザードマップに記載すべき共通項目です。

地域項目とは、市長村長の判断により洪水ハザードマップに記載すべきか判断する項目で、「避難活用情報」と「災害学習情報」の2つのカテゴリーに分かれます。

 

<避難活用情報>
●     浸水想定区域外の浸水情報
●     河川の氾濫特性
●     地下街等に関する情報
●     避難の必要な区域
●     避難時の心得
●     避難勧告等に関する事項
●     特に防災上の配慮を要する者が利用する施設の情報

 

<災害学習情報>
●     水害の発生メカニズム・地形と氾濫形態
●     気象情報に関する事項
●     水害に備えた心構え
●     洪水の危険性・被害の内容・既往洪水の情報
●     その他


地域項目は多岐にわたりますが、地域の特性に応じ必要とされるものを選択するとよいでしょう。見やすさや・分かりやすさを追求するのであれば、情報過多にならない配慮も必要です。



ハザードマップの課題  

ハザードマップは、災害発生時の被害拡大防止に大きな効果が期待できるものですが、十分に活用されていないことが課題として残されています。

 

令和5年4月に、「ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会」がまとめた資料、『「分かる・伝わる」ハザードマップのあり方について』によると、課題は大きく3つに分類されます。


防災意識の低い住民に浸透していない

まず認知度の低さは克服すべき課題といえます。令和3年8月にハザードマップ作成済の市町村の住民1500人にWebアンケートを実施したところ、「ハザードマップを見たことがない」と回答した人は31%にのぼりました。

 

閲覧しない理由は、「これまで危険が迫っていない」「危険がないと思っている」が上位を占めており、住民により防災意識に大きな差があることが浮き彫りになっています。

 


実際の避難行動に結びついていない

防災意識の高い住民は、ハザードマップを閲覧したことがあり、8割以上で避難や避難判断に役立っているといった回答をしています。

 

反対に「役に立っていない」「あまり役に立っていない」と回答した人は、全体の12%でした。その理由は「自宅にとどまってよいか避難所にいく必要があるか分からない」「どのような危険があるのか知らない」といった理由が上位を占めます。

 

防災意識の低さから、避難に対する認識が薄く、避難行動に結びつかない住民が一定数いることが分かります。

 


障害を持つ住人に向けたハザードマップが整備されていない

調査対象となった1747の市区町村のうち、障害を持つ住人に向けたハザードマップを整備しているのは、41市区町村と全体の2.3%でした。作成中と回答した市区町村とあわせても、5.3%と1割にも及びませんでした。

 

障害者向けハザードマップは、視覚障害者向けの「音声案内」がほとんどであり、そのほかの障害にあわせた伝達の方法については手つかずの状態であることが分かります。



まとめ:ハザードマップを浸透させるには防災意識を高める取組が必要  

ハザードマップは、災害発生時の被害拡大を防ぎ、人的被害を最小限に抑える効果が十分に期待できるアイテムです。多くの住民が閲覧し内容を理解することで、適切な避難行動につながるでしょう。

 

しかし、住民の認知度はさほど高くなく、実際の避難行動に結びついていない課題も残されています。ハザードマップを浸透させるには、住民の防災意識を高める取り組みが必要です。自治体の防災担当者が中心となり、ほかの自治体の活用事例を参考にしながら啓蒙・啓発を進めていく必要がありそうです。



▶監修・解説:北川哲也氏

補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。

2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。




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