《地方創生 × eスポーツ》現在のトレンドや、地方自治体の向き合い方とは?
今回の特別インタビューは、ウェルプレイド・ライゼスト株式会社 代表取締役の古澤明仁氏に「地方創生 × eスポーツ」というテーマでお話をお伺いしました。
この記事を通して、
「自分たちの地域でeスポーツを活用していくにはどうしたら良いのだろう」
「eスポーツを上手く活用している地域ではどんな取り組みをしているの」
そんなお悩みをお持ちの方のヒントになれば幸いです。
eスポーツというものが生まれた背景
本日はよろしくお願いいたします。
最初に少し、eスポーツというものが生まれた背景みたいなところをお伺いしてもよろしいでしょうか?
[古澤氏]
ゲームって様々なジャンルがあって、個人で楽しむようなロールプレイングのものもあれば、対戦をするようなものもあります。
その中で特に対戦、どちらかが勝敗を分けるといったゲームタイトルを中心に、IT・オンラインの技術などがそこに掛け合わさって、対戦ゲームをしている当事者2人だけの領域だけではなく、その対戦をライブ配信などで、離れた場所でも熱狂を感じながら、野球やサッカーやテレビを見ることと同じようにインターネットを通じて楽しむことができます。
eスポーツの原型は1970年代に北米の大学で開催された大会と言われていますが、その後PCやインターネットの普及と合わせて、欧米諸国を中心にLANパーティーや賞金付き大会が開催され大きく発展してきました。
日本はeスポーツ後進国と記されることが多いですが、ゲームでの対戦という観点からはその歴史が古く、1970年代からアーケードゲームを用いた大会は開催されており、僕自身の原体験で言うとやはり「ゲームセンター」ですね。
小学生の時に近所のゲームセンターで50円玉を握りしめて、格闘ゲームとかで相手を負かしてやる、みんなが50円玉を積んで列をなして、腕組みをしながら「あいつ上手いな〜」みたいなところでコミュニティが醸成していったいうところが、日本流のeスポーツの原点なんじゃないかな、と思っています。
トラディショナルスポーツに多くのジャンルが存在しているのと同じようにeスポーツにも多くのジャンルが存在しています。
eスポーツの特徴として、オンラインをベースに対戦している当事者2人orチームだけでなく、その対戦をライブ配信で、しかも多くのファン・視聴者はPCやスマートデバイスを介して楽しんで(観戦して)います。
ファン/視聴者は、再現性のない圧倒的な熱量を「ライブ」で手軽に楽しめる。これはeスポーツの1つの特徴であり、醍醐味だと思います。
今やゲームセンターという箱大きく飛び越して、家庭用ゲーム機、スマートフォン、PCのゲームで、オンラインの環境さえあれば、いつでも、どこでも誰とでも繋がって手軽に気軽に楽しめる。
プレイしてもよし、観戦しても良し。万人に楽しんでもらえるスポーツとしての可能性が最も秘められたスポーツジャンルがeスポーツなのではないでしょうか。
日本の「市場成長パターン」はどんな型になっているのか?
ありがとうございます。
今のお話に紐づいた質問になるんですけれど、世界各国で色々なeスポーツが盛り上がりを見せていると思うのですが、日本のeスポーツの市場成長パターンみたいなところで言うと、今お話聞いてそのカプコンさんとかが最初に大会やって国技館でみたいな話があったと思うんですけど、やはり日本もパブリッシャー側が引っ張ってくっていう市場なのでしょうか?
[古澤氏]
これはeスポーツ界の自然の摂理と言いますか、大会、競技シーンに採用されているゲームタイトル自体、パブリッシャーが商業目的に作った著作権物なので、パブリッシャーがプロモーションの一環で大会シーンを牽引・主導するという形式はごく自然なことだと思います。
さらに、最近ではeスポーツ市場の盛り上がりを加速させる施策としてパブリッシャーと多種多様なサードパーティーがアライアンスを組んで大会シーンを盛り上げるという形式も誕生しています。
通信事業者、PCメーカー、パーツ・周辺機器・ギアメーカーなど「直接的」に市場に接点を持つブランドが主催するeスポーツ大会、衣食住に関わる「間接的」に市場に接点を持つブランドが大会、チーム、施設や、販促やブランディングにeスポーツを活用する事例も多く見受けられます。
そして最近の大きなトレンドとして注目されている大会の形式が「インフルエンサー、配信者(ストリーマー)」を中心に開催される大会です。
勝敗を決するという競技性は当然担保されつつ、それよりもファン、視聴者は特定の人=インフルエンサーを観たい、応援したい、他インフルエンサーと交わる面白さ、エンターテインメント性を求め多くのファンを魅了しています。
参加するインフルエンサー、ストリーマー自体が日常的にファンとのエンゲージメントに成功している方々なので、一般的なtop of the topを決める大会よりも比較的に視聴者数を多く集めやすいという傾向があります。このトレンドはしばらく継続するのではないでしょうか?
eスポーツっていうと、やっぱりテクニックが注目されるのかな?と、感じるのですが、eスポーツがもうメディアになっているみたいな感じでしょうか?
[古澤氏]
そうですね。当然「上達するために」戦術を含めテクニックを観て学ぶ、習得するというモチベーションもあります。そして、eスポーツシーンのメディア化については、まさに発展途上と言えるのではないでしょうか。
極端な表現かもしれませんが、テレビを視聴しない若年層、デジタルネイティブの層にとってはゲーム・eスポーツ(その言葉を認知しているかに問わず)はコミュニケーションツールであり、自己表現の場であり、ごくありふれた日常でもあります。
こうした空間がインターネットでシームレスに世界と繋がっている訳なのでメディアとしての可能性は無限大に広がっています。
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全国から自治体関係者が来場する日本最大の展示会
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eスポーツにおける、自治体のポジショニングはどのような立ち位置が望ましいのか?
ありがとうございます。
ここからまた自治体に絡むような質問に入っていければと思うんですけども、「eスポーツを活用して地方創生に繋げる」みたいなところでいうと、自治体や地域として、どういうポジショニングでeスポーツに関わることが望ましいのでしょうか?
[古澤氏]
そうですね、eスポーツ元年から数年が経ち、自治体を含む多くのステークホルダーが様々な取り組みで見聞、経験も得て、ちょうど現在岐路に立っているのではないでしょうか。
実になっている地域もあればそうでない地域もあり、その濃淡が色濃く分かれているように映っています。一概には決して言い切れませんが、明暗を分けているポイントは「内製化」ができているかどうか。ここはとても重要な要素です。
現在地方で前進しているeスポーツの取り組みは、必ず地場に根を下ろして、活動を熱量高く自分事化し、推進してる人間、リーダーがいます。
一方で、リーダー不在で利権や利益先導で推進し(これが悪という訳ではありませんが)、一発のイベントにリソースを大きくかけてしまい、その後の一手に繋がらないケースは残念ながら散見しています。
たとえ、その一発にある程度の集客に成功し、翌朝の新聞やテレビでも取り上げられたとしても、「何も残らない」のであれば、継続できないのであれば意味をなさないのではないでしょうか。大掛かりなイベントを開催することが重要ではなく、地場に根を下ろして、内製化を図っていく、そして継続的に行える施策、仕組を作ることが重要だと考えます。
結局のところeスポーツは物事を解決したり、改善するための数ある手段の1つにしかすぎない。地場の人たち、コミュニティに合った取り組みにeスポーツがフィットしない、棒にも箸にも掛からないということであれば、無理にeスポーツを取り入れるべきではないと思います。
地域でeスポーツに取り組む!というような決断には繰り返しとなりますが、そこにコミットできるリーダーがいて、その人物を中心に地場の会社、自治体が同じ目線で、予算、リソースを熱量と合わせて注いで二人三脚の形で実施しなければ地方創生文脈でeスポーツを活用することはハードルが高いと思います。
なるほど、ありがとうございます。
古澤さんがおっしゃった内製化というのは自治体の中で内製化という意味ではなくて地域の中で内製できるかっていうところですよね。
[古澤氏]
おっしゃる通りですね。それこそeスポーツのイベントって集客だけが強みじゃないんですよね。
コロナ禍で様々な集客イベント、興行、催しが厳しいと言われる中、eスポーツは割と勝ち組の方にいたんじゃないかなと考えており、元々eスポーツの制作自体がオンラインやライブ配信がベースとなっているので、密のリスクを低く保ちながら、コロナ禍でも継続できる稀なスポーツとしても注目を浴びた側面も事実ありますし、STAY HOMEでゲームをプレイする時間、視聴観戦できる時間が増えたという側面もあります。
こんなご時世だからこそ、こうしたライブ配信やオンラインでの大会運営のノウハウを地域、地場に蓄積させることもeスポーツに限定せずこれからの時代を生き抜くための基礎能力として捉える必要性も感じています。
ありがとうございます。
そこで言うと有名な方を挙げると、富山の堺谷さん。私もメディアなどで記事を拝見させていただいたのですが、やっぱり自分が好きだったり熱量があって、その地場に根付いている方ですよね。堺谷さんは自治体の方々ではない方だと思うんですけども、そういう人がいないとやはり内製化というのは難しいというふうに感じていらっしゃいますか?
[古澤氏]
堺谷さんのようなリーダーの存在が必要不可欠ではないでしょうか。インタビュー記事などを通じて堺谷さんの富山での事例は数多く閲覧することができるので、是非参考にして頂きたいですね。
数万円の予算からスタートし、今や数千人を集めるイベントにまで発展させた手腕はもちろん、地域の魅力を引き出すための仕掛け、前述させて頂いた「内製化」にも積極的に取り組まれている事例は学びが多いです。
一般的には地方に行くほどにITリテラシーに対しての柔軟性や、新しいものに対しての許容力は東京よりハードルが高く、eスポーツを地方創生に活用するということは、相当な時間と手間暇かけて理解者や仲間を同時に作っていく作業が必要だと思いますし、相当な覚悟を持って地場に根を下ろさなければ実現ができない大仕事ではないでしょうか。
ゲームに対してネガティブな反応をする方々への対応
少し私の昔話も入りますが、小さい頃、ゲームをしていると親に怒られたりとか、ゲームしすぎだよと注意を受けたことのある方は少なくないかと思います。地方自治体が税金を使ってeスポーツに地域創生や教育など、色々なカテゴリーにアプローチしていくとなると、ゲームへのネガティブな声も聞かれると思うのですが、そういう声に対してはどのようなフォローアップをするとご理解をいただきやすかったりするのでしょうか。
[古澤氏]
そうですね、やっぱり自分が知らない物事やカテゴリーに対して、人というのは防御姿勢というか、どうしても偏見が先に導入されてしまう傾向があるのは仕方ないのかなと思うんですね。
ステレオタイプ的な考えだけでなく、事実僕の親世代の多くがゲームに対してネガティブと言いますか、保守的に捉えているケースは現在もなお多いと思います。
典型的ですが「ゲームばかりやってないで、勉強しなさい」てやつです。昔、ゲームを何時間もプレイしていると僕なんかも親から怒られていた世代なので(笑)
一方で昨今のeスポーツはSDGsの観点からも心身ともに健康で文化的な生活を営むサポートツールとしての貢献事例も存在しています。
ごく一例ですが、eスポーツは国体文化プログラムでの競技採用、STAGE:0をはじめとする高校生を対象としたeスポーツ全国大会、高校、専門学校でのeスポーツ学科の設立(ゲームプレイの技能だけでなく、アスリートとしての心得やマナー、英会話レッスン、動画編集などを含む映像技術関連の習得など)、福祉分野での活用、そして地域創生。
捉え方、活用の仕方にちょっとした工夫を凝らすことでゲームそのものが持つチカラ、人と人を繋ぎコミュニケーションを活性化させ、楽しませたり笑顔を作るということは、社会的な大きな機会を創造する源になり、同時に様々な課題さえも改善、解決できるツールとしてeスポーツの可能性は認知されるべきだと考えます。
2021年IOCが史上初となるeスポーツを活用したイベント「Olympic Virtual Series」を正式発表しました。来年のアジア競技大会でも公式メダル競技種目としてeスポーツは採用が決定しています。
大きなスポーツの祭典で日の丸を背負って世界中のアスリートと切磋琢磨し、交流する姿は世の中にとても「分かりやすい」シンボリックなメッセージになると思いますし、eスポーツに対して、ゲームに対して様々なステークホルダーが関心を持ち、議論し、行動を起こすきっかけにもなります。
経済的な関わり、社会的な関わり、文化的な関わり、政治的な関わり、放射線状に「eスポーツ」というキーワードを軸に一大産業として勃興することが期待されています。
こうして、日常にeスポーツが普及することこそが認知・普及に繋がり、ネガティブをポジティブに転換させる理解に発展するのだと信じています。
地方自治体がeスポーツを「地方創生」の一環として取り組もうとした際、どのようなステップを踏んで、どのようなゴールを目指すべきなのか?
ありがとうございます。
最後一番大事なところのメッセージをいただきたいなと思っていまして、地方自治体がeスポーツを積極的に地方創生や地域の課題解決の一環として取り組もうとした際、「〇年後にどういう状態」というようなマイルストーン的に、どういったステップで、どのようなゴールを目指すべきなのか、おわかりになれば教えていただければなと思っています。
[古澤氏]
そうですね、地域ごとの財政状況や保持、活用できるリソース環境により、その答え、ヒントは千差万別だと思いますが、背伸びをせずに今あるリソースの中で、地場の人たちに楽しんでもらえることを考えることがスタートラインではないでしょうか。
幸いゲームはどこの土地でも大なり小なりコミュニティーが存在しているので、先ほど堺谷さんの事例でも触れましたが、熱量をもったそうしたコミュニティーリーダーと共に推進していく、内製化を図っていくことが重要で、これは必ずしもお金がかかる話ではないと思います。
自治体としてゲームコミュニティーに寄り添い、その中で少しずつ地域課題を改善させるための要素を混ぜ込んでいく。東京で開催されるような大型イベントを真似るのではなく、その土地土地の魅力(=オリジナリティ)をイベント、催しに取り入れ差別化ポイントとして尖らせていく。そして限られた予算の中で継続的に維持していくかが重要なことです。
1回大きなことをやるよりも、小さなことを継続させること、走り続けることを実施しなければコミュニティ醸成は難しいですし、地域に根付かせることも不可能です。
そこはもう成功事例としてトップランナーで堺谷さんのような方もいらっしゃるので、見習える、参考とすべき例は多いと思いますね。