国土強靱化の自治体事例まとめ:
防災・インフラ分野の最新取り組みと成功のポイント



はじめに

国土強靱化は、災害が起きても被害を小さくし、生活や仕事を早く立て直すための取り組みです。地震や大雨などの災害が増加するなかで、道路や水道などのインフラをどう守るかは、急務な課題です。

この記事では、
・国土強靱化と自治体が担う役割
・国土強靭化の実際の事例
・事例に学ぶ成功のポイント
を紹介します。



国土強靱化と自治体が担う役割


国土強靱化とはなにか?

国土強靱化は、国土交通省によると、防災・減災の取り組みを「国家のリスクマネジメント」として進め、強くてしなやかな国をつくる考え方です。命と財産を守ることに加え、産業競争力の強化や安全・安心な生活づくり、それを支える人の力づくりも含みます。(参照*1

自治体の役割が重要になる理由は、国土強靱化が「制度や理念」だけで完結せず、避難行動、生活インフラ、復旧の優先順位づけといった“地域の現場で効く設計”が成果を左右するためです。国土強靱化は、脆弱性を評価し、課題と対応方策を検討し、重点化・優先順位付けを行って計画的に実施し、結果を評価して改善するというリスクマネジメントの循環です。自治体は、この循環を地域の条件に合わせて具体化する必要があります(参照*2)。


自治体が担う役割

自治体の役割は、発災直後の対応だけでなく、平時の備えから復旧までを通して「止めない・早く戻す」仕組みを回すことです。具体的には、避難所(公共施設)の指定・運営、避難情報の発令と住民への周知、要配慮者の避難支援、道路・橋や公共下水道など生活インフラの維持管理が中心になります(参照*3)。

河川や斜面は国・県が管理する区分も大きい一方、準用河川など市町村が管理する範囲や、危険箇所の周知・避難判断を支える運用で自治体が関与します(参照*4)。

河川や斜面の安全対策は、国や都道府県が管理者となる区分が大きい一方で、地域の危険箇所の把握・周知、避難判断につながる情報の運用、準用河川・普通河川など市町村が関与する領域もあります(参照*2)。


自治体の国土強靱化事例


■河川・内水氾濫対策

東京都の事例

都市の水害は、川の氾濫だけでなく、短時間の大雨で下水や側溝が追いつかずに起きる内水氾濫も課題になります。地下空間が発達した都市では、浸水が地下通路や地下鉄などのネットワークを通じて広がるリスクがあります(参照*5)。

東京都交通局は、都市型水害に加え、荒川氾濫や高潮による大規模水害への対策を計画しています。駅出入口や通風口など浸水のおそれがある箇所は全て対策することを基本にし、地下鉄ネットワークによる浸水区域の拡大を防ぐこと、車両の被害を防ぐため地下車庫の浸水対策を行っています(参照*6)。


■道路・橋梁・斜面防災

石川県、千葉県君津市の事例

道路・橋梁・斜面は、救助や物資輸送、復旧工事そのものを行うためのインフラです。強靱化においては、壊れにくくする工事だけでなく、「危ない区間を早く見つけ、止める/迂回させる/優先復旧する」運用までセットで設計することが必要です。

災害直後の「通れる道」を社会に共有する運用として、国土交通省が整理する「通れるマップ」は、通行止め箇所と通行可能な道路を示すものです。現地調査に加えてETC2.0や民間プローブデータ等を基に作成されています(参照*7)。

石川県も能登半島地震後の状況として、奥能登2市2町の「通れるマップ」を公開しつつ、通行可能箇所でも落石などの危険がある点や、気象・工事で通行止めや迂回が生じうる点を明記しています(参照*8)。

橋梁の平時点検を省力化し、維持管理の継続性を高める例では、君津市が市職員によるドローンを活用した橋梁点検に取り組み、点検費用の縮減と事務効率の向上を目的に検証を進めています(参照*9)。


■上下水道・ライフラインの耐震化

宮城県仙台市、滋賀県大津市の事例

水道は、非常に重要なライフラインです。

宮城県仙台市では、「仙台圏工業用水道強靱化事業(宮城県企業局)」が行われています。地震発生時の工業用水供給の停止を避けるため、耐震性能の無い管路の耐震化整備を実施しました。東日本大震災では同局所管の管路で3件の漏水被害があった一方、令和3年2月の福島県沖地震では被害がありませんでした。(参照*10

また、地震に限らず「停電で止めない」観点として、滋賀県大津市は水道施設の停電対策として高圧発電機車をリースし、燃料備蓄や燃料供給も含めたパッケージ化で運用する取り組みを行っています(参照*11)。


■広域連携と共同化による運営・維持管理

香川県、大阪府、埼玉県さいたま市・川口市の事例      

香川県では、県と関係市町が「香川県広域水道企業団」の設立に向けた基本協定を締結し、広域で水道を支える枠組みを整備しています(参照*12)。
大阪府域でも、大阪広域水道企業団が、令和7年4月1日から府内5市の水道事業統合により給水を開始し、段階的な統合を通じた体制整備の事例となっています(参照*13)。

下水道では、都道府県と市町村が協議会等を活用して共同化を進める事例があります。たとえば埼玉県では、県・さいたま市・川口市が「下水道事業推進協議会(三者協議会)」を設置し、水質改善や下水道事業の推進、災害対応、流域治水、汚泥の共同処理などを目的に連携する枠組みを構築しています(参照*14)。


■民間連携と地域防災拠点整備

岡山県総社市、岐阜県大野市、兵庫県加古川市の事例

民間連携は「施設を整備する」だけでなく、平時からの運用・調達・応援体制まで含めて設計する点で効果が出やすいです。

岡山県総社市は、防災協定を自治体や民間企業等と幅広く締結し、令和6年6月末時点で107件・149団体としており、実際に平成30年7月の豪雨時には、連携が支援につながっています(参照*11)。

拠点整備の例として、岐阜県大野町の「道の駅 パレットピアおおの」は国土交通省の「防災道の駅」に選定され、物資の集積・配送拠点や自衛隊・警察等の活動拠点、避難所機能などを担う構想がされています(参照*15)。

さらに、河川空間の活用を通じた民間連携として、国土交通省は「RIVASITE」社会実験を令和5年5月に開始し、清掃等を条件に最長20年の占用を可能とする規制緩和を進めていると説明しています(参照*16)。 実施例の一つとして兵庫県加古川市の取り組みが紹介されています。河川空間を日常利用と維持管理の仕組みを構築しています(参照*11)。


■農業・農村の強靱化と地域資源活用

山形県酒田市、石川県志賀町、山形県戸沢村の事例

農地・水路・ため池といった地域資源は、治水や避難の観点でも重要な要素になり得ます。

山形県酒田市塩野地域は「田んぼダム」を活用し、河川や排水路への急激な流出を抑える取り組みをおこなっています(参照*17)。
石川県志賀町笹波地区は、ため池の整備・管理と地域の体制づくりを含む取り組みを行っており、施設を活用した防災対策と施設自体の運用をセットで扱うことで、非常時と平常時でも資源を活用しています(参照*18)。
さらに山形県戸沢村は、農業用水を防災用水として位置づけ、防災訓練まで含めた運用面の整備を行っています(参照*19)。


事例から学ぶ成功のポイント


機能の停止による二次被害を防ぐための設計

まずは、施設とインフラを連結したものとしてとらえ、被害をゼロにするよりも「止めない/止まっても早く戻す」ことを目指して取り組むことが重要です。

東京都交通局は、駅出入口や通風口など“浸水経路になり得る入口”を網羅し、地下鉄ネットワークを通じた浸水拡大まで想定して対策方針を示しています(参照*20)。
石川県が奥能登で公開する「通れるマップ」は、通行可否だけでなく落石等の注意喚起や、天候・工事で状況が変わり得る前提も明記し、現場の不確実性を運用でカバーしています(参照*8)。

発災直後に“通れる道”を社会で共有する仕組みを持つと、救助・物資輸送・復旧工事そのものが前に進みます。


運用方法のパッケージ化

次に、ハード整備と同じくらい重要なのが「運用をパッケージ化して、迷いなく動ける状態にする」ことです。

滋賀県大津市は、停電で水道施設が止まるリスクに対し、高圧発電機車のリースだけでなく燃料の備蓄・供給、専属車両、輸送までを一括で契約し、“電源と燃料と動かし方”をセットで確保しています(参照*21)。岐阜県大野町の「防災道の駅」など、防災拠点の管理においても重要なものとなります(参照*22)。

平時の施設機能に加えて、緊急時に物資受入・支援部隊の活動・避難などへ切り替える使い方をあらかじめ定めておくことで、非常時に「何に使える施設か」といった決断を早めることができます。


状況把握と点検の省力化

状況把握と点検を省力化し、持続的に対応することが可能になる設計も必要です。

災害時の交通情報は、現地調査に加えてETC2.0や民間プローブデータ等も用いて作成され、速報性と網羅性を両立させています(参照*7)。平時の維持管理でも、君津市の橋梁点検「君津モデル」のように、市職員がドローンを活用して点検の効率化・費用縮減を狙う取り組みは、人口減少局面でも点検を止めないための“実装”になっています(参照*23)。

最新技術に頼るだけでなく、毎年・毎月の業務として続けられる形に落とし込めている点がポイントです。


連携する民間団体側の”利点”の明示

民間連携がうまく回っているケースでは、やる人にとって続けやすいメリットや見通しを用意しつつ、清掃や除草など必要な作業もきちんと役割として組み込み、日常の管理が自然に回る形にしているという特徴があります。

国土交通省のRIVASITEは、民間側の活動が河川管理の負担軽減にもつながる枠組みとして整理されています(参照*24)。 防災協定も平時から「誰が・何を・どう動くか」を決めておくことで、非常時の支援が“お願いベース”にならず、手順として動きやすくなります。


地域資源を防災へ活用する視点

さらに、既存の地域資源を「生産の設備」に加えて「防災の装置」として再定義し、分散的・面的に効かせて費用対効果を高めることが重要です。農地の貯留や、ため池等の機能を活かした防災・減災は、国が国土強靱化の取組と位置付けており、構造物の大規模整備だけに頼らず、地域の管理と運用を通じて被害を抑える方向性が示されています。(参照*25

普段から点検や記録を続けられる体制を整えつつ、「どのくらい貯水できるのか」「どのタイミングでどう操作するか」といった判断材料を明確にしておくことも重要です。発災時の動きが早くなり、リスク見直しもしやすくなります(参照*25)。


おわりに


国土強靱化は、災害を「起きた後に対応する」だけでなく、平時の備えから復旧までを通して地域の機能を止めないための設計です。本記事では、内水氾濫や地下空間の浸水、道路・橋梁の通行確保、上下水道の耐震化と停電対策、広域連携、民間・地域資源の活用など、さまざまな事例を見てきました。

成功している取り組みに共通するのは、守るべき機能を優先づけし、ハードと運用をセットで整え、点検・記録・見直しを回し続けることです。計画を“作って終わり”にせず、地域の実情に合わせて更新しながら実装する姿勢が、強い自治体づくりにつながります。

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参照


(*1) 国土強靱化|内閣官房ホームページ

(*2) 内閣官房 「国土強靱化」は国家のリスクマネジメント

(*3) 内閣官房 国土強靱化基本計画の変更について

(*4) 地域強靱化計画(国土強靱化地域計画)|内閣官房ホームページ

(*5) 上下水道:下水道による浸水対策 – 国土交通省

(*6) 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT) – 「東京都交通局浸水対策施設整備計画」の策定 | 国内外の適応策事例集 | 適応事例・データ | 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)

(*7) 道路: 災害時における通行可否の情報(通れるマップ) – 国土交通省

(*8) 石川県 – 奥能登の道路通行状況 | 石川県

(*9) ドローン×きみつ – 君津市公式ホームページ

(*10) 令和3年度における防災・減災、国土強靱化の取組と効果発揮事例 ダウンロード用ページ|内閣官房ホームページ

(*11) 内閣官房 国土強靱化に資する各市町村独自の施策・事業事例集

(*12) 企業団の創設に関する協定書等 – 香川県広域水道企業団ホームページ

(*13) 5団体(岸和田市・八尾市・富田林市・柏原市・高石市)との水道事業の統合について(R7.4統合)/大阪広域水道企業団

(*14) 国土交通省 下水道事業における 広域化・共同化の事例集

(*15) 大野町 – 道の駅「パレットピアおおの」が防災道の駅に選定されました! | 大野町

(*16) 姫路河川国道事務所 – 20250618_「全国初の事例︕」 加古川の賑わいづくりで地域の活性化へ 〜加古川河川敷でRIVASITE リバサイトにより河川利⽤の規制を緩和し、都市・地域再⽣等利⽤区域を指定〜

(*17) 農林水産省 地域住民による緊急時のため池管理・連絡体制の構築

(*18) 農林水産省 ため池の貯水量の調節による洪水被害防止

(*19) 農林水産省 集落ぐるみで実施する野生鳥獣による農作物被害対策

(*20) 東京都交通局 東京都交通局浸水対策施設整備計画(概要)

(*21) 内閣官房 国土強靱化に資する各市町村独自の施策・事業事例集

(*22) 大野町 – 道の駅「パレットピアおおの」が防災道の駅に選定されました! | 大野町

(*23) 無人航空機(ドローン)による橋梁点検の実証実験に関する覚書を締結しました! – ドローン×きみつ – 君津市公式ホームページ

(*24) 国土交通省 – 報道発表資料:河川敷地の更なる規制緩和に向けた社会実験の運用を開始します<br>~相談窓口「かわよろず」に、社会実験に関する相談専用窓口を開設しました~ – 国土交通省

(*25) 農業・農村の国土強靱化:農林水産省



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