【椎川氏が解説】地方創生で大切なことや、上手く行っている自治体事例をご紹介(前編)
今回の特別インタビューは、一般財団法人 地域活性化センター理事長、総務省地域力創造アドバイザーなど、様々な形で地方創生に取り組んでいらっしゃる椎川忍氏をお招きし、地方創生の現状や大切な視点、上手く行っている自治体の取り組みなどについてお伺いをさせていただきました。
前編と後編の二回に分けてお届けしていきます。
まち・ひと・しごと創生総合戦略の第2期の現状について
まず最初に、まち・ひと・しごと創生総合戦略は第2期に入り1年が経ちますが、椎川さんから見て、現状はいかがでしょうか。
[椎川氏]
そうですね、成果とまだまだできてない部分と両方あります。
まず成果のが出ている部分からお話をさせていただきます。
今まで人口問題というのは中々認識されにくかったわけですけれども、日本全体の人口も減少期に入り、高齢化率も上がっています。
社会保障の問題も大変だということを言われていますけれども、このままいくとどうなるのかということを国民に伝え、このままの傾向で行ってはいけないんだと、だから様々な“まち・ひと・しごとの創生”をしなければならない、ということを提起して、これを恒久法として制定したということですね。
恒久法というのは、期限のある法律ではなくて、恒久的にこれは廃止されない限り、存続する法律としてまち・ひと・しごと創生法というのを作った。
これは歴史上初めてのことでして、事象自体が歴史上初めてということになりますからそういうことになるわけですが、それに基づき、交付金など様々な財政措置が当初予算ベースででき、毎年拡充がされています。それから、税制や人材の支援など、様々な面で毎年施策が拡充されているということが大きな成果だったと思います。
それで第1期が終わったわけですけれども、今第2期で出来ていないことは何かというと、やはりよく言われております東京一極集中是正です。これは最近のコロナで少し東京への流入のスピードが落ちています。流入はしているんですけどね。転入超過が少し緩やかになっているということです。
実は過去にもそういう時期があったのですが、これが一過性のものなのか、アフターコロナということで、国民が認識を改めて、一極集中ではなく、もっと地方で豊かな生活をしようとか、そういった価値観に変わっていくのかどうかというのはこれからよく見てみないとわからないわけです。
今はコロナ禍の影響で、少しだけ一極集中が和らいでいるけれども、基本的には一極集中というのが是正されていないということです。ですから、来年度の予算を見ても、そういうところに政府が力を入れています。
今、潮目がちょっと変わってきているので、これを何とか国としても応援してですね、地方移住を進めていこうという施策がかなり強烈に取られているわけですね。これは、これまであまり成果が出ていないことの裏返しだというふうに思います。
それからもう一つは出生率の問題です。合計特殊出生率が2.1にならなければ人口は減り続けちゃうんですね。これまでは1.43とかそういうレベルなのですが、これが5年間全く変わらなかったですね。少し上がったり下がったりした程度で全体としては全く変わっていない。5年間変わらなかったということで2.1に到達するという目標がずっと後ろにずれてしまっているということですね。
そうしますと、その分人口減少が進むということになりますから、50年後に1億人を何とか堅持したいという政府の目標もかなり困難な目標になりつつあります。この点ではかなり危機的な状態であると思いますが、これは今のところ中々決め手がないんですね。
全世代型の社会保障改革と言われ、若い人たちも大変生きにくさを抱えているから、そういう人たちに社会保障制度の財源をもっとつぎ込んで、例えば子育て政策や転職支援など、そういう若い人たちの支援を社会保障としても充実していかなきゃならないということで、消費税の増税分を充てたり、色々試行錯誤していますが、今のところ成果が上がってないということですね。
この二つが第2期の5年間で、少なくともベクトルとして目標に向かっていかないと、地方創生はかなり危ういということになると思います。従ってそのことを、国民も自治体ももっとしっかりと認識して、政策に取り組んでいく必要があると思います。
それと、地方創生がやや誤解されて捉えられている側面もあると思います。地方自治体とか住民の方には従来の地域活性化と同じように、国が補正予算などでお金を配ってくれるので、地域が今少し元気になるようなことをやれば良いというふうに、成長期の地域活性化政策と同じように思っておられる方がおられますけれども、基本的には地方創生は人口問題だということです。
自分たちの地域や自治体、あるいは集落が50年後どうなっているんだと、存続可能性のある地域や自治体になれるのか、ということが問われているわけですから、そこのところをもう一度きちんと認識した上で、様々な施策を展開していかなければいけないと思います。
よく講演でもお話するのですが、企画部門とか移住政策、あるいはふるさと納税とかを担当する人たち、そういう部局の人たちが地方創生をやっているので我々は関係ないだろうと思っている部局の人たちが意外に多いのですが、そういう部分が重要で、例えば教育の問題が一番重要だと私は言い続けているんです。
子どもたちの価値観を多様化させて、東京だけが日本じゃないよ、自分たちの生まれ故郷も素晴らしいところで、それを守っていかなきゃいけないとか、あるいは生まれ故郷でなくても地方にも素晴らしい場所がいっぱいあるから、そういうところで仕事をしたり、あるいは豊かな生活をしていくということも人生の一つだよ、というような価値観とかを大切にしていくべきだと思いますね。
それから社会福祉部局の人たちも重要です。やはり介護とか医療というのは大きな問題ですから、そういう面で住みやすい地域作りをしていくということが地方創生に繋がるので、まさに総合戦略なんです。ですので、一部の部局の人たちだけが旗を振って、各部局から何か従来やっていた政策の延長線上のものを集めてホチキスをして総合戦略にしても、これは中々難しいということなんです。
地方創生は総合戦略として考えていくべきなんです。
その為には、自分の自治体の中だけではなく、例えば県と市町村、市町村同士でしっかり連携をし、目標を共有したり政策を共有したりすることが求められます。それぞれがバラバラにやって、人口を取り合う、移住者を取り合うようなことは、意味がないわけですから。少なくとも近隣の自治体、あるいは県内の市町村は県と連携しながら、ベクトルを一つにして努力していくというようなやり方も必要だと思います。
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出生率や子育て支援に力を入れている自治体について
先ほど出生率の話になったのでその観点でお伺いしてみたいのですが、コロナの影響で今後の出生率が落ち込むのではないかというふうに言われています。そんな中、子育て世代のサポートや、出生率上げるために工夫されている自治体はどういったことをやっているのでしょうか?
[椎川氏]
出生率を上げるのは中々難しいんですが、子育て世代のサポートについては結構取り組んでいる自治体があるんですよ。例えば、今まで小学校卒業まで無料だった子供の医療費を中学校卒業までにするとか、東京23区も高校生卒業までやっているところがありますが、お金を配る政策だけでは限界がありますね。
そこそこの予算はもちろん必要です。それが非常に全国と比較して劣っていれば、子育て世代が住みにくいっていうことはあると思います。標準的なところまではそういう政策が必要だと思いますが、お金を配ることだけで子育て世代とか若い人たちが移住してくるか、あるいは住み続けられるかというと実はそうではなくて、やっぱり子育ての方たち、例えば育児ママさんのコミュニティが大切だったりします。
親御さんたちが孤立して子育て悩んでいる方が多い、特に都会にはそういう面があるわけですね。地方では、子育て世代同士が困りごとを相談したり、少し専門的な相談になれば専門の人がそこに派遣されてきて、相談に応じてもらえるとか、ちょっとした手助けをすることができています。
保育園とか学童とか色々ありますけれど、そういう制度だけではなくて、ちょっと子供を1、2時間預かってもらえるとかね、そういうようなコミュニティ、子育てのコミュニティっていうのが非常に重要だと思っています。
島根県もそうですが、実は沖縄県の離島とかは出生率が高い。一般的に離島というのは非常に出生率高いんですよ。沖縄では「ゆいまーる保育所」と言っていますけれども、「結(ユイ)」で助けあって、保育というものを制度だけではなく地域みんなで取り組んでいます。お金を配るだけではなくてやっぱりそういうコミュニティ作りっていうのが非常に重要なんじゃないかなと思います。
そういう取り組みをやってきて、移住者が増え、社会増を実現した自治体というのは全国に結構ありまして、例えば山形県の東根市であったり、大分県の豊後高田市であったり、それから島根県の邑南(おおなん)町がその例です。日本一の子育ての自治体、というように銘打ってやっているわけですね。
都会ではひとり親で困っている方が多いということで、みんなで助け合いながらうちの地域で過ごしませんか、という政策を打っている島根県邑南町とか、そんな自治体も出てきています。結局日本全体の人口が減るわけですから、出生率がぐんと上がらない限り、移住者を稼がないと地方創生ができない、出生率が上がってくるまでは移住者で繋いでいかざるを得ない。
移住者がどういう自治体、地域に来るのかというと、例えば子育て、あるいは他のことでも構いませんけれども、温かい人の繋がりがあって、自分の困り事が近所で解決できるというような地域づくりをやっているような自治体が上手くいっている例として挙げられますね。
地方創生に繋がるような工夫をしている自治体について
子育て以外とかでも地方創生に繋がるような、新しい取り組みや工夫をしているな、と感じる事例などはございますか?
[椎川氏]
これはいくつかパターンがありますね。まずはシビックプライド。
似たような自治体が隣近所にもあるのだけれども、まちの誇りというものを強烈に作り上げて人が集まってくるような自治体ですね。これは子どもたちにも影響するでしょうね。
おそらく子どもの教育は、ふるさと教育などで教わった中で自分たちの町がいい街なんだということを子どもの頃から感じ、大学や就職で一度出て行ってもまた帰ってくる人が増えてくるということに繋がるでしょう。そういうシビックプライドを醸成するようなことで成功している自治体というのが一つ目。
それから二つ目は先ほどお話ししたように、移住者が来たときに、その人たちがやりたいことを助けてあげる、移住者の自己実現を支援するような自治体や地域です。都会では会社員として一定の枠の中で働いているんだけれども、本当はこういうことをやりたいんだ!という想いを持った人を応援するということです。
地方には人材が足りないので、自己実現に繋がるような仕事は結構あるんですよね。ただ、自己実現に繋がる仕事をすぐに出来るわけではなく、修行というか研修が必要だったり、技術的な習得が必要だったりすることも多いので、そういうものを支援してくれるような取り組みや場所を提供出来る自治体というのが二つ目だと思います。
三つ目はかなり特殊なんですけれども、リゾート開発や観光地開発のパターンですね。今ちょっとコロナでインバウンドとか外国人の問題は全く話にならないわけですけれども、外国人がわんさか押しかけてリゾート化している、あるいは観光地化したということは20年ぐらい前にあまりなかったんじゃないでしょうか。そういう外国人向けのリゾート開発とか、観光地開発で成功し、社会増になり、人口増に繋がっているところがあります。
大きく言うとその三つですか、子育てに力を入れている地域を入れると四つですね。
一つ目のパターンのこのシビックプライドで言うと、例えば岩手県の紫波町というところでは、駅前の公有地が塩漬けなっていてどうにもならなかったものをPPP(パブリックプライベートパートナーシップ)で民間主導で開発して、そこに役場や図書館、世界水準のバレーボールコートや広場を作ったりして、そこで様々なイベントができるようにしました。これは全国から注目を集めて、視察客もたくさん来るようになりました。
私達、地域活性化センターも地方創生実践塾を3年間連続そこでやっていますけれど、どうしてこんなものができたのか知りたいという興味で受講生が絶えないんです。
住宅なども、省エネ、あるいは再生可能エネルギーを使った近代的なスマートハウスを整備したりしています。
ここは盛岡から3〜40分ですから、盛岡市のベッドタウンとも言えるのですが、じゃあ盛岡市の周りがみんなそうなっているかっていうとそうではないんですね。紫波町みたいに先進的な取り組みをすると、全国から注目され、この地域に住みたいと思ってくれる人も増えますよね。古民家なんかを改装して洒落たお店を始めたりするような人もたくさん出てきています。
それから北海道の鶴居村が有名ですが、日本で美しい村連合(NPO法人「日本で最も美しい村」連合)という、全国に何十か加入しているのですが、その代表的な自治体で、本当に綺麗なとこですね鶴居村。丹頂鶴がたくさん飛んできて、鶴を見るためだけに外国からも大勢の人が来ていたというようなところです。
聞いた話ですが、外国の方がふらっと来られて、「ここで3〜4ヶ月、とにかく食べさせてもらえれば、仕事はするので住まわせてくれませんか?」なんて言って来るようなところなんですね。非常に自然は厳しいけど美しい、そういう村などが社会増になってきているんです。
突き抜けた魅力とか、突き抜けた特色があるところに人が集まってくる。特にこれは外国からも集まってくるという例ですけれどもね。
それから移住者の自己実現という意味でいいますと、島根県海士町がとても有名ですよね。私はここでも3年続けて地方創生実践塾やっていますけれども、受講したいという人が絶えない。実際に行ってみると、民間企業のトヨタとかリコーとかJICAとか、それからデロイトトーマツなど、色々な企業の人が移住してそこで仕事をしているんですよ。
それから農業をやりたい、漁業をやりたいということで、有名大学を卒業しているような人たちも来ています。とにかく移住者を温かく受け入れて、その人たちのやりたいことをやれるように支援してあげるっていう町になったんですね。もちろん入れ替わりもありますけれども、社会増的には貴重になっていて、これからもそういう移住者がたくさん来るような町として発展していくんじゃないかなと思っています。実は同じ島根県の知夫村という島も社会増になっています。
あと岡山県の西粟倉村が、先進的な林業を始めたんですね。全部の木にICタグを貼り付けたり、ICT技術を活用した林業ということで始まったんですけれども、チャレンジ精神旺盛な若い人たちが、福祉とか道の駅とか温泉施設とか様々な分野でローカルベンチャーを始めました。西粟倉村には高速道路が通っていますから、大阪から車で1時間半とか、阪神圏から1時間半くらいの場所なので、そんなに遠いところじゃないのですが、行ってみたら山ばかりところなんですよ。
そういうところで、若者たちが自己実現をしていこうと動いていて、西粟倉村はそれをローカルベンチャーとして支援していこうとしているんですね。
現在、ローカルベンチャー協議会というのがありまして、たくさんの自治体が加入され、私たち地域活性化センターも連携して一緒にやっていこうとしているんですけど、そういうような取り組み、要するに若い移住者たちの自己実現を支援するようなところが社会増になってきているということですね。
それから最後の外国人の観光客、移住者という点では、北海道のニセコとか倶知安が有名ですけれども、一昨年ぐらいの人口データを調べたら確実に社会増になっています。私も行ってみたんですけれど英語しか通じない店がたくさん出来ちゃったんですね。日本人としてはちょっと悲しいっていう気持ちもありますけれども、世界に開かれたリゾート地、スノーリゾートですね。このような形で社会増になっている地域も出てきているということです。
最初の話に戻りますけれども、結局出生率が2.1に行くまでの間は、移住者を稼いで、地域を社会増にさせる取り組みが必要だと思います。今までは出ていく人が多かった。で、何とか5年10年かけて出ていく人と入ってくる人の数を同じか、あるいは入ってくる人を多くしなければ、どんどんどんどん衰退していっちゃうんですね、人口が減って高齢化もしますから。
ですから多少の入れ替わりは覚悟しつつ、若い世代の移住者を獲得して、少しでもサステナブルな地域に近づけていかなければいけないと、そういうことじゃないかなと思います。