自治体のAI活用はどう進む?活用事例をご紹介します。



はじめに

人口減少や少子高齢化による行政サービスの担い手不足の中、住民に対してきめ細やかなサポートを維持するため、自治体におけるAI活用への関心が急速に高まっています。特に、文章作成や要約を行う生成AIの導入を検討する自治体が増えており、業務効率化や住民サービスの質向上が期待されています。

本記事では、自治体におけるAI活用の現状と今後の可能性について、政策立案や業務効率化、ガバナンスなど多角的な視点から解説します。



自治体におけるAI活用の現状


自治体DXとAI活用の位置づけ

自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術の導入によって行政サービスの質を高め、住民の利便性を向上させる取り組みです。日本では2040年ごろには生産年齢人口が大幅に減少すると予測されており、従来の人海戦術だけでは対応が難しくなった結果、こうした社会課題の解決策としてDX文脈での「AI活用」が注目されています(参照*1)。

近年のデジタル施策では、住民に近い行政機関ほど役割が増しています。特に市区町村は住民の日常生活を支える最前線であり、国全体のデジタル社会実現に向けて重要なポジションを担っています(参照*2)。
このため、自治体では事務処理やデータ分析、住民対応など幅広い分野でAIの導入・検討が進んでいます。


生成AI導入状況

生成AIは文章作成や要約、対話型応答を得意とする技術として注目されていますが、総務省の調査によると、都道府県や指定都市での生成AI導入率は2025年前後で87~90%に達し、「実証中」や「導入予定」を含めるとほぼ100%となっています。
市区町村では導入率は30%前後ですが、導入予定や実証中を含めると約半数に上ります(参照*3)。


2026年に向けた政策動向

デジタル庁が主導する「デジタル社会の実現に向けた重点計画」でも、生成AIやデータ連携の活用が重要な施策として位置づけられています。2026年に向けては、住民視点での利便性向上や、中長期的な政府機能強化のために自治体情報システムの統一・標準化が進められ、

・AI・デジタル技術等のテクノロジーの徹底活用による社会全体のデジタル化の推進
・AI-フレンドリーな環境の整備(制度、データ、インフラ)

などが項目として挙げられています(参照*4)。

ただし、標準化作業は多くの自治体にとって大きな負担となるため、ガバメントクラウドの活用やAIガバナンス体制の整備も同時に検討されています。


AI活用による業務効率化の事例


文書作成・議事録作成の効率化

自治体業務の中で文章作成は大きな比重を占めます。議会答弁案や広報文書の作成には多くの時間が必要とされるため、生成AIの活用による業務効率化が進んでいます。
例えば、北海道・当別町では、議事録作成に生成AIを導入したことで、要約と文字起こし作業の時間が従来の4分の1に短縮されました(参照*3)。また、文章の要約機能により、職員が会議や打ち合わせのポイントを短時間で共有できるようになり、業務の重複も減少しています。

静岡県・湖西市では議会答弁書の作成時間が従来の3分の1に圧縮されました。同市では独自のデータベースと連携し、過去の答弁例や事例をAIが参照して文章を生成する仕組みを整備しています。議会対応に必要な情報収集や文章校正の負担が減り、政策検討や住民対応により多くの時間を割けるようになりました(参照*3)。こうした取り組みは、職員数が限られる自治体の業務効率向上に寄与しています。


住民対応・相談業務の効率化

住民からの問い合わせや相談業務は、自治体の基本的なサービスの一つです。この分野でも生成AIの活用が進み、チャットボットや自動応答システムを導入する自治体が増えています。山形市では、LINEチャットと生成AIを組み合わせて24時間対応を実現し、約9,000件の相談のうち7,500件をAIが処理しました。これにより人件費の削減効果は約2,000万円に上ると見込まれ、住民満足度の向上にもつながっています(参照*3)。

千葉県は、生成AIを活用した福祉分野チャットボット「いつでも福祉相談サポット」を2025年2月27日から導入し、24時間365日インターネット上(Web/LINE)で利用できる形で、相談内容を聞き取りながら担当部署や相談支援機関の案内を行っています。
誤った情報提供を抑える仕組みとしてFAQに登録された情報にもとづく案内を行い、運用面でもチャット履歴・フィードバック履歴・品質スコア等を出力して分析し、改善につなげる設計になっています(参照*5)。

実装の形は「自治体サイト上での案内」に限られません。内閣府の交付金(デジタル実装タイプTYPE1等)の採択事例集では、行政サービスの一類型として「リモートでの窓口対応(AIチャットボット導入等)」が挙げられ、具体の掲載団体として秋田県由利本荘市、滋賀県大津市が示されています(参照*6)。


データ処理・庶務業務の自動化

自治体には統計資料や住民情報など大量のデータがあり、これらを整理する作業が職員の大きな負担となっています。横須賀市では国民健康保険のデータ突合にAIを活用し、従来2時間かかっていた処理が10分程度で完了するようになりました。
庁内では研修資料の作成や法令理解のための教材作成など、創造性が必要な業務にもAIを積極的に導入しています(参照*7)。

データ処理と同時に重要なのがセキュリティと個人情報の管理です。泉大津市では、生成AIを使った業務改革の実証実験により、年間約1.8万時間、約3,800万円の削減効果が見込まれています。あわせてプライバシー配慮や情報の不可逆化処理も検討されており、庶務作業やデータ入力の自動化とともに、個人情報が外部に漏れない仕組みづくりが進められています(参照*8)。


AIを活用した政策立案の可能性


EBPMとデータ駆動型政策立案

EBPM(エビデンスに基づく政策立案)は、政策の立案や実施にあたり、客観的なデータや分析結果を積極的に活用するアプローチです。AI導入が進む自治体では、EBPMの高度化に向けた取り組みが注目されています。例えば、住民の人口動態や税収動向、防災・福祉の統計などをAIが継続的に分析し、その結果を政策担当者にフィードバックすることで、より的確な政策判断が可能となります(参照*2)。


シミュレーションとリスク予測

シミュレーションとリスク予測の分野では、自治体側で、中小河川・小規模水路での水位予測を行う動きもあります。国土交通省の資料には、藤枝市で「10分ごとに3時間後までの中小河川の水位をAIで予測」し、避難指示の迅速化や職員業務の合理化を狙った実証が整理されています(参照*9)。こうした短時間予測は、現場の巡回や水防資機材の配備、避難所開設の判断を「いつ・どこに」という運用設計に役立ちます。

上下水道などの維持管理では、AIとGISを使って管路の劣化リスクを推定し、点検・更新の優先順位付けに活用する考え方が自治体資料として示されています(参照*10)。


自治体間連携と知見共有

AIを積極的に導入し成果を上げた自治体が、他の自治体とノウハウを共有する動きが拡大しています。ガバメントクラウドや文書共有プラットフォームの活用が進めば、AIによるデータ分析結果や導入時の課題をスムーズにやり取りできる環境が整います。すでに一部自治体では他市と共同で生成AIの比較検証を行い、知見を持ち寄って実装までの期間を短縮する取り組みも始まっています(参照*11)。

こうした連携は、単独の自治体では負担が大きい分野で特に効果を発揮します。人口規模の小さい自治体ではAIエンジニアやデータサイエンティストの確保が難しいため、複数自治体が連携してプロジェクトを推進し、ノウハウやコストを分担する方向が現実的です。


自治体におけるAI導入の課題


人材不足とスキルギャップ

自治体がAIを導入する際に直面する大きな課題の一つが、人材不足と職員のスキルギャップです。総務省の調査によれば、AIを導入している自治体の多くがDX人材の確保に課題を感じており、専門職員の育成が急務となっています(参照*12)。


ガバナンス・セキュリティと標準化

AI導入の拡大に伴い、ガバナンスやセキュリティの確保がより重要になっています。従来は自治体ごとにシステムやデータ形式が異なり、相互運用性に課題がありました。国際指標「Government AI Readiness Index 2022」でも、日本はインフラ面で課題があると指摘されています(参照*7)。

この状況を改善するため、ガバメントクラウドや標準化された基幹業務システムへの移行が進められています。標準化によって業務システム間のデータ連携が円滑になり、AIの横展開も容易になります。セキュリティ面ではLGWAN(総合行政ネットワーク)環境に特化した生成AIの提供や、クラウド上での情報漏洩防止策が検討されています(参照*13)。


現場定着と期待値コントロール

AIを導入したものの、期待したほどの効果が得られず職員が落胆するケースも見られます。自治体業務では高い精度が求められるため、生成AIの回答率が8割程度でも、残り2割の不正確な部分を職員が修正する必要があり、手間がかかることがあります(参照*13)。
このギャップを埋めるには、人力によるチェック体制や専門特化型AIの導入など、複数の対策を組み合わせることが有効です。


おわりに


自治体におけるAI活用は、業務効率化や住民サービスの改善だけでなく、将来的な政策の高度化にもつながる可能性があります。人材不足やガバナンスの整備など多くの課題が同時に浮上していますが、国と地方自治体が連携して標準化や研修制度を整備する動きは着実に進んでいます。

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参照


(*1) PwC – 自治体領域におけるAIガバナンス 第1回:自治体DX、自治体AI利活用への期待

(*2) 総務省 – 総務省|自治体DXの推進

(*3) 生成AIで行政が変わる!自治体の新たな生成AI活用事例を解説

(*4) デジタル庁 – デジタル社会の実現に向けた重点計画|デジタル庁

(*5) https://www.pref.chiba.lg.jp/kenshidou/types/welfarechatbot.html

(*6) https://www.chisou.go.jp/sousei/about/mirai/pdf/type1saitakujireisyu.pdf

(*7) 一般社団法人デジタル地方創生推進機構 – ChatGPT全庁導入!横須賀市は「生成AI開国の地」となるか

(*8) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 大阪・泉大津市 生成AIにより年間約3,800万円の業務効率化実現へ

(*9) https://www.mlit.go.jp/toshi/tosiko/content/001475515.pdf

(*10) https://www.city.chiryu.aichi.jp/material/files/group/29/kennsetsur7.pdf

(*11) 東京財団 – 地方自治体におけるAI導入の現状と課題 -デジタル基盤標準化の重要性

(*12) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 地方自治体の生成AI導入率59%以上─進む行政のAI活用とDX人材不足に対応すべく、ユースフルが自治体向けの生成AI研修を2025年10月より提供開始

(*13) 生成AIの「8割の壁」を超える自治体職員の本音に応えた新発想(事業者インタビュー)|まちの掲示板|一般社団法人 自治体DX推進協議会



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